
一般の小売業では、仕入は市場価格とメーカーの卸値に縛られます。買取業は違います。査定額がそのまま仕入原価になり、いくらで何点仕入れるかを自社が単独で決めます。過剰在庫の原因を販売力や景気に置くと、この構造を見落とします。
この違いは粗利率の読み方にも出ます。粗利率が下がったとき、一般の小売業なら仕入コストの上昇か値引き販売を疑いますが、買取業では「買取価格を上げた」という自社の行動が第一の候補になります。件数を伸ばそうとして査定を引き上げた月は、粗利率の低下と在庫の増加が同時に出ます。
在庫が積み上がる速度も自社で決まります。中小企業庁「中小企業実態基本調査 令和6年確報(令和5年度決算実績)」の法人企業・小売業では、在庫回転率が従業者5人以下で6.53回、6〜20人で11.19回、小売業全体で10.90回です。買取業だけの値ではありませんが、規模が小さいほど滞留するという傾向は明確です。
小規模な店ほど、査定する人と在庫を管理する人と資金を見る人が同一です。買いたい気持ちと在庫を減らしたい必要が同じ頭の中にあるため、判断が買う側に寄ります。過剰在庫を人の意識で直そうとすると失敗するのはここです。
何が過剰になるかは、店の努力より品目の構造で決まっています。環境省「令和6年度リユース市場規模調査報告書」本編は、消費者3,365人への調査で、過去1年に不要品が発生した割合を品目別に出しています。書籍29.1%、ブランド品を除く衣類・服飾品25.8%、家具類17.2%、日用品・生活雑貨17.0%、ブランド品14.4%、ソフト・メディア類12.7%、パソコン・周辺機器11.2%です。
一方で発生量が少ない品目もあります。ゲーム機器0.6%、バイク・原付0.8%、自動車1.4%、カー用品3.3%、玩具・模型4.3%、楽器類4.4%です。ここまでは「どれだけ世帯から出るか」の話です。
重ねて見るべきなのは、出たもののうちどれだけが買取店に来るかです。同調査で、保管を除いた排出先のうちリユースショップ・中古品販売店で売却された割合は、ゲーム機器72.3%、書籍37.3%、ソフト・メディア類32.8%、ブランド品を除く衣類・服飾品31.3%、ベビー・子供用品29.6%、スポーツ・レジャー用品23.0%、ブランド品22.7%です。
この二つを掛け合わせると、店に何が積み上がるかが読めます。ゲーム機器は発生率0.6%と低いのに、出たものの72.3%が買取店に集まります。書籍は発生率29.1%そのものが最大で、そのうち37.3%が来ます。書籍とゲームが買取店の集客商材として使われるのは、この二つの数字の掛け算の結果です。同時に、最も過剰になりやすい商材でもあります。
不良在庫化の起きやすさは、金額より点数で決まります。高単価品が数点滞留する場合と、低単価品が数百点滞留する場合とでは、在庫金額が同じでも運営の負荷が違います。棚を占める体積、値付けの手数、棚卸の時間、そして記帳の件数は、金額ではなく点数に比例するためです。
買取業では、この点数の重さが法令面でも効きます。古物営業法第15条1項は取引相手の本人確認を義務づけ、同条2項1号で対価の総額が国家公安委員会規則で定める金額未満の取引を免除しています。その金額は施行規則第16条1項で1万円と定められています。
ところが同条2項は、1万円未満でも確認が要る古物を7品目挙げています。自動二輪車及び原動機付自転車、エアコンディショナーの室外ユニットと電気温水機器のヒートポンプ、家庭用コンピュータゲームのプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物、電線、金属製のグレーチング、書籍です。ゲームソフト、CD・DVD、書籍がここに入ります。
つまり買取店で最も点数が出る商材が、少額でも毎回本人確認と記帳を要求される商材と重なっています。法第16条ただし書により、確認が免除される取引は記帳も免除されますが、この7品目は逆に少額でも記帳が要ります。低単価・高点数のカテゴリで在庫が膨らむと、資金だけでなく作業時間が先に限界に達します。
| 品目 | 不要品の発生率 | うちリユースショップで売却 | 在庫としての性格 |
|---|---|---|---|
| 書籍 | 29.1% | 37.3% | 発生量が最大。点数が膨らみやすく、1万円未満でも本人確認と記帳が要る |
| ブランド品を除く衣類・服飾品 | 25.8% | 31.3% | 手放される衣類の64.3%は廃棄。供給が過剰で、リユースに乗るのは18.1% |
| ソフト・メディア類 | 12.7% | 32.8% | 低単価・高点数。光学メディアは1万円未満でも本人確認と記帳が要る |
| ゲーム機器 | 0.6% | 72.3% | 発生は少ないが、出たものの7割が買取店へ集まる |
| ブランド品 | 14.4% | 22.7% | 単価が高く1万円を下回りにくい。点数より金額で滞留が効く |
| 家具類 | 17.2% | —(26.4%が費用負担して排出) | 消費者が金を払って手放す領域。引き取ると処分費側に回る |
| テレビ・洗濯機・冷蔵庫・エアコン | — | —(44.0%が費用負担して排出) | 同上。無償引き取りは集客費であり在庫ではない |
動かない在庫を前にしたとき、まず切り分けるのは原因が外にあるか内にあるかです。混同したまま値下げを繰り返すと、値下げが効かないカテゴリで粗利だけを失います。
外側の材料になるのが経済センサス-活動調査(2021年)です。年間商品販売額は、骨とう品小売業378億円で2016年比38.5%減、古本小売業1,163億円で同8.7%減と縮小しています。一方、中古品小売業(骨とう品を除く)4,511億円と中古電気製品小売業698億円の合計5,209億円は、2016年の5,246億円とほぼ横ばいです。
縮小しているカテゴリで在庫が動かないなら、原因は自店の値付けではなく需要側にあります。値下げで回転を戻せる見込みは小さく、取り扱いそのものの見直しが選択肢になります。横ばいのカテゴリで動かないなら、値付け、見せ方、売り先の選択のどれかが外れています。
衣類はもう一段構造が違います。環境省のサステナブルファッションの整理では、2022年に国内で新規供給された衣類79.8万トンに対し、使用後に手放される量は73.1万トンで、そのうち廃棄が47.0万トンで64.3%、リサイクルが12.7万トンで17.4%、リユースが13.3万トンで18.1%です。手放される衣類の3分の2が廃棄に回っており、リユースに乗るのは2割に届きません。持っている服の45%は使われずにしまい込まれています。衣類の在庫は、需要が細いのではなく供給が桁違いに多いという前提で組む必要が出てきます。
在庫の異常は、月次の数字に出るより先に現場に出ます。棚に入りきらない、バックヤードに段ボールが積み上がる、値付け待ちの箱が減らない、といった形です。これらは金額を集計する前に目視できます。
現場の兆候を数字に結ぶには、在庫回転期間を日数で出しておきます。判断の線は56日に置けます。在庫回転期間が56日を超えていれば、同規模の小売業平均より滞留していることになります。従業者5人以下の帯の55.9日、6〜20人の帯の32.6日という差は1.7倍で、この差が営業利益率0.2%と1.5%の差につながっています。
作業時間の側にも指標を置きます。買い取ってから店頭またはネットに出るまでの日数を、カテゴリごとに測ります。値がつかない品を無償で引き取っている場合は、その処理にかかる時間も含めます。環境省の調査では、テレビ・洗濯機・冷蔵庫・エアコンは排出時に消費者が費用を負担した割合が44.0%、家具類が26.4%です。消費者が金を払ってでも手放したい品は、買取店が引き取れば処分費を負担する側に回ります。
無償引き取りは集客の武器になりますが、在庫としては最初から不良在庫です。集客費用として計上するのか、在庫として計上するのかを決めておかないと、過剰在庫の数字が実態より悪く見えます。
在庫を金額で管理していると、過剰在庫は総額の増減にしか現れません。金額は高額品1点の増減で簡単に動くため、滞留の実態が隠れます。管理の軸を仕入日に変えると、動いていない塊がそのまま見えます。
実務上は、買取日を起点に30日・60日・90日・180日で区切り、カテゴリごとに点数と金額の両方を出します。60日の線が、先の56日という基準とほぼ重なります。90日を超えた在庫が特定のカテゴリに集中しているなら、そのカテゴリの査定基準が現実の売価から乖離しています。
この集計は、買取時の記録がなければ作れません。古物営業法第16条は、古物を受け取ったとき、または引き渡したときに、その都度帳簿等へ記載する義務を定めています。記載事項は取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条1項でとった措置の区分です。第18条1項により、帳簿等は最終記載の日から3年間、営業所等に備え付けます。
法定の帳簿は在庫管理台帳ではありませんが、取引の年月日と品目が必ず記録されています。この記録を在庫台帳と同じ品番で結んでおけば、滞留日数の集計は追加の入力なしに作れます。逆に、法定帳簿と在庫管理を別々に運用している店は、滞留の集計そのものが手作業になり、結果として測らなくなります。
処分は在庫を減らしますが、買い方が変わらなければ同じ在庫が同じ速度で戻ります。過剰在庫の対策を処分から始めると、毎期同じ作業を繰り返すことになります。
止め方は、査定基準にカテゴリごとの上限を置くことです。上限は金額ではなく点数で置きます。書籍やソフト・メディア類のように点数が出る商材は、金額の上限では歯止めになりません。棚の容量と値付けにかけられる時間から逆算した点数が、その店の受け入れ能力です。
もう一つは、出口を決めていない品を買わないことです。店頭で売るのか、古物市場に出すのか、ネットに載せるのかを査定の場で決めます。出口が決まらない品は、買わないか、処分費を織り込んだ金額でしか買わない、という基準にします。
査定担当者の評価指標も見直します。買取件数や買取金額だけを評価すると、在庫は必ず増えます。買い取った在庫が何日で現金に戻ったかを担当者ごとに出せば、評価の軸が入口から出口まで伸びます。粗利率31.7%で営業利益率0.2%という数字は、入口だけを見ている経営の結果として読めます。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 粗利率が下がった月に、買取価格を上げていないか。原因を販売側だけで探していないか |
| 2 | 在庫を仕入日起点で30日・60日・90日・180日に区切って、カテゴリ別に点数と金額を出しているか |
| 3 | 在庫回転期間を日数で出しているか。56日を超えていないか |
| 4 | カテゴリごとの受け入れ上限を、金額ではなく点数で決めているか |
| 5 | 動かない在庫について、市場が縮んでいるのか自店の値付けが外れているのかを切り分けているか |
| 6 | 1万円未満でも本人確認と記帳が要る7品目(ゲームソフト・光学メディア・書籍など)の在庫点数を、別枠で見ているか |
| 7 | 法定帳簿(古物営業法第16条)の品目・取引年月日と、在庫台帳が同じ品番で結ばれているか |
| 8 | 無償引き取り品を、在庫ではなく集客費として区分しているか |
| 9 | 査定担当者の評価に、買取件数だけでなく買い取った在庫が現金に戻るまでの日数が入っているか |
過剰在庫の原因を販売力に置き、売場の改善から着手してしまう失敗があります。買取業は仕入原価が査定額で決まるため、在庫の量も構成も買った時点で確定しています。査定を引き上げて件数を伸ばした月には、粗利率の低下と在庫の増加が同時に出ます。売場を触る前に、直近3ヶ月のカテゴリ別買取点数と粗利率を並べて、入口側の変化を確認してください。
在庫を金額だけで管理し、低単価・高点数のカテゴリの滞留を見落とす失敗があります。書籍は不要品の発生率が29.1%で最も高く、そのうち37.3%が買取店に持ち込まれます。ソフト・メディア類も発生率12.7%のうち32.8%が来ます。金額では小さく見えても、棚の容積、値付けの時間、そして1万円未満でも要求される本人確認と記帳の件数は点数に比例します。資金より先に作業時間が限界に達します。
縮小しているカテゴリで値下げを繰り返し、粗利だけを失う失敗があります。骨とう品小売業の年間商品販売額は2016年比38.5%減、古本小売業は8.7%減です。需要側が細っているカテゴリでは値下げが回転に結びつきにくく、取り扱いの縮小や売り先の変更のほうが効きます。値下げの前に、そのカテゴリが横ばいなのか縮小なのかを確認してください。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 不良在庫の定義をどう決めればよいですか | 公的な定義はありません。実務では仕入日からの経過日数で機械的に切るほうが運用できます。基準の一つとして、中小企業実態基本調査の在庫回転期間が使えます。小売業全体33.5日、従業者5人以下55.9日、6〜20人32.6日で、56日を超えていれば同規模の小売業平均より滞留していることになります。60日を第一の線、90日を処分の線として置き、カテゴリごとに前後させる形にすると、判断者の思い入れが入りません。 |
| 書籍やCDのような低単価品は、金額が小さいので放置してよいですか | 金額では小さくても、運営負荷は点数に比例します。書籍は不要品の発生率が29.1%で最も高く、そのうち37.3%が買取店に持ち込まれます。加えて古物営業法施行規則第16条2項により、書籍、家庭用コンピュータゲームのプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物は、1万円未満でも本人確認が免除されません。法第16条の記帳義務も同様に外れません。点数が増えるほど確認と記帳の作業が増えるため、金額基準だけで放置すると作業時間から先に詰まります。 |
| 衣類の在庫が動きません。値下げすれば回りますか | 値下げの前に供給側の構造を確認してください。環境省のサステナブルファッションの整理では、2022年に手放された衣類73.1万トンのうち廃棄が47.0万トンで64.3%、リユースは13.3万トンで18.1%です。持っている服の45%は使われずにしまい込まれています。買取店に持ち込まれる衣類は、発生率25.8%のうち31.3%と量が大きく、供給が需要を上回りやすいカテゴリです。値下げで一時的に回っても、同じ量がまた入ります。受け入れ点数の上限を先に決めるほうが効きます。 |
| 値がつかない品を無償で引き取るのは、過剰在庫になりませんか | 在庫としてではなく集客費として区分すれば、判断が濁りません。環境省の調査では、テレビ・洗濯機・冷蔵庫・エアコンは排出時に消費者が費用を負担した割合が44.0%、家具類が26.4%です。消費者が金を払ってでも手放したい領域であり、無償で引き取れる事業者はそれだけで差がつきます。ただし引き取った側は処分費を負担します。処分費の実額を月次で出し、集客費として妥当かどうかを判断してください。在庫金額に混ぜると、過剰在庫の指標が実態より悪く出ます。 |
| 在庫の滞留日数を集計する仕組みを、新しく作る必要がありますか | 古物営業法第16条の帳簿がすでに取引の年月日と品目及び数量、古物の特徴、相手方の情報、第15条1項でとった措置の区分を記録しています。第18条1項により最終記載の日から3年間の備え付けが要ります。この記録と在庫台帳を同じ品番で結べば、滞留日数の集計は追加入力なしに作れます。法定帳簿と在庫管理を別々に運用している場合は、まず品番の統一から着手するのが手数が少なく済みます。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を12件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。












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