
シェアを出すには、その商圏で1年間にいくらの買取が発生しているかという分母が要ります。この値は公表されていません。消費者庁の買取サービスに関する実態調査報告書には買取市場規模が載っており、2023年で13,274億円、チャネル別は店頭買取り78.2%・出張買取り10.0%・宅配買取り9.5%ですが、これは全国の推計値です。都道府県別や市区町村別の内訳はありません。
事業者側の数も同じです。警察庁「令和7年中における古物営業・質屋営業の概況」は、令和7年末時点で古物商614,118件、古物市場主1,076件、合計615,194件を公表していますが、都道府県別の件数は載っていません。商圏内に何社いるかを公表統計から出すことはできません。
経済センサス-活動調査では業種別の事業所数と年間商品販売額が分かりますが、こちらも集計の単位が日本標準産業分類の細分類です。2021年の事業所数は中古自動車小売業11,168所、中古品小売業(骨とう品を除く)3,301所、古本小売業671所、中古電気製品小売業515所、骨とう品小売業387所で、5業種合計16,042所です。年間商品販売額は中古自動車小売業を除く4業種で6,750億円です。
したがって「商圏内のシェアが取れない」という認識は、多くの場合、測った結果ではなく体感です。まず、その体感が何を見て生まれたのかを分けます。来店数が減った、競合の看板が増えた、常連が来なくなった、では打ち手が違います。
分母を作る方法はあります。商圏人口に、不要品が発生する人の割合、保管されずに動く割合、買取店に向かう割合を順に掛けます。使う値はすべて環境省の令和6年度リユース市場規模調査(消費者アンケート n=3,365、2025年1月実施)にあります。
過去1年に不要品が発生した人の割合は、書籍29.1%、ブランド品を除く衣類・服飾品25.8%、家具類17.2%、日用品・生活雑貨17.0%、ブランド品14.4%、ソフト・メディア類12.7%、パソコン・周辺機器11.2%です。ゲーム機器0.6%、バイク・原付0.8%、自動車1.4%、楽器類4.4%は少数です。
発生した不要品の多くは家に残ります。保管されたままの割合は携帯電話・スマートフォン82.1%、ソフト・メディア類77.6%、パソコン・周辺機器77.4%、書籍56.3%、ブランド品53.4%、ブランド品を除く衣類51.1%です。保管を除いた排出先のうちリユースショップ・中古品販売店での売却は、ゲーム機器72.3%、書籍37.3%、ソフト・メディア類32.8%、衣類・服飾品31.3%、ベビー・子供用品29.6%、スポーツ・レジャー用品23.0%、ブランド品22.7%です。
この掛け算で出るのは点数の推計であって金額ではありません。全国調査の比率を自分の商圏に当てているので、年齢構成や住宅事情の差も反映されません。社内の議論で規模感を共有する用途までにとどめ、外部に示す数字としては使わないほうが安全です。
競合が増えたという体感には、根拠になる数字があります。古物営業の許可件数は、令和2年の396,378件から令和7年末の615,194件へ、5年で約55%増えています。ただし令和2年4月1日施行の改正で許可の単位が営業所ごとから主たる営業所の所在地を管轄する公安委員会の1件に変わったため、平成30年の789,345件とはつなげて比較できません。
一方で、店舗としての事業所は減っています。経済センサスでは、中古自動車小売業の事業所数が2016年の21,556所から2021年の11,168所へ48.2%減少しました。自動車中古部品卸売業も1,125所から810所へ28.0%減です。統計の捕捉方法の変更も影響しますが、店舗の集約は進んでいます。
許可が増えて事業所が減るという組み合わせは、店舗を持たない事業者が増えていることを示します。出張買取と宅配買取を主体にする事業者、催事で仮設店舗を使う事業者は、商圏を歩いても見えません。看板の数を数えて競合を把握する方法は、この層を取りこぼします。
つまり商圏内の競争は、目に見える店舗の数より広い範囲で起きています。自店の来店が減ったとき、近隣に新しい店ができていないことは、競合が増えていないことの証拠になりません。
| 分母を組む段階 | 掛ける値 | 出どころ | 限界 |
|---|---|---|---|
| 商圏人口 | 市区町村・町丁目の人口 | 自治体の公表人口 | 不要品は世帯単位で発生することが多く、人単位に割り切れない |
| 不要品が発生する人の割合 | 書籍29.1%/衣類・服飾品25.8%/家具類17.2%/ブランド品14.4% | 環境省 令和6年度リユース市場規模調査(n=3,365) | 全国の値。商圏の年齢構成や住宅事情は反映されない |
| 保管されずに動く割合 | 書籍は56.3%が保管/ブランド品53.4%/スマホ82.1% | 同上(取引個数ベース) | 人数ではなく個数の割合 |
| 買取店に向かう割合 | ゲーム機器72.3%/書籍37.3%/衣類31.3%/ブランド品22.7% | 同上(保管を除いた排出先の内訳) | 自店ではなく買取店全体への割合 |
| 自店の取り分 | 帳簿の相手方住所を市区町村別に集計した件数 | 古物営業法第16条の帳簿(3年保存) | 分子は実数だが、分母は推計のままである |
シェアという言葉は、集計の単位を変えると値が大きく変わります。Marche株式会社が中古車買取領域で実施した検索結果調査では、上位3ドメインの合計シェアが全体で59.1%ある一方、検索軸ごとに分解すると最高でも36.2%でした。全体では寡占に見えても、切り口ごとに見ると別の事業者が薄く取っている構造です。
同じことが商圏の中でも起きます。全体の来店数で負けていても、特定の品目、特定の年代、特定の時間帯では取れている場合があります。逆に、全体では横ばいでも主力品目だけが落ちていることもあります。全体の数字は、どちらの状態でも同じように見えます。
自店の数字を切り口ごとに分けるには、集計軸を先に決めます。品目、相手方の年代、相手方の住所の市区町村、来店の曜日と時間帯、初回か再訪か。このうち品目・年代・住所は、古物営業法第16条の帳簿の記載事項に含まれています。
切り口ごとに見ると、打ち手の対象が変わります。全商圏で競うのではなく、取れている切り口を伸ばすか、落ちている切り口を戻すかという判断になります。全体のシェアという1つの数字では、この判断ができません。
他店に流れていると考えたとき、最初に疑われるのは買取価格です。ただし環境省の調査では、排出先を選んだ理由として最も重視したものは、金銭的な理由39.7%、煩雑な手続きや準備をしなくてすむから19.2%、まだ使用する人がいれば有効に利用して欲しかったから14.6%、自分で運搬する必要がなく家まで取りに来てくれるから6.2%です。
複数回答では、金銭的な理由56.0%、煩雑な手続きや準備をしなくてすむから39.4%、まだ使用する人がいれば有効に利用して欲しかったから33.6%、適切な引渡先と考えたから18.7%、適切に処理・リサイクルされそうだったから17.1%、自分で運搬する必要がなく家まで取りに来てくれるから16.1%です。
価格は単独では最大の理由ですが、過半には届きません。手続きの煩雑さは最重視理由で2番目に大きく、しかも仕入原価に乗らない軸です。価格で取りに行くと原価が上がりますが、手続きの短さで取りに行っても原価は上がりません。
自店が価格で負けているかどうかは、査定の場で確かめられます。他店の提示額を理由に断られた件数を記録し、断られた品目と金額帯を集計します。件数が少ないなら、負けているのは価格ではありません。
シェアの回復を査定額の引き上げで進めると、仕入原価が上がります。買取業は査定額がそのまま原価なので、価格競争は原価の競争です。中小企業庁の中小企業実態基本調査(令和6年確報・令和5年度決算実績、法人企業・小売業)では、従業者5人以下の粗利率が31.7%で営業利益率が0.2%、6〜20人が粗利率31.2%で営業利益率1.5%です。
粗利率がほぼ同じで営業利益率に7倍以上の差があるのは、在庫が現金に戻る速度が違うためです。在庫回転期間は5人以下で55.9日、6〜20人で32.6日、小売業全体で33.5日です。買取業に限定した統計ではありませんが、同規模の小売業がどこで負けているかは読み取れます。
営業利益率0%台の水準では、粗利率を数ポイント削る施策は利益をそのまま消します。件数が増えても、1件あたりの粗利額が下がり、在庫が増えて回転が落ちれば、事業としては後退します。
件数を取りに行く場合は、対象品目と期間と上限額を先に決めます。あわせて、その期間の買取支払額の上限も決めます。買取業は支払いが先行するため、件数の増加はそのまま運転資金の増加として現れます。
分母がなくてもできることがあります。古物営業法第16条は、古物を受け取り、または引き渡したときに、その都度、取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条第1項でとった措置の区分を記載する義務を定めています。第18条第1項により、最終記載の日から3年間、営業所等に備え付けます。
この記載事項には相手方の住所が含まれます。つまり、どの地域から何件来ているかは、どの店でも3年分さかのぼって集計できます。市区町村別、さらに町丁目別に件数を並べれば、自店が実際に到達している範囲が出ます。推計ではなく実数です。
この分布は3つの使い方ができます。第一に、到達していない地域が分かるので、広告の配布範囲を絞れます。第二に、前年と比べれば、どの地域から来なくなったかが分かります。第三に、年代も記載事項なので、地域と年代を掛けて見られます。
相手方の情報は個人情報なので、集計にあたっては保管と持ち出しの手順を決めます。件数の集計に必要なのは住所の市区町村までなので、氏名を含む形で持ち出さない運用にします。帳簿そのものは第18条第1項により営業所等に備え付ける義務があり、集計のために持ち出す対象ではありません。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 「シェアが取れない」の根拠が、測った数字か体感かを区別しているか |
| 2 | 分母を推計で組む場合、推計であることと使った比率の出どころを明記しているか |
| 3 | 商圏内の競合を、店舗の看板の数だけで数えていないか。店舗を持たない出張・宅配事業者を数えられているか |
| 4 | 自店の数字を、品目・年代・地域・曜日時間帯・初回再訪の切り口に分けて見ているか |
| 5 | 他店の提示額を理由に断られた件数を記録しているか。負けている理由が価格かどうかを確認しているか |
| 6 | 査定額を引き上げてシェアを取りに行く場合、対象品目・期間・上限額を先に決めているか |
| 7 | その期間の買取支払額の上限を決めているか。原資の増加とセットで判断しているか |
| 8 | 第16条の帳簿の相手方住所を市区町村別に集計し、到達している地域を出しているか |
| 9 | 前年の地域別分布と比較して、来なくなった地域を特定しているか |
| 10 | 帳簿の集計にあたり、氏名を含む形で持ち出さない手順を決めているか |
商圏シェアという数字を、根拠のない分母で計算してしまう失敗があります。買取市場規模は消費者庁の報告書に全国推計として13,274億円(2023年)が載っているだけで、都道府県別や市区町村別の内訳はありません。古物商等の許可件数も令和7年末の全国計615,194件しか公表されていません。分母のない割合は比較にも判断にも使えません。分母を推計で組む場合は、使った比率の出どころと推計であることを、社内資料にも書き残してください。
近隣に新しい店舗ができていないことを根拠に、競合が増えていないと判断してしまう失敗があります。古物営業の許可件数は令和2年の396,378件から令和7年の615,194件へ約55%増えている一方、経済センサスでは中古自動車小売業の事業所数が2016年の21,556所から2021年の11,168所へ48.2%減っています。許可者が増えて店舗が減るということは、店舗を持たない事業者が増えているということです。出張・宅配・催事で商圏に入ってくる事業者は、歩いても見えません。
シェアの回復を査定額の引き上げで進め、件数が戻った時点で成功と判断してしまう失敗があります。買取業は査定額がそのまま仕入原価なので、価格で取ったシェアは粗利率の低下として計上されます。中小小売業の従業者5人以下は粗利率31.7%に対し営業利益率が0.2%しかありません。件数と同時に、1件あたりの粗利額と在庫回転期間を見てください。回転が落ちていれば、増えた件数は原資を止めているだけです。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 自社の商圏シェアを何%と言えばよいですか | 根拠のある数字は出せません。買取市場規模は消費者庁の実態調査報告書に全国推計の13,274億円(2023年)とチャネル構成比(店頭78.2%・出張10.0%・宅配9.5%)が載っているだけで、地域別の内訳はありません。古物商等の許可件数も令和7年末の全国計615,194件のみで、都道府県別は公表されていません。社内で規模感を共有する目的なら、商圏人口に環境省調査の発生率と排出先の比率を掛けて推計を組めますが、推計であることを明記して使ってください。 |
| 商圏内に競合が何社あるか調べる方法はありますか | 公表統計からは出せません。警察庁の資料は全国計のみで、経済センサスは業種別の全国および都道府県単位の事業所数までです。参考として、2021年の事業所数は中古品小売業(骨とう品を除く)3,301所、古本小売業671所、中古電気製品小売業515所、骨とう品小売業387所、中古自動車小売業11,168所で、5業種合計16,042所です。商圏内の把握は実地の確認になりますが、店舗を持たない出張・宅配事業者は看板では数えられません。自店で断られた理由の記録から、どの事業者に流れているかを拾うほうが実態に近づきます。 |
| 競合より高い査定を出せばシェアは戻りますか | 件数は戻りますが、原価が上がります。買取業は査定額がそのまま仕入原価なので、価格で取ったシェアは粗利率の低下として現れます。中小企業実態基本調査では、中小小売業の従業者5人以下は粗利率31.7%・営業利益率0.2%、6〜20人は粗利率31.2%・営業利益率1.5%です。粗利率がほぼ同じで営業利益率に7倍以上の差があり、差は在庫回転期間(55.9日と32.6日)です。価格を上げる前に、他店の提示額を理由に断られた件数を記録し、負けているのが本当に価格かを確認してください。環境省調査では、排出先を最も重視した理由のうち金銭は39.7%で、煩雑な手続きをしなくてすむことが19.2%を占めています。 |
| 地域を絞ってチラシを配りたいのですが、どの範囲にすればよいですか | 自店の帳簿から出せます。古物営業法第16条は取引の都度、相手方の住所を記載する義務を定め、第18条第1項によりその帳簿は最終記載の日から3年間備え付けられています。市区町村別、可能なら町丁目別に取引件数を集計すれば、実際に来ている範囲が実数で出ます。到達している地域と、まったく来ていない地域が分かるので、配布範囲を絞れます。前年と比べれば、来なくなった地域も特定できます。集計にあたっては、氏名を含む形で持ち出さない手順を決めてください。 |
| 全体の来店数は横ばいですが、シェアを落としている可能性はありますか | 全体の数字だけでは判断できません。集計の単位を変えるとシェアの値は大きく変わります。Marche株式会社が中古車買取領域で行った検索結果調査では、上位3ドメインの合計シェアが全体で59.1%ある一方、検索軸ごとに分解すると最高36.2%でした。全体では寡占に見えても、切り口ごとには別の事業者が取っている構造です。自店でも、品目別・年代別・地域別・曜日別に分けると、伸びている軸と落ちている軸が同時に存在していることがあります。品目・年代・住所はいずれも第16条の帳簿の記載事項なので、分解に必要な材料はそろっています。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を12件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。












扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。商圏内のシェアが取れないをジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


