
一般の小売業のLTVは、客がその店で生涯にいくら使うかです。使う金額は本人の所得と好みで決まるので、上限は緩やかです。買取業のLTVは違います。客が持ち込めるのは、家にすでにある不要品だけです。総量は有限で、店の施策では増えません。
この違いは、施策の効き方を根本から変えます。小売なら品揃えを広げれば1人あたりの購入額は伸びます。買取で品目を広げても、その客の家に該当する物が無ければ取引は増えません。伸ばせるのは、家にある物のうちどれだけを自店に持ってきてもらえるかというシェアだけです。
環境省「令和6年度リユース市場規模調査報告書」の消費者アンケートでは、過去1年間に売却・引渡しを行った人は約3割で、利用したことがない人は70.0%です。この割合は2015年60.5%、2018年66.4%、2021年68.7%と一貫して増えています。売る側の層自体が広がっていない市場で、1人あたりの生涯金額を伸ばす前提を置くと、達成できない目標を追うことになります。
したがって「LTVが低い」という課題は、まず上限がどこにあるかを見積もる作業から始めます。上限を知らずに伸ばそうとすると、増やせない指標に費用をかけ続けることになります。
買取業でLTVを「その客から累計いくら買い取ったか」と定義している例があります。この定義には問題があります。買取業では査定額がそのまま仕入原価だからです。累計買取金額を伸ばすことは、その客に払った累計の現金を増やすことであり、利益ではなく支出の指標です。
しかも支払いは先行します。客にその場で現金を渡し、売れてから回収します。中小企業庁「中小企業実態基本調査 令和6年確報(令和5年度決算実績)」の法人企業・小売業では、在庫回転期間が小売業全体33.5日、従業者5人以下55.9日、6〜20人32.6日です。買取業に限った統計ではありませんが、小規模帯では現金に戻るまで2か月近くかかるという水準が読めます。
つまり累計買取金額を目標にすると、目標を達成した瞬間に手元資金が最も薄くなります。件数を伸ばした月ほど翌月の査定を絞らざるを得ず、その動きが客側からは対応の悪化として見えます。指標が施策と逆向きに働いています。
同じ調査で粗利率は小売業全体29.8%、5人以下31.7%、6〜20人31.2%です。営業利益率は全体2.4%、5人以下0.2%、6〜20人1.5%です。粗利率が最も高い5人以下の帯が、営業利益率では最も低くなっています。粗利を取れていないのではなく、現金化の速度で負けています。LTVの指標にこの速度が入っていなければ、経営判断の材料になりません。
実務で使えるLTVは、1人の客から得た累計の売上総利益です。買い取った物が売れた金額から、その物に払った査定額と直接の販売経費を引いた残りを、客ごとに積み上げます。買取金額ではなく、買った物が実際にいくらで出たかが基準になります。
これに現金化日数を並べます。同じ累計粗利10万円でも、平均30日で回収した客と平均120日かかった客では、必要な運転資金が4倍違います。買取業は仕入に現金が要る商売なので、粗利の金額だけでは投下できる獲得費を判断できません。
集計の起点は、古物営業法第16条の帳簿です。記載事項は取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条1項でとった措置の区分です。第18条1項により最終記載の日から3年間備え付けられます。取引日、品目、相手方が3年分そろっているので、この記録と販売側の記録を同じ品番でつなげば、客ごとの累計粗利と現金化日数はどちらも作れます。
つなげていない店では、LTVの集計そのものが手作業になります。買取の記録は法定帳簿に、販売の記録は別のシステムにあり、品番が一致していないためです。LTV改善の最初の作業は、施策ではなく品番の統一になることが多くあります。
| 品目 | 不要品の発生率 | 家に保管されたままの割合 | 買取店で売却された割合 | LTVに効く読み方 |
|---|---|---|---|---|
| 書籍 | 29.1% | 56.3% | 37.3% | 量は最大だが1件あたりの粗利が小さい。回数でLTVは伸びにくい |
| ブランド品を除く衣類・服飾品 | 25.8% | 51.1% | 31.3% | 同上。点数が出るぶん査定と記帳の手数が積み上がる |
| ブランド品 | 14.4% | 53.4% | 22.7% | 1件あたりは大きいが、買取店を通る比率が最も低い部類 |
| ソフト・メディア類 | 12.7% | 77.6% | 32.8% | 家に残る量が多く、同一客の2回目以降が期待できる |
| パソコン・周辺機器 | 11.2% | 77.4% | —(無償引渡し46.5%) | 残量は多いが有償で買えない比率が高い |
| ゲーム機器 | 0.6% | 16.1% | 72.3% | 来る比率は最高だが家に残らない。初回でほぼ確定する |
| 家具類 | 17.2% | 58.1% | —(費用負担26.4%) | 累計粗利がマイナスに沈みやすい区分 |
| テレビ・洗濯機・冷蔵庫・エアコン | — | 56.8% | —(費用負担44.0%) | 同上。集客費として区分しないとLTVが読めなくなる |
LTVが低い原因を客の側に探す前に、扱っている品目の構造を見ます。環境省の調査は、不要品が発生した割合を品目別に出しています。書籍29.1%、ブランド品を除く衣類・服飾品25.8%、家具類17.2%、日用品・生活雑貨17.0%、ブランド品14.4%、ソフト・メディア類12.7%、パソコン・周辺機器11.2%です。発生量が多いのは、単価が低い商材です。
次に、出たもののうちどれだけが買取店へ来るかを見ます。保管を除いた排出先のうちリユースショップ・中古品販売店で売却された割合は、ゲーム機器72.3%、書籍37.3%、ソフト・メディア類32.8%、ブランド品を除く衣類・服飾品31.3%、ベビー・子供用品29.6%、スポーツ・レジャー用品23.0%、ブランド品22.7%です。
ブランド品は、発生率14.4%に対して買取店へ来る割合が22.7%と、この一覧のなかで最も低い部類です。単価が高い商材ほど、買取店以外の売り先が選ばれています。同じ調査の購入側で見ると、中古品の購入額はブランド品が2,208億円で全体3兆4,986億円の6.3%です。市場としては存在しますが、買取店を通る比率はそれに見合っていません。
この構造は、LTVの引き上げ余地がどこにあるかを示します。低単価商材は来る量が多く、1件あたりの粗利が小さい。高単価商材は1件あたりが大きいが、そもそも買取店に来る比率が低い。前者で回数を積んでもLTVは伸びにくく、後者では取引の入口を取ることが課題になります。どちらの構造で負けているのかを、自店の品目構成で確認します。
客ごとの累計粗利を出すと、マイナスの客が出ます。これは異常ではなく、買取業の構造から生じます。環境省の調査は、不要品を排出したときに金銭がどう動いたかを品目別に出しています。
消費者が費用を負担して手放した割合が高いのは、テレビ・洗濯機・冷蔵庫・エアコン44.0%、家具類26.4%です。無償で手放される割合が高いのは、日用品・生活雑貨59.4%、自転車・パーツ51.7%、パソコン・周辺機器46.5%です。逆に売って金銭を受け取った割合が高いのは、カメラ・周辺機器92.3%、ソフト・メディア類87.4%、ゲーム機器87.2%、玩具・模型82.7%、書籍79.5%、自動車76.3%、スポーツ・レジャー用品74.5%です。
大型家電と家具は、消費者が金を払ってでも手放したい領域です。ここを無料で引き取れる店は集客で差がつきますが、引き取った側は処分費を負担します。この取引を繰り返す客は、来店回数では上位に入り、累計粗利ではマイナスに沈みます。回数ベースのLTVを見ていると、最も費用をかけている相手が優良客に見えます。
対処は、区分を分けることです。有償買取、無償引取、費用負担引取の3つに分け、客ごとの累計粗利をそれぞれで出します。無償引取と費用負担引取は、粗利ではなく集客費として計上したうえで、その客が有償買取の区分でどれだけ寄与しているかを見ます。区分を混ぜたままでは、無償引き取りをやめるべきか続けるべきかの判断ができません。
LTVを測る目的の一つは、1人の客を獲得するためにいくらまで使えるかを決めることです。買取業では、この上限が一般の小売業より狭くなります。粗利率が同水準でも、営業利益率が低いためです。
中小企業実態基本調査では、従業者5人以下の小売業の粗利率が31.7%、営業利益率が0.2%です。6〜20人では31.2%と1.5%です。粗利のほとんどが販売費及び一般管理費で消えており、獲得費を追加で乗せる余地は薄い水準にあります。この表は買取業に限定した統計ではありませんが、同規模の小売業と比べた自店の位置を確認する物差しにはなります。
したがって獲得費の上限は、累計粗利の見込みからそのまま引くのではなく、現金化日数を挟んで考えます。累計粗利が5万円見込める客でも、その粗利が2か月後にしか現金にならないなら、獲得費を先に出す分だけ運転資金が増えます。在庫回転期間55.9日という水準を前提にすると、獲得費の回収は最短でも2か月遅れます。
もう一つ効くのが、チャネルによる費用構造の差です。消費者庁「買取サービスに関する実態調査報告書」(令和7年4月30日)に掲載された買取市場のチャネル別構成比は、2023年で店頭買取り78.2%、出張買取り10.0%、宅配買取り9.5%です。出張は1件ごとに人と車が動き、宅配は送料と返送のリスクが乗ります。同じLTVでも、獲得費として使える金額はチャネルで変わります。
買取業のLTV、客単価、再訪率について、官公庁が公表した統計はありません。中小企業実態基本調査は小売業全体の経営指標を出していますが、顧客単位の項目はありません。したがって「業界平均のLTVはいくら」という基準は示せません。この記事でも示しません。
自店で作る場合は、初回取引の月でコホートを切ります。同じ月に初めて取引した客をひとまとまりにし、その後12か月、24か月、36か月の累計粗利を追います。3年で切れるのは、第18条1項の帳簿備付けが最終記載の日から3年間だからです。それ以上をさかのぼるなら、自店で別に記録を残す必要があります。
コホートは品目区分ごとに分けます。初回に持ち込まれた品目の保管率が違えば、その後の再訪の見込みが違うためです。環境省の調査では、携帯電話・スマートフォン82.1%、ソフト・メディア類77.6%、パソコン・周辺機器77.4%が家に保管されたままである一方、ゲーム機器は16.1%、自動車は20.8%しか残りません。前者を初回に扱った客のコホートは伸びしろがあり、後者は初回でほぼ確定します。
母集団には穴が空くことも承知しておきます。古物営業法第15条2項1号と施行規則第16条第1項により、対価の総額が1万円未満の取引は本人確認が免除されます。ただし同条第2項の7品目、すなわち自動二輪車及び原動機付自転車、エアコンディショナーの室外ユニットと電気温水機器のヒートポンプ、家庭用コンピュータゲームのプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物、電線、金属製のグレーチング、書籍は少額でも確認が要ります。書籍やゲームソフトが主力なら記録は残り、衣類や雑貨が主力なら低単価取引が母集団から抜けます。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | LTVを累計買取金額で定義していないか。買取金額は仕入原価であり支出の指標であることを踏まえているか |
| 2 | 客ごとの累計粗利を、買い取った物が実際にいくらで売れたかから計算しているか |
| 3 | 累計粗利と並べて、その粗利が現金に戻るまでの平均日数を出しているか |
| 4 | 在庫回転期間を日数で出し、55.9日という小規模小売業の水準と比べているか |
| 5 | 法定帳簿(第16条)の品目と、販売側の記録が同じ品番でつながっているか |
| 6 | 有償買取・無償引取・費用負担引取の3区分に分けて累計粗利を出しているか |
| 7 | 来店回数の上位客と累計粗利の上位客が一致しているか確認したか |
| 8 | 初回取引の月でコホートを切り、12か月・24か月・36か月の累計粗利を追っているか |
| 9 | コホートを初回の品目区分ごとに分けているか。保管率の違いを織り込んでいるか |
| 10 | 獲得費の上限を、営業利益率0.2%という水準と現金化日数の両方から逆算しているか |
| 11 | 1万円未満の本人確認免除により、低単価取引が母集団から抜けることを承知しているか |
LTVを累計買取金額で測り、伸ばすほど資金が痩せる失敗があります。買取業では査定額がそのまま仕入原価なので、累計買取金額はその客に払った累計の現金です。中小企業実態基本調査では従業者5人以下の小売業の在庫回転期間が55.9日で、支払いから回収まで2か月近くかかります。目標を達成した月ほど手元資金が薄くなり、翌月に査定を絞ることになります。指標を累計粗利と現金化日数の二つに置き換えてください。
来店回数の多い客を優良客とみなし、最も費用をかけている相手に投資を重ねる失敗があります。環境省の調査では、消費者が費用を負担して手放した割合はテレビ・洗濯機・冷蔵庫・エアコンで44.0%、家具類で26.4%、無償で手放される割合は日用品・生活雑貨59.4%、自転車・パーツ51.7%、パソコン・周辺機器46.5%です。これらを引き取る取引は回数として積み上がる一方、累計粗利ではマイナスに沈みます。3区分に分けて集計してください。
LTVが低い原因を接客や販促に置き、品目構成の問題を見落とす失敗があります。環境省の調査では、不要品の発生率は書籍29.1%、衣類25.8%と低単価商材が多く、高単価のブランド品は発生率14.4%に対して買取店で売却された割合が22.7%と低い部類です。低単価商材で回数を積んでもLTVは伸びず、高単価商材では取引の入口自体を取れていません。どちらの構造で負けているかを、自店の品目構成で先に切り分けてください。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 買取店のLTVの平均額はいくらですか | 官公庁の統計にも業界の公表値にも、買取業のLTVの平均はありません。この記事では金額を示しません。自店で作る場合は、初回取引の月でコホートを切り、12か月・24か月・36か月の累計粗利を追う形にしてください。3年で区切れるのは、古物営業法第18条1項により帳簿の備付けが最終記載の日から3年間だからです。それより長い期間を見るなら、自店で別に記録を残す必要が出ます。 |
| 累計買取金額をLTVとして使ってはいけないのですか | 買取業では査定額がそのまま仕入原価になるため、累計買取金額はその客に払った累計の現金です。売上ではなく支出であり、伸ばすほど手元資金が減ります。中小企業実態基本調査では従業者5人以下の小売業の粗利率が31.7%、営業利益率が0.2%、在庫回転期間が55.9日です。粗利が薄く回収が遅い構造なので、支出の累計を目標に置くと資金繰りと逆方向に働きます。買い取った物が実際にいくらで売れたかから計算した累計粗利を使ってください。 |
| 1人あたりの買取回数を増やせばLTVは伸びますか | 上限があります。客が持ち込めるのは家にある不要品だけで、総量は店の施策で増えません。環境省の調査では、売却で「利用したことがない」人が2015年60.5%から2024年70.0%へ増え続けており、売る側の層自体が広がっていません。また品目によって残量が違い、ゲーム機器は保管率16.1%、自動車は20.8%で一度手放せば家に残りません。回数を目標にする前に、初回の品目からその客の上限を見積もってください。 |
| 高単価品を扱えばLTVは上がりますか | 1件あたりの粗利は大きくなりますが、取引の入口を取れるかが別の課題になります。環境省の調査では、ブランド品は不要品の発生率が14.4%に対し、保管を除いた排出先のうちリユースショップ・中古品販売店で売却された割合が22.7%です。書籍37.3%、ソフト・メディア類32.8%、ゲーム機器72.3%と比べて低く、高単価品ほど買取店以外が選ばれています。同時に1件あたりの買取原資が大きく、回収までの期間が長くなります。粗利の大きさと資金の重さを同時に見てください。 |
| 無償で引き取っている品は、LTVの計算にどう入れますか | 有償買取と分けて、集客費として計上してください。環境省の調査では、消費者が費用を負担して手放した割合はテレビ・洗濯機・冷蔵庫・エアコンで44.0%、家具類で26.4%です。無償で手放される割合は日用品・生活雑貨59.4%、自転車・パーツ51.7%、パソコン・周辺機器46.5%です。引き取った側は処分費を負担するため、この取引は累計粗利をマイナス方向に動かします。混ぜて集計すると、無償引き取りを続けるべきか判断できません。 |
| 1人の客にいくらまで獲得費をかけてよいですか | 累計粗利の見込みからそのまま引くのではなく、現金化日数を挟んでください。中小企業実態基本調査では、従業者5人以下の小売業の粗利率が31.7%に対し営業利益率が0.2%、在庫回転期間が55.9日です。粗利のほとんどが販管費で消える水準で、回収は2か月遅れます。さらにチャネルで費用構造が変わります。消費者庁の実態調査報告書に掲載された2023年の買取市場のチャネル別構成比は、店頭買取り78.2%、出張買取り10.0%、宅配買取り9.5%です。出張は1件ごとに人と車が動き、宅配は送料と返送のリスクが乗ります。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を12件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。












扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。LTV(顧客生涯価値)が低いをジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


