
先行店舗を見に行くと、品揃え、値札、陳列、客の入り、接客が観察できます。このうち原価に関わる情報は1つもありません。 買取業では仕入原価が査定額で決まり、査定は客と店の間で個別に成立します。店頭に出ている売価から、その品物をいくらで買ったかは分かりません。
一般の小売業なら、売価と流通の相場からおおよその仕入価格を推測できます。買取業ではこの推測が成り立ちません。 同じ品物でも、混雑した日と暇な日で査定額が変わり、在庫が厚い品目と薄い品目でも変わります。店側が原価を動かせるからです。
したがって、視察で「この店は儲かっていそうだ」と判断する根拠は、店頭には落ちていません。粗利率も、在庫回転も、販路の構成も、店頭からは見えません。 見えたものだけで判断すると、値付けと陳列の模倣に終わります。
視察に行く価値がないという意味ではありません。見えるものと見えないものを先に分けておけば、見えるものから何を確定させるかが決まります。 次節から、確実に確認できるものを挙げます。
古物営業法第12条第1項は、営業所・仮設店舗・古物市場ごとに、公衆の見やすい場所へ国家公安委員会規則で定める様式の標識を掲示する義務を定めています。掲示の対象は公衆なので、店に入れる場所であれば読めます。許可の有無、許可をした公安委員会、許可証の番号が、外から確認できる形になっています。
第12条第2項は、事業規模が著しく小さい場合等を除き、氏名または名称、許可をした公安委員会の名称、許可証の番号をインターネット上で公衆の閲覧に供する義務を定めています。店に行かなくても、サイトを見れば同じ情報に当たれます。第12条違反は第35条第2号により10万円以下の罰金です。
この2つは、視察の対象を選ぶときの最初のふるいになります。標識が掲示されておらず、サイトにも許可番号がない店は、比較対象として扱えません。 逆に、両方が揃っている店は、営業の形が条文に沿って設計されている可能性が高くなります。
確認できる項目はもう1つあります。第13条第1項は営業所ごとに管理者を1人選任する義務を定めていますが、管理者の氏名は標識の記載事項ではありません。 誰が管理者かは外から分かりません。分かるのは、営業所として届け出られているかどうかまでです。
視察の方法として、店内の写真を撮る、実際に品物を持ち込んで査定を受ける、店員に条件を尋ねる、といった手段が語られることがあります。これらの行為が許されるかどうかについて、確認できる一次情報がありません。
施設の管理権に基づく制限、店舗ごとの掲示、撮影に関する取り決めは、店舗ごとに違います。公表された共通のルールがないため、「撮影してよい」とも「してはならない」とも書けません。 断定を避けるのは、根拠がないからです。
同じ理由で、競合他社に品物を持ち込んで査定を受ける調査手法についても、可否を示しません。古物営業法の条文には、他の古物商の店舗を訪れる行為を制限する規定も、認める規定もありません。 個別の場面で問題になり得るのは、店舗側の管理権や取引上の信義に関わる部分で、これは条文で一律に決まる領域ではありません。
書けるのは、確認できる範囲までです。第12条第1項の標識は公衆の見やすい場所に掲示されているため、許可の有無と番号は外から確認できます。 視察の設計は、この確認できる範囲を土台にして組み立ててください。
| 見たいこと | 店頭・外部から確認できるか | 代わりに使えるもの |
|---|---|---|
| 古物商の許可を持っているか | できる | 第12条第1項の標識(公衆の見やすい場所に掲示)。許可した公安委員会と許可証番号を確認できる |
| 許可の情報をサイトで公表しているか | できる | 第12条第2項のインターネット公表。氏名または名称・公安委員会の名称・許可証番号。違反は第35条第2号で10万円以下の罰金 |
| 管理者が誰か | できない | 第13条第1項の選任義務はあるが、氏名は標識の記載事項ではない |
| いくらで買ったか(仕入原価) | できない | 査定額がそのまま原価になり、売価から逆算できない。粗利率の目安は5人以下31.7%・6〜20人31.2%・小売業全体29.8% |
| 在庫が入れ替わっているか | できない | 自店の第16条の帳簿から受取〜引渡しの日数を実測。中小小売業は55.9日/32.6日/33.5日 |
| 販路の構成 | できない | 店頭・古物市場・法人卸・自社ECの比率は外から見えない。売り場の広さと回転は対応しない |
| 買取価格の水準 | 表示されている範囲のみ | サイト・店頭掲示・チラシに表示された価格を、取得日と条件つきで記録する |
| 商圏内の事業者数 | 公的統計では出せない | 許可件数615,194件(令和7年末・前年比+42,170件)は全国計のみ。都道府県別の内訳は公表されていない |
視察で見えないものを具体的に3つ挙げます。1つ目は原価です。 前述のとおり査定額が原価になるため、売価から逆算できません。中小企業実態基本調査(令和6年確報)の法人企業・小売業では、粗利率は従業者5人以下で31.7%、6〜20人で31.2%、小売業全体で29.8%ですが、これは決算から出る値であって店頭から出る値ではありません。
2つ目は在庫回転です。 同じ在庫量に見えても、入れ替わっているのか滞留しているのかは、1回の訪問では分かりません。在庫回転期間は従業者5人以下で55.9日、6〜20人で32.6日、小売業全体で33.5日、在庫回転率は6.53回、11.19回、10.90回です。規模帯で1.7倍の差があり、粗利率がほぼ同じでも営業利益率は0.2%対1.5%と大きく開きます。 差がついているのは粗利の取り方ではなく、在庫が現金に変わる速度です。
3つ目は販路です。 買い取った品物のうち、店頭で売る割合、古物市場に出す割合、法人に卸す割合、自社ECで売る割合は、店頭からは見えません。売り場に出ていない品目ほど、この構成が効きます。売り場が狭くても回転が速い店と、売り場が広くても滞留している店は、外観からは区別できません。
この3つが見えない以上、視察の結論は「あの店のやり方が正しい」ではなく「あの店ではこう見えた」までです。 判断に使う数字は、自店から作ることになります。
他店を見る作業には、集客とは別の意味があります。自店が買取価格に関する表示を行うとき、その根拠として競合の調査記録が要る場合があるためです。
消費者庁は令和6年4月18日に「景品類等の指定の告示の運用基準について」を改定し、買取サービスも景品表示法の規制対象になり得ることを明確化しました。令和7年4月30日の「買取サービスに関する実態調査報告書」は、問題になりやすい表示を5類型に整理しています。買取参考価格・買取実績価格、買取価格アップ、買取価格保証、何でも買取り、どこよりも高く買取りの5つです。
報告書が名指ししている例のうち、視察と直接関係するものがあります。「買取価格地域No.1」と表示しながら、競合他社の買取価格を何ら調査していない場合は問題とされています。 つまり、比較優位を主張する表示を行うなら、調査した記録が社内に残っている形になります。
記録に残せるのは、公表されている表示です。 他店のサイトに掲載された買取価格の表、店頭に掲示された価格の表示、配布されているチラシ。取得した日付と、どの品目・状態の条件で示された価格かを添えて保存します。査定を受けて得た金額を記録に使えるかどうかは、前述のとおり判断を示しません。 表示された価格の記録だけでも、5類型に照らして自店の表現を点検する材料にはなります。
視察対象を選ぶ前提として、事業者の数を押さえておきます。警察庁「令和7年中における古物営業・質屋営業の概況」によると、令和7年末の古物商等(古物商+古物市場主)の許可件数は615,194件(前年比+42,170件)です。うち古物市場主は1,076件、古物競りあっせん業の届出は170件です。
ここで注意する点があります。 平成30年の789,345件から令和2年の396,378件へ半減しているように見えますが、これは実数の減少ではありません。令和2年4月1日施行の改正で、許可の単位が「営業所等の所在する都道府県ごと」から「主たる営業所等の所在地を管轄する公安委員会」の1件に改められたためです。改正前後をつなげて「市場が半分になった」と読まないでください。
令和2年以降は毎年増加が続いており、令和2年の395,526件から令和7年の614,118件まで5年で55%増えています。許可を持つ事業者は増え続けている、というところまでが読める内容です。 ただしこの数は許可の件数であって、店舗の数ではありません。
都道府県別の内訳も存在しません。この資料は全国計のみで、県別の許可件数は公表されていません。「自分の県に何社あるか」を公的統計から出すことはできません。 商圏内の事業者数を把握したい場合は、公的統計以外の材料で組む前提になります。
視察の記録をそのまま社内資料にしても、判断材料になりません。当てる先は自店の実測値です。そしてその材料は、法令上必ず存在します。
古物営業法第16条は、古物を受け取ったとき・引き渡したときに、そのつど帳簿等へ記載する義務を定めています。記載事項は、取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条第1項でとった措置の区分の5つです。第18条第1項により、最終記載の日から3年間、営業所等に備え付けます。電磁的記録の場合も3年間、直ちに書面に表示できる状態で保存します。
取引の年月日と品目・数量があるため、受け取った日から引き渡した日までの日数を品目別に出せます。 これが在庫回転期間の実測値になり、中小小売業の従業者5人以下55.9日、6〜20人32.6日、小売業全体33.5日と突き合わせられます。判断の線は、56日を超えていれば同規模の小売業平均より滞留している、粗利率が30%を下回っていれば小売業平均を下回っている、の2本です。
視察で観察したことは、この数字に対する仮説として扱えます。「あの店は品目を絞っていた」なら、絞ることで自店の回転が何日縮むかを帳簿の実測値で試算する。「あの店は買取価格を掲示していた」なら、掲示した場合に持ち込み点数と査定額がどう動くかを記録して比べる。 観察を仮説に変え、仮説を自店の数字で検証する。この形にすれば、見えない3つを見たつもりにならずに済みます。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 視察の目的を、値付けと陳列の観察ではなく、確定させたい問い1つに絞ったか |
| 2 | 対象店舗の標識が掲示されているかを確認したか(第12条第1項) |
| 3 | 対象店舗のサイトに、許可した公安委員会の名称と許可証番号があるかを確認したか(第12条第2項) |
| 4 | 店頭の売価から仕入原価を逆算しようとしていないか |
| 5 | 在庫の入れ替わりを1回の訪問で判断しようとしていないか |
| 6 | 販路の構成(店頭・古物市場・法人卸・自社EC)が外からは見えないことを前提にしているか |
| 7 | 他店に表示されている買取価格を、取得日と品目・状態の条件つきで記録したか |
| 8 | 自店で比較優位を主張する表示を行う場合、調査記録が社内に残る形になっているか |
| 9 | 許可件数の時系列を、令和2年4月1日の改正をまたいでつなげて読んでいないか |
| 10 | 商圏内の事業者数を、公的統計から出せると考えていないか |
| 11 | 観察した内容を、自店の帳簿の実測値で検証できる仮説の形に書き換えたか |
| 12 | 自店の在庫回転期間を品目別に実測し、55.9日・32.6日・33.5日と突き合わせたか |
店頭の売価と品揃えから、その店の粗利や採算を推測する状態です。買取業は仕入原価を自分で決められる商売で、査定額がそのまま原価になります。同じ品物でも混雑度や在庫の厚みで査定額が変わるため、売価から仕入価格を逆算できません。中小小売業の粗利率は従業者5人以下31.7%、6〜20人31.2%、小売業全体29.8%ですが、これは決算から出る値であって店頭から出る値ではありません。視察の結論は「あの店のやり方が正しい」ではなく「あの店ではこう見えた」までにとどめ、判断に使う数字は自店の帳簿から作ってください。
1回の訪問で在庫の量を見て、回転しているかどうかを判断する状態です。在庫が入れ替わっているのか滞留しているのかは、同じ棚を時間をおいて見なければ分かりません。中小小売業の在庫回転期間は従業者5人以下で55.9日、6〜20人で32.6日と1.7倍の差があり、粗利率は31.7%と31.2%でほぼ同じなのに営業利益率は0.2%と1.5%です。差がついているのは在庫が現金に変わる速度です。さらに販路の構成が外から見えないため、売り場が狭くても回転が速い店と、広くても滞留している店は外観で区別できません。
許可件数の推移をそのまま市場の増減として読む状態です。警察庁の概況では、平成30年の789,345件から令和2年の396,378件へ半減しているように見えますが、これは令和2年4月1日施行の改正で許可の単位が都道府県ごとから主たる営業所を管轄する公安委員会の1件へ改められたためで、実数の減少ではありません。改正前後をつなげて比較しないでください。令和2年以降は増加が続き、令和7年末は615,194件(前年比+42,170件)です。また、この資料に都道府県別の内訳はなく、商圏内の事業者数を公的統計から出すことはできません。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 他店の店内で写真を撮ってもよいですか | このページでは可否を示しません。店舗ごとの管理権に基づく制限や掲示は店舗によって違い、公表された共通のルールが確認できないためです。古物営業法の条文にも、他の古物商の店舗を訪れる行為や撮影を制限する規定、認める規定はありません。根拠のない断定を避ける趣旨です。外から確実に確認できるのは、第12条第1項により公衆の見やすい場所へ掲示されている標識と、第12条第2項によりインターネット上で公衆の閲覧に供されている氏名または名称・許可をした公安委員会の名称・許可証番号です。視察の設計は、この確認できる範囲を土台にしてください。 |
| 競合店に品物を持ち込んで、査定を受けて調べてもよいですか | 可否についての判断は示しません。確認できる一次情報がなく、古物営業法にもこの行為を制限する規定や認める規定がないためです。個別の場面で問題になり得るのは店舗側の管理権や取引上の信義に関わる部分で、条文で一律に決まる領域ではありません。記録として確実に使えるのは、公表されている表示です。他店のサイトに掲載された買取価格の表、店頭に掲示された価格、配布されているチラシを、取得した日付と、どの品目・状態の条件で示された価格かを添えて保存する形にしてください。 |
| 視察でどこまで分かりますか | 確認できるのは、許可の有無と番号(第12条第1項の標識、第12条第2項のインターネット公表)、品揃え、陳列、売価、店の立地と動線までです。分からないのは3つあります。第一に仕入原価。買取業は査定額がそのまま原価になるため、売価から逆算できません。第二に在庫回転。1回の訪問では入れ替わっているか滞留しているかを判別できません。第三に販路の構成で、店頭・古物市場・法人卸・自社ECの比率は外から見えません。この3つは自店の帳簿からしか作れない数字です。 |
| 視察の内容を、自店の判断にどう使えばよいですか | 観察を仮説に変え、自店の数字で検証してください。古物営業法第16条の帳簿には取引の年月日と品目及び数量が記載され、第18条第1項により最終記載の日から3年間備え付けられています。受取日から引渡日までの日数を品目別に出せば在庫回転期間の実測値になり、中小小売業の従業者5人以下55.9日、6〜20人32.6日、小売業全体33.5日と突き合わせられます。「品目を絞っていた」という観察なら、絞った場合に自店の回転が何日縮むかを試算する。「買取価格を掲示していた」なら、掲示した場合に持ち込み点数と査定額がどう動くかを記録して比べる、という使い方になります。 |
| 商圏内に買取店が何社あるかを調べる方法はありますか | 公的統計からは出せません。警察庁「令和7年中における古物営業・質屋営業の概況」は全国計のみで、都道府県別の内訳がありません。令和7年末の古物商等の許可件数は615,194件(前年比+42,170件)で、うち古物市場主は1,076件です。またこの数は許可の件数であって店舗の数ではありません。加えて、平成30年から令和2年にかけて数字が半減しているのは令和2年4月1日施行の改正で許可の単位が変わったためで、実数の減少ではないため、改正前後をつなげて読まないでください。商圏内の事業者数は、公的統計以外の材料で組む前提になります。 |
| 他店より高く買い取っていると広告に書きたいのですが、視察の記録は根拠になりますか | 消費者庁「買取サービスに関する実態調査報告書」(令和7年4月30日)は、問題になりやすい表示を5類型に整理し、そのうち「どこよりも高く買取り」について、「買取価格地域No.1」と表示しながら競合他社の買取価格を何ら調査していない場合を問題として挙げています。調査した記録が社内に残っている形が前提になります。記録に使えるのは、他店のサイト・店頭掲示・チラシで公表されている価格を、取得日と品目・状態の条件つきで保存したものです。査定を受けて得た金額を記録に使えるかどうかについては、前述のとおり判断を示しません。 |
この解決策が打ち手になりうる課題を24件挙げます。
























扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。先行店舗の視察をジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


