
査定後に取引が成立しなかった場面は、少なくとも3つに分かれます。ひとつ目は、店の側が断ったものです。古物営業法第15条第1項の確認措置が取れない、不正品の疑いがある、取扱対象外だった、という理由が入ります。ふたつ目は、価格が折り合わなかったものです。みっつ目は、説明や手続きの途中でつまずいたものです。
打ち手が違うだけでなく、そもそも減らしてよいかどうかが違います。ひとつ目は減らしてはいけません。ふたつ目は、減らそうとすると仕入原価が上がります。減らしにいけるのは、みっつ目だけです。
したがって記録の第一軸は理由ではなく、誰がその取引を終わらせたかです。店が断ったのか、客が帰ったのか。この2つを分けずに「不成立」としてまとめると、月次で数字が動いたときに、何が起きたのか特定できません。
第二軸として理由を置きます。価格、確認が取れない、取扱対象外、手続きが煩雑、他店と比べる、持ち帰って家族に相談する、の6区分で足ります。この2軸だけで、減らしにいく対象と、触ってはいけない対象が分けられます。
古物営業法第15条第1項は、買受け・交換・委託を受けようとするときに、相手方の真偽を確認する措置をとることを義務づけています。住所・氏名・職業・年齢の確認、本人署名のある文書の交付を受けること、認定を受けた電子署名つきの電磁的記録の提供を受けること、これらに準ずる国家公安委員会規則で定める措置のいずれかです。措置が取れなければ、買い取ることはできません。
施行規則第16条第1項により、対価の総額が1万円未満の取引では確認が免除されます。ただし第2項の7品目は金額に関係なく確認が要ります。自動二輪車及び原動機付自転車、エアコンディショナーの室外ユニットと電気温水機器のヒートポンプ、家庭用コンピュータゲームのプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物、電線、金属製グレーチング、書籍です。少額の持ち込みでも、これらは書類が無ければ帰ってもらうことになります。
同条第3項は、不正品の疑いがあると認めるときに、直ちに警察官へ申告することを義務づけています。令和7年中の古物商による不正品申告は129件で、区分別では道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件でした。申告に至った件数がこの水準ということは、疑いを持って断った件数はこれより多いはずです。
第33条第1号は、第15条第1項と第18条第1項の違反に対して6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を定めています。断って帰ってもらった取引を「取り逃がし」に数えると、次に同じ場面が来たときに確認を甘くする力がかかります。この区分は減点ではなく、件数と理由を残す対象です。
買取業では、仕入原価を自分で決められます。査定額がそのまま原価になるからです。持ち込まれた品を全件買いたいなら、方法は単純で、相場の上限に近い金額を出せばよいことになります。価格を理由に帰られる比率は、そのまま下がります。
したがって、この比率がゼロに近い店は、接客が優れている店とは限りません。相場の上限で買っている店である可能性のほうが高くなります。粗利率の低下は「コストが上がった」ではなく「買取価格を上げた」結果として出るため、原因が査定台の上にあることが見えにくくなります。
帰られ率の適正水準は、外から与えられません。買取業の成約率・離脱率について業界平均を示した一次情報は、公的統計にも消費者庁・国民生活センターの公表資料にも存在しないため、目安は示しません。決め方は逆向きで、必要な1件あたり粗利額から上限価格を決め、その上限で買えなかった取引が何%出るかを結果として受け取ります。
この順序にすると、価格で帰られたときの評価が変わります。上限を守って帰られたのなら、守れたということです。上限を超えて成立させたなら、成約は増えていますが、粗利は減っています。数えるべきなのは帰られた件数ではなく、上限を超えて成立させた件数のほうです。
| 終わらせた主体 | 理由 | 失敗として数えるか | 見る数字 | やってはいけないこと |
|---|---|---|---|---|
| 店 | 第15条第1項の確認措置が取れない/不正品の疑い | 数えない | 件数と理由。7品目に当たるかの内訳 | 成約率や離脱率の減点として扱うこと |
| 店 | 取扱対象外・商圏外だった | 数えない | 件数。査定前に落とせたかの検証 | 査定まで運んで人時を使うこと |
| 客 | 価格が折り合わなかった | 正常な結果として数える | 上限価格を超えて成立させた件数 | 上限を超えて成立させ、成約数に計上すること |
| 客 | 手続きが煩雑・説明が足りない・待たされた | 失敗として数える | 査定時間、待ち時間、説明項目の実施 | 理由を金額に丸めて記録すること |
| 客 | 他店と比べる・家族に相談する | 保留として数える | 再来店率(分母と期間を固定) | その場で決めさせる圧力をかけること |
特定商取引法の訪問購入は、購入業者が店舗等以外の場所で契約の締結等を行う物品の購入を指します。クーリング・オフは法定書面を受け取った日から数えて8日以内で、この期間内は引渡しを拒絶できることの告知義務もかかります。店頭に持ち込まれた取引は、この訪問購入に当たりません。
買取市場のチャネル別構成比は、2023年で店頭買取り78.2%、出張買取り10.0%、宅配買取り9.5%です(消費者庁の実態調査報告書に掲載された数値。原典はリユース市場データブック2024)。取引の8割には、後から解除できる制度がありません。
この差が、帰ろうとする客を引き止める運用の危険度を決めます。出張であれば、押し切って成立させても8日以内に解除される余地が残ります。店頭では、成立した時点で確定します。納得しないまま成立した取引は、制度による巻き戻しではなく、直接の苦情として返ってきます。
国民生活センターは中古自動車の相談について、買取業者に売却する際のトラブルには強引な契約トラブルや買取後の減額トラブルもみられる、と説明しています。帰ることは、店頭においては客側に残された唯一の撤回手段として機能しています。帰られる件数を減らす施策を設計するときは、この機能を潰していないかを併せて見ます。
帰ろうとする客に金額を上乗せする運用は、2通りに分かれます。その場で買取価格を上げる形と、次回使えるアップ券やポイントを渡す形です。どちらもコストがかかりますが、かかる場所が違います。
その場で上げる分は、上乗せ分を含めた買取価格全体が取引の対価になるため、原則として景品類には当たりません。規制の話にはなりませんが、上乗せ分はそのまま仕入原価です。帰り際に上げると決めているなら、査定額の提示は最初から上乗せ後の水準で行っているのと同じことになります。
次回使える形にすると、景品類に該当します。総付景品の上限は、取引価額が1,000円以上なら取引価額の20%、1,000円未満なら200円です。今回の買取価格が1万円なら上限は2,000円で、次回の買取価格が2万円でも4,000円を上乗せすることはできません。券面には、アップの上限が2,000円であることを明記する運用になります。
「今日だけ」という条件を付けて上乗せする形は、続けると別の問題になります。消費者庁は令和7年4月30日の「買取サービスに関する実態調査報告書」で、買取価格アップの表示について、実際にはアップしない場合に加えてキャンペーンの常態化を問題として挙げ、1月末までと表示して2月以降も同内容を継続する例を示しています。帰り際の上乗せを常設にするなら、期限付きの表示は使えません。
査定額を聞いて帰った客は、品物を持って帰っています。売却先が決まったわけではありません。環境省の令和6年度リユース市場規模調査では、不要品のうち自宅等で保管されたままの割合は、携帯電話・スマートフォン82.1%、ソフト・メディア類77.6%、パソコン・周辺機器77.4%、書籍56.3%、ブランド品53.4%です。手放されずに家にある状態が、この業界の標準です。
そのため、当日の来店を1回の勝負として数えるか、12か月の期間で数えるかで、同じ出来事の評価が変わります。当日単位なら失敗ですが、期間単位なら未成立というだけです。どちらで数えるかを決めていない店では、当日その場で決めさせる圧力だけが現場に残ります。
ただし再来店を測ろうとすると、記録の壁に当たります。古物営業法第16条の帳簿に載るのは成立した取引だけで、記載事項は取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条第1項でとった措置の区分です。帰った客の連絡先は、法定記録のどこにも残りません。
連絡先を残すなら、査定時に別途その旨を伝えて同意を得る運用に分けます。帳簿は防犯目的の法定記録なので、そこから営業連絡へ持ち出す形にはしません。再来店率を指標に置くなら、分母(査定して不成立になった件数)と期間(何か月以内の再来店を数えるか)を先に固定します。
現場が記録する理由は、放っておくと金額に寄ります。金額が最後に口に出る言葉だからです。ただし客が売却先を選ぶ理由は金額だけではありません。環境省の同調査で、排出先を最も重視した理由を1つ選ばせた結果は、金銭的な理由39.7%、煩雑な手続きや準備をしなくてすむから19.2%、まだ使用する人がいれば有効に利用して欲しかったから14.6%、自分で運搬する必要がなく家まで取りに来てくれるから6.2%です。
金額を理由に記録された不成立のうち、一定量は手続きや説明の側で起きています。査定に時間がかかる、根拠が示されない、手続きが分からない、といった要素は、帰る場面では金額への不満として言語化されます。理由の記録を客の言葉のまま残すと、原因は全部金額になります。
そこで、記録には店側が観測した事実を足します。査定にかかった時間、提示までに客が待った時間、説明した項目、持ち込み点数と成約点数の差です。この4つは主観が入らず、あとから集計できます。金額を理由とした不成立が、特定の待ち時間帯や特定の担当者に集中しているなら、原因は金額ではありません。
そのうえで、金額が理由の不成立が本当に多いなら、次に見るのは品目です。品目ごとに競争の激しさが違います。査定額を上げる判断に進む前に、その品目を扱い続けるかどうかという判断が先に来ます。上げる判断は、そのまま原価の引き上げだからです。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 不成立の記録に、店が断ったのか客が帰ったのかという主体の欄があるか |
| 2 | 確認が取れずに断った件数を、担当者や店舗の減点にしていないか |
| 3 | 1万円未満でも確認が要る7品目に当たる持ち込みを、その場で判別できているか |
| 4 | 必要な1件あたり粗利額から、品目ごとの上限価格を先に決めているか |
| 5 | 上限価格を超えて成立させた件数を、月次で数えているか |
| 6 | 店頭買取にクーリング・オフが適用されないことを、接客手順の前提に置いているか |
| 7 | 帰り際の上乗せについて、その場アップと次回券のどちらを使うかを決めているか |
| 8 | 次回使えるアップ券に、上限額(取引価額の20%、1,000円未満は200円)を券面へ明記しているか |
| 9 | 期限付きのキャンペーンが、期限後も同内容で続いていないか |
| 10 | 査定時間・待ち時間・説明項目・持込点数と成約点数の差を、事実として記録しているか |
| 11 | 再来店率を見るなら、分母(不成立件数)と期間を固定しているか |
確認が取れずに断った取引を、離脱として同じ表に載せてしまう失敗があります。古物営業法第15条第1項は相手方の真偽を確認する措置を義務づけ、第33条第1号は違反に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を定めています。同条第3項は不正品の疑いがあるときの警察官への申告義務を定めており、令和7年中の古物商による不正品申告は129件でした。断ることが正しい取引を減らす対象に入れると、指標が違反の側へ現場を押します。
帰られる件数を減らす施策として、その場で決めさせる運用が採られることがあります。店頭買取は特定商取引法の訪問購入に当たらないため、8日以内のクーリング・オフはありません。買取市場のチャネル構成比は店頭78.2%、出張10.0%、宅配9.5%で、取引の8割に制度上の巻き戻しがない状態です。国民生活センターは中古自動車の相談で、買取業者への売却時に強引な契約トラブルや買取後の減額トラブルがみられると説明しています。
帰られた理由を客の言葉のまま記録すると、原因がすべて金額に集まります。環境省の調査では、排出先を最も重視した理由でも金銭は39.7%にとどまり、煩雑な手続きや準備をしなくてすむからが19.2%、家まで取りに来てくれるからが6.2%です。査定時間・待ち時間・説明項目という店側が観測できる事実を併記しないと、直せる原因が見えないまま査定額を上げる判断に進むことになります。査定額の引き上げは、そのまま仕入原価の引き上げです。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 査定額を聞いて帰られる比率は、どのくらいまで下げるべきですか | 目標値を外から取ることはできません。買取業の離脱率・成約率について業界平均を示した一次情報は、公的統計にも消費者庁・国民生活センターの公表資料にも存在しないためです。加えて、この比率は査定額を上げれば必ず下がるという性質を持ちます。査定額はそのまま仕入原価なので、比率をゼロに近づけた状態は、相場の上限で買っている状態と区別がつきません。必要な1件あたり粗利額から上限価格を決め、比率は結果として受け取る順序にしてください。 |
| 本人確認書類が無くて買えなかった場合も、離脱に数えるべきですか | 数えないでください。古物営業法第15条第1項は、住所・氏名・職業・年齢の確認、本人署名のある文書の交付、認定を受けた電子署名つきの電磁的記録の提供、これらに準ずる措置のいずれかを義務づけています。施行規則第16条第1項で1万円未満は免除されますが、第2項の7品目は金額に関係なく確認が要ります。書籍、光学的方法により音又は影像を記録した物、家庭用コンピュータゲームのプログラムを記録した物などが該当します。件数と理由は残しますが、成約率や離脱率の減点にはしません。 |
| 帰ろうとする客に、その場で金額を上げるのは問題ありませんか | 景品表示法上は、その場で買取価格を上げる場合、上乗せ分を含めた買取価格全体が取引の対価になるため、原則として景品類には当たりません。ただし上乗せ分はそのまま仕入原価です。帰り際に必ず上げる運用にしているなら、最初の提示額が実質的な意味を失います。次回使えるアップ券やポイントにすると景品類に該当し、総付景品の上限は取引価額が1,000円以上なら20%、1,000円未満なら200円です。今回の買取価格が1万円なら上限2,000円で、券面にその上限を明記します。 |
| 店頭で「今日中なら価格アップ」と案内してもよいですか | 常態化させないなら可能ですが、実務では難しくなります。消費者庁の「買取サービスに関する実態調査報告書」(令和7年4月30日)は、買取価格アップの表示について、実際にはアップしない場合に加えてキャンペーンの常態化を問題として挙げており、1月末までと表示して2月以降も同内容を継続する例を示しています。常時その場で上げる運用にするなら、期限を切った表示は使わず、上乗せ後の水準を通常の買取価格として扱うほうが整合します。 |
| 帰られたお客様に、後日こちらから連絡してもよいですか | 連絡先を取る手続きを、取引の記録とは分けて設計してください。古物営業法第16条の帳簿に載るのは成立した取引だけで、帰った客の情報はそもそも法定記録に存在しません。仮に成立した取引であっても、帳簿は防犯目的の法定記録なので、そこから営業連絡へ持ち出す形にはしません。査定の場で、後日の連絡についてその旨を伝えて同意を得た場合のみ、別の記録として保持します。 |
| 帰られたお客様が、また来ることはありますか | 品物は手元に残っているので、可能性は消えていません。環境省の令和6年度リユース市場規模調査では、不要品が自宅等で保管されたままの割合は携帯電話・スマートフォン82.1%、ソフト・メディア類77.6%、パソコン・周辺機器77.4%、書籍56.3%、ブランド品53.4%です。ただし再来店を指標にするなら、分母を「査定して不成立になった件数」、期間を何か月以内かで固定してください。定義を決めないと、月ごとに数字の意味が変わって比較できなくなります。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を12件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。












扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。査定額を聞いて帰られるをジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


