
買取業では、査定額として提示した金額がそのまま仕入原価になります。仕入先の提示価格を受け入れる一般の小売と違い、原価を決める権限が現場の担当者の手元にあります。マニュアルを整備するというのは、この権限に様式を与える作業です。
この見方に立つと、書く順序が変わります。応対の言葉づかいや説明の流れは、原価に対して直接の効き目を持ちません。先に決めるのは、いくらで買うかを何から導くか、その根拠を誰がどこに残すか、そして幅を外すときに誰が承認するかです。
物差しとして中小企業実態基本調査(令和6年確報・法人企業・小売業、母集団は法人企業236,813社)を置けます。買取業に限った統計ではないので範囲を明示しますが、中小小売業の粗利率は全体29.8%、従業者5人以下31.7%、6〜20人31.2%です。自店の粗利率をここに当てると、現場が置いている原価の水準が同規模の小売業に対してどのあたりかが見えます。
同じ調査の在庫回転期間は、全体33.5日、5人以下55.9日、6〜20人32.6日です。5人以下だけが1.7倍の日数をかけて在庫を現金に戻しています。原価を決める様式を作るときは、決めた原価が回収されるまでにこれだけの日数がかかることを前提に置きます。
査定にまつわる文書は、性質の違う2種類が混ざります。片方は古物営業法が定める手続きで、担当者による差を一切認められません。もう片方は品目ごとの値付けの判断で、こちらは幅を持つことが前提になります。
前者に入るのは、第15条第1項の相手方の確認、第15条第3項の不正品の疑いがあると認めるときの警察官への申告、第16条の帳簿記載、第18条第1項の3年間の備付け、第18条第2項のき損・亡失時の届出です。第33条第1号は第15条第1項と第18条第1項の違反に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を、第33条第2号は第16条・第17条の記載義務違反と虚偽記載に同じ罰を定めています。
後者は、品目ごとの状態区分、参照する相場、差し引く費用、提示の幅です。ここに「原則として」「おおむね」といった語が入るのは自然なことで、逆に前者にこの語が入ると手順が壊れます。
1冊に混ぜると、改定の速度も噛み合いません。手続きの手順は法令や規則が変わったときにだけ直します。品目の判断基準は扱う商材が変わるたびに直します。更新の周期が違う内容を同じ冊子に置くと、片方の改定のたびに全体の版が上がり、現場が最新版を追えなくなります。
第16条は、古物を受け取ったとき、または引き渡したときに、その都度帳簿等へ記載する義務を定めています。記載事項は、取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条第1項でとった措置の区分の5つです。
この5項目は、第18条第1項によりどの店にも3年分あります。査定票をゼロから設計するより、この5欄を固定欄として先に置き、その右側に自店の欄を足すほうが早く、記帳漏れも減ります。
追加する欄は3つで足ります。参照した相場とその取得日、状態区分の判定結果、そして提示額です。第16条の記載事項に買取金額は含まれていないため、提示額の欄は自店で作らない限りどこにも残りません。価格の運用実績を法定帳簿から追おうとしても、材料が入っていません。
「古物の特徴」の書き方は、マニュアルで様式化します。型番、付属品の有無、状態区分の記号という並びを決めておけば、3年分の帳簿がそのまま担当者間の比較材料になります。書き方が担当者ごとに違うと、帳簿はあっても突き合わせができません。
| 文書 | 許容する差 | 根拠 | 改定を起こす事象 | 保存・配備 |
|---|---|---|---|---|
| 手続きの手順書(確認・記帳・保存・申告) | 認めない | 第15条第1項・第3項、第16条、第18条第1項・第2項 | 法令・規則の改正、処分事例の公表 | 営業所ごとに現物 |
| 査定票の様式 | 記入形式は認めない | 第16条の記載5項目に自店欄を追加 | 扱う区分の追加、帳簿の記入ゆれ | 帳簿は最終記載の日から3年 |
| 買い取らなかった査定の様式 | 内容は幅を持つ | 法定義務なし。自店で作る | 不成約率の変化、価格の改定 | 自店の保存規程による |
| 品目別の判断基準 | 幅を持たせる | 自店の帳簿と販売実績 | 相場の変動、販売チャネルの変更 | 営業所ごとに現物 |
| 表示・提示の文言 | 認めない | 景品表示法。令和6年4月18日の運用基準3⑷ | 運用基準・実態調査の公表 | 掲示物と同時に更新 |
古物営業法の区分は13あり、警察庁の令和7年統計では区分別の不正品申告が総数129件でした。道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件、事務機器類5件、美術品類4件、皮革・ゴム製品類4件、衣類・自動車・自動二輪車等・自転車類が各2件、写真機類と金券類は0件、その他1件です。
マニュアルの品目別の章は、自店が実際に扱う区分だけ作ります。上位3区分の道具類・時計宝飾品類・機械工具類だけで90件、全体の約7割です。扱う区分がここに入るなら、真贋と盗品の判断に割く記述量を厚くします。
0件の区分について「安全」と書かないでください。写真機類と金券類が0件なのは、申告に至った件数が0だったという意味です。申告されなかった取引の中身までは、この統計からは分かりません。
件数は全国計で、都道府県別の内訳はありません。自店で起きる確率としても読めません。使えるのは区分間の濃淡までで、章の分量を決める材料として置きます。
第16条の記帳義務は、古物を受け取ったとき、または引き渡したときに発生します。買い取らなかった取引、客が提示額に応じなかった取引は、この義務の対象外です。
結果として、法定帳簿に残るのは成約した取引だけになります。査定票の様式を成約分だけに用意すると、提示額が低すぎて客が帰った件は、店のどの記録にも残りません。
買い取らなかった査定の様式に要るのは4欄です。日付、品目、提示額、そして不成約の理由(客の辞退/自店が買い取らないと判断/保留)。相手方の確認措置をとっていない取引なので、ここに氏名や住所の欄を作らないという判断も同時にします。
この様式を月単位で集計すると、品目ごとの不成約率が出ます。不成約が極端に多い品目は、価格の水準が実勢と離れているか、その品目の判断基準がマニュアルに書かれていないかのどちらかです。どちらであるかは、査定票の「参照した相場」欄が埋まっているかどうかで分かれます。
「年1回見直す」という決め方は、改定が要る時期と一致しません。マニュアルの改定は、事象が起きたときに始めます。
事象は5つです。扱う区分を増やしたとき、法令・規則が変わったとき、行政の処分事例や運用基準が公表されたとき、不正品の疑いで手を止めた事例が出たとき、そして販売チャネルを変えたときです。
法令の側では、2022年の刑法改正で懲役・禁錮が拘禁刑へ一本化され、2025年6月1日に施行されました。罰則を引用している教材や手順書は、古い表記のまま残っていることがあります。改正の施行が、改定を起こす事象です。
表示の側では、消費者庁が令和6年4月18日に「景品類等の指定の告示の運用基準について」を改定し、買取サービスも景品表示法の規制対象になり得ることを明確化しました。運用基準3⑷は、査定するなどして物品等を金銭と引き換える役務を提供していると認められる場合に「自己の供給する役務の取引」に当たると規定しています。査定額の提示方法を書いた章は、この改定を反映しているかを確認します。
マニュアルの整備は、人件費と外注費で進みます。公的支援を当てにする場合、どの制度が何を見るかを先に分けます。
デジタル化・AI導入補助金2026(正式名称は中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金、旧称IT導入補助金)の通常枠は、必須の対象経費がソフトウェア購入費とクラウド利用料(最大2年分)で、任意の対象経費に導入設定・マニュアル作成・導入研修が含まれます。補助額は業務プロセス1つ以上で5万円以上150万円未満、4つ以上で150万円以上450万円以下、補助率は1/2以内です。
つまり、マニュアル作成だけを取り出して申請することはできません。査定ツールや在庫管理システムの導入に伴うマニュアル整備という形になります。締切は回次ごとに変わるため、公式ページで最新を確認してください。
小規模事業者持続化補助金(一般型 通常枠)は補助率2/3・上限50万円で、商業・サービス業なら常時使用する従業員5人以下が対象です。ただしガイドブックは、汎用性が高く目的外使用になりうるものとしてパソコン等を明示して対象外にしています。査定用のパソコンやタブレットは、こちらでは賄えません。
第13条第1項は、営業所および古物市場ごとに管理者を1人選任する義務を定めています。第13条第2項により、未成年者や第4条第1号から第7号の欠格事由に当たる者は管理者になれません。
第13条第3項は、その管理者に不正品かどうかを判断するために必要な知識、技術または経験を得させる努力義務を事業者に課しています。マニュアルは、この努力義務を満たすために事業者が用意した手段のひとつとして位置づけられます。
配備の単位は営業所です。第18条第1項が帳簿等を営業所等に備え付けることを求めているのと同じで、現物または即座に参照できる状態のものが、その営業所になければ運用されません。本部のサーバーにだけ最新版があり、店頭には旧版の紙が置かれている状態が最も起きます。
版管理には、版数、施行日、改定した箇所、改定を起こした事象の4つを残します。事象まで残しておくと、法令改正をどこで反映したかを後から追えます。管理者が交代したときは、この記録がそのまま引き継ぎ資料になります。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 手続きの手順書と品目別の判断基準を、別の文書として分けているか |
| 2 | 査定票に第16条の記載5項目(取引の年月日/品目及び数量/古物の特徴/相手方の住所・氏名・職業・年齢/第15条第1項でとった措置の区分)を固定欄として置いているか |
| 3 | 「古物の特徴」の記入形式(型番・付属品・状態区分)を様式で決めているか |
| 4 | 提示額の欄を自店で作っているか。第16条の記載事項に買取金額は含まれない |
| 5 | 買い取らなかった査定の様式(日付・品目・提示額・不成約の理由)があるか |
| 6 | 品目別の章を、扱う区分の数だけに絞っているか。扱わない区分の記述で分量を稼いでいないか |
| 7 | 1万円未満でも確認と記帳が要る7品目のうち、自店が扱うものを手順書に明記しているか(施行規則第16条第1項・第2項) |
| 8 | 改定を起こす事象を列挙しているか。日付だけの見直し規定になっていないか |
| 9 | 罰則の引用が「拘禁刑」に更新されているか(2025年6月1日施行) |
| 10 | 版数・施行日・改定箇所・改定の契機を残し、営業所ごとに現物を配備しているか |
接客の言葉づかいから書き始めて、原価の決め方が最後まで書かれないまま完成する失敗が起きます。買取業は査定額がそのまま仕入原価になるため、値付けの根拠と承認の経路が書かれていないマニュアルは、原価について何も管理していません。中小企業実態基本調査では中小小売業(法人企業)の粗利率が全体29.8%、従業者5人以下31.7%、6〜20人31.2%です。粗利率が下がったときの原因は仕入コストの高騰ではなく、自店が買取価格を上げた結果になります。どの欄を埋めれば原価が決まるのかを、目次の最初に置いてください。
法定手続きと値付けの判断を1冊に混ぜ、改定のたびに全体の版が上がって現場が最新版を追えなくなることがあります。第15条第1項・第16条・第18条第1項の手続きは差を認めない領域で、違反は第33条第1号・第2号により6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象です。一方、品目別の判断基準は扱う商材が変わるたびに直します。更新の周期が違うものを同じ冊子に綴じると、手続きの改定が値付けの改定に埋もれます。
全13区分を網羅した分厚いマニュアルを作り、扱っていない区分の記述に時間を使う失敗があります。令和7年の不正品申告は総数129件で、道具類37件・時計宝飾品類31件・機械工具類22件の上位3区分だけで90件、約7割を占めます。写真機類と金券類は0件でした。ただし0件は申告に至った件数が0だったという意味であって、その区分が安全だという証拠ではありません。網羅ではなく、自店の取扱区分に合わせた濃淡で作ります。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 査定マニュアルは古物営業法で作ることが義務づけられていますか | マニュアルそのものを作る義務は定められていません。定められているのは、第13条第1項の営業所ごとの管理者選任、第13条第3項の管理者に不正品の判断に必要な知識・技術・経験を得させる努力義務、第15条第1項の相手方の確認、第15条第3項の疑いがあるときの申告、第16条の記帳、第18条第1項の3年間の備付けです。マニュアルは、これらを担当者が実行できる状態にするために自店で用意する手段にあたります。第33条第1号・第2号の罰則は文書の有無ではなく、手続きの不履行に対してかかります。 |
| 何ページくらいのものを作ればよいですか | 分量の業界平均は公表されていないため、ページ数では答えられません。決められるのは範囲のほうです。法定手続きの手順書は自店が行う取引形態の数だけ(店頭・出張・宅配)、品目別の判断基準は自店が扱う古物の区分の数だけ作ります。令和7年の不正品申告は道具類37件・時計宝飾品類31件・機械工具類22件・書籍17件で、上位3区分が総数129件のうち90件を占めます。この区分を扱うなら真贋と盗品の記述を厚くし、扱わない区分の章は作りません。 |
| 査定額の目安をマニュアルに書き込んでもよいですか | 社内文書として書くこと自体に制限はありません。ただし、その数字が客の目に触れる形になった時点で景品表示法の表示になります。消費者庁は令和6年4月18日に運用基準を改定し、査定して金銭と引き換える役務の提供と認められる場合は「自己の供給する役務の取引」に当たると3⑷で明確化しました。令和7年4月30日公表の実態調査報告書は、買取参考価格・買取実績価格、買取価格アップ、買取価格保証、何でも買取り、どこよりも高く買取りの5類型を問題になりやすい表示として整理しています。社内基準と対外表示は別の文書に分けてください。 |
| 適正な掛け率は何%と書けばよいですか | 品目別の適正な掛け率を示した公的データはありません。書けるのは自店の実測値です。査定票に参照した相場とその取得日、提示額、そして販売時の実売価格を残せば、品目ごとに実際の掛け率と、値付けから売却までの日数が出ます。物差しとしては、中小小売業(法人企業)の在庫回転期間が全体33.5日、従業者5人以下55.9日、6〜20人32.6日であることを置けます。買取業に限った統計ではないので、適正値ではなく同規模の小売業との比較として使ってください。 |
| マニュアルの作成費に補助金は使えますか | デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)の通常枠は、任意の対象経費に導入設定・マニュアル作成・導入研修を含んでいます。ただし必須の対象経費はソフトウェア購入費とクラウド利用料(最大2年分)なので、マニュアル作成だけでは申請できません。補助額は業務プロセス1つ以上で5万円以上150万円未満、4つ以上で150万円以上450万円以下、補助率1/2以内です。小規模事業者持続化補助金(一般型 通常枠、補助率2/3・上限50万円、商業・サービス業は従業員5人以下)ではパソコン等が対象外と明記されています。締切と要件は回次ごとに変わるため、公式ページで確認してください。 |
| 多店舗の場合、マニュアルは本部で一本化すべきですか | 内容は一本化できますが、配備は営業所単位で行います。第13条第1項が営業所ごとの管理者選任を義務づけ、第18条第1項が帳簿等を営業所等に備え付けることを求めているため、手続きの手順書は各営業所で参照できる状態にしておく形になります。版数・施行日・改定箇所・改定の契機を記録しておけば、管理者の交代時にそのまま引き継げます。なお令和2年4月1日施行の改正で許可は主たる営業所等の所在地を管轄する公安委員会の1件に一本化されているため、営業所の数と許可の件数は別に管理してください。 |
この解決策が打ち手になりうる課題を18件挙げます。


















扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。査定マニュアルの整備をジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


