
特定商取引法にもとづく行政処分は、消費者庁・地方経済産業局・都道府県が公表し、処分日の属する年度の翌年度から5年間掲載されます。事業者名、処分内容、取引類型、取扱商品、違反行為、適用条項、処分日、処分行政庁が1件ずつ載っています。
処分件数は2025年度80件、2026年度は2026年8月時点で23件です。取引類型は訪問販売・通信販売・訪問購入など全類型を含みます。買取業に関係するのは訪問購入で、直近では2026年8月4日に九州経済産業局が3社に業務停止命令9か月と指示、代表者に業務禁止命令9か月を出しています。取扱商品はいずれも宝石、貴金属、時計等の中古品です。
2025年11月26日には、消費者庁が1社に対し、勧誘・申込受付・契約締結について業務停止命令9か月を出しています。取扱商品は宝石、貴金属、時計、ブランドバッグ等の中古品でした。
古物営業法の側では、警察庁の令和7年統計で行政処分が総数874件(取消し11件、営業停止8件、指示855件)、検挙が19件・12人でした。検挙の態様別は無許可7件、身分確認3件、帳簿等記載3件ほかです。台本に落とすのは、この態様に並んでいる行為そのものです。
2026年8月4日の3社に共通する違反行為として公表されたのは6つです。氏名等の明示義務違反、書面の交付義務違反、物品の引渡しの拒絶に関する告知義務違反、勧誘の要請をしていない者への勧誘、契約を締結しない旨の意思を表示した者に対する勧誘、勧誘を受ける意思を確認しないで行う勧誘。適用条項は法第58条の5、法第58条の6第1項・第2項・第3項、法第58条の8第2項、法第58条の9です。
この6つを、そのまま6場面にします。訪問先で最初に何を告げるか、書面をいつ渡すか、引渡しの拒絶をどう告知するか、要請されていない勧誘をどこで止めるか、断られた後にどう終えるか、意思確認をどの言葉で行うか。
場面の作り方は、正しい手順をなぞる練習ではなく、飛ばしたくなる条件を入れることです。相手が急いでいる、品物を先に出してくる、他の品物も見てほしいと言われる。こうした条件を台本に書き込むと、手順を飛ばす動機がその場に生まれます。
訪問購入では、勧誘に先立って氏名、勧誘目的、購入しようとする物品の種類を告げます。相手方の自宅等での不招請勧誘は禁止され、契約締結の意思がないことを示した相手への継続勧誘・再勧誘も禁止されています。書面は申込時または締結時に交付します。処分される典型は、複雑な手口ではなく、これらの手続きの不履行です。
訪問購入のクーリング・オフは、法定書面を受け取った日から数えて8日以内です。ここまでは多くの現場が答えられます。
落ちるのは適用除外物品です。特定商取引法第26条・施行令別表第二により、二輪を除く自動車、家具、大型家電、本・CD・DVD・ゲームソフト類、有価証券はクーリング・オフの適用除外になります。
したがって、玄関先で家具や大型家電を買い取る場面で「8日以内なら戻せます」と説明すると、事実と違う説明になります。逆に、宝石や時計を買い取る場面でこの説明を省くと、告知を果たしていません。
ロールプレイングでは、品目を差し替えた同じ場面を2本用意します。1本は適用除外物品、もう1本は対象物品。台詞の分岐が体で入るまで、この2本を交互に回します。あわせて、クーリング・オフ期間内の引渡しの際に拒絶できることを告知する場面と、期間内に第三者へ引き渡した場合に相手方へ通知する場面も置きます。
| 場面 | 元になる公表内容・条文 | 飛ばしたくなる条件 | 合格の判定 |
|---|---|---|---|
| 訪問先で最初に告げる | 氏名等の明示義務違反(法第58条の5) | 相手が急いでいる、品物を先に出してくる | 氏名・勧誘目的・購入しようとする物品の種類を全部言えたか |
| 勧誘を始める前の意思確認 | 勧誘を受ける意思を確認しないで行う勧誘(法第58条の6) | 他の品物も見てほしいと言われる | 確認の言葉を省かずに言えたか |
| 断られた後の終わり方 | 契約を締結しない旨の意思を表示した者への勧誘(法第58条の6) | あと1点だけ見せてほしいと言いたくなる | 再勧誘に入らずに終えられたか |
| 書面の交付 | 書面の交付義務違反(法第58条の6) | 現地で書面が足りない | 交付の時点と記載事項を確かめて渡せたか |
| 引渡しの拒絶の告知 | 引渡しの拒絶に関する告知義務違反(法第58条の8第2項) | 相手がその場で渡そうとする | 拒絶できることを告げてから受け取ったか |
| クーリング・オフの説明 | 法定書面を受け取った日から8日以内。適用除外物品あり | 品目を確かめずに定型文を言う | 適用除外物品かどうかで台詞を分けられたか |
| 買い取らないと伝える | 景品表示法「何でも買取り」の類型(優良誤認) | 広告表現との食い違いを問われる | 状態区分・価格の基準・相場の取得日を示せたか |
| 疑いを持って手を止める | 第15条第3項の申告義務、第13条第3項の努力義務 | 場を収めたくなる | 結論を出さずに管理者へ回す言葉が出たか |
消費者庁の実態調査報告書に掲載された買取市場規模は2023年で13,274億円、チャネル別構成比は店頭買取り78.2%、出張買取り10.0%、宅配買取り9.5%です。発生頻度だけで配分すると、練習の8割が店頭になります。
ところが行政処分は訪問購入に集中しています。2026年8月4日の3社も、2025年11月26日の1社も訪問購入の処分でした。構成比10.0%のチャネルに、処分の実例が偏っています。
したがって配分は、頻度と処分の実例の両方を見ます。店頭の場面は回数を多く、訪問購入の場面は1回あたりの精度を高くする形になります。訪問購入の場面は、手順を1つ飛ばした時点で止めて、そこからやり直す進め方が合います。
宅配買取は9.5%ですが、対面でないぶん説明が文書と電話に寄ります。国民生活センターは中古自動車の相談について、買取業者に売却する際のトラブルとして強引な契約トラブルと買取後の減額トラブルもみられると説明しています。宅配の場面は、金額を伝える通話の練習として置きます。
買い取らない、または想定より低い金額しか出せないと伝える場面は、現場で最も避けられ、練習量が最も少なくなります。
表示の側から見ると、この場面は「何でも買取り」の類型に接続します。消費者庁が令和7年4月30日に公表した実態調査報告書は、何でも買取りという表示について、持ち込んだ物品の一部または全部を買い取らない場合に優良誤認にあたるとしています。広告で何でも買い取ると言い、店頭で買い取らない運用は、表示と実務が離れている状態です。
練習するのは、断る言葉ではなく、断る根拠の示し方です。状態区分のどこに当たるか、価格の基準のどの行に当たるか、参照した相場の取得日はいつか。この3つを示せると、金額の説明と断りの説明が同じ形になります。
客が持ち込んだ点数のうち一部だけを買い取る場面も入れます。全部は買えないが3点は買えると伝える手順を練習していないと、全部断るか、買えない品物まで受け取るかの二択になります。
買取後の減額は、買取業に固有のトラブルとして公的機関の説明に現れます。国民生活センターは中古自動車のカテゴリで、買取業者への売却時に買取後の減額トラブルもみられると明記しています。
減額を伝える練習より先に、減額が起きない説明の練習を置きます。査定の前に、何を見て金額を決めるか、どこに欠品や損傷があると下がるかを伝える手順です。
台本には、査定中に見つけた事象をその場で口に出す動作を入れます。裏面に傷がある、付属品が1点足りない、動作確認で1か所反応しない。見つけた時点で伝えると、最終金額を出した瞬間の落差がなくなります。
買取後に減額が要る場面も1本置きます。この場面で見るのは、いつ、何を根拠に、誰の判断で減額するかを言えるかどうかです。承認者が決まっていない状態でこの場面を回すと、担当者ごとに違う対応が定着します。
第15条第3項は、不正品の疑いがあると認めるときに直ちに警察官へ申告する義務を定めています。第13条第3項は、管理者に不正品かどうかを判断するために必要な知識、技術または経験を得させる努力義務を事業者に課しています。
判断の訓練は座学でも進みますが、止めたあとの応対は台詞がないと動きません。ロールプレイングでは、違和感を持った時点から先を練習します。品物を返すのか預かるのか、管理者を呼ぶのか、その間に相手に何と言うのか。
台詞は、相手を疑っていると告げる形にしません。確認に時間がかかること、担当者を代わること、今日は結論を出さないことを伝える形で組みます。この言い回しを決めていないと、担当者は場を収めるために取引を進めます。
場面に使う品物は、自店が扱う区分から選びます。警察庁の令和7年統計では不正品申告が総数129件で、道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件です。上位3区分の90件で約7割を占めます。写真機類と金券類は0件でしたが、これは申告に至った件数が0だったという意味であって、その区分が安全だという証拠ではありません。
実施日と参加者だけを記録すると、後から分かるのは実施した事実だけです。改善の材料にするには、場面ごとの結果を残します。
残すのは4つです。場面の識別(どの違反行為・どの手続きに対応する場面か)、止まった箇所、その場で修正した内容、次回に持ち越した課題。
止まった箇所が同じ場面に集中しているなら、それは個人の習熟ではなく手順書の側の問題です。手順書に書かれていない分岐が、その場面にあります。ここが査定マニュアルの改定を起こす事象になります。
記録は営業所ごとに保管します。第13条第1項が営業所および古物市場ごとに管理者を1人選任することを義務づけているため、実施と記録の単位も営業所に揃えると引き継ぎが成立します。管理者が交代したときに、その営業所で何を練習してきたかがそのまま残ります。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 台本の場面を、公表されている行政処分の違反行為に対応づけているか |
| 2 | 訪問購入の6つの違反行為(氏名等の明示/書面交付/引渡しの拒絶の告知/不招請勧誘/再勧誘/意思確認しない勧誘)に、それぞれ場面があるか |
| 3 | クーリング・オフの説明を、適用除外物品(二輪を除く自動車、家具、大型家電、本・CD・DVD・ゲームソフト類、有価証券)とそれ以外で分けて練習しているか |
| 4 | 場面ごとに「手順を飛ばしたくなる条件」を台本に書き込んでいるか |
| 5 | 店頭・出張・宅配の場面配分を、構成比(78.2%/10.0%/9.5%)と処分の偏りの両方から決めているか |
| 6 | 買い取らない、または低い金額しか出せないと伝える場面の練習量が、他の場面より多いか |
| 7 | 減額の説明を、査定後ではなく査定前の説明として練習しているか |
| 8 | 疑いを持って手を止めたあとの台詞(結論を出さない・管理者へ回す)が決まっているか(第15条第3項) |
| 9 | 場面に使う品物を、自店が扱う古物の区分から選んでいるか |
| 10 | 実施記録に、場面の識別・止まった箇所・その場の修正・持ち越した課題の4つを残しているか |
正しい手順をなぞるだけの台本を作り、飛ばしたくなる条件が入っていない失敗が起きます。2026年8月4日に九州経済産業局が3社に出した業務停止命令9か月の違反行為は、氏名等の明示義務違反、書面の交付義務違反、物品の引渡しの拒絶に関する告知義務違反、不招請勧誘、再勧誘、意思確認しない勧誘の6つでした。いずれも手順を知らなかったのではなく、飛ばした結果です。相手が急いでいる、品物を先に出してくるといった条件を台本に書き込まないと、練習になりません。
クーリング・オフを「8日以内」とだけ覚えさせ、適用除外物品で誤った説明をする失敗があります。特定商取引法第26条・施行令別表第二により、二輪を除く自動車、家具、大型家電、本・CD・DVD・ゲームソフト類、有価証券は適用除外です。家具や大型家電の訪問購入で「8日以内なら戻せます」と説明すれば事実と違う説明になり、宝石や時計で説明を省けば告知を果たしていません。品目を差し替えた同じ場面を2本用意して、台詞の分岐まで練習します。
実施日と参加者だけを記録し、どこで止まったかが残らないまま回数だけ積む失敗が起きます。同じ場面で複数の担当者が止まっているなら、それは習熟の問題ではなく、手順書に分岐が書かれていない状態です。場面の識別、止まった箇所、その場で修正した内容、持ち越した課題の4つを残すと、記録がそのまま査定マニュアルの改定材料になります。第13条第1項で営業所ごとに管理者を選任している以上、記録の保管単位も営業所に揃えます。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| ロールプレイングの場面はどこから探せばよいですか | 消費者庁の特定商取引法ガイド「執行状況」に、行政処分が1件ずつ公表されています。事業者名、処分内容、取引類型、取扱商品、違反行為、適用条項、処分日、処分行政庁が載り、処分日の属する年度の翌年度から5年間掲載されます。処分件数は2025年度80件、2026年度は2026年8月時点で23件です。訪問購入の事例を抜き出すと、どの手続きを飛ばして止められたかがそのまま場面になります。事業者名・処分内容で検索できるデータベースもあり、CSVで出力できます。 |
| 何時間くらい実施すればよいですか | 研修時間の業界平均は公表されていないため、時間では答えられません。決められるのは場面の数と配分です。訪問購入の処分事例に並ぶ6つの違反行為に1場面ずつ、クーリング・オフは適用除外物品とそれ以外で2場面、買い取らないと伝える場面、減額の説明、疑いを持って止める場面を足して、10前後になります。チャネルの構成比は店頭78.2%、出張10.0%、宅配9.5%ですが、行政処分は訪問購入に偏っています。頻度と処分の偏りの両方から配分してください。 |
| 店頭中心の店でも訪問購入の場面を練習する意味がありますか | 出張買取を行うなら意味があります。行わないなら訪問購入の規制は適用されません。ただし店頭中心でも、客の自宅へ引き取りに行く場面が生じるなら訪問購入に当たります。古物営業法第14条第1項は、営業所または取引の相手方の住所・居所以外の場所では、古物商以外の者から古物を受け取ってはならないと定めています。仮設店舗は日時と場所を事前に管轄公安委員会へ届け出れば可能です。自店がどの場所で受け取るのかを先に整理してから、場面を選んでください。 |
| 新人にはどの場面から始めればよいですか | 買い取らないと伝える場面からです。この場面は現場で最も避けられ、練習量が最も少なくなります。断る言葉ではなく、断る根拠(状態区分、価格の基準の該当行、参照した相場の取得日)を示す練習にします。次に、疑いを持って手を止めたあとの台詞を置きます。第15条第3項は不正品の疑いがあると認めるときの申告を義務づけており、この判断は現場で瞬間的に行われます。結論を出さずに管理者へ回す言い回しを、先に持たせてください。 |
| 古物商等管理者講習を受ければ、店内の研修は省けますか | 誰が受けなければならないのか、受講が義務なのかという範囲について、確認できる一次情報がありません。受講の要否と対象者は管轄の警察署で確認してください。確認できる範囲では、第13条第3項は事業者に対する努力義務で、特定の講習の受講を要件として定めてはいません。警察庁の令和7年統計では、古物商等管理者講習は150回・19,602人(うち自動車47回・4,618人)に実施されています。年に1回の外部講習と、日々の取引で瞬間的に行われる判断の訓練は、置き換えられません。 |
| ロールプレイングの効果はどう測ればよいですか | 査定額では測りません。買取業は査定額がそのまま仕入原価になるため、金額を成果にすると原価を上げる方向に働きます。測るのは、場面ごとに止まった件数の推移、書面や記帳の不備件数、疑義を申し送った件数です。あわせて、値付けから売却までの日数を見ます。中小小売業(法人企業)の在庫回転期間は全体33.5日、従業者5人以下55.9日、6〜20人32.6日でした。買取業に限った統計ではないため、同規模の小売業との比較として使ってください。 |
この解決策が打ち手になりうる課題を18件挙げます。


















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