
来店が少ないときに最初に出てくる説明が「認知度が低い」です。しかしこの言葉は、店を知らない人が多いという事実を指しているのか、知っているが来ていない人が多いという事実を指しているのかを区別していません。区別がつかないまま広告を増やすと、知っている人にもう一度知らせる支出になります。
切り分けたい問いは5つあります。店の存在を知られていないのか、知っているが自分の物が売れると思われていないのか、そもそも売るという行動をしたことがないのか、知っていて売る気もあるが他店に行っているのか、来たが取引が成立していないのか。打つ手はそれぞれ違います。
買取業の場合、この切り分けに使える記録が制度として手元にあります。古物営業法第16条は、取引の都度、取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条第1項でとった措置の区分を記載する義務を定め、第18条第1項により最終記載の日から3年間の備え付けを求めています。品目と相手方が3年分そろっているので、来ている人と来ていない品目は後からでも集計できます。
なお、買取業の認知度について業界平均を示した公的な統計はありません。何%あれば足りるという目安は作れないため、比較対象は他社ではなく自店の前月・前年になります。
環境省の令和6年度リユース市場規模調査では、過去1年間に不要品の売却・引渡しをしたことが「ない」人が70.0%です。2012年の57.7%から一貫して増えています。市場の利用者が広がらないまま、既存の利用者の中でチャネルが動いている状態です。
売却した人の内訳は、リユースショップ・中古品販売店で売却14.3%、フリマアプリで売却9.9%、インターネットオークションで売却4.9%、家族・知人などへ譲渡3.7%、郵送・宅配での買取サービス3.0%です。店に来る可能性のある層は、母集団全体から見れば1割台です。
この構造では、認知施策の相手が2種類に分かれます。すでに売る習慣がある14.3%の層に対しては、店名と条件を知らせることが効きます。売った経験がない70.0%に対しては、店名より先に、その品が売れることと、手順がどれだけ短いかを知らせることが入口になります。
後者に効く材料は環境省の調査にあります。排出先を選んだ理由のうち、最も重視したものは金銭的な理由39.7%、煩雑な手続きや準備をしなくてすむから19.2%、まだ使用する人がいれば有効に利用して欲しかったから14.6%です。売った経験がない層に対して価格だけを訴えても、比較の対象を持っていません。
環境省の調査は、不要品が発生した後の行き先を取引個数ベースで集計しています。「自宅・物置等で保管」されたままの割合は、携帯電話・スマートフォン82.1%、ソフト・メディア類77.6%、パソコン・周辺機器77.4%、自転車72.9%、楽器類69.9%です。書籍でも56.3%、ブランド品でも53.4%が家に残っています。
つまり、売る先を探している人よりも、売れると思っていない物を持っている人のほうが多くいます。認知施策の対象を「買取店を探している人」に絞ると、この層に届きません。
過去1年に不要品が発生した人の割合は、書籍29.1%、ブランド品を除く衣類・服飾品25.8%、家具類17.2%、日用品・生活雑貨17.0%、ブランド品14.4%、ソフト・メディア類12.7%、パソコン・周辺機器11.2%です。発生量が多い品目を名指しした案内のほうが、店名だけの案内より接点が多くなります。
ただし、名指しした品目は買い取れる体制とセットにします。家具類は排出時に26.4%が費用を負担して手放しており、テレビ・洗濯機・冷蔵庫・エアコンは44.0%が費用負担です。これらは客が金を払って処分している領域なので、認知だけを上げると処分の依頼が集まります。
| 切り分けたい問い | その場合に起きていること | 自店で測る方法 | 参照できる数字 |
|---|---|---|---|
| 店の存在を知られていない | 経路別の新規来店が全体的に少ない | 受付記録に「知った経路」を残し、月次で経路別の新規件数を出す | 自店のみ(業界平均は非公表) |
| 知っているが、自分の物が売れると思われていない | 持ち込まれる品目が偏る | 第16条の帳簿の品目を集計し、扱い品目との差を見る | 保管率:スマホ82.1%/ソフト・メディア77.6%/書籍56.3% |
| 売るという行動をしたことがない | そもそも比較検討に入っていない | 測れない。母集団側の数字で押さえる | 売却の利用経験なし70.0%(2012年57.7%) |
| 知っていて売る気もあるが他店に行っている | 指名の来店が少ない | 商圏内の同業を実地で数える | 古物商等の許可は全国計615,194件のみ。都道府県別は非公表 |
| 来たが取引が成立していない | 受付件数と帳簿の記載件数に差が出る | 受付件数と成立件数を月次で比較し、不成立の理由を分類する | 自店のみ |
電通「2025年 日本の広告費」によれば、総広告費は8兆623億円で前年比105.1%、インターネット広告費は4兆459億円・前年比110.8%で構成比50.2%と初めて半数を超えました。
買取店の認知施策が集中するプロモーションメディアは1兆7,184億円・前年比102.0%ですが、中身は方向が割れています。折込2,354億円は96.4%、ダイレクト・メール2,708億円は94.6%、フリーペーパー1,056億円は80.9%と紙で配る手段が縮み、屋外3,042億円は105.3%、交通1,736億円は108.6%と伸びています。マスコミ四媒体では新聞3,136億円が91.8%で最も落ちています。
この数字は市場全体の出稿額であって、1店舗あたりの費用相場ではありません。折込1回いくら、看板1面いくらといった根拠には使えません。読み取れるのは、その媒体が伸びているか縮んでいるかまでです。
屋外広告を使う場合、費用と規格は自分で調べる以外にありません。屋外広告物法は禁止区域を第3条、許可を第4条、形状・面積・色彩等の基準を第5条で定めていますが、いずれも具体的な基準は条例に委任しているため、全国共通の面積上限や手数料は存在しません。設置予定地の都道府県または市の条例を確認してから見積もりを取ります。
認知の手段として口コミや投稿の依頼を使う場合、景品表示法第5条第3号にもとづく指定告示、いわゆるステルスマーケティング告示がかかります。令和5年10月1日から施行され、これに当たる表示は景品表示法違反になります。
規制対象を取り違えないようにします。消費者庁は、規制の対象となるのは商品・サービスを供給する事業者(広告主)であり、企業から広告・宣伝の依頼を受けたインフルエンサー等の第三者は規制の対象とならないとしています。投稿者が責任を負う制度ではなく、依頼した買取店側が負います。
分かれ目は関与の有無ではなく、関与が判別できるかどうかです。事業者の表示であることが一般消費者にとって明瞭である、または社会通念上明らかであるものは対象になりません。運用基準は、「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった文言による表示や、提供を受けて投稿している旨の文章による表示を、明瞭になっている例として挙げています。
買取業で問題になりやすい形は3つあります。従業員や関係者が客を装って口コミを投稿すること、買取金額の上乗せや割引と引き換えに高評価の投稿を依頼すること、依頼して書いてもらった記事や動画に依頼した事実を表示しないことです。依頼する場合は、表示の形式まで含めて依頼内容に書き込みます。
買取業の認知度について業界平均は公表されていません。消費者庁の報告書に載っているのは買取市場規模(2023年13,274億円)とチャネル構成比(店頭78.2%・出張10.0%・宅配9.5%)までで、認知率は含まれていません。調査会社に自社ブランドの認知率を測らせることはできますが、比較する外部の基準がないので、単独の数字は判断に使えません。
使えるのは、自店の中で相対的に動く数字です。手順は3つあります。第一に、受付記録に来店日・初回か再訪か・店を知った経路・査定の有無・成約の有無を残します。第二に、月次で第16条の帳簿と取引日および相手方で突き合わせ、初出の相手方を新規として数えます。第三に、経路別の新規件数を並べます。
この集計ができると、「認知度が低い」という言葉は3つの数字に分解されます。経路別の新規件数、新規のうち査定に進んだ件数、査定のうち成立した件数です。新規件数が伸びないなら認知の問題、新規は来るが査定に進まないなら期待とのずれ、査定が成立しないなら価格か商材の問題になります。
帳簿そのものは記載事項が定まっているので、経路を書き足す場所ではありません。受付記録は別に持ち、取引日と相手方で結びつけます。帳簿側には取引の事実が必ず残るため、受付記録の記入漏れは後から補正できます。
認知施策が効くと、来店するのは買いたい人ではなく売りたい人です。件数が増えれば、その分だけ現金が先に出ていきます。買取業は客にその場で支払い、その品が売れてから回収するので、認知の拡大は運転資金の拡大とセットになります。
回収までの期間は、中小企業実態基本調査(令和6年確報・令和5年度決算実績、法人企業・小売業)の在庫回転期間で見ます。従業者5人以下で55.9日、6〜20人で32.6日、小売業全体で33.5日です。買取業に限った値ではありませんが、5人以下の水準なら今日の支払いが戻るのは約2か月後になります。
原資を用意せずに認知だけを上げると、来店した客に断りを入れる運用になります。断られた客は再訪せず、口コミにも残ります。認知施策の開始前に、月の買取支払額の上限を決め、上限に達したら施策を止める判断基準を作っておきます。
同じ理由で、認知施策の目標は来店数ではなく、成立件数と買取支払額で置きます。中小小売業の従業者5人以下は粗利率31.7%に対して営業利益率が0.2%です。来店数だけを追うと、原資を使い切ったところで数字が止まります。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 「認知度が低い」を、経路別の新規件数・査定到達件数・成立件数の3つに分解しているか |
| 2 | 受付記録に、初回か再訪か、店を知った経路を残しているか |
| 3 | 月次で第16条の帳簿と受付記録を取引日と相手方で突き合わせているか |
| 4 | 認知施策の対象を、買取店を探している人だけに絞っていないか |
| 5 | 発生量の多い品目(書籍29.1%、衣類25.8%など)を名指しした案内をしているか |
| 6 | 名指しした品目を、実際に買い取れる体制になっているか。費用負担で手放される品目を集めていないか |
| 7 | 屋外広告を出す場合、設置予定地の条例で禁止区域・許可・基準を確認してから見積もりを取っているか |
| 8 | 口コミや投稿を依頼する場合、依頼した事実が表示される形式まで依頼内容に含めているか |
| 9 | 従業員や関係者が客を装って投稿していないか |
| 10 | 認知施策の開始前に、月の買取支払額の上限と、上限到達時に施策を止める基準を決めているか |
「認知度が低い」を原因として確定させ、広告費を増やす方向だけで対応してしまう失敗があります。来店が少ない状態は、知られていない場合のほかに、知っているが売れると思われていない場合、来たが成立していない場合を含みます。買取業には古物営業法第16条の帳簿があり、相手方と品目が最終記載の日から3年間残っています。受付記録と突き合わせれば、新規件数・査定到達件数・成立件数に分解できます。分解しないまま出稿を増やすと、成立しない来店だけが増えます。
認知度調査の数字を外部の目安と比べて評価しようとする失敗があります。買取業の認知率について業界平均は公表されていません。消費者庁の報告書に載っているのは買取市場規模13,274億円とチャネル構成比(店頭78.2%・出張10.0%・宅配9.5%)までで、認知率はありません。古物商等の許可件数も令和7年末で全国計615,194件が公表されているだけで、都道府県別の内訳はありません。比較対象は自店の前月・前年に置いてください。
認知が上がったあとの原資を用意せず、来店した客に断りを入れることになる失敗があります。買取業の集客は、成功すると現金が出ていく側に働きます。回収までの期間は中小小売業の従業者5人以下で在庫回転期間55.9日、6〜20人で32.6日です。認知施策で件数が増えると、増えた支払額の1〜2か月分が同時に走ります。断られた客は再訪せず、評価としても残ります。施策の開始前に月の買取支払額の上限を決めてください。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 買取店の認知度は、どのくらいあれば十分といえますか | 判断できる基準はありません。買取業の認知率について公的な統計は公表されておらず、消費者庁の実態調査報告書にも買取市場規模(2023年13,274億円)とチャネル構成比(店頭78.2%・出張10.0%・宅配9.5%)までしか載っていません。外部の基準がないため、単独の認知率は施策の判定に使えません。自店の受付記録から経路別の新規件数を月次で出し、前月・前年と比べる形にしてください。 |
| 商圏内に競合が何社あるかを調べる方法はありますか | 公表統計からは出せません。警察庁「令和7年中における古物営業・質屋営業の概況」は、令和7年末時点の古物商614,118件、古物市場主1,076件、合計615,194件という全国計を公表していますが、都道府県別の内訳は載っていません。また令和2年4月1日施行の改正で、許可が営業所ごとから主たる営業所の所在地を管轄する公安委員会の1件に改められたため、平成30年の789,345件と令和2年の396,378件をつなげて比較することもできません。商圏内の同業数は、実地の確認で数えるほうが確実です。 |
| チラシを撒いても反応がありません。認知の手段を変えるべきですか | 媒体ごとの効果を示す一次情報はありません。電通「2025年 日本の広告費」から分かるのは市場全体の方向だけで、折込2,354億円は前年比96.4%、ダイレクト・メール2,708億円は94.6%、フリーペーパー1,056億円は80.9%と紙で配る手段が縮み、屋外3,042億円は105.3%、交通1,736億円は108.6%と伸びています。これは出稿額の合計であって1店舗の効果ではないため、自店の判断材料にはなりません。実務としては、月を分けて1媒体ずつ出し、受付記録の「知った経路」と突き合わせて自店の数字を作ってください。 |
| 口コミを増やすために、買取金額を上乗せして投稿をお願いしてもよいですか | 依頼した事実が表示されない形であれば、景品表示法第5条第3号にもとづく指定告示(令和5年10月1日施行)に触れます。規制対象は商品・サービスを供給する事業者、つまり依頼した買取店側で、依頼を受けた投稿者は対象外です。基準は関与の有無ではなく、関与が一般消費者に判別できるかどうかです。運用基準は「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった文言や、提供を受けて投稿している旨の文章を、明瞭な表示の例として挙げています。加えて、買取金額の上乗せは景品類の扱いも受けるため、その場でのアップか次回使える特典かで扱いが変わります。 |
| 認知を上げる前に、店側で準備しておくことはありますか | 買取原資の上限と、来店前に伝える情報です。認知が上がって来店が増えると、現金は先に出ていきます。回収までの期間は中小小売業の従業者5人以下で55.9日、6〜20人で32.6日です。月の買取支払額の上限を決め、上限に達したら施策を止める基準を先に作ってください。来店前に伝える情報としては、予約の要否、待ち時間、持ち物があります。古物営業法第15条第1項の確認は対価の総額が1万円未満なら免除されますが、施行規則第16条第2項の7品目(書籍、家庭用コンピュータゲームのプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物などを含む)は金額に関係なく確認が要ります。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を12件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。












扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。認知度が低いをジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


