
古物営業法の記帳義務を「店の在庫管理のルール」として読むと、運用の判断を全部間違えます。第16条が記載を命じる5事項は、①取引の年月日 ②品目及び数量 ③古物の特徴 ④相手方の住所・氏名・職業・年齢 ⑤第15条第1項でとった措置の区分です。仕入単価も粗利も入っていません。
この5つは、盗難品が市場に出たときに、いつ・どんな状態の物が・誰から・どの店に入ったかを復元するための項目です。第18条第1項が最終記載の日から3年間の備付けを命じているのも、被害の申告から捜査までに時間差があることを前提にしています。
買取業は、盗品が持ち込まれる前提の業種です。 一般の小売業が仕入先を選べるのに対し、買取店は誰が持ち込むかを選べません。査定額がそのまま仕入原価になる商売なので、相手を選別せずに現金を渡す構造がもともと組み込まれています。
第15条第1項の本人確認、第16条の記帳、第15条第3項の申告は、その構造に対する歯止めとして並んでいます。3つが揃ってはじめて追跡の材料になるので、どれか1つを省いた運用は、残りの2つの効き目も落とします。
警察庁の統計によると、令和7年中に古物商から警察へ申告された不正品は129件でした。古物営業法の13区分別に見ると、道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件、事務機器類5件、美術品類4件、皮革・ゴム製品類4件、衣類2件、自動車2件、自動二輪車及び原動機付自転車2件、自転車類2件、その他1件です。
上位3区分の道具類・時計宝飾品類・機械工具類だけで90件、全体の約7割を占めます。一方で写真機類と金券類は0件でした。扱う区分によって、この義務が発動する頻度がまったく違います。
自店がどの区分を主に扱っているかで、リスク対策の重心が決まります。工具や電動工具を含む機械工具類、家庭用品や雑貨を含む道具類を扱うなら、単価が高くない品でも申告に至る場面が想定されます。時計・宝飾品類は単価が高いぶん、1件あたりの損失が大きくなります。
質屋側の数字も参考になります。令和7年中の質屋による不正品申告は47件で、うち時計・宝飾品類が40件と大半を占めました。同じ時計・宝飾品を扱っていても、業態によって申告の内訳の偏り方が違うことが読み取れます。
129件という数字の読み方には注意が要ります。これは古物商が不正品と疑って警察官へ申告した件数であり、実際に持ち込まれた盗品の件数ではありません。気づかずに買い取った分は、この統計に現れません。
写真機類0件、金券類0件も同じです。この区分に盗品が入らなかったことの証明ではなく、令和7年中に古物商からの申告が計上されなかったという事実に留まります。区分ごとの濃淡を判断材料に使うことはできますが、0件を安全だと読み替えないでください。
別の経路の数字も見ておく価値があります。盗品売買等防止団体への情報提供に基づく団体加盟店の届出は、令和7年中に638件ありました。申告129件に対して届出638件と桁が違うのは、経路も対象も違うためで、単純に比較はできません。
確実に言えるのは、申告に至るには店が疑いを持てることが前提になるという点です。第13条第3項が管理者に不正品の判断のための知識・技術・経験を得させる努力義務を課しているのは、この前提を担保するためです。
| 古物の区分 | 令和7年 不正品申告 | 運用上の重心 |
|---|---|---|
| 道具類 | 37件 | 最多。単価が高くない品でも申告に至る |
| 時計・宝飾品類 | 31件 | 1件あたりの損失が大きい。刻印・保証書の整合を見る |
| 機械工具類 | 22件 | 事業者刻印・資産管理シール・同型の複数持ち込み |
| 書籍 | 17件 | 7品目に該当。1万円未満でも確認と記帳が要る |
| 事務機器類 | 5件 | — |
| 美術品類 | 4件 | — |
| 皮革・ゴム製品類 | 4件 | — |
| 衣類/自動車/自動二輪車等/自転車類 | 各2件 | 自動二輪車等は7品目に該当 |
| 写真機類・金券類 | 0件 | 0件は安全の証明ではない。申告が計上されなかっただけ |
| 総数 | 129件 | 上位3区分で90件=約7割 |
第15条第2項第1号により、対価の総額が国家公安委員会規則で定める金額未満の取引は本人確認が免除されます。その金額は施行規則第16条第1項で1万円と定められています。第16条ただし書によって、確認が免除される取引は記帳も免除されます。
ここで運用を間違えやすいのが、免除を「少額なら何も見なくてよい」と読むケースです。第15条第3項の申告義務には金額の下限がありません。1万円未満の取引でも、不正品の疑いがあると認めるときは直ちに警察官へ申告する義務が生じます。
金額の線と疑いの線は別に引かれています。確認を省ける取引でも、疑いを持った時点で動くべき義務は残るという構造です。少額買取をレジ処理に近い形で回している店ほど、この線を意識していないと申告の場面を素通りします。
さらに、免除には例外が置かれています。施行規則第16条第2項の7品目は、1万円未満でも確認と記帳が要ります。この7品目がなぜ選ばれたかを理解しておくと、少額買取のどこにリスクが偏るかが見えます。
施行規則第16条第2項が挙げるのは、①自動二輪車及び原動機付自転車(ねじ・ボルト・ナット・コード等の汎用部分品を除く部分品を含む) ②エアコンディショナーの室外ユニットと電気温水機器のヒートポンプ ③専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物 ④光学的方法により音又は影像を記録した物 ⑤電線 ⑥金属製のグレーチング ⑦書籍、の7つです。
背景は品目ごとに違います。①②は車両とエアコン室外機の窃盗、⑤⑥は金属盗、③④⑦は万引き品の転売が想定されています。単価の低さと盗品リスクの低さが対応していないから、金額の線から外されているという構成です。
この例外が効く店と効かない店があります。ゲームソフト・CD・DVD・レコード・書籍を扱う店は、300円の1点でも本人確認と記帳が要ります。客単価が低く点数が多いほど、確認と記帳の手間が積み上がる構造です。金属スクラップを扱うなら、電線とグレーチングだけ扱いが変わります。
逆に貴金属やブランド品を主に扱う店では、1万円を下回る取引自体が少ないため、この論点はあまり効きません。ただし不正品申告の区分別で時計・宝飾品類が31件と2番目に多いことからも分かるとおり、確認の免除が効かない領域だからといってリスクが低いわけではありません。
第15条第3項は、買受け等をしようとする古物について不正品の疑いがあると認めるときに、直ちに警察官へ申告する義務を定めています。条文が求めているのは申告であって、取引を断ることではありません。断って帰しただけでは、この義務を果たしたことになりません。
現場では、疑いの根拠を言葉にできるかどうかが分かれ目になります。同一人物が同種の品を短期間に繰り返し持ち込む、製造番号や刻印が削られている、年齢や職業と持ち込み品の内容が整合しない、大量の新品同様品が箱なしで持ち込まれる、といった事実は記録できます。
第16条③の古物の特徴を、型番・製造番号・シリアル・刻印・傷の位置まで書いておくと、後から照会が来たときに1点を特定できます。「腕時計 1点」しか残っていない台帳では、同型が複数入った日にどれが誰から入ったのかを説明できません。記帳の精度がそのまま照会への回答能力になります。
買取後に不正品と分かる場合もあります。その際も、台帳の記載と本人確認の記録が残っているかどうかで、店ができる説明の幅が変わります。なお、買い取った物が盗品であった場合の民事上の返還や代価の扱いは古物営業法の範囲外であり、ここでは一次情報を持たないため断定しません。取引額の大きい区分では、この点を弁護士に確認しておいてください。
第13条第1項は営業所ごとに管理者を1人選任することを、第13条第3項は管理者に不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務を定めています。努力義務なので罰則はありませんが、疑いを持てる人が店にいなければ第15条第3項の申告義務は動きません。
古物商等管理者講習は令和7年中に150回・19,602人が受講しています(うち自動車が47回・4,618人)。受講記録は、努力義務に対して社内で示せる資料になります。ただし講習だけで区分ごとの判断がつくわけではないので、扱う区分に合わせた社内の確認手順を別に持つほうが実務的です。
手順は区分ごとに変えてください。機械工具類なら、事業者名の刻印や資産管理シールの有無、同型の複数持ち込み。時計・宝飾品類なら、保証書・付属品と本体の整合、刻印の削り取り。書籍やゲームソフトなら、値札やレンタル・図書館の管理シールの残存です。区分の濃淡が違う以上、チェック項目を1枚にまとめても効きません。
多店舗であれば、管理者は店舗数分だけ要ります。第13条第2項により未成年者や第4条第1号から第7号の欠格事由に該当する者は管理者になれないため、人員計画の制約にもなります。管理者が退職したまま後任を決めていない営業所は、判断の主体が不在の状態です。
第14条第1項は、営業所または取引の相手方の住所・居所以外の場所で、古物商以外の者から古物を受け取ることを禁じています。仮設店舗は、日時と場所を事前に管轄公安委員会へ届け出れば可能です。違反は第32条で1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
この規定は盗品対策としても機能します。受け取る場所を営業所と相手方の住所・居所に限れば、持ち込む側の身元が場所と結びつきます。駐車場や路上での受け取りが禁じられているのは、そこが切れるためです。
出張買取は特定商取引法の訪問購入にも当たり、氏名等の明示、不招請勧誘の禁止、書面交付義務、法定書面を受け取った日から8日以内のクーリング・オフなどが重なります。2026年8月4日には、宝石・貴金属・時計等の中古品を扱う3社に対し、九州経済産業局が業務停止命令9か月と指示、代表者への業務禁止命令9か月を出しています。
買取市場のチャネル構成比は、2023年で店頭買取り78.2%、出張買取り10.0%、宅配買取り9.5%です。出張と宅配は合わせても2割弱ですが、盗品リスクの観点では、相手の生活の場を見られる出張と、現物と身元が離れる宅配では性質が違います。宅配買取を扱うなら、本人確認の方法を第15条第1項のどの措置で行うかを先に決めておいてください。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 自店が主に扱う区分の申告件数(道具類37件・時計宝飾品類31件・機械工具類22件・書籍17件)を把握しているか |
| 2 | 1万円未満でも、不正品の疑いがあれば第15条第3項の申告義務が生じることを従業員が理解しているか |
| 3 | 施行規則第16条第2項の7品目を、買取時のカテゴリ選択で判別できるようにしているか |
| 4 | 台帳の「古物の特徴」に型番・製造番号・刻印・傷の位置まで書いているか |
| 5 | 同一人物が同種の品を繰り返し持ち込む状況を検知できる記録の持ち方をしているか |
| 6 | 疑いの根拠を言葉にして残す欄が、査定の記録にあるか |
| 7 | 営業所ごとに管理者を選任し、退職・異動後の後任が決まっているか |
| 8 | 扱う区分に合わせた確認手順を、区分ごとに分けて用意しているか |
| 9 | 古物商等管理者講習の受講記録を、営業所ごとに保管しているか |
| 10 | 受け取り場所が営業所または相手方の住所・居所に限られているか(催事は事前届出済みか) |
| 11 | 宅配買取をしている場合、第15条第1項のどの措置で本人確認するかを決めているか |
1万円未満だから確認も申告も不要と判断して、疑わしい持ち込みをそのまま買い取ってしまうケースです。確認の免除は施行規則第16条第1項の金額の線で決まりますが、法第15条第3項の申告義務に金額の下限はありません。少額買取をレジ処理に近い形で回している店ほど、疑いを持った場面を素通りしがちです。金額の線と疑いの線は別に引かれています。
疑わしいと判断したときに、買取を断って帰すだけで済ませるケースです。法第15条第3項が求めているのは直ちに警察官へ申告することであって、取引を断ることではありません。断って帰した場合、その品は別の店に流れます。盗品等の流通防止という法の目的から見ると、断るだけの対応は目的を果たしていません。
台帳に「腕時計 1点」のように品目と数量しか書かず、古物の特徴を残さないケースです。法第16条③は特徴の記載を求めています。同型の商品が複数入った日に、どの1点が誰から入ったのかを説明できなくなり、後から照会が来ても回答できません。記帳の精度がそのまま照会への回答能力になります。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 盗品と分かる品が持ち込まれたら、断って帰せばよいですか | 断るだけでは古物営業法第15条第3項の義務を果たしたことになりません。同項は、買受け等をしようとする古物について不正品の疑いがあると認めるときは、直ちに警察官へ申告することを定めています。断って帰した場合、その品は別の店に流れます。記帳と本人確認が盗品等の流通防止のために課されていることを踏まえると、申告までが一連の対応です。 |
| 自分の店の扱いジャンルは、盗品リスクが高いほうですか | 警察庁の統計にある令和7年の不正品申告129件の区分別内訳が判断材料になります。道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件で、上位3区分だけで90件=約7割です。写真機類と金券類は0件でした。ただし、これは古物商が疑って申告した件数であり、持ち込まれた盗品の総数ではありません。0件を安全の証明として読まないでください。 |
| 1万円未満の買取でも、盗品対策は要りますか | 要ります。施行規則第16条第1項により1万円未満は本人確認が免除され、法第16条ただし書により記帳も免除されますが、法第15条第3項の申告義務に金額の下限はありません。加えて施行規則第16条第2項の7品目は、1万円未満でも確認と記帳が要ります。自動二輪車と原動機付自転車(部分品を含む)、エアコン室外機と電気温水機器のヒートポンプ、家庭用ゲームソフト、光学的方法で音や影像を記録した物、電線、金属製グレーチング、書籍です。この7品目は盗難品が流れやすいものとして名指しされています。 |
| 買い取った後に盗品だと分かりました。どうなりますか | 古物営業法の側では、台帳の記載(法第16条)と本人確認の記録(法第15条第1項)が残っているかどうかで、店が説明できる範囲が変わります。とくに古物の特徴が型番・製造番号まで残っていれば、1点を特定した回答ができます。一方、買い取った物が盗品だった場合の民事上の返還や代価の扱いは古物営業法の範囲外で、ここでは一次情報を持たないため断定しません。取引額の大きい区分を扱う場合は、事前に弁護士へ確認しておいてください。 |
| 不正品を見抜く力は、誰が持っていればよいですか | 古物営業法第13条第1項により、管理者は営業所ごとに1人選任します。同条第3項は、管理者に不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務を事業者に課しています。努力義務なので罰則はありませんが、疑いを持てる人がいなければ第15条第3項の申告は動きません。古物商等管理者講習は令和7年中に150回・19,602人が受講しており、受講記録は社内で示せる資料になります。ただし講習だけでは区分ごとの判断がつかないため、扱う区分に合わせた確認手順を別に用意してください。 |
| 出張買取や宅配買取では、盗品リスクの見方が変わりますか | 変わります。法第14条第1項により、受け取れるのは営業所または相手方の住所・居所で、仮設店舗は事前届出が要ります。違反は法第32条で1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。宅配買取は現物と持ち込む人が物理的に離れるため、本人確認を法第15条第1項のどの措置で行うかを先に決めておく必要が生じます。買取市場のチャネル構成比は2023年で店頭78.2%、出張10.0%、宅配9.5%です。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を10件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。










扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。盗品・不正品(盗難届・不正作出)リスクをジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


