
古物営業法第15条第3項は、不正品の疑いがあると認めるときに、直ちに警察官へ申告する義務を定めています。この項に金額の下限は置かれていません。施行規則第16条第1項で1万円未満の本人確認が免除される取引であっても、疑いがあると認めたなら申告の義務は残ります。
一方、盗品の照会システムを使うことを義務づける条文は、取引時の義務を定めた規定の中にありません。つまり照会は、申告の義務を果たすための手段のひとつであって、それ自体が課された義務ではありません。
この区別が導入判断の出発点になります。義務であれば「入れるかどうか」ではなく「どう入れるか」だけを考えることになりますが、義務ではない以上、まず何のために入れるのかを自店で決めることになります。目的が決まっていないシステムは、稼働後に使われなくなります。
目的の候補は3つです。疑いを持った品を確かめる手段として使うのか、高額品や特定区分の品を全件通す関門として使うのか、買取後に持ち込んだ相手をたどる材料として使うのか。どれを選ぶかで、照会をかける件数も、かけるタイミングも変わります。
警察庁の統計によれば、令和7年中に古物商から警察へ寄せられた不正品の申告は129件でした。区分別の内訳は、道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件、事務機器類5件、美術品類4件、皮革・ゴム製品類4件、衣類2件、自動車2件、自動二輪車及び原動機付自転車2件、自転車類2件、写真機類0件、金券類0件、その他1件です。
この129件は、店側が疑いを持ち、申告に至った件数です。持ち込まれた不正品の総数ではありません。疑いを持てなかった品や、疑いを持ったが申告に至らなかった品は、この数字に入っていません。数字を「業界に流れている盗品はこれだけ」と読むと、判断を誤ります。
同じ資料には、盗品売買等防止団体への情報提供に基づく団体加盟店の届出が638件と載っています。129件とは端緒も母集団も違うため、足して1つの数字として扱わないでください。加盟している店とそうでない店では、そもそも情報が届く経路が違います。
写真機類と金券類が0件であることも、そのまま安全とは読めません。この0件は「申告に至った件数が0だった」という意味です。区分の性質や、店側が疑いを持てたかどうかは、この数字からは分かりません。
上位3区分の道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件を合わせると90件で、129件の約7割を占めます。工具や機械、時計・宝飾品を主力にしている店は、この構成をそのまま照会の優先順位に使えます。
4位の書籍17件は、別の意味を持ちます。書籍は施行規則第16条第2項の7品目のひとつで、1万円未満でも本人確認と記帳が要る区分です。少額で点数が多く、しかも申告件数が上位に入るという組み合わせなので、確認・記帳の負荷と照会の必要性が同時にかかります。
自動車2件、自動二輪車及び原動機付自転車2件、自転車類2件は件数としては少ないものの、自動二輪車と原動機付自転車も7品目に入っています。件数の少なさと、確認義務の重さは一致しません。この2つを混ぜて判断しないでください。
導入の設計としては、全件照会と区分別の照会のどちらにするかを決めます。全件にすると運用は単純ですが、店頭の待ち時間が伸びます。区分を絞ると速く回りますが、絞り方の根拠を社内で共有しておかないと、担当者ごとに判断が割れます。
| 古物の区分 | 令和7年の不正品申告件数 | 自店で扱う場合の照会設計の考え方 |
|---|---|---|
| 道具類 | 37件 | 件数が最も多い区分。型番・製造番号を控える運用を先に固める |
| 時計・宝飾品類 | 31件 | 単価が高く1万円を下回りにくい。照会を支払い前に置く価値が大きい |
| 機械工具類 | 22件 | 同型が多く特徴が取りにくい。刻印や個体の傷まで控える |
| 書籍 | 17件 | 施行規則第16条第2項の7品目。少額でも確認・記帳が要り、件数が積み上がる |
| 事務機器類 | 5件 | 個体番号が残りやすい。照会の入力は作りやすい |
| 美術品類 | 4件 | 特徴の記述が言語に依存する。控え方を社内で揃える |
| 皮革・ゴム製品類 | 4件 | シリアルの有無で照会可否が分かれる |
| 衣類/自動車/自動二輪車等/自転車類 | 各2件 | 自動二輪車・原動機付自転車は7品目に含まれ、少額でも確認が要る |
| 写真機類・金券類 | 各0件 | 0件は申告に至った件数が0という意味。安全とは読まない |
| その他 | 1件 | 総数129件。団体加盟店の届出638件とは端緒が違うため足さない |
照会は、こちらが出した情報と、相手側が持っている情報を突き合わせる作業です。したがって、こちらが出せる情報の細かさが、照会でできることの上限を決めます。
法第16条③は帳簿の記載事項として「古物の特徴」を挙げています。メーカー、型番、製造番号やシリアル、刻印、傷や欠けの位置、付属品の有無まで書いてあれば、その1点を指して照会できます。「腕時計 1点」しか残っていない品は、品目と数量であって特徴ではなく、照会にかけようがありません。
つまり照会システムの導入より前に、特徴を取る運用が要ります。順序を逆にすると、システムを入れたのに入力する情報が足りない、という状態になります。導入計画には、査定時に特徴を控える手順の見直しを必ず含めてください。
情報が取りにくい品もあります。製造番号のない品、刻印が摩耗した品、同型が大量にある品です。こうした品では照会の結果が出にくくなります。その場合に何を根拠に判断するのかを、あらかじめ決めておくことになります。
買取業は、客にその場で現金を渡し、売れてから回収する商売です。仕入原価は査定額そのもので、支払いが先に立ちます。照会の結果が出るのが支払いの後になるなら、結果が出た時点で渡した現金は戻りません。
だから導入の設計で最も効くのは、照会の所要時間と、査定にかかる時間の関係です。査定中に照会が返ってくるなら、支払いの前に判断材料が揃います。返ってこないなら、支払いを保留する運用にするか、照会を買取後の確認として位置づけるかのどちらかになります。
支払いを保留する運用にするなら、その場で客にどう説明するかを決めておくことになります。「システムの確認に時間がかかるため、本日はお預かりのみ」といった案内を、口頭ではなく書面の形で用意しておくと、店舗ごとの説明のばらつきが減ります。
資金の面でも、この設計は効きます。中小企業実態基本調査によれば、法人企業・小売業のうち従業者5人以下の区分は在庫回転期間が55.9日、粗利率31.7%に対して営業利益率0.2%です。買った品が現金に戻るまで時間がかかる構造なので、戻らない品を1点減らせるかどうかは、規模が小さい店ほど効いてきます。
「盗品を判定できますか」という聞き方では、答えが揃いません。次の6つを同じ文面で投げると、回答の差がそのまま比較材料になります。
1つ目、照会の対象になる情報は、どこから、どういう経路で、どの頻度で更新されますか。2つ目、型番しか分からない品を、どうやって照会しますか。製造番号がない品はどう扱いますか。3つ目、照会にかけてから結果が返るまで、どれくらいかかりますか。その間、買取をどうやって保留する想定ですか。
4つ目、該当した場合と該当しなかった場合の結果を、どんな形式で、どれくらいの期間残せますか。5つ目、利用の資格や加盟の条件は何で、誰がどうやって申し込みますか。6つ目、照会に使った情報は、どこに保存され、どうやって削除しますか。
各システムの網羅範囲や精度については、公表された一次情報がありません。他社との優劣をここで比べることはできないため、自店で扱う区分の品を使った試行をしたうえで判断してください。試行の期間と件数は、契約条件として先に取り決めておくのが確実です。
照会の結果が該当なしであっても、それは照会先の情報の中に一致するものが見つからなかったという事実にとどまります。被害届が出ていない品、届出の内容が特徴と結びつかない品は、該当なしとして返ってきます。
したがって、該当なしを根拠に第15条第3項の判断を省略する運用にはできません。同項が求めているのは、疑いがあると認めるときの申告です。照会の結果は判断材料のひとつであって、判断そのものの代わりにはなりません。
法第13条第3項は、営業所ごとに選任する管理者に対して、不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務を定めています。照会システムを入れても、この努力義務がなくなるわけではありません。警察庁の統計では、令和7年中の古物商等管理者講習は150回・19,602人(うち自動車47回・4,618人)が受講しています。
運用として決めるのは、照会の結果と現場の違和感が食い違ったときにどちらを採るかです。該当なしでも違和感があるなら止められる、という形にしておかないと、システムの導入がかえって判断を鈍らせます。
照会システムを入れても、疑いを持ったときに買取を止める判断は人が行います。ここを曖昧にしたまま稼働させると、現場は止めにくくなります。買取件数の目標を持っている店ほど、この傾向が出ます。
決めるのは3点です。第一に、その場で買取を断る判断を、担当者が単独でできるか。第二に、店長や管理者に確認を回す場合、その連絡先と所要時間はどうなっているか。第三に、第15条第3項の申告先である所轄の警察署(防犯係)の連絡先を、店頭と出張の両方で控えているか。
第15条第3項は「直ちに」と定めています。連絡先を探すところから始まる運用では、この要件に応えにくくなります。連絡先は、レジ周りと出張用の端末の両方に控えを置いてください。
稼働後は、月に一度、照会をかけた件数、該当した件数、照会をかけずに通した件数を数えます。3つ目の数字が多いなら、対象の絞り方か、照会の所要時間に原因があります。件数を数えていない状態では、どこを直せばよいかが分かりません。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 照会を何のために使うか(疑いの確認・全件の関門・買取後の確認)を決めたか |
| 2 | 自店の主力区分と、令和7年の申告件数の上位区分(道具類37件・時計宝飾品類31件・機械工具類22件)を突き合わせたか |
| 3 | 全件照会にするか区分を絞るかを決め、絞る根拠を社内で共有したか |
| 4 | 照会の入力に使う情報(型番・製造番号・刻印・傷)を査定時に控える手順を整えたか |
| 5 | 照会の結果が返るまでの時間と、査定にかかる時間の関係を測ったか |
| 6 | 支払いを保留する場合の案内文を、書面で用意したか |
| 7 | 該当なしでも違和感があれば止められる、と社内で明文化したか |
| 8 | 第15条第3項の申告先(所轄の防犯係)の連絡先を、店頭と出張の両方に控えているか |
| 9 | 1万円未満で確認が免除される取引でも、申告義務は残ることを担当者に伝えたか |
| 10 | 営業所ごとの管理者が、不正品の判断に関する講習を受けているか |
| 11 | 照会に使った情報の保存場所と削除の手順を決めたか |
| 12 | 月ごとに、照会件数・該当件数・照会せず通した件数を数える運用にしたか |
申告件数が0件の区分を安全だと判断して、照会も特徴の記録も薄くするケースです。写真機類と金券類の0件は「令和7年中に申告に至った件数が0だった」という意味であって、その区分に不正品が流れていないという意味ではありません。区分ごとの件数は照会の優先順位を決める材料にはなりますが、扱いを省く根拠にはなりません。
照会の結果が該当なしだったことを根拠に、その場の判断を省くケースです。被害届が出ていない品や、届出の内容が特徴と結びつかない品は該当なしで返ります。第15条第3項が求めているのは、疑いがあると認めるときの直ちの申告で、照会の結果はその判断材料のひとつです。該当なしでも止められる手順を残してください。
照会の結果が出る前に現金を渡してしまうケースです。買取業は仕入原価が査定額そのもので、支払いが先に立ちます。結果が出た時点で渡した現金は戻りません。中小企業実態基本調査では、法人企業・小売業のうち従業者5人以下の在庫回転期間は55.9日、営業利益率は0.2%です。現金が戻るまでの時間が長い規模ほど、1点の損失が効いてきます。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 盗品照会システムの利用は義務ですか | 取引時の義務を定めた規定の中に、照会システムの利用を義務づける条文はありません。義務として定められているのは、第15条第3項の「不正品の疑いがあると認めるときは直ちに警察官へ申告する」ことです。照会はその判断を助ける手段のひとつという位置づけになります。だからこそ、何のために使うのかを自店で決めてから導入する話になります。 |
| 1万円未満の買取なら、照会も申告も考えなくてよいですか | 確認義務と申告義務を分けて考えてください。施行規則第16条第1項により1万円未満の取引は本人確認が免除されますが、第15条第3項には金額の下限が置かれていません。少額でも疑いがあると認めたなら申告の対象です。加えて、施行規則第16条第2項の7品目(家庭用ゲームのプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物、書籍など)は、少額でも確認と記帳が要ります。 |
| うちの扱う区分では、どのくらい照会に力を入れればよいですか | 令和7年中の不正品申告129件の内訳では、道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件で90件、全体の約7割を占めています。書籍が17件で続きます。工具・機械・時計宝飾を主力にしているなら優先度は高くなります。ただしこの数字は申告に至った件数であって、流通している不正品の量ではないため、件数の少ない区分を省く根拠には使えません。 |
| システムを選ぶとき、何を聞けば違いが分かりますか | 「どうやって」の形で揃えてください。照会対象の情報がどこからどの頻度で更新されるか、型番しか分からない品をどうやって照会するか、結果が返るまでどれくらいかかりその間どう保留するか、該当・非該当の結果をどんな形式でどれくらい残せるか、利用の資格や加盟の条件は何か、照会に使った情報をどこに保存しどうやって削除するか。各システムの網羅範囲や精度は公表された一次情報がないため、実物での試行を契約条件に入れてください。 |
| 照会システムを入れれば、盗品の買取は防げますか | 防げるとは書けません。照会でできるのは、こちらが出した特徴と、照会先が持っている情報を突き合わせることまでです。被害届が出ていない品は一致しません。法第13条第3項は管理者に、不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務を定めており、最後に残るのは人の判断です。令和7年の古物商等管理者講習は150回・19,602人が受講しています。 |
| 照会をかけずに買ってしまった品が、後から盗品だと分かりました | 疑いがあると認めた時点で、第15条第3項により直ちに警察官へ申告することになります。申告先は所轄の警察署(防犯係)です。あわせて、その品について法第16条③の古物の特徴がどこまで記録されているかを確認してください。特徴が「品目と数量」しか残っていないと、経路の説明ができません。特徴は現物が手元にあるうちしか作れないため、日々の記録の細かさがここで効いてきます。 |
この解決策が打ち手になりうる課題を4件挙げます。




扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。盗品照会システムの利用をジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


