
ステルスマーケティング告示は令和5年10月1日に施行されました。規制の対象は「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」です。事業者が自ら行っている表示なのに、第三者が自分の判断で書いたものに見える状態が問題にされます。口コミという形式そのものが禁じられているわけではありません。
責任を負うのは表示を行った事業者です。投稿した客ではありません。客側に責任が及ばないぶん、依頼した店がすべてを引き受ける建付けになっています。
会計の場面で「よろしければ投稿してください」と伝えること自体は、客が自分の判断で内容を決め、店が中身に関与していないのであれば、事業者の表示にはなりません。線は「店の関与があるか」と「その関与が外から分かるか」の2点です。関与があっても、関与していることが明示されていれば告示の対象にはなりません。隠したときに対象になります。
この整理は、施策を1つずつ分解して当てはめる形でしか使えません。「口コミ依頼はOK」「謝礼はNG」という粗い覚え方をすると、その場で査定額を上げる場合と次回券を渡す場合で扱いが変わるといった差を取りこぼします。
買取価格の上乗せ、次回使えるアップ券、金券、自社ポイント。対価と引き換えに投稿を得た場合、その投稿は店の関与のもとで作られた表示という位置づけになります。関与を伏せたまま客の自発的な声として並べれば、ステマ告示が対象にする状態そのものです。
買取業では、この対価が現金そのものになりやすい構造があります。「投稿してくれたら査定額を上げます」という運用は、上乗せ分がそのまま投稿の対価です。同時にそれは仕入原価の上昇でもあります。買取業は査定額がそのまま原価になるため、口コミの獲得コストが粗利に直結します。
景品規制も同時にかかります。次回の買取時に使える買取価格アップ券、キャッシュバック、自社ポイントの付与は景品類に該当し、総付景品の上限の対象です。上限は取引価額(買取価格)が1,000円以上なら取引価額の20%、1,000円未満なら200円です。今回の買取価格が1万円なら上限は2,000円で、次回の買取価格が2万円でも4,000円を上乗せすることはできません。アップの上限が2,000円であることを券面に明記するという運用まで含めて設計します。
一方、その場で買取価格をアップする場合は、アップ分を含めた買取価格の全体が取引の対価になるため、アップ分は原則として景品類に該当しません。同じ「お礼」でも、その場で査定額に乗せるのか、次回券にするのかで、かかる規制が変わります。
代行業者に発注して口コミを作らせる場合、投稿者は店と無関係の消費者に見えます。これは告示が対象にする状態の典型です。
処分の対象は表示を行った事業者、つまり発注した店です。「業者が勝手にやった」という主張は、責任の所在を動かしません。発注の事実は契約書・請求書・振込記録として残ります。
買取業は令和6年4月18日の運用基準改定で景表法の適用対象になり得ることが明確化され、その1年後の令和7年4月30日には、消費者庁が買取業者50社の広告をサンプリング調査し、業者14社・関係団体2団体へのヒアリングを行った実態調査報告書を公表しています。業界全体が見られている状態に入った直後という前提で判断してください。
従業員が客を装って投稿する行為も同じ枠に入ります。社内の誰かが個人アカウントで投稿する場合、店の関与は外から見えません。投稿の可否と、投稿するなら関与を明示するという方針を、就業上のルールとして先に決めておくほうが確実です。
| 施策 | 店の関与 | ステマ告示上の位置づけ | 同時にかかる規制 |
|---|---|---|---|
| 会計時に口頭で投稿を依頼する | 依頼のみ(内容に関与しない) | 客が自分の判断で書くなら事業者の表示にならない | — |
| 投稿を条件に、その場で査定額を上乗せする | 対価 | 関与を隠せば告示の対象 | 上乗せ分は買取価格の一部で原則として景品類に当たらない。ただし仕入原価が上がる |
| 投稿を条件に、次回使えるアップ券を渡す | 対価 | 関与を隠せば告示の対象 | 総付景品。買取価格1,000円以上なら20%、1,000円未満なら200円が上限。券面に上限額を明記 |
| 代行業者に投稿を発注する | 作成そのもの | 第三者の自発的投稿に見えるため告示の対象 | 処分の対象は発注した事業者 |
| 従業員が客を装って投稿する | 作成そのもの | 同上 | — |
| 投稿の文面を指定して書かせる | 内容 | 同上 | 内容が事実と異なれば5類型(どこよりも高く買取り 等) |
| 自社サイトへ良い口コミだけを転載する | 選別 | 事業者の表示として扱われる | 5類型 |
買取の客は、金額を提示される側に立ちます。小売なら値札を見て買うか買わないかを客が決めますが、買取では店が値をつけ、客はそれを受けるか断るかしか選べません。不満の向き先が価格に集中するのは、この取引構造から来ています。
ところが、売り先を選ぶ理由は価格だけではありません。環境省の消費者調査(n=1,331、複数回答)では、排出先を選んだ理由の上位は金銭的な理由56.0%、煩雑な手続きや準備をしなくてすむから39.4%、まだ使用する人がいれば有効に利用して欲しかったから33.6%、自分で運搬する必要がなく家まで取りに来てくれるから16.1%でした。
最も重視した理由を1つだけ選ぶ設問では、金銭的な理由39.7%、煩雑な手続きや準備をしなくてすむから19.2%、まだ使用する人がいれば有効に利用して欲しかったから14.6%、自分で運搬する必要がなく家まで取りに来てくれるから6.2%です。最重視でも金銭は4割弱にとどまります。
選ばれる理由の6割は価格以外にあるのに、書かれる口コミは価格の話になりやすい。この非対称が買取店の口コミ獲得の出発点です。声をかける相手を、価格に満足した客ではなく、手間の少なさや運搬の負担が減ったことに満足した客へ寄せると、原価を上げずに件数を積めます。
口コミの件数を増やす手段として査定額を上げるのは、仕入原価を上げることと同義です。効果の測定より先に、原価への影響を見ます。
中小企業実態基本調査(令和6年確報・法人企業・小売業)では、小売業全体の粗利率は29.8%、営業利益率2.4%、在庫回転期間33.5日です。従業者5人以下の層は粗利率31.7%と全体より高いのに、営業利益率は0.2%しかありません。在庫回転期間は55.9日で、6〜20人の32.6日と比べて1.7倍かかっています。これは買取業に限定した統計ではなく中小小売業全体の値ですが、規模が小さいほど在庫が現金に戻る速度で負けるという構造は共通します。
査定額を上げると、粗利率が下がるだけでなく、上乗せした現金が戻ってくるまでに約2ヶ月かかります。口コミ1件あたりの獲得コストを「上乗せ額」で見るのは不十分で、その現金が55.9日拘束されることまで含めて見ます。
対して、手間の少なさで満足を作る施策は原価を動かしません。待ち時間の短縮、事前査定の精度、駐車場の案内、必要な持ち物の事前告知。これらは口コミの内容を価格以外へ寄せる働きも同時にします。
古物営業法第15条第1項は、買受け・交換・委託を受けようとするとき、相手方の真偽を確認する措置をとることを義務づけています。住所・氏名・職業・年齢の確認、本人署名のある文書の交付を受けることなどが挙げられています。同条第3項は、不正品の疑いがあると認めるときは直ちに警察官へ申告する義務を定めています。
確認に応じない相手、説明が持ち込み品と噛み合わない相手について取引を成立させないという判断は、この義務の履行です。断られた客が不満を書くことは起こりますが、断ったこと自体は接客の失敗ではありません。令和7年中の古物商による不正品申告は129件で、区分別では道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件でした。
本人確認が免除されるのは対価の総額が1万円未満の取引ですが、施行規則第16条第2項の7品目は金額に関係なく確認が要ります。自動二輪車及び原動機付自転車、エアコンの室外ユニット等、家庭用ゲームソフト、光学的方法で音・影像を記録した物、電線、金属製グレーチング、書籍です。ゲームソフトや本を数百円で買い取る場面でも身分証の提示を求めることになり、少額・多点数の商材を扱う店ほど「なぜ身分証が要るのか」という不満が出ます。
この不満は接客の改善では消えません。店頭掲示、サイト、看板の段階で、確認が法律上の義務であることを先に示しておくと、その場での説明が短くなり、断る場面の摩擦が減ります。口コミ獲得の施策は、買い取れた客だけでなく、断った客への説明設計とセットで考えます。
古物営業法第12条第2項は、事業規模が著しく小さい場合等を除き、氏名または名称、許可をした公安委員会の名称、許可証の番号を、インターネット上で公衆の閲覧に供することを義務づけています。違反は第35条第2号により10万円以下の罰金です。
つまり買取業では、運営者を伏せたまま口コミだけを集めるという設計が、そもそも法律と両立しません。屋号だけのサイトやランディングページで集客し、実体を出さずに評価を積むことはできない前提で施策を組みます。
対象はコーポレートサイトに限りません。買取専用のランディングページ、出張買取の申込フォーム、宅配買取の申込ページなど、自社が公衆の閲覧に供しているページで表示できる状態にします。フッターへ固定表示する形が運用しやすい方法です。
見方を変えると、許可番号が出ていること自体が客側の判断材料になります。古物商等の許可件数は令和7年末で615,194件、前年比+42,170件で増え続けています。店の数が増えるほど、表示があるかないかで選別される場面が増えます。
「星5でお願いします」「他店より高かったと書いてください」という依頼は、店が中身を作っている状態です。それを客の自発的な投稿として見せれば、告示の対象になります。
内容の指定は、5類型にも直結します。実態調査報告書は「どこよりも高く買取り」を、事実と異なる場合に問題になる表示として挙げ、競合他社の買取価格を何ら調査していないのに「買取価格地域No.1」と表示する場合を名指ししています。この文言を客に書かせて自社サイトへ載せたなら、書き手が客であっても、表示を行っているのは店です。
自社サイトへの転載も同じ考え方で見ます。良い評価だけを選んで載せる行為には、店による選別という関与が入ります。掲載するなら、選別の方針を持ち、都合の悪い内容を落とすことで実際と異なる印象を作っていないかを見ます。
なお、個別の口コミサイトやプラットフォームがどのような規約や仕様を持っているかについては、ここでは触れません。一次情報として確認できる公表資料がないため、固有名を挙げた断定はできません。投稿の依頼や表示の可否は、各サービスの利用規約を自分で確認してください。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 口コミの依頼で、投稿の中身(星の数・書く内容)まで指定していないか |
| 2 | 謝礼を渡している場合、店が関与していることが投稿から分かる状態になっているか |
| 3 | 次回使えるアップ券を渡すなら、今回の買取価格の20%(1,000円未満なら200円)を上限とし、券面に上限額を明記しているか |
| 4 | その場で査定額に上乗せする方式と、次回券方式で、かかる規制が違うことを社内で共有しているか |
| 5 | 口コミ代行の発注をしていないか。過去に発注した契約・請求・振込の記録を確認したか |
| 6 | 従業員が客を装って投稿しないという方針を、就業上のルールとして定めているか |
| 7 | 自社サイトに口コミを転載する場合、良い評価だけを選んで実際と異なる印象を作っていないか |
| 8 | 「どこよりも高く」「地域No.1」を客に書かせていないか。書く場合、競合の買取価格を調査した記録を保管しているか |
| 9 | 氏名または名称・許可をした公安委員会の名称・許可証番号を、買取専用ページや申込フォームでも閲覧できる状態にしているか(第12条第2項) |
| 10 | 本人確認が法律上の義務であることを、店頭掲示やサイトで事前に示しているか(第15条第1項、施行規則第16条) |
| 11 | 口コミの件数を増やす手段として査定額を上げていないか。上げている場合、原価への影響を測っているか |
「投稿してくれたら査定額を上げます」という運用を、単なる接客サービスとして続けてしまう失敗です。対価と引き換えに得た投稿は店の関与のもとで作られた表示で、関与を隠せばステルスマーケティング告示(令和5年10月1日施行)の対象になります。加えて上乗せ分はそのまま仕入原価です。中小小売業の従業者5人以下の層は在庫回転期間が55.9日で、上乗せした現金が戻るまで約2ヶ月かかります。
次回使えるアップ券を、次回の買取価格を基準に設計してしまう失敗です。総付景品の上限は今回の取引価額で決まります。今回の買取価格が1万円なら上限は2,000円で、次回の買取価格が2万円でも4,000円を上乗せすることはできません。券面に上限額を明記しないまま「20%アップ」とだけ書いた券は、この点で問題になります。
低評価を打ち消す目的で口コミ代行に発注してしまう失敗です。処分の対象は投稿者ではなく発注した事業者で、契約書・請求書・振込記録は残ります。消費者庁は令和7年4月30日に買取業者50社の広告をサンプリングした実態調査報告書を公表しており、業界の表示は現に見られている状態です。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 客に口コミの投稿をお願いすること自体が違法なのですか | 依頼そのものは違法ではありません。ステルスマーケティング告示(令和5年10月1日施行)が対象にするのは「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」で、事業者が関与しているのに第三者の自発的な投稿に見える状態を指します。投稿を口頭で依頼し、内容は客が自分の判断で書いているのであれば、事業者の表示にはなりません。問題になるのは、対価を渡す、内容を指定する、代行に発注するといった関与があるのに、それを隠す場合です。 |
| 口コミを書いてくれた人にお礼を渡したい場合、どうすればよいですか | 渡し方によって、かかる規制が2系統に分かれます。ひとつはステルスマーケティング告示で、対価を渡したなら店の関与が生じているため、関与が分かる状態にします。もうひとつは景品規制です。次回使える買取価格アップ券やキャッシュバック、自社ポイントは景品類に該当し、今回の買取価格が1,000円以上なら取引価額の20%、1,000円未満なら200円が上限です。今回の買取価格が1万円なら上限は2,000円で、その旨を券面に明記します。一方、その場で買取価格をアップする場合は、アップ分を含めた全体が取引の対価になるため、アップ分は原則として景品類に該当しません。 |
| 査定額に納得しなかった客の低評価は、どうすれば減らせますか | 買取は店が値をつけ、客が受けるか断るかを選ぶ取引なので、不満が価格に集中するのは構造上の性質です。価格を上げれば減りますが、査定額はそのまま仕入原価になります。環境省の消費者調査では、売り先を選んだ理由で最も重視されたものは金銭39.7%で、残りは煩雑な手続きや準備をしなくてすむから19.2%、有効に利用して欲しかったから14.6%、家まで取りに来てくれるから6.2%です。選ばれる理由の6割は価格以外にあるため、待ち時間・持ち物の事前告知・査定根拠の説明といった手間の側を改善するほうが、原価を動かさずに評価を動かせます。 |
| 本人確認を求めたら断られ、そのまま低評価を書かれました | 古物営業法第15条第1項は、買受け等をしようとするとき相手方の真偽を確認する措置をとることを義務づけており、確認に応じない相手と取引しない判断はこの義務の履行です。本人確認が免除されるのは対価の総額が1万円未満の取引ですが、施行規則第16条第2項の7品目(自動二輪車等、エアコン室外ユニット等、家庭用ゲームソフト、光学的方法で音・影像を記録した物、電線、金属製グレーチング、書籍)は金額に関係なく確認が要ります。事前に店頭掲示やサイトで義務であることを示しておくと、その場での説明が短くなります。 |
| 店名を出さずに口コミを集めることはできますか | できません。古物営業法第12条第2項は、事業規模が著しく小さい場合等を除き、氏名または名称、許可をした公安委員会の名称、許可証の番号をインターネット上で公衆の閲覧に供することを義務づけています。違反は第35条第2号で10万円以下の罰金です。コーポレートサイトだけでなく、買取専用のランディングページや出張買取の申込フォームでも表示できる状態にしてください。 |
| 口コミサイトごとの依頼ルールはどこで確認すればよいですか | 各サービスの利用規約で確認してください。プラットフォームごとの規約や仕様について、公的に確認できる一次情報がないため、このページでは固有名を挙げた断定をしていません。景品表示法の側の判断(関与を隠していないか、内容を指定していないか、表示が事実と合っているか)は、どのサービスを使う場合でも共通してかかります。 |
この解決策が打ち手になりうる課題を11件挙げます。











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