
古物営業法第16条は、古物を受け取り、または引き渡したときにその都度帳簿等へ記載する義務を定めています。記載事項は、取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条第1項でとった措置の区分の5つです。
第18条第1項は、帳簿等を最終記載の日から3年間、営業所等に備え付けることを求めています。電磁的記録で保存する場合も3年間、直ちに書面に表示できる状態を維持しなければなりません。第18条第2項は、き損・亡失・滅失したときに直ちに所轄警察署長へ届け出ることを定めています。
この3年という期間が引き継ぎの前提を変えます。担当者の在職期間より長いことがあり、退職した人が記載した帳簿を、その人を知らない人が管理する時間が必ず生じます。記載様式が個人ごとに違っていると、後から読めません。
移転や店舗統合のときに帳簿が行方不明になれば、第18条第2項の届出事案になります。引き継ぎの手順書に、保存場所と電磁的記録の表示方法を書いておくのは、この事態を避けるためです。
第33条第1号は、第15条第1項の確認義務と第18条第1項の帳簿備付け義務の違反に、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を定めています。第33条第2号は、第16条・第17条の記載義務違反と虚偽記載に同じ罰を定めています。
無許可営業は第31条第1号で3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、第14条第1項の受取場所の違反は第32条で1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、標識掲示等の第12条違反は第35条第2号で10万円以下の罰金です。
なお2022年の刑法改正で懲役・禁錮が拘禁刑へ一本化され、2025年6月1日に施行されています。社内の手順書や研修資料が「懲役」の表記のまま引き継がれている場合は、改定の対象になります。表記が古いまま残っているのは、その文書が更新されていない証拠でもあります。
引き継ぎの担当者が変わったことは、義務を果たさなかった理由にはなりません。誰が担当していても記録が残る形式にしておくことが、罰則を避ける唯一の方法になります。
第13条第1項は、営業所・古物市場ごとに管理者を1人選任する義務を定めています。第13条第2項では、未成年者や第4条第1号から第7号の欠格事由に当たる者は管理者になれません。第13条第3項は、管理者に不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務を事業者に課しています。
管理者は「その日いる人」ではなく選任された人物なので、退職や異動があれば後任の選任が必要になります。後任候補が欠格事由に当たると選任できず、その営業所は選任状態を欠いたまま営業することになります。
変更の届出先・期限・必要書類は都道府県警の運用に関わる部分があり、ここで断定できる一次情報を確認できていません。管理者の交代が見えた時点で、管轄の警察署へ確認してください。退職の申し出があってから調べ始めると、間に合わないことがあります。
第13条第3項の努力義務も、管理者とともに引き継がれます。前任者がどの区分でどんな研修を受け、どの事例で判断したかが残っていないと、後任は同じ努力義務をゼロから積み直すことになります。
| 引き継ぐ対象 | 根拠になる条文 | 切れたときに起きること | 引き継ぎ書に書く項目 |
|---|---|---|---|
| 帳簿等の記載 | 第16条 | 記載漏れ・虚偽記載は第33条第2号の対象 | 記載様式、記載の担当と確認の担当 |
| 帳簿等の3年保存 | 第18条第1項 | 備付け義務違反は第33条第1号の対象 | 保存場所、最終記載日、電磁的記録の表示手順 |
| 帳簿の亡失時の対応 | 第18条第2項 | 届出の遅れ | 所轄警察署の連絡先と届出の手順 |
| 営業所の管理者 | 第13条第1項・第2項 | 選任状態を欠く | 後任候補、欠格事由の確認結果、届出の要否 |
| 不正品を疑う閾値 | 第15条第3項 | 判断できず取引が進む、または止まる | 区分別の事例(申告に至らなかったものを含む) |
| 少額取引の例外7品目 | 施行規則第16条第2項 | 少額取引で確認と記帳が漏れる | 自店が扱う該当品目の一覧と掲示物の更新履歴 |
| 値付けと販路の判断 | 法令上の要件はない | 在庫回転の上限が1人に固定される | 値付け根拠、参照相場の出所、出口の候補 |
引き継ぎの議論は値付けの基準に集中しがちですが、実際に引き継ぎにくいのは第15条第3項の判断です。同項は、不正品の疑いがあると認めるときは直ちに警察官へ申告する義務を定めています。この「認めるとき」の閾値は、多くの場合、個人の経験の中にあります。
警察庁の令和7年統計では、不正品申告は総数129件です。道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件と続き、上位3区分の90件で全体の約7割を占めます。写真機類と金券類は0件でした。区分によって疑いの立ち方が違うことが、公的な数字として出ています。
この件数は全国計で、都道府県別の内訳はなく、自店で起きる確率を示すものでもありません。使えるのは区分間の濃淡までです。自店の閾値は、自店の事例からしか作れません。
残すべきは、申告に至った事例だけではありません。疑いを持ったが取引を進めた事例、疑いを持って取引を断った事例も含めて、どの区分で何に引っかかったかを記録します。件数が積めば、後任が引き継げる形の判断基準になります。
第15条第2項第1号により、対価の総額が国家公安委員会規則で定める金額未満の取引は本人確認が免除されます。金額は施行規則第16条第1項で1万円と定められています。
施行規則第16条第2項は、1万円未満でも確認が必要な7品目を挙げています。自動二輪車及び原動機付自転車(ねじ・ボルト・ナット・コード等の汎用部分品を除く部分品を含む)、エアコンディショナーの室外ユニットと電気温水機器のヒートポンプ、専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物、電線、金属製のグレーチング、書籍です。
法第16条ただし書は第15条第2項各号の場合を記帳義務から除いているため、確認が免除される取引は記帳も免除されます。逆に、この7品目は少額でも確認と記帳の両方が要ります。1万円未満は不要という部分だけが口伝えで引き継がれると、例外が抜け落ちます。
扱う商材を増やしたときに、この線引きが更新されないまま運用が続くのが典型的な事故です。仕入品目の追加と、確認・記帳ルールの改定を同じ手続きの中に入れて、掲示物まで更新する形にします。
中小企業実態基本調査(令和6年確報・法人企業・小売業)では、従業者5人以下の粗利率が31.7%・営業利益率0.2%、6〜20人が31.2%・1.5%です。粗利率はほぼ同じなのに営業利益率は7倍以上開きます。在庫回転率は6.53回と11.19回、回転期間は55.9日と32.6日で、小売業全体は10.90回・33.5日です。
属人化した店は、この差の説明そのものになります。値付けと販路の判断ができる人が1人しかいなければ、その1人が処理できる量が在庫回転の上限になります。査定は他の人でも受けられるので仕入は増え、出口だけが詰まって在庫が積みます。粗利率は落ちないまま、営業利益が消えていきます。
買取業は客にその場で現金を渡し、売れてから回収します。在庫が滞留した分だけ次の買取原資が減るため、回転の上限はそのまま仕入の上限になります。属人化は品質の問題である前に、資金繰りの問題として現れます。
したがって引き継ぎの目的は、人を安心させることではなく、人を増やせる状態にすることです。5人以下の帯から6〜20人の帯へ移るには、判断を複数人で持てる形にすることが前提になります。なおこの統計は小売業全体の値で、母集団は法人企業236,813社です。買取業の適正値ではなく、同規模帯との比較に使う物差しです。
引き継ぎ用の様式をゼロから設計する必要はありません。第16条の記載5項目を列にすれば、法が求める最小限は満たせます。取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条第1項でとった措置の区分です。
第15条第1項の措置は4類型あります。住所・氏名・職業・年齢の確認、本人署名のある文書の交付を受けること、認定を受けた電子署名つきの電磁的記録の提供を受けること、これらに準ずる国家公安委員会規則で定める措置です。どの類型を使ったかまで残すことが記載事項に含まれているので、様式の段階で選択肢として持たせます。
電磁的記録で保存する場合、第18条第1項は3年間、直ちに書面に表示できる状態を求めています。クラウドの共有権限が個人アカウントに紐づいていると、退職と同時に表示できなくなります。アカウントの所有者を法人にし、退職時の権限移管を手順に入れます。
様式に追加するとしたら、値付けの根拠と参照した相場の出所、疑いを持った点、出口の候補(自社販売・古物市場・法人販路)の3つです。いずれも法定事項ではありませんが、後任が同じ判断を再現するために必要な情報です。
第18条第1項の3年保存は、担当者の交代でも、店舗の統廃合でも、営業の終了でも回り続けます。引き継ぎの計画を「後任が慣れるまで」という期間で組むと、この3年をまたぐ管理が抜けます。
実務では、引き継ぎ書に保存対象の一覧と、それぞれの最終記載日を書き出します。最終記載日から3年を計算すれば、いつまで誰が管理するのかが確定します。移転や統合の予定があるなら、移送の手順と第18条第2項の届出の要否まで含めます。
遡って見られるのは帳簿だけではありません。雇用関係助成金では、支給申請日の前日から過去1年間に労働関係法令の違反があった事業主は不支給とされています。引き継ぎのときに労務の管理も一緒に切れると、助成金の申請段階で影響が出ます。
引き継ぎを一度きりの作業として扱わないほうが実務に合います。担当者が代わるたびに同じ手順を回せる形にしておけば、次の交代のコストが下がります。第16条の記帳が毎回の取引で発生するのと同じで、引き継ぎも繰り返し発生する業務として設計します。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 帳簿等の記載様式が、担当者ごとではなく店として統一されているか(第16条の5項目) |
| 2 | 第15条第1項でとった措置の区分まで記録に残しているか |
| 3 | 保存中の帳簿等の一覧と、それぞれの最終記載日を引き継ぎ書に書き出しているか(第18条第1項) |
| 4 | 電磁的記録のアカウント所有者が法人になっているか。退職時の権限移管が手順に入っているか |
| 5 | き損・亡失・滅失時の届出先と手順を、後任が単独で実行できる形で残しているか(第18条第2項) |
| 6 | 管理者の後任候補について、第4条第1号から第7号の欠格事由を事前に確認しているか |
| 7 | 管理者交代の届出先・期限・必要書類を、管轄の警察署に確認したか |
| 8 | 疑いを持った事例を、申告に至らなかったものも含めて区分別に記録しているか |
| 9 | 1万円未満でも確認が要る7品目のうち、自店が扱うものの一覧を更新しているか |
| 10 | 値付けと販路の判断ができる人が1人だけになっていないか。在庫回転期間が55.9日を超えていないか |
| 11 | 手順書や研修資料の罰則表記が「懲役」のまま残っていないか(2025年6月1日から拘禁刑) |
引き継ぎ期間を「後任が慣れるまで」で設計し、第18条第1項の3年保存が抜けます。帳簿等は最終記載の日から3年間、営業所等に備え付けなければならず、この期間は担当者の在職期間より長いことがあります。退職者が記載した帳簿を、その人を知らない人が管理する時間が必ず生じます。引き継ぎ書に保存対象の一覧と最終記載日を書き出し、いつまで誰が管理するのかを確定させます。
「1万円未満は本人確認が不要」という部分だけが口伝えで引き継がれ、施行規則第16条第2項の例外7品目が落ちます。家庭用ゲームソフト、光学的方法により音又は影像を記録した物、書籍、自動二輪車及び原動機付自転車、エアコン室外ユニット等、電線、金属製グレーチングは金額に関係なく確認が要り、法第16条ただし書により記帳も連動します。仕入品目を増やしたときに掲示物まで更新する手続きにします。
値付けと販路の判断ができる人が1人のまま、査定だけを複数人でこなす体制になります。仕入は増えるのに出口が詰まるため、在庫が積んで回転期間が延びます。中小企業実態基本調査では、従業者5人以下の小売業が粗利31.7%・営業利益0.2%・回転期間55.9日、6〜20人が粗利31.2%・営業利益1.5%・32.6日です。粗利率はほぼ同じで、差は回転から生じています。属人化は品質ではなく資金繰りの問題として現れます。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 担当者が辞めたあと、その人が記載した帳簿はどうすればよいですか | 店として3年間保存します。古物営業法第18条第1項は、帳簿等を最終記載の日から3年間、営業所等に備え付けることを求めており、この義務は担当者の交代で中断しません。電磁的記録の場合も3年間、直ちに書面に表示できる状態を維持します。引き継ぎ書に保存対象の一覧と最終記載日を書き出し、いつまで誰が管理するのかを確定させてください。き損・亡失・滅失した場合は第18条第2項により直ちに所轄警察署長へ届け出ます。 |
| 管理者が退職するとき、何をすればよいですか | 後任を選任します。第13条第1項は営業所ごとに管理者を1人選任する義務を定め、第13条第2項で未成年者や第4条第1号から第7号の欠格事由に当たる者は管理者になれません。後任候補の欠格事由は、退職の申し出があった時点で確認します。変更の届出先・期限・必要書類は都道府県警の運用に関わる部分があり、断定できる一次情報を確認できていないため、管轄の警察署へ確認してください。 |
| 査定の基準をマニュアル化すれば属人化は解消しますか | 値付けの基準だけでは足りません。引き継ぎにくいのは第15条第3項の判断で、不正品の疑いがあると認めるときの閾値です。この閾値は個人の経験の中にあることが多く、文章にしにくい部分です。対策としては、疑いを持った事例を区分別に記録します。申告に至ったものだけでなく、疑いを持って取引を断った事例、疑いを持ったが進めた事例も残します。件数が積むと、後任が引き継げる形の基準になります。 |
| 引き継ぎ書には何を書けばよいですか | 法定事項から逆算します。第16条の記載5項目、すなわち取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条第1項でとった措置の区分を様式として固定します。そのうえで、保存対象の帳簿と最終記載日、電磁的記録の表示手順とアカウントの権限、管理者の後任候補と欠格事由の確認結果、区分別の疑い事例を加えます。値付けの根拠、参照した相場の出所、出口の候補は法定事項ではありませんが、後任が同じ判断を再現するために残します。 |
| 属人化は業績にどう影響しますか | 在庫回転の上限として現れます。値付けと販路の判断ができる人が1人しかいなければ、その1人の処理量が上限になり、査定だけ複数人でこなすと仕入が増えて在庫が積みます。中小企業実態基本調査では、従業者5人以下の小売業が在庫回転期間55.9日・営業利益率0.2%、6〜20人が32.6日・1.5%で、粗利率は31.7%と31.2%でほぼ同じです。買取業は客にその場で現金を渡すため、滞留した分だけ次の買取原資が減ります。なおこの統計は小売業全体の値で、買取業の適正値ではありません。 |
| クラウドで帳簿を管理していますが、注意点はありますか | 第18条第1項は、電磁的記録で保存する場合も3年間、直ちに書面に表示できる状態を維持することを求めています。共有権限が個人アカウントに紐づいていると、退職と同時に表示できなくなり、この状態を満たせなくなります。アカウントの所有者を法人にし、退職時の権限移管を引き継ぎ手順に組み込んでください。データが失われた場合は第18条第2項の届出事案になります。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を10件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。










扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。属人化・引き継ぎをジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


