
古物営業法第16条は、古物を受け取ったとき、または引き渡したときに、その都度帳簿等へ記載する義務を定めています。記載事項は①取引の年月日 ②品目及び数量 ③古物の特徴 ④相手方の住所・氏名・職業・年齢 ⑤第15条第1項でとった措置の区分、の5つです。
この5つを並べると、台帳が何のための記録かが分かります。いつ・何が・どんな状態で・誰から自店に入り、どうやって身元を確かめたかを、後から第三者が復元できる形にしておく記録です。仕入単価も利益も記載事項に入っていません。台帳は経理の書類ではありません。
買取業は、盗品が持ち込まれる前提で制度が組まれている業種です。警察庁の統計では、令和7年中に古物商から警察へ寄せられた不正品の申告が129件、盗品売買等防止団体への情報提供に基づく団体加盟店の届出が638件ありました。申告や照会が成り立つのは、店側に取引の記録が残っているからです。
この前提を取り違えると、記載漏れの扱いを間違えます。自店の管理のための記録なら、後で思い出して埋めれば足ります。法が求めているのは取引の都度の記載なので、翌週まとめて書いた台帳は、記載があっても第16条の求める形にはなっていません。
記載漏れは5項目に均等に起きるわけではありません。①取引の年月日、②品目及び数量、④相手方の住所・氏名・職業・年齢は、買取伝票や本人確認書類の写しから機械的に転記できます。フォーマットに欄がある限り、空欄のまま伝票を切ることは少ない項目です。
抜けるのは③古物の特徴です。「腕時計 1点」は品目と数量であって、特徴ではありません。メーカー名、型番、製造番号やシリアル、刻印、傷や欠けの位置、付属品の有無まで書いて、はじめて後日その1点を特定できます。同じ型の商品が複数持ち込まれたとき、特徴の記載が無い台帳では、どの1点が誰から入ったのかを説明できません。
もう一つ抜けるのが⑤第15条第1項でとった措置の区分です。第15条第1項は本人確認の方法として、①住所・氏名・職業・年齢の確認 ②本人署名のある文書の交付を受ける ③認定を受けた電子署名つきの電磁的記録の提供を受ける ④これらに準ずる国家公安委員会規則で定める措置、を挙げています。台帳には、このうちどれを使ったかを書きます。「運転免許証を見た」という事実だけを控えて、区分の欄が空いている台帳がよくあります。
この2項目に共通するのは、伝票から自動的には埋まらないという点です。査定者が現物を見ながら書くか、確認をした担当者がその場で選ぶかしないと残りません。記載漏れの対策を「チェック体制」ではなく「入力欄の設計」から始めるのは、そのためです。
第16条ただし書は「前条第2項各号に掲げる場合」を記載義務から除いています。第15条第2項第1号は、対価の総額が国家公安委員会規則で定める金額未満の取引を本人確認の義務から外しており、その金額は古物営業法施行規則第16条第1項で1万円と定められています。つまり、確認が免除される取引は記帳も免除されるという関係です。
問題は例外です。施行規則第16条第2項は、1万円未満でも確認が要る古物を7つ挙げています。自動二輪車及び原動機付自転車(ねじ・ボルト・ナット・コード等の汎用部分品を除く部分品を含む)、エアコンディショナーの室外ユニットと電気温水機器のヒートポンプ、専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物、電線、金属製のグレーチング、書籍です。
この7品目は、盗難品が流れやすいものとして名指しされています。車両とエアコン室外機の窃盗、金属盗、万引き品の転売という背景があり、金額の大小と盗品リスクが対応していないから例外にされています。台帳の運用でいえば、単価の低い商材ほど記帳の手間が重くなるという逆転がここで起きます。
扱うジャンルによって負担が変わります。ゲームソフト・CD・DVD・レコード・書籍を扱う店は、300円の1点でも本人確認と記帳が要ります。1日の点数が多いほど、記載漏れの発生源はここに集中します。逆に貴金属やブランド品を主に扱う店は1万円を下回る取引自体が少なく、この線引きはあまり効きません。自店の記載漏れがどこで起きるかは、扱う区分で決まります。
| 記載事項(法第16条) | 書く内容 | 抜けやすさと理由 |
|---|---|---|
| ① 取引の年月日 | 受け取った日・引き渡した日 | 低い。伝票から転記できる |
| ② 品目及び数量 | 古物の区分と点数 | 低い。伝票から転記できる |
| ③ 古物の特徴 | 型番・製造番号・刻印・傷・付属品 | 高い。現物が手元にあるうちしか書けない |
| ④ 相手方の住所・氏名・職業・年齢 | 本人確認でとった内容 | 低い。ただし職業・年齢が空欄になりやすい |
| ⑤ 第15条第1項でとった措置の区分 | 確認①〜④のどれを使ったか | 高い。伝票から自動で埋まらない |
| 記帳の免除 | 対価の総額1万円未満(規則第16条第1項) | 第15条第2項に該当する取引は記帳も免除 |
| 免除の例外 | 7品目(規則第16条第2項) | 少額でも確認と記帳が要る |
| 保存 | 最終記載の日から3年間(法第18条第1項) | 取引日起算ではない。電磁的記録も同じ |
| き損・亡失 | 直ちに所轄警察署長へ届出(法第18条第2項) | 再作成では代替できない |
| 罰則 | 6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 | 法第33条第2号。虚偽記載と同じ号 |
罰則は第33条第2号です。第16条・第17条の記載義務違反と虚偽記載を並べて、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金と定めています。書き忘れも、意図的に別の名前を書くことも、条文上は同じ号で扱われます。
帳簿の備付け自体を欠いた場合は第33条第1号にあたり、第15条第1項の確認義務違反と同じく6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。書いていないのか、書いたが備え付けていないのかで条文が分かれますが、法定刑は変わりません。
「懲役」ではなく「拘禁刑」です。2022年の刑法改正で懲役と禁錮が拘禁刑に一本化され、2025年6月1日に施行されました。手元の社内マニュアルや古い解説記事が「6月以下の懲役」のままなら、条文を確認した時期がそれ以前ということになります。台帳の様式とあわせて更新してください。
警察庁の統計では、令和7年中の古物営業法違反の検挙は19件・12人で、態様別の内訳は無許可7件、身分確認3件、帳簿等記載3件などとなっています。件数そのものは大きくありません。ただし、検挙に至った12人のうち身分確認と帳簿等記載で6件を占めており、摘発される内容が特殊な手口ではなく手続きの不履行であることは読み取れます。
第18条第1項は、帳簿等を最終記載の日から3年間、営業所等に備え付けることを定めています。起算点は個々の取引日ではなく、その帳簿の最後の記載日です。1冊の台帳を1年使ったなら、最初のページの取引は結果として4年近く保存することになります。
電磁的記録で保存する場合も同じ3年間で、加えて「直ちに書面に表示できる状態」で保存することが条件です。データが残っていても、専用ソフトが動かない、旧端末にしかない、書き出しに時間がかかるという状態は、この条件を満たしません。POSや買取システムを入れ替えるとき、旧システムのデータをどう表示可能な形で持ち出すかを先に決めておいてください。
廃業や店舗の閉鎖でも義務は消えません。営業をやめた時点で台帳の記載も止まりますが、そこから3年間の保存が始まります。店舗を畳んだ後の保管場所を決めずに解約すると、義務だけが残ります。
3年という年限は、後述する個人情報の観点でも効きます。台帳には相手方の住所・氏名・職業・年齢が法定記載事項として入っているので、法が3年間の保存を命じている個人情報を店が抱えることになります。台帳の管理を、記帳精度の問題としてだけ見ていると、この側面が抜けます。
第18条第2項は、帳簿等をき損・亡失・滅失したときに、直ちに所轄警察署長へ届け出ることを定めています。紛失は、記憶で再作成して穴を埋める場面ではなく、届出をする場面です。
この規定があるおかげで、対応の順番がはっきりします。台帳が見つからないと分かった時点で、まず届出をする。再作成できる範囲は伝票や本人確認書類の写しから復元しますが、それは届出の代わりにはなりません。水損・火災・盗難・データ破損のいずれでも同じです。
紙とデータを併用している店では、どちらが正本かを決めていないと、この判断ができません。紙が正本ならデータはバックアップであり、紙を失えば届出の対象になります。データが正本なら、日次のバックアップ先と復元手順を決めておく話になります。正本を決めていない状態が、いちばん動けません。
届出の要否を自店で判断できるように、台帳の保管場所・正本・バックアップ・持ち出しの可否を1枚にまとめて、営業所ごとに掲示しておくのが実務的です。第13条第1項により管理者は営業所ごとに1人選任するので、その管理者の担当範囲と保管場所を一致させておくと責任の所在が動きません。
③古物の特徴は、現物が手元にあるうちしか書けません。買い取った品を当日中に古物市場へ回したり、他店へ卸したりする運用なら、現物が出た時点で特徴の追記はできなくなります。台帳の締めのタイミングは、在庫の動きより前に置かなければ成り立ちません。
現実的な線は、閉店後に当日分の伝票と台帳を突き合わせる作業を固定することです。見るのは3点だけで足ります。1件あたりの記載欄に空白が無いか、1万円未満の取引に7品目が混ざっていないか、身分確認の措置区分が選ばれているか。ここを外すと、後日まとめて直せない項目だけが残ります。
点数の多い日ほど漏れます。買取価格アップのキャンペーン期間、催事、年末年始のように持ち込みが集中する日は、査定の待ち時間を減らす方向に運用が寄るので、記載が後回しになります。繁忙日は査定担当と記帳担当を分けるのが、人手をかけずに効く数少ない対策です。
従業員教育を先に置いても、記載欄の設計が悪ければ同じ漏れが再発します。順番は、入力欄を必須化する、当日締めを固定する、そのうえで管理者が抜き取りで確認する、です。第13条第3項は管理者に不正品判断のための知識・技術・経験を得させる努力義務を課しており、台帳の点検はその訓練の場としても機能します。
買取システムやPOSで台帳を作る利点は、必須入力にすれば空欄のまま伝票を確定できなくなる点にあります。③古物の特徴と⑤措置の区分を必須項目に設定できるかどうかが、導入判断の分かれ目です。ここが自由記述の任意欄になっている製品では、紙の台帳と漏れ方が変わりません。
確認する項目は3つです。第16条の5つの記載事項をすべて格納できるか、第18条第1項の3年間について直ちに書面表示ができるか、営業所ごとに備え付けられている状態と言えるか。クラウド型で本部サーバーにのみデータがある構成のとき、営業所での備付けをどう説明するかは、導入前に管轄の警察署へ確認しておくほうが確実です。
システムを入れても、7品目の判定は自動化しにくい部分が残ります。「専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物」「光学的方法により音又は影像を記録した物」に何が当たるかは、商品マスタの分類と一致しません。買取時のカテゴリ選択に、確認要否のフラグを紐づける設計にしておくと判定が固定できます。
なお、立入検査の頻度や、検査でどの項目が何件指摘されているかについては、公表された一次情報が見当たりません。頻度を前提に備えの厚さを決めないでください。第16条と第18条は取引の都度と日々の備付けを求めており、検査の有無とは関係なく義務が発生します。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 台帳の入力欄に「古物の特徴」の項目があり、型番・製造番号・傷・付属品まで書けるようになっているか |
| 2 | 「第15条第1項でとった措置の区分」の欄があり、確認方法を選択式で残しているか |
| 3 | 1万円未満の取引で、施行規則第16条第2項の7品目に当たるものを判別できる分類になっているか |
| 4 | ゲームソフト・CD・DVD・書籍を扱う場合、少額でも本人確認と記帳をしているか |
| 5 | 台帳の締めが、買い取った品を市場や他店へ出す前のタイミングに置かれているか |
| 6 | 閉店後に当日分の伝票と台帳を突き合わせる作業が、担当と時間を決めて固定されているか |
| 7 | 帳簿の正本が紙かデータかを決め、営業所ごとに周知しているか |
| 8 | 電磁的記録の場合、3年分を直ちに書面に表示できる状態にあるか |
| 9 | 台帳のき損・亡失時に、所轄警察署長へ直ちに届け出る手順を文書にしているか |
| 10 | 廃業・店舗閉鎖後も3年間の保存を続けられる保管場所を決めているか |
| 11 | 社内資料の罰則表記が「懲役」のままになっていないか(2025年6月1日から拘禁刑) |
品目と数量だけを書いて、古物の特徴を書かないまま現物を市場へ出してしまうケースです。「腕時計 1点」は法第16条②の記載であって③ではありません。同型の商品が複数入った日は、どの1点が誰から入ったのかを後から説明できなくなります。特徴の記載は現物が手元にあるうちしか作れないので、締めのタイミングを在庫の動きより前に置いてください。
1万円未満だから記帳も不要と判断して、ゲームソフトや書籍の少額買取を台帳から落とすケースです。施行規則第16条第2項は7品目を免除の対象外にしており、金額に関係なく確認と記帳が要ります。単価が低く点数の多い商材ほど件数が積み上がるため、抜けたときの件数も大きくなります。
台帳を紛失したときに、伝票から再作成して穴を埋めようとするケースです。法第18条第2項は、き損・亡失・滅失の際に直ちに所轄警察署長へ届け出ることを定めています。復元作業は届出の代わりになりません。紙とデータを併用している店では、どちらが正本かを決めていないと、そもそも届出が要る事態かどうかを判断できません。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 記載を忘れていたことに後から気づきました。今から書けば問題ありませんか | 気づいた時点で記載を補うこと自体は行ってください。ただし法第16条は「その都度」の記載を求めているので、後日まとめて書いた台帳が要件を満たすとは言えません。とくに③古物の特徴は現物が手元を離れると事実として書けなくなります。記載漏れと虚偽記載は法第33条第2号で同じ号にまとめられており、いずれも6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。埋め合わせの記載が推測になっていないかは、自分で線を引いてください。 |
| 1万円未満の買取は台帳に書かなくてよいと聞きました | 原則はそのとおりです。法第16条ただし書は法第15条第2項各号の場合を除いており、施行規則第16条第1項が定める1万円未満の取引は確認も記帳も免除されます。ただし施行規則第16条第2項の7品目は例外で、金額に関係なく確認と記帳が要ります。自動二輪車と原動機付自転車(部分品を含む)、エアコン室外機と電気温水機器のヒートポンプ、家庭用ゲームソフト、光学的方法で音や影像を記録した物、電線、金属製グレーチング、書籍です。 |
| 帳簿は何年保存すればよいですか。取引日から3年でしょうか | 法第18条第1項は、最終記載の日から3年間、営業所等に備え付けることを定めています。取引日からの3年ではありません。1冊を長く使えば、最初の取引はそのぶん長く保存されることになります。電磁的記録で保存する場合も3年間で、直ちに書面に表示できる状態を保つことが条件です。廃業しても、最終記載の日から3年間の保存義務は残ります。 |
| 買取システムを入れれば記載漏れはなくなりますか | 空欄のまま伝票を確定できない設定にできれば、①〜⑤の欄そのものの漏れは減ります。ただし製品によっては「古物の特徴」と「措置の区分」が任意の自由記述欄で、必須化できないものがあります。また7品目に当たるかどうかの判定は商品マスタの分類と一致しないため、買取時のカテゴリ選択に確認要否のフラグを紐づける設計が要ります。クラウド型で本部にのみデータを置く構成のとき、営業所での備付けをどう説明するかは、導入前に管轄警察署へ確認してください。 |
| 台帳が水濡れで読めなくなりました。どうすればよいですか | 法第18条第2項により、き損・亡失・滅失したときは直ちに所轄警察署長へ届け出ます。伝票や本人確認書類の写しから復元できる範囲は復元してかまいませんが、それは届出の代わりにはなりません。同じ扱いは火災・盗難・データ破損にも及びます。届出の要否をその場で判断できるよう、正本が紙かデータか、バックアップがどこにあるかを、営業所ごとにあらかじめ決めておいてください。 |
| 台帳の記載漏れが行政処分につながることはありますか | 警察庁の統計では、令和7年中の古物営業法違反の検挙は19件・12人で、態様別の内訳に帳簿等記載3件、身分確認3件が含まれています。同年の行政処分は総数874件で、内訳は指示855件、営業停止8件、許可の取消し11件です。ただし、この統計から「記載漏れが何件で処分になったか」は読み取れません。立入検査の頻度や指摘件数についても公表された一次情報が見当たらないため、頻度を前提にした備えの判断はできない、というのが正確なところです。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を8件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。








扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。古物台帳の記載漏れをジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


