
査定マニュアルを作ろうとすると、品目ごとの状態区分と参照する相場を並べる作業から入りがちです。ところが、その相場をどこから取り、いくら差し引くかは、自店の売却先と販路が決まって実際に売れてみないと確定しません。品目別の買取相場を示せる公表データは存在しないため、外から数字を借りてくることもできません。
開業前に確定できるのは、法令が決めている部分です。どこで古物を受け取れるか、誰から受け取るときに何を確認するか、受け取ったときに何を書くか、疑いを持ったときにどうするか。これらは店の実績とは無関係に、営業を始める前から決まっています。
この分け方をしておくと、マニュアルが未完成のまま開業日を迎える事態を避けられます。値付けの章が空白でも、法令が決めている部分が埋まっていれば店は開けます。逆に、値付けの章だけを他社の資料から埋めても、法令の部分が空白なら開けません。
順序としては、法令の部分を先に固定し、値付けの章は最初の数か月の取引記録から自分で書き起こす形になります。この記事は、その先に固定できる部分だけを扱います。
査定の手順書で最初に決めるのは、取引を止める場面と、止める権限を持つ人です。古物営業法第15条第3項は、不正品の疑いがあると認めるときに直ちに警察官へ申告する義務を定めています。この項に金額の下限は置かれていません。
1万円未満で確認が免除される取引でも、疑いを持ったなら申告の義務は残ります。免除されているのは確認の義務であって、申告の義務ではありません。ここを手順書の冒頭に置かないと、少額の取引だけが誰の判断も通らずに流れる運用になります。
買取業は、盗品が持ち込まれる前提で制度が組まれている業種です。警察庁の統計では、令和7年中に古物商から警察へ寄せられた不正品の申告が129件、盗品売買等防止団体への情報提供に基づく団体加盟店の届出が638件ありました。区分別では道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件です。上位3区分で90件、全体の約7割を占めます。
なお、写真機類と金券類の0件は、申告に至った件数が0だったという意味です。その区分が安全だという読み方はできません。区分間の濃淡は、止める手順にどれだけ記述を割くかを決める材料として使ってください。
古物営業法第14条第1項は、営業所または取引の相手方の住所・居所以外の場所で、古物商以外の者から古物を受け取ってはならないと定めています。仮設店舗については、日時と場所を事前に管轄の公安委員会へ届け出れば可能です。
この条文は、査定の手順に直接効きます。駅前や駐車場で受け取る、喫茶店で受け取る、といった運用は条文に反します。第32条は第14条第1項違反に対して1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を定めています。第31条の無許可営業(3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)に次ぐ重さです。
手順書に書くのは、受け取ってよい場所の列挙です。自店の営業所、相手方の住所または居所、そして事前届出をした仮設店舗。この3つ以外は受け取らない、という形にしておけば、現場で判断に迷いません。催事や買取会を計画しているなら、届出の手続きを開業前の準備項目に入れてください。
査定と受取を分けて書く点も重要になります。写真や電話で金額を伝えるところまでは、どこにいてもできます。古物を物理的に受け取る行為に、第14条第1項の制限がかかります。手順書では、査定の工程と受取の工程を別の見出しにしてください。
| 開業前に固定できるか | 内容 | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| 固定できる | 受け取ってよい場所(営業所/相手方の住所・居所/届出済みの仮設店舗) | 法第14条第1項。違反は第32条で1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 固定できる | 疑いを持ったときに止める権限と、申告の手順 | 法第15条第3項。金額の下限は置かれていない |
| 固定できる | 確認と記帳が要るかどうかの分岐(1万円と7品目) | 法第15条第2項、施行規則第16条第1項・第2項 |
| 固定できる | 申出を受ける項目(住所・氏名・職業・年齢)とその場面 | 法第15条第1項①、法第16条④、施行規則第15条第3項の共通前提 |
| 固定できる | 査定票と帳簿の様式(法第16条の5項目+自店の欄) | 法第16条、法第18条第1項 |
| 固定できる | 管理者の選任と、知識の引き継ぎ方 | 法第13条第1項・第2項・第3項 |
| 実績が出てから | 品目ごとの上限額 | 品目別の買取相場を示せる公表データが存在しない |
| 実績が出てから | 品目ごとの状態区分の細分 | 自店の売却先の評価に合わせないと機能しない |
| 実績が出てから | 品目ごとの回転日数の目安 | 買った日と引き渡した日の実測が要る |
| 実績が出てから | 現場に渡す裁量の幅 | 判断のばらつきの実態が見えてから決める |
客が品物を出した時点で、その取引に確認と記帳が要るかどうかが決まります。古物営業法第15条第2項第1号による免除の金額は、施行規則第16条第1項で1万円と定められています。同項は、自己が売却した物品をその相手方から買い受ける場合も免除しています。
同条第2項は例外として7品目を挙げています。自動二輪車及び原動機付自転車(部分品を含み、ねじ・ボルト・ナット・コード等の汎用部分品は除く)、エアコンディショナーの室外ユニットと電気温水機器のヒートポンプ、専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物、電線、金属製のグレーチング、書籍です。これらは金額に関係なく確認と記帳が要ります。
手順書に置くのは、この判定を査定の前に済ませる仕組みです。金額が決まってから確認の要否を判断すると、客を待たせる時間が二重になります。持ち込まれた品が7品目に当たるかどうかは、金額より先に分かります。品目の判定を先に、金額の判定を後にする順序にしてください。
法第16条ただし書は、法第15条第2項各号の場合を記帳義務から除いています。つまり確認が免除される取引は記帳も免除されます。逆に7品目は、少額でも記帳が要ります。この対応関係を、査定票の1行目に選択式で置いておくと、判定の結果がそのまま帳簿の入力に流れます。
法第18条第1項により、帳簿等は最終記載の日から3年間、営業所等に備え付けられます。既存店ならこの3年分が値付けの材料になりますが、開業直後には1件もありません。最初の数か月で何を記録するかが、その後の基準を決めます。
法第16条の記載事項は①取引の年月日 ②品目及び数量 ③古物の特徴 ④相手方の住所・氏名・職業・年齢 ⑤第15条第1項でとった措置の区分の5つで、買取金額は入っていません。値付けの材料にするには、自店で欄を足します。足すのは、参照した売却先の価格とその取得日、状態の判定結果、提示額、そして売却した日と金額の5つです。
この5つを最初の3か月分そろえると、品目ごとに払える上限と、現金が戻るまでの実日数が出ます。中小企業実態基本調査では、在庫が現金に戻るまでの期間は小売業全体33.5日、従業者5人以下55.9日、6〜20人32.6日でした。買取業に限った統計ではありませんが、自店の実日数をこの線と比べる材料になります。
記録の様式を開業前に作っておかないと、この期間の取引が値付けの材料として残りません。開業から数か月経ってから記録を始めると、そのぶん基準の完成が遅れます。様式は簡素でかまいませんが、開業日から動いている必要があります。
法第15条第1項の①は、相手方の住所・氏名・職業・年齢の確認を挙げています。非対面の方法を定めた施行規則第15条第3項の各号も、住所・氏名・職業・年齢の申出を受けることを共通の前提にしています。
実務で抜けやすいのは職業と年齢です。運転免許証には職業が載っていません。職業は本人の申出でしか取れない項目で、聞くタイミングを手順で決めていないと、査定が終わって代金を渡す段になってから聞くことになります。
年齢の扱いは、未成年者からの持込みをどうするかという方針に直結します。古物営業法が未成年者との取引そのものを禁じているわけではありませんが、年齢を確認したうえで自店として買い取るかどうかは、開業前に決めておく判断の一つです。決めていないと、現場が1件ごとに判断することになります。
手順書には、申出を受ける項目と、その場面を書きます。法第16条④の帳簿の記載事項は、この申出の内容と同じです。申出を受ける様式と帳簿の入力欄を同じ並びにしておけば、転記が減り、転記で起きる漏れも減ります。
開業直後は代表本人が査定をしているため、判断が文書になっていなくても運用は回ります。崩れるのは2人目が査定に入ったときです。買取業では査定額がそのまま仕入原価になるため、判断のばらつきは接客の質ではなく原価のばらつきとして表れます。
中小企業実態基本調査で粗利率を見ると、小売業全体29.8%、従業者5人以下31.7%、6〜20人31.2%です。営業利益率は全体2.4%、5人以下0.2%、6〜20人1.5%でした。粗利率の差はわずかですが、営業利益率では大きく開きます。数ポイントの粗利率の動きが最終的な利益を左右する構造なので、担当者が増えたときの原価のばらつきは無視できません。
1人のうちに文書化しておく項目は3つです。第一に、自分が何を見て金額を決めているか。第二に、上限を超えるときに何を根拠に超えたか。第三に、買わないと判断した理由です。3つ目は記録に残りにくく、後から思い出せません。
法第13条第1項は、営業所および古物市場ごとに管理者を1人選任する義務を定めています。第13条第3項は、管理者に不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務を事業者に課しています。1人で開業する場合、管理者は代表本人になります。2人目を入れる段階で、この知識をどう引き継ぐかが問われます。
開業日に手元にあるべき文書は4点に絞れます。第一に、止める手順書。疑いを持ったときに誰がどう止め、どこへ申告するかを書いたものです。第二に、受取の手順書。受け取ってよい場所と、確認・記帳の分岐を書いたものです。
第三に、査定票の様式。法第16条の5項目を固定欄に置き、その右に自店の欄(参照した売却先の価格と取得日、状態の判定、提示額)を足したものです。第四に、帳簿の様式。査定票から流れ込む形にしておけば、転記が減ります。
この4点があれば営業は始められます。品目別の値付けの章は、最初の数か月の記録から書き起こす前提で空けておいてかまいません。完成を待って開業日を延ばすと、記録が始まらないぶん、章が書ける時期も後ろにずれます。
なお、社内資料に罰則を引用する場合は表記を確認してください。2022年の刑法改正で懲役・禁錮が拘禁刑に一本化され、2025年6月1日に施行されました。開業準備の段階で参照した古い解説を写すと、最初から古い表記の資料ができあがります。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 受け取ってよい場所を列挙し、それ以外では受け取らないと手順書に書いたか |
| 2 | 催事や買取会を行う予定があるなら、仮設店舗の事前届出の手続きを準備項目に入れたか |
| 3 | 査定の工程と、古物を受け取る工程を、別の見出しとして分けたか |
| 4 | 疑いを持ったときに取引を止める権限を、誰が持つか決めたか |
| 5 | 申告先(所轄の防犯係)の連絡先を、店頭と外出先の両方で控えているか |
| 6 | 1万円未満でも確認と記帳が要る7品目のうち、自店が扱うものを手順書に書き出したか |
| 7 | 品目の判定を、金額の判定より先に行う順序になっているか |
| 8 | 住所・氏名・職業・年齢の申出を受ける場面を、手順のどこに置くか決めたか |
| 9 | 職業が身分証からは取れない項目であることを、手順書に明記したか |
| 10 | 未成年者からの持込みをどう扱うかの方針を、開業前に決めたか |
| 11 | 査定票に法第16条の5項目を固定欄として置いたか |
| 12 | 査定票に自店の欄(参照した売却先の価格と取得日、状態の判定、提示額、売却日と売却額)を足したか |
| 13 | その記録の様式が、開業日から動く状態になっているか |
| 14 | 1人で回している間に、金額を決める根拠と、買わないと判断した理由を残す仕組みを作ったか |
| 15 | 営業所ごとの管理者を選任し、知識の引き継ぎ方を決めたか |
| 16 | 社内資料の罰則表記が「懲役」のままになっていないか(2025年6月1日から拘禁刑) |
品目ごとの値付けの章から書き始めて、開業直前まで完成しないケースです。品目別の買取相場を示せる公表データは存在せず、自店の売却実績が出るまで上限額は確定しません。先に固定できるのは、受取の場所、確認と記帳の分岐、止める手順、様式の4つです。この順序を逆にすると、法令の部分が空白のまま開業日を迎えることになります。
査定と受取を同じ工程として書いてしまい、店の外で品物を受け取る運用が手順に紛れ込むケースです。法第14条第1項は、営業所または相手方の住所・居所以外の場所で古物商以外の者から古物を受け取ることを禁じています。仮設店舗は事前届出があれば可能ですが、届出のない場所は対象外です。違反は第32条で1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります。写真や電話での査定はどこでもできるため、この2つを分けて書かないと現場で混ざります。
1万円未満は手続きが要らないと手順書に書いてしまうケースです。免除されるのは法第15条第1項の確認の義務で、施行規則第16条第2項の7品目は除かれています。またこの免除は、法第15条第3項の申告義務まで免除するものではありません。少額の取引が多い商材ほど、この誤解の影響が件数として積み上がります。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 開業までにマニュアルを完成させないと営業できませんか | 完成は開業の条件ではありません。開業日に手元にあるべきものは4点です。止める手順書、受取の手順書、査定票の様式、帳簿の様式。品目ごとの値付けの章は、自店の売却実績が出るまで確定しないため、空けたまま始めてかまいません。むしろ完成を待って開業日を延ばすと、値付けの章を書くための記録が始まる時期も後ろにずれます。開業日から記録の様式が動いていることのほうが、章の完成を早めます。 |
| 他社のマニュアルや査定基準を参考にしてよいですか | 法令が決めている部分は、どの店でも同じなので参照して差し支えありません。値付けの部分は、他社の販路と在庫回転を前提にした数字なので、自店の上限としての根拠になりません。参考にするなら、金額ではなく項目の立て方までにしてください。なお、フランチャイズの加盟店向けマニュアルや法定開示書面そのものを引き写すことは避けてください。自店の実績から書き起こした基準でなければ、なぜその金額なのかを後から説明できません。 |
| 出張買取を始めます。査定の手順で追加することはありますか | 受取の場所については、法第14条第1項が相手方の住所・居所での受取を認めているため、出張買取自体は条文の範囲内です。ただし、消費者の自宅等で契約を締結等して物品を購入する取引は特定商取引法の訪問購入に当たり、勧誘に先立つ氏名等の明示、不招請勧誘の禁止、再勧誘の禁止、書面の交付、引渡しの拒絶に関する告知、クーリング・オフといった義務が同時に走ります。クーリング・オフは法定書面を受け取った日から8日以内です。査定の手順書とは別に、訪問購入の手順を1つのチェックリストとして持ってください。 |
| 1人で開業します。管理者は誰になりますか | 法第13条第1項は営業所ごとに管理者を1人選任する義務を定めているため、1人で開業する場合は代表本人が管理者になります。第13条第2項により、未成年者や第4条第1号から第7号の欠格事由に当たる者は管理者になれません。第13条第3項は、管理者に不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務を事業者に課しています。1人のうちは自分の頭の中にある判断が、2人目を入れる段階で引き継ぎの対象になります。何を見て金額を決めているか、なぜ買わなかったかを、1人のうちから記録に残しておいてください。 |
| 査定票と古物台帳は、別に作るべきですか | 1つの様式でも運用できますが、記載事項の性質が違うことを踏まえて設計してください。法第16条の記載事項は5つで、買取金額は含まれていません。値付けの材料にするには、参照した売却先の価格と取得日、状態の判定、提示額といった欄を自店で足します。査定票を法定の5項目から始めて右へ自店の欄を足す形にしておけば、1枚から帳簿の入力が作れます。なお、買い取らなかった査定は法第16条の記帳義務の対象外なので、法定帳簿には残りません。値付けの材料として残したいなら、別の様式が要ります。 |
| 査定の判断がぶれます。マニュアルで揃うものですか | 揃うのは判断の材料と手順までで、金額そのものは幅が残ります。むしろ管理する対象は幅の位置です。買取業では査定額がそのまま仕入原価になるため、判断のばらつきは原価のばらつきとして表れます。中小企業実態基本調査では、中小小売業の粗利率は全体29.8%、従業者5人以下31.7%、6〜20人31.2%で、営業利益率は全体2.4%、5人以下0.2%、6〜20人1.5%でした。粗利率の数ポイントが営業利益率で大きく開く構造です。担当者ごとの提示額の分布を見て、上限に張りついているのは誰かを月単位で確認してください。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を8件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。








扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。査定マニュアルの整備をジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


