
立地評価の売上予測は、商圏人口、世帯数、道路の交通量、競合店の分布、店舗面積などを説明変数にして、実績のある既存店の売上を学習させる形で作られます。学習の対象は、決まった仕入価格で仕入れた商品を、決まった売価で販売した結果です。
買取業はここが構造から違います。仕入原価は査定額そのもので、いくらで何点仕入れるかを自社が単独で決めます。同じ立地、同じ客数でも、査定基準を1割上げれば買取金額は増え、粗利率は下がります。売上と粗利を動かす最大の変数が、モデルの外側にある自社の判断です。
この差は決算の読み方にも出ます。一般の小売業なら粗利率の低下は仕入コストの上昇か値引き販売を疑いますが、買取業では「買取価格を上げた」という自社の行動が第一の候補になります。予測モデルはこの行動を変数に持っていません。持てるとすれば、過去の自社データから査定水準を推定する形になりますが、それは立地の評価ではなく自社の運用の評価です。
したがって、AI立地評価の出力を「この場所ならいくら売れる」という金額として受け取ると、判断の材料としては弱くなります。受け取れるのは、候補地の間の相対的な差までです。金額の絶対値は、自社が査定をどこに置くかで動きます。
AI立地評価の予測がどれだけ当たったかについて、業界横断で検証された一次情報はありません。各社が示す精度は自社の説明であり、第三者が同じ条件で比較した結果ではありません。この記事では、どのサービスの予測が正確かという比較を書きません。
検証が難しい理由は技術ではなく、データの構造にあります。予測を検証するには、予測した店が実際に開業し、一定期間の実績が出て、その実績と予測を突き合わせた記録が公開される必要が生じます。出店しなかった候補地については実績が永久に得られません。当たった事例だけが残り、外れた候補地は検証対象から消えます。
買取業に限れば、さらに材料が薄くなります。中古品小売業の販売額や事業所数を市区町村単位で示した公的統計は存在せず、警察庁が公表する古物商の許可件数も全国計のみで都道府県別の内訳がありません。モデルの学習に使える買取業の実績データが、公的な形では存在しないということです。
使わないという結論にはなりません。予測を意思決定の主軸ではなく、候補地を絞る前段の材料として置き、最終判断は自社で検証できる指標に載せる。この順序にすれば、検証不能な数値に事業の可否を預けずに済みます。
立地評価に入る典型的な変数は、商圏人口、年齢構成、世帯年収、交通量、競合店舗数、視認性です。買取業で仕入量を左右するのは、この商圏に住む世帯がどの品目をどれだけ持っていて、それを手放す段階にあるかどうかです。
環境省「令和6年度リユース市場規模調査報告書」本編の消費者調査(n=3,365)では、過去1年に不要品が発生した人の割合が書籍29.1%、ブランド品を除く衣類・服飾品25.8%、家具類17.2%、日用品・生活雑貨17.0%、ブランド品14.4%、ソフト・メディア類12.7%、パソコン・周辺機器11.2%です。同時に、発生した不要品の多くが家に残ります。保管されたままの割合は携帯電話・スマートフォン82.1%、ソフト・メディア類77.6%、パソコン・周辺機器77.4%、書籍56.3%、ブランド品53.4%です。
手放された分がどこへ行くかも品目で分かれます。保管を除いた排出先のうちリユースショップ・中古品販売店で売却された割合は、ゲーム機器72.3%、書籍37.3%、ソフト・メディア類32.8%、ブランド品を除く衣類・服飾品31.3%、ブランド品22.7%です。人口が同じでも、扱う品目が違えば見込める持ち込み量が変わります。
年代の影響も、小売の購買力とは向きが違います。同調査では、売却で「利用したことがない」が最も低いのは30代の62.6%で、リユースショップでの売却は30代が60代以上より4.1ポイント高く、宅配買取での売却も30代が60代以上より2.4ポイント高い。購入側ではフリマアプリが10・20代20.8%に対し60代以上8.0%と差が大きく、リユースショップ店頭での購入は40代が最多で15.1%です。売る側と買う側で中心年齢が違うため、来店客数の予測を一本の年齢分布から出すと片方を外します。
| 立地評価が扱う変数 | 買取業での効き方 | 確認できる一次情報 |
|---|---|---|
| 商圏人口・世帯数 | 来店見込みの上限としては効くが、売る物の保有量は含まない | 環境省調査の品目別 不要品発生率(書籍29.1%/衣類25.8%) |
| 年齢構成 | 売る側と買う側で中心年齢が違う | 売却で利用なしが最少は30代62.6%/店頭購入は40代最多15.1% |
| 交通量・通行量 | 店頭78.2%の業態では運搬可否のほうが効く | 消費者庁 実態調査報告書のチャネル別構成比 |
| 競合店舗数 | 市区町村別の公的データが無い | 古物営業法第12条第1項の標識・同条第2項のネット表示 |
| 店舗面積 | 販売より在庫の滞留に効く | 在庫回転期間 5人以下55.9日/6〜20人32.6日 |
| (モデルに無い)査定水準 | 売上と粗利を動かす最大の変数 | 自社の買取実績と粗利率(小売業全体29.8%) |
| (モデルに無い)品目別の確認義務 | 点数の多い商材ほど人件費と処理時間が増える | 施行規則第16条第2項の7品目(1万円未満でも確認が要る) |
小売業で売上予測が外れると、在庫が過剰になり、値引きで処分して粗利を失います。買取業では現れ方が違います。想定より持ち込みが多ければ現金が先に出ていき、少なければ固定費だけが出ていきます。どちらの方向でも、資金として現れます。
買取業は客にその場で現金を渡し、売れてから回収します。中小企業庁「中小企業実態基本調査 令和6年確報(令和5年度決算実績)」の法人企業・小売業では、在庫回転期間が従業者5人以下で55.9日、6〜20人で32.6日、小売業全体で33.5日です。買取業に限定した値ではありませんが、規模が小さいほど滞留するという傾向は明確です。
粗利率は従業者5人以下31.7%、6〜20人31.2%、小売業全体29.8%で、小規模帯のほうがむしろ高い。それでも営業利益率は5人以下0.2%、6〜20人1.5%、全体2.4%です。粗利を取れていないのではなく、在庫が現金に戻る速度で負けています。予測が上振れした場合でも、回転が追いつかなければ利益にはなりません。
この構造があるため、立地評価の出力に対して最初に問うべきは「いくら売れるか」ではなく「その水準の買取件数を支える現金がいつまで要るか」です。予測売上に対して、55日前後の滞留を前提にした運転資金を置けるかどうかで、候補地の可否が決まる場面が出てきます。
精度を横に並べて比べることができない以上、判定はモデルの作り方をどこまで開示できるかで行います。聞くべきことは、答えが数値ではなく手続きになる形にします。
確認する項目は次のものです。学習に使った既存店の業種は何か、買取業の実績データが含まれるか、含まれない場合はどの業種で代用しているか。説明変数は何を使い、それぞれの寄与をどう出しているか。商圏の設定は距離か到達時間か、その根拠は何か。人流や位置情報を使う場合、元データの種類と母集団は何か。予測値の誤差はどの範囲で示されるか、点推定だけか区間も出るか。開業後の実績と予測を突き合わせた事例が何件あり、そのうち買取業は何件か。
答えられない項目が出ることは前提です。答えられない項目を「未確認」と記録し、その部分については別の材料で判断する、という切り分けができれば発注の目的は果たせます。数値の大小ではなく、この記録が残るかどうかで選んでください。
契約時には、出力の使途も決めておきます。予測値を金融機関への説明資料に使う場合、前提条件と誤差の扱いを書面で受け取れるかどうかで、後の説明の重さが変わります。
予測の当否を、開業後に自社で検証できます。材料は古物営業法が備え付けを義務づけている帳簿です。第16条は、古物を受け取り、または引き渡したときに、その都度、取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条第1項でとった措置の区分を記載する義務を定めています。第18条第1項により、最終記載の日から3年間の備え付けが要ります。
この記録から、実際に来た人の住所分布、年齢構成、品目別の持ち込み点数が出ます。予測の前提として置いた商圏範囲と年齢構成が合っていたか、想定した品目が実際に集まっているかを、追加の調査費なしで検証できます。
検証は、予測サービスの評価のためだけではありません。ずれの方向が分かれば、次の判断が変わります。範囲は合っているのに品目構成が外れているなら、査定基準と告知の商材を変える。年齢構成が外れているなら、接点の作り方を変える。範囲そのものが外れているなら、そこは立地の問題です。
分析用の集計は市区町村単位と年齢階級単位で作り、法定帳簿そのものは第18条の要件どおりに保管してください。集計表と帳簿を分けておけば、分析のために帳簿を外部へ持ち出す形を避けられます。
候補地の比較表は、予測売上の順位で作らないほうが後の判断に耐えます。順位は、開示されていないモデルの設定に依存しているためです。代わりに、外から確認できる事実を並べます。
外から確認できることのひとつが、周辺の同業者の状況です。古物営業法第12条第1項は、営業所ごとに公衆の見やすい場所へ標識を掲示する義務を定めています。同条第2項は、事業規模が著しく小さい場合等を除き、氏名、許可した公安委員会の名称、許可証番号をインターネット上で公衆の閲覧に供する義務を定めています。つまり、周辺の店が許可を受けているか、どの公安委員会の許可かは、店の前と各社の表示で確かめられます。
もうひとつは、その立地で扱う品目に対する法令上の運用負荷です。古物営業法第15条第1項は取引相手の真偽を確認する措置を義務づけ、第2項第1号で対価の総額が国家公安委員会規則で定める金額未満の取引を免除しています。金額は施行規則第16条第1項で1万円です。ただし同条第2項は、1万円未満でも確認が要る古物を7品目挙げています。自動二輪車及び原動機付自転車、エアコンディショナーの室外ユニットと電気温水機器のヒートポンプ、家庭用コンピュータゲームのプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物、電線、金属製のグレーチング、書籍です。
書籍やゲームソフト、CD・DVDを主力にする立地では、少額の取引でも毎回本人確認と記帳が発生します。予測売上が同じでも、必要な人員と処理時間が変わります。候補地の比較表には、予測値の隣にこの運用負荷の欄を置いてください。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 予測値を金額の絶対値ではなく、候補地間の相対比較として扱っているか |
| 2 | モデルの学習対象に買取業の実績が含まれるか、含まれない場合は何で代用しているかを確認したか |
| 3 | 予測の誤差が点推定だけか、区間で示されるかを確認したか |
| 4 | 開業後に予測と実績を突き合わせた事例の件数と、そのうち買取業の件数を聞いたか |
| 5 | 回答が得られなかった項目を「未確認」として記録し、別の材料で判断する形にしているか |
| 6 | 予測売上に対して、在庫回転期間55.9日前後を前提にした運転資金を置けるか試算したか |
| 7 | 取り扱い品目の想定に、品目別の不要品発生率・保管率・排出先内訳を使っているか |
| 8 | 候補地の比較表に、施行規則第16条第2項の7品目に該当する商材の比率を入れているか |
| 9 | 周辺同業者の許可の有無を、第12条第1項の標識と第2項のネット表示で自分の目で確認したか |
| 10 | 開業後に、第16条の帳簿から住所分布・年齢構成・品目別点数を集計して予測を検証する段取りを決めているか |
予測売上をそのまま事業計画の売上高に置き、査定水準を変数として扱わない失敗があります。買取業の仕入原価は査定額そのもので、同じ立地・同じ客数でも査定を1割上げれば買取金額は増え粗利率は下がります。売上と粗利を動かす最大の変数がモデルの外にあるため、予測値は自社の運用を織り込んでいません。事業計画では、査定水準を高中低の3通りで置き、それぞれの粗利率と必要現金を並べてください。
予測が上振れした場合を「良い方向のずれ」として扱い、資金計画を据え置く失敗があります。買取業は客にその場で現金を渡し、売れてから回収するため、持ち込みが増えるほど現金が先に出ます。従業者5人以下の小売業では在庫回転期間が55.9日、粗利率31.7%に対して営業利益率は0.2%です。件数が予測を超えた月ほど、運転資金が先に尽きます。上振れ時の必要現金も同時に試算してください。
各社の精度表示を比較表に並べ、数値の高い順に選ぶ失敗があります。AI立地評価の的中率を業界横断で検証した一次情報はなく、出店しなかった候補地の実績は永久に得られないため、外れた予測は検証対象から消えます。並べた数値は同じ条件で測られたものではありません。数値ではなく、学習データの業種、説明変数、商圏設定の根拠、誤差の示し方という手続きの開示で判定してください。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| AI立地評価の予測は、どのくらい当たるのですか | 業界横断で検証された一次情報が無いため、当たる確率を示すことはできません。構造上も検証が困難です。予測の当否を測るには、予測した場所に実際に出店して実績を取る必要があり、出店を見送った候補地の実績は永久に得られません。結果として、当たった事例だけが残ります。買取業に限れば、そもそも学習に使える公的な実績データがありません。中古品小売業の販売額や事業所数を市区町村単位で示した公的統計は存在せず、古物商の許可件数も全国計のみです。予測は候補地を絞る前段の材料として使い、可否の判断は自社で検証できる指標に載せてください。 |
| 予測売上をもとに、金融機関へ提出する事業計画を作ってよいですか | 使う場合は、前提条件と誤差の扱いを書面で受け取れるかどうかを先に確認してください。そのうえで、予測を単一の数値ではなく幅で置きます。買取業では査定水準という自社の判断が売上と粗利を大きく動かすため、査定を高中低の3通りに置いた試算を並べるほうが説明に耐えます。あわせて必要な運転資金を出してください。従業者5人以下の小売業では在庫回転期間が55.9日で、買い取った現金が戻るまで約2か月かかる前提になります。 |
| 商圏人口が多い場所を選べば、持ち込みは増えますか | 人口は上限を決めますが、持ち込み量を決めません。環境省の調査では、不要品が発生してもその多くが家に残ります。保管されたままの割合は携帯電話・スマートフォンで82.1%、ソフト・メディア類77.6%、パソコン・周辺機器77.4%です。手放された分の行き先も品目で分かれ、リユースショップ・中古品販売店で売却された割合はゲーム機器72.3%、書籍37.3%、ブランド品22.7%と幅があります。人口ではなく、扱う品目の発生率と店頭への流入率を掛け合わせて見積もってください。 |
| 競合店の数をモデルに入れれば、競争の激しさを評価できますか | 買取業では、その数の元になる公的データが不足しています。警察庁「令和7年中における古物営業・質屋営業の概況」は許可件数を全国計でしか示しておらず、都道府県別の内訳がありません。市区町村単位の中古品小売業の事業所数も公的統計に無いため、モデルが使う競合店数は各社が独自に集めたリストです。数え方の定義を確認してください。自分で確認できる範囲もあります。古物営業法第12条第1項により営業所ごとに標識の掲示義務があり、同条第2項により氏名・許可した公安委員会の名称・許可証番号をインターネット上で公衆の閲覧に供する義務があります。許可の有無と番号は外から確かめられます。 |
| 出店後、予測が合っていたかをどう確かめますか | 古物営業法第16条の帳簿を使います。取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢が、第18条第1項により最終記載の日から3年間備え付けられています。ここから実際の集客範囲、年齢構成、品目別の持ち込み点数が出ます。予測の前提と突き合わせて、範囲が外れているのか品目構成が外れているのかを切り分けてください。範囲が合っていて品目が外れているなら、立地ではなく査定基準と告知の問題です。分析用の集計は市区町村単位・年齢階級単位で作り、帳簿そのものは保存要件を崩さない形で分けて管理してください。 |
| 予測売上が同じ2つの候補地は、同じ条件と見てよいですか | 扱う品目によって運用の負荷が変わるため、同じにはなりません。古物営業法第15条第2項第1号により、対価の総額が施行規則第16条第1項の1万円未満なら本人確認が免除されますが、同条第2項は1万円未満でも確認が要る古物を7品目挙げています。自動二輪車及び原動機付自転車、エアコンの室外ユニットと電気温水機器のヒートポンプ、家庭用コンピュータゲームのプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物、電線、金属製のグレーチング、書籍です。書籍やメディアが主力になる立地では、少額でも毎回確認と記帳が発生し、必要な人員と処理時間が増えます。予測値の隣に、この負荷の欄を置いて比較してください。 |
この解決策が打ち手になりうる課題を6件挙げます。






扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。売上予測・AI立地評価ソリューションをジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


