
在庫回転率は、売上原価を棚卸資産の残高で割って求めます。これを365日で割れば、在庫が現金に戻るまでの日数になります。売上高ではなく売上原価を使うのは、棚卸資産が原価で計上されているためです。
買取業では、売上原価にあたるのが買取金額です。決算書を待たずとも、月次で「その月に売れた品物の買取金額の合計」と「月末の在庫の買取金額合計」があれば計算できます。
測るときは商材別に分けます。全体の平均だけを見ていると、回転の速い商材が遅い商材の滞留を隠します。貴金属が2週間で回っていても、家具が半年動いていなければ、資金は家具に拘束されています。
中小企業実態基本調査(令和6年確報・令和5年度決算実績)の小売業・法人企業から計算すると、在庫回転期間は全体で33.5日です。回転率にすると10.90回になります。
従業者規模で分けると差が出ます。6〜20人の層は32.6日、5人以下の層は55.9日です。小規模帯だけが1.7倍長く滞留しています。
自店が5人以下なら、比べる相手は33.5日ではなく55.9日です。ここを全体平均と比べると、実態より悪く見えて焦るか、逆に規模相応の問題を見落とします。
56日を超えているなら、同規模の小売業平均より滞留しているという読み方になります。ただしこれは小売業全体の値で、買取業だけを取り出したものではありません。買取業は仕入原価が査定額で決まり、古物市場への即売却を多用する事業者は回転が速く出ます。適正値ではなく物差しとして使ってください。
同じ調査で粗利率を計算すると、小売業全体29.8%、5人以下31.7%、6〜20人31.2%でした。小規模帯のほうが粗利率は高いのです。
ところが営業利益率は、全体2.4%、5人以下0.2%、6〜20人1.5%と逆転します。粗利を取れているのに利益が残らない。
原因は在庫の滞留です。売れるまでの間、その品物に払った現金は動きません。同じ原資で回せる件数が減り、固定費だけが時間とともに積み上がります。粗利率を1ポイント上げる努力より、回転日数を10日縮める効果のほうが大きい局面があります。
「値付けを強気にして粗利を守る」という判断が、結果的に滞留を生んで利益を削っているケースがあります。粗利率と回転日数の両方を並べて見ないと、この逆転は見えません。
| 区分 | 在庫回転期間 | 在庫回転率 | 粗利率 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 小売業 全体 | 33.5日 | 10.90回 | 29.8% | 2.4% |
| 従業者5人以下 | 55.9日 | 6.53回 | 31.7% | 0.2% |
| 従業者6〜20人 | 32.6日 | 11.19回 | 31.2% | 1.5% |
第一に、入口で絞ることです。回転の遅い商材を買い取らない、あるいは買取価格を下げて滞留リスクを織り込みます。査定の段階で「これは何日で売れるか」を判断基準に入れます。
第二に、出口を増やすことです。店頭で売れるのを待たずに古物市場やオークションへ流せば、粗利は薄くなりますが現金は速く戻ります。手元資金が薄いほど、この選択が効きます。
第三に、滞留したものを止めずに処分することです。値下げのタイミングをあらかじめ決めておかないと、「もう少し待てば売れる」で判断が先送りされます。買取から30日、60日、90日で価格を見直す、といった機械的なルールが要ります。
三つのうち、最も後回しにされやすいのが第三です。処分は損失の確定に見えるため心理的に避けられますが、滞留している間も資金は拘束され続けています。
改善の前に、測れることが要ります。買取金額と在庫の対応が取れていないと、回転日数は出せません。
古物営業法第16条は、古物を受け取り、または引き渡したときに、その都度、取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、確認措置の区分を帳簿等に記載することを義務づけています。帳簿等は最終記載の日から3年間の備付けが必要です(第18条第1項)。
この法定帳簿は取引の記録であり、在庫の滞留を追う目的では作られていません。ただし記載事項に取引年月日と品目が含まれるため、入庫日と出庫日を突き合わせれば滞留日数は算出できます。法定帳簿とは別に在庫管理の仕組みを持つか、法定帳簿から滞留を集計できる形にしておくかを、開業の早い段階で決めておきます。
在庫回転を店全体の平均だけで見ていると、実態を取り違えます。回転の速い商材が、遅い商材の滞留を平均で覆い隠すためです。
貴金属が2週間で回っていて、家具が半年動いていない店を考えます。金額構成によっては、全体平均は40日程度に収まります。数字の上では小売業平均に近く見えますが、資金が拘束されているのは家具のほうです。
改善の打ち手は滞留している側にしか効きません。全体平均を見て「まあ普通だ」と判断すると、手を打つべき対象が見つからないまま時間が過ぎます。
商材別に、在庫金額と滞留日数を並べてください。金額の大きい順に見れば、資金がどこで止まっているかが一目で分かります。
在庫は棚卸資産として貸借対照表に計上されます。滞留が長いほど残高は膨らみ、その状態のまま決算を迎えることになります。
信用保証協会の保証料率は、CRD(中小企業信用リスクデータベース)を用いて決算書の財務評価を行い、定性要因を加味して9区分から決まります。責任共有の場合で年率0.45%から1.90%まで、4.2倍の幅があります。
在庫の多寡が区分にどう影響するかは公表されておらず、評価ロジックも開示されていません。ここは断定できません。確実に言えるのは、決算書が評価の入口であり、在庫の滞留は決算書に表れるという点までです。
資金調達を予定しているなら、決算期の前に滞留を整理できるかを確認する価値はあります。回転を上げる取り組みは、資金繰りだけでなく調達条件にも関わってくる可能性があります。
在庫回転を追い始めるとき、最初に決めるのは計算方法です。単位が揺れていると、前月と比べても意味がありません。
決めるべきは3つあります。棚卸資産を期末残高で見るか期中平均で見るか、買取金額を入庫日で計上するか支払日で計上するか、そして商材の区分をどこで切るか。
公表統計と比べるなら、期末残高で計算します。中小企業実態基本調査から算出した小売業の33.5日、従業者5人以下の55.9日は、いずれも期末の棚卸資産を用いた値です。計算方法を揃えないと、外部の数字と比べられません。
商材の区分は、後から細かくするのは難しいので最初に決めます。少なくとも、回転の速い商材と遅い商材が同じ区分に入らない粒度にしておいてください。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 在庫回転率を売上高ではなく売上原価(買取金額)で計算しているか |
| 2 | 全体平均だけでなく、商材別に回転を分けて見ているか |
| 3 | 比べる相手を自店と同じ従業者規模に合わせているか(5人以下なら55.9日) |
| 4 | 粗利率と回転日数を並べて見ているか。粗利だけで判断していないか |
| 5 | 査定の段階で「何日で売れるか」を判断に入れているか |
| 6 | 古物市場・オークションへの即売却を出口として持っているか |
| 7 | 買取から30日・60日・90日といった価格見直しのルールを決めているか |
| 8 | 入庫日と出庫日を突き合わせて滞留日数を集計できる状態になっているか |
| 9 | 商材別に、在庫金額と滞留日数を並べて見ているか |
| 10 | 金額の大きい商材から優先して滞留を確認しているか |
| 11 | 資金調達を予定している場合、決算期前に滞留を整理できるか検討したか |
粗利率を守ろうとして値下げを避け、結果的に滞留を長引かせるケースです。中小企業実態基本調査では、従業者5人以下の小売業の粗利率31.7%は6〜20人の31.2%を上回っているのに、営業利益率は0.2%対1.5%と大きく劣ります。粗利を1ポイント上げるより、回転を10日縮めるほうが効く局面があります。
全体の平均回転だけを見て、特定商材の滞留を見落とすケースです。回転の速い商材が遅い商材を平均で隠します。資金が拘束されているのは遅いほうなので、商材別に分けないと打ち手が定まりません。
法定帳簿があるから在庫管理もできていると考えてしまう誤りです。古物営業法第16条の帳簿は取引の記録であり、滞留を追うために作られたものではありません。入庫日と出庫日を突き合わせる仕組みを別に用意するか、法定帳簿から集計できる形にしておく必要があります。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 在庫回転率はどう計算しますか | 売上原価を棚卸資産の残高で割ります。買取業では売上原価にあたるのが買取金額です。365日を回転率で割れば、在庫が現金に戻るまでの日数になります。決算書を待たなくても、月次で「その月に売れた品物の買取金額」と「月末在庫の買取金額」があれば計算できます。 |
| 何日以内なら正常ですか | 同じ規模の小売業と比べます。中小企業実態基本調査から計算すると、小売業全体で33.5日、従業者6〜20人で32.6日、5人以下で55.9日です。自店が5人以下なら56日が目安の線になります。ただしこれは小売業全体の値で、買取業の適正値ではありません。古物市場への即売却を多用する事業者は回転が速く出ます。 |
| 粗利率を下げてでも早く売るべきですか | 手元資金の厚みによります。統計上、従業者5人以下の層は粗利率が高いにもかかわらず営業利益率が0.2%と低く、現金化の速度で負けている構造が出ています。原資が薄い段階では、粗利を削ってでも回転を優先したほうが、同じ資金で回せる件数が増えます。資金に余裕が出てから粗利を取りに行く順序になります。 |
| 滞留在庫はいつ処分すべきですか | 処分の判断は事前にルール化しておきます。買取から30日・60日・90日といった区切りで価格を見直す、といった機械的な基準がないと「もう少し待てば売れる」で先送りされます。滞留している間も資金は拘束され続けているため、待つこと自体にコストがかかっています。 |
| 公表統計と自店の数字を比べるとき、計算方法は揃えるべきですか | 揃えてください。中小企業実態基本調査から算出した小売業の33.5日、従業者5人以下の55.9日は、いずれも期末の棚卸資産を用いた値です。自店を期中平均で計算すると、同じ実態でも違う数字が出ます。棚卸資産を期末残高で見るか期中平均で見るか、買取金額を入庫日で計上するか支払日で計上するか、商材の区分をどこで切るかの3点を先に決めてください。 |
| 買取価格を下げれば回転は速くなりますか | 速くなるとは限りません。回転日数は在庫を売上原価で割って求めるため、買取価格を下げて持ち込みが減れば、在庫が減っても分母の売上原価が同時に落ち、日数は改善しません。中小企業実態基本調査から計算すると、従業者5人以下の小売業では在庫が現金に戻るまで平均55.9日です。同じ調査で5人以下は粗利31.7%・営業利益0.2%、6〜20人は粗利31.2%・営業利益1.5%でした。粗利率が高い層のほうが営業利益率は低く、粗利率を上げる方向だけでは利益は増えません。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を10件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。










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