
法第15条第1項は、買受け・交換・委託を受けようとするときに、相手方の真偽を確認する措置をとることを定めています。措置は①住所・氏名・職業・年齢の確認 ②本人署名のある文書の交付を受ける ③認定を受けた電子署名つきの電磁的記録の提供を受ける ④これらに準ずる国家公安委員会規則で定める措置の4つです。
法第16条は、古物を受け取ったときに帳簿等へ記載することを定めており、記載事項の1つが「相手方の住所・氏名・職業・年齢」です。故人の情報をここに書くことはできません。書くのは、実際に売る人の情報です。
したがって現場で最初に確定するのは、誰が売主かです。相続人本人か、相続人から委任を受けた者か、遺品整理を請け負った事業者か。この3つは扱いが違います。委任を受けた者から買う場合、委任の事実をどう確かめるかを社内で決めておくことになります。
遺品整理の現場では、片付けの流れの中で査定が始まります。価格の話に入る前に、名刺と身分証を確認し、相手方として記帳する人を先に決めてください。確定を後回しにすると、金を渡す直前に「実は自分は相続人ではない」という話が出て、その場で止まります。
法第14条第1項は、営業所または取引の相手方の住所・居所以外の場所で、古物商以外の者から古物を受け取ってはならないと定めています。仮設店舗は、日時と場所を事前に管轄公安委員会へ届け出れば可能です。
出張買取が成り立つのは、相手方の住所・居所であれば受け取れるという部分によります。相続人が故人と同居していた場合、その自宅は相手方の住所です。ここは問題になりません。
問題は、相続人が別居している場合です。故人の自宅は、売主である相続人の住所でも居所でもありません。この場所で受け取ることが第14条第1項の要件を満たすかどうかは、条文の文言だけでは決まりません。この記事では断定しません。
確認先は、主たる営業所を管轄する警察署です。照会するときは、相続人が別居していること、受け取る場所が故人の自宅であること、相続人が立ち会うかどうかを具体的に示してください。仮設店舗の事前届出という別の道があるかどうかも、併せて確認する事項になります。物を店舗まで持ち込んでもらう形にすれば、この論点は生じません。
法第16条の記載事項は、相手方の住所・氏名・職業・年齢です。複数の相続人がいる案件でも、帳簿に書くのは実際に取引した相手方です。他の相続人の存在は、この記載事項の中に現れません。
後から別の相続人が現れて申出をしてきたとき、帳簿から辿れるのは「誰から、いつ、何を受け取ったか」までです。法第18条第1項により、帳簿等は最終記載の日から3年間、営業所等に備え付けられます。3年分の記録は必ず存在します。
実務として決めるのは、帳簿の外側で何を残すかです。他の相続人の同意をどう確認したか、委任状を受け取ったか、立会人がいたか。これらは第16条の記載事項ではないため、自店の記録として保存する設計になります。
保存の年限も自店で決めることになります。帳簿の3年という期間は、法定の記載事項についての規定です。委任状や同意の記録には、この期間が自動的に適用されるわけではありません。保存場所、保存期間、閲覧できる人の範囲を決めて文書にしてください。
| 現場で決めること | 根拠 | 決め方 |
|---|---|---|
| 誰が相手方か | 法第15条第1項・法第16条第4号 | 相続人本人/委任を受けた者/整理業者のいずれかに確定してから査定 |
| 委任の確かめ方 | 法定の様式はない | 社内で統一し、帳簿の外側の記録として保存する |
| 受け取ってよい場所 | 法第14条第1項 | 相続人が別居なら、故人の自宅で受け取れるかを管轄警察署へ照会 |
| 店舗持ち込みへの切り替え | 法第14条第1項の営業所 | 照会の回答が出るまでの確実な運用 |
| 訪問購入への該当 | 特定商取引法第58条の4 | 自宅等で買い取れば、片付けの依頼でも訪問購入 |
| 勧誘前の明示 | 第58条の5 | 氏名・勧誘の目的・物品の種類を先に告げる |
| 勧誘の可否 | 第58条の6第1項〜第3項 | 紹介経由でも、依頼を書面で受けておく |
| 書面の交付 | 第58条の7・第58条の8 | 申込時または締結時に交付 |
| 引渡し拒絶の告知 | 第58条の9 | その場で渡さない選択肢を告げる |
| クーリング・オフ | 法定書面を受け取った日から8日以内 | 対象物品は8日を過ぎるまで転売しない |
| 適用除外物品 | 第26条・施行令別表第二 | 二輪を除く自動車、家具、大型家電、本・CD・DVD・ゲームソフト類、有価証券 |
| 少額でも確認が要る古物 | 施行規則第16条第2項の7品目 | 書籍・光学記録物・ゲームソフトの箱を分けてから査定 |
| 記録の保存 | 法第18条第1項(最終記載の日から3年間) | 委任状や同意の記録は法定外。自店で年限を決める |
特定商取引法第58条の4は、購入業者が営業所等以外の場所において売買契約の申込みを受け、または売買契約を締結して行う物品の購入を訪問購入と定義しています。片付けの依頼を受けて伺った場合でも、その場で買い取れば訪問購入に当たります。
第58条の5は、勧誘に先立って、購入業者の氏名または名称、売買契約の締結について勧誘をする目的である旨、当該勧誘に係る物品の種類を明らかにすることを定めています。遺品整理の名目で伺い、その場で買取の話を始める場合、この明示が先に来ます。
第58条の6は、勧誘の要請をしていない者に対して営業所等以外の場所で勧誘をし、または勧誘を受ける意思の有無を確認してはならないこと、勧誘に先立って勧誘を受ける意思があることを確認しないで勧誘をしてはならないこと、契約を締結しない旨の意思を表示した者に勧誘をしてはならないことを定めています。整理業者からの紹介で伺った場合に「勧誘の要請」があったといえるかは、経緯によります。書面で依頼を受けておく形が確実です。
第58条の7と第58条の8は書面の交付を、第58条の9は相手方から直接物品の引渡しを受ける時に引渡しを拒むことができる旨を告げることを定めています。クーリング・オフは、法定書面を受け取った日から数えて8日以内です。期間内に第三者へ引き渡した場合は、相手方への通知義務があります。
クーリング・オフの適用除外物品は、特定商取引法第26条と施行令別表第二で定まっています。二輪を除く自動車、家具、大型家電、本・CD・DVD・ゲームソフト類、有価証券です。
遺品整理の現場は、この一覧とほぼ重なる構成をしています。家具、大型家電、本、CD、DVDは適用除外です。一方、着物、時計、宝飾品、貴金属、カメラ、切手や記念硬貨は対象です。1件の訪問で両方を買い取ることになります。
この混在を意識せずに全点をまとめて処理すると、8日間の拘束がかかる物とかからない物が同じ扱いになります。対象物品を8日以内に転売すると、申出があったときに戻せません。買取の伝票の段階で、品目ごとに対象か除外かを判定して記録してください。
国民生活センターの資料では、訪問購入の相談内容として「不用品や和服の買い取りのはずが貴金属を買い取られた」という型が中心で、古本・洋服・食器などを名目に訪問し貴金属を買い取る手口が繰り返し登場するとされています。遺品整理の依頼で伺った現場は、外形上これと同じ場面です。名目と実際に買い取る物が食い違わないように、明示と書面を丁寧に運用してください。
法第15条第2項第1号と施行規則第16条第1項により、対価の総額が1万円未満の取引は確認義務が免除されます。法第16条ただし書により、確認が免除される取引は記帳も免除されます。判定は1点あたりではなく、その取引の対価の総額です。
施行規則第16条第2項は、1万円未満でも確認が必要な7品目を挙げています。自動二輪車及び原動機付自転車(ねじ・ボルト・ナット・コード等の汎用部分品を除く)、エアコンディショナーの室外ユニットと電気温水機器のヒートポンプ、専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物、電線、金属製のグレーチング、書籍です。
遺品整理の現場に多いのは、このうち書籍、光学的方法により音又は影像を記録した物(CD・DVD・レコード)、家庭用ゲームのプログラムを記録した物です。段ボール何箱という単位で出てきます。合計額が1万円に届かない場合でも、これらは確認と記帳の対象です。
ここを免除の帯域と扱って処理すると、確認義務違反になります。法第33条第1号は、第15条第1項の確認義務違反と第18条第1項の帳簿備付け義務違反に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を、第33条第2号は第16条の記載義務違反と虚偽記載に同じ罰を定めています。現場に品目の一覧を持って行き、該当する箱を分けてから査定してください。
国民生活センターの集計によると、訪問購入に関する消費生活相談の件数は、2023年度8,623件、2024年度7,909件、2025年度7,523件です。2023年度をピークに減少しています。2026年度は2026年5月31日現在で826件(前年同期823件)です。
同じPIO-NETの他のカテゴリと並べると位置づけが見えます。点検商法は2023年度12,550件から2024年度19,249件、2025年度19,696件と増加しています。訪問販売によるリフォーム工事は2023年度11,879件から2025年度5,544件へ大幅に減っています。訪問購入は点検商法の4割程度の件数で、しかも減少しています。
「押し買いが増えている」という書き方は、現在の数字では支持されません。増えているのは点検商法です。社内研修の資料に件数を載せるときは、年度と出典を添えてください。
年齢層についても注意があります。2024年度の消費生活相談全体で、契約当事者の年代は70歳以上が26.2%で2015年度以降で最高でした。これは相談全体の値であって、訪問購入に限った値ではありません。訪問購入の相談者の年齢構成を示す数字として使わないでください。
1つ目は売主の確定です。誰が相続人で、誰が売主として記帳されるのかを、査定の前に決めます。委任を受けた者から買う場合、委任の事実の確かめ方を社内で統一してください。
2つ目は場所です。相続人が別居している案件で、故人の自宅で受け取ってよいかを、主たる営業所を管轄する警察署へ照会します。回答が出るまでは、店舗への持ち込みか、相続人の住所での受け取りに寄せる形が確実です。法第14条第1項の要件は、遺品整理という文脈で緩むものではありません。
3つ目は品目の分離です。クーリング・オフの適用除外物品(二輪を除く自動車、家具、大型家電、本・CD・DVD・ゲームソフト類、有価証券)と対象物品を分けます。同時に、施行規則第16条第2項の7品目に当たる箱を分け、少額でも確認と記帳をします。この2つの分離は基準が違うため、別の作業として行ってください。
4つ目は書面です。特定商取引法第58条の5の明示、第58条の6の意思確認、第58条の7・第58条の8の書面交付、第58条の9の引渡し拒絶の告知。公表されている行政処分は、この4つの不履行に集中しています。2026年8月4日、九州経済産業局は訪問購入を行う3社に業務停止命令9か月と指示を出し、代表者にも業務禁止命令9か月を出しました。取扱商品はいずれも宝石、貴金属、時計等の中古品です。2025年11月26日には消費者庁が1社へ業務停止命令9か月を出しています。遺品整理の案件でも、手続きは同じです。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 査定を始める前に、相手方として記帳する人を確定したか |
| 2 | 委任を受けた者から買う場合の、委任の確かめ方を社内で統一したか |
| 3 | 相続人が別居している案件で、故人の自宅を受取場所にしてよいかを管轄警察署へ照会したか |
| 4 | 照会の回答が出るまで、店舗持ち込みまたは相続人の住所での受け取りに寄せているか |
| 5 | 自宅等での買取を、片付けの依頼であっても訪問購入として扱っているか |
| 6 | 勧誘に先立つ明示(氏名・目的・物品の種類)を、現場で実行しているか |
| 7 | 紹介経由の訪問について、依頼を書面で受け取っているか |
| 8 | 書面の交付と、引渡しを拒める旨の告知を実行しているか |
| 9 | クーリング・オフの対象物品と適用除外物品を、品目単位で判定して記録しているか |
| 10 | 対象物品を8日を過ぎるまで転売しない在庫区分を作ったか |
| 11 | 施行規則第16条第2項の7品目に当たる箱を分け、少額でも確認と記帳をしているか |
| 12 | 他の相続人の同意や委任状の記録について、保存場所と保存期間を決めたか |
相手方を確定しないまま査定を進め、支払いの直前で止まるケースです。法第15条第1項が確認するのは相手方で、法第16条第4号の記載事項も相手方の住所・氏名・職業・年齢です。亡くなった方をここに書くことはできません。相続人本人なのか、委任を受けた者なのか、整理を請け負った事業者なのかを、価格の話に入る前に確定してください。委任を受けた者から買う場合、委任の事実の確かめ方を社内で統一しておく作業が要ります。
相続人が別居しているのに、故人の自宅で当然に受け取れると考えるケースです。法第14条第1項は、営業所または取引の相手方の住所・居所以外の場所で、古物商以外の者から古物を受け取ってはならないと定めています。故人の自宅は、売主である相続人の住所でも居所でもありません。この場合の扱いは条文の文言だけでは決まらないため、主たる営業所を管轄する警察署へ照会し、回答が出るまでは店舗持ち込みか相続人の住所での受け取りに寄せてください。
書籍・CD・DVD・ゲームソフトを、少額だからと確認も記帳もせずに引き取るケースです。対価の総額が1万円未満の取引は確認と記帳が免除されますが、施行規則第16条第2項は7品目を例外としており、専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物、書籍がここに含まれます。遺品整理の現場ではこれらが箱単位で出てきます。法第33条第1号・第2号は、確認義務違反と記載義務違反に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を定めています。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 亡くなった方の名前で帳簿に記載してよいですか | できません。法第16条第4号の記載事項は「相手方の住所・氏名・職業・年齢」で、相手方とは実際に取引をする人です。法第15条第1項の確認も相手方に対して行います。書くのは、売主となる相続人、または相続人から委任を受けた者の情報です。査定に入る前に、誰を相手方として記帳するのかを確定してください。委任を受けた者から買う場合は、委任の事実の確かめ方を社内で統一しておいてください。 |
| 故人の家で受け取ってよいですか | 相続人が同居していたなら、その自宅は相手方の住所です。別居している場合は、故人の自宅は売主である相続人の住所でも居所でもないため、法第14条第1項の要件を満たすかどうかが条文の文言だけでは決まりません。この記事では断定しません。相続人が別居していること、場所が故人の自宅であること、立ち会うかどうかを示して、主たる営業所を管轄する警察署へ照会してください。店舗へ持ち込んでもらう形にすれば、この論点は生じません。 |
| 片付けの依頼で伺った場合も訪問購入になりますか | その場で買い取れば該当します。特定商取引法第58条の4は、営業所等以外の場所で売買契約の申込みを受け、または契約を締結して物品を購入する取引を訪問購入と定義しています。第58条の5の氏名等の明示、第58条の6の勧誘に関する規制、第58条の7・第58条の8の書面交付、第58条の9の引渡し拒絶の告知が同じようにかかります。整理業者からの紹介で伺う場合は、依頼を書面で受けておく形が確実です。 |
| 遺品はすべてクーリング・オフの対象になりますか | なりません。適用除外物品は特定商取引法第26条と施行令別表第二で定まっており、二輪を除く自動車、家具、大型家電、本・CD・DVD・ゲームソフト類、有価証券です。遺品整理の現場では、家具や本は除外、着物・時計・宝飾品・貴金属・カメラは対象という形で混在します。品目ごとに判定して伝票に記録し、対象の物は法定書面を受け取った日から8日を過ぎるまで転売しない在庫区分に置いてください。 |
| 段ボール何箱もの本やCDは、まとめて1万円未満なら確認不要ですか | 確認が要ります。法第15条第2項第1号と施行規則第16条第1項の1万円未満の免除には例外があり、施行規則第16条第2項の7品目は金額に関係なく確認と記帳の対象です。この7品目には書籍、光学的方法により音又は影像を記録した物、専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物が含まれます。現場に品目の一覧を持参し、該当する箱を分けてから査定してください。 |
| 訪問購入のトラブルは増えているのですか | 減っています。国民生活センターの集計では、訪問購入に関する相談は2023年度8,623件、2024年度7,909件、2025年度7,523件で、2023年度をピークに減少しています。同じPIO-NETで点検商法は2023年度12,550件から2025年度19,696件へ増加しており、訪問購入は点検商法の4割程度の件数です。なお2024年度の消費生活相談全体で70歳以上が26.2%というのは相談全体の値であって、訪問購入に限った数字ではありません。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を8件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。








扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。遺品整理・相続案件の対応をジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


