
古物営業法第13条第1項は、営業所または古物市場ごとに管理者を1人選任する義務を定めています。そして同条第3項は、古物商に対し、その管理者に取り扱う古物が不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務を課しています。
法が求めているのは、高く買う技術でも安く仕入れる技術でもありません。 持ち込まれた品が盗品その他の不正品ではないかを判断できる状態にすることです。開業前研修の内容を組むとき、この順序を逆にしないでください。相場の勉強から始めると、法が想定している到達点に届かないまま開業日を迎えます。
同条第4項により、公安委員会は、管理者が職務に関し法令違反をした場合、情状により管理者として不適当と認めたときは、古物商に対して解任を勧告できます。管理者は名前を置くだけの役ではありません。
経営者本人が管理者を兼ねる場合でも、努力義務の対象は変わりません。2店舗目以降は営業所の数だけ管理者が要るため、教育できる人数が出店ペースの上限になります。
古物営業法は古物を13の区分に分けています。警察庁「令和7年中における古物営業・質屋営業の概況」によれば、古物商による不正品申告は総数129件で、区分別の内訳は道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件、事務機器類5件、美術品類4件、皮革・ゴム製品類4件、衣類2件、自動車2件、自動二輪車及び原動機付自転車2件、自転車類2件、その他1件、写真機類0件、金券類0件です。
上位3区分(道具類・時計宝飾品類・機械工具類)で90件、全体の約7割を占めます。 道具類と機械工具類が上位にあるのは、工具・機材の窃盗が持ち込まれる経路として使われているためと読めます。時計・宝飾品類は単価が高く、真贋と出所の両方が問題になります。
研修時間の配分は、扱う区分の件数に合わせてください。 工具や機材を扱う店で、ブランドバッグの真贋研修に時間を割いても、実際に直面する場面と一致しません。逆に写真機類と金券類は令和7年の申告が0件ですが、これは不正品が持ち込まれないという意味ではなく、申告に至った件数が0だったという事実です。断定的に「リスクがない」とは書けません。
質屋による不正品申告は47件で、うち時計・宝飾品類が40件でした。質屋と古物商で、持ち込まれる区分の偏りが違います。自分が扱う商材を、この統計のどこに置くかを先に決めてください。
第15条第3項は、古物商が買い受けようとする古物について不正品の疑いがあると認めるときは、直ちに警察官へ申告することを義務づけています。つまり研修の到達点は、真贋を100%見抜けることではなく、疑いを持てる状態になることです。
そのため研修に含めるのは、鑑定の技術だけではありません。持ち込まれ方の異常、点数と客の属性の不一致、身分証と品物の関係、同じ客の来店頻度といった、品物以外の情報の読み方が対象になります。申告の判断材料は品物の中だけにはありません。
判断に迷ったときの手順を、開業前に決めておいてください。誰に相談するか、その場で買取を止めるか、警察署へ連絡する担当は誰か。これを決めずに開業すると、疑いを持った従業員が「自分の判断で断ると角が立つ」と考えて処理してしまいます。
令和7年中の古物営業法違反の検挙は19件・12人で、態様別には無許可7件、身分確認3件、帳簿等記載3件ほかとなっています。確認義務と記帳義務の違反で実際に検挙されているという事実を、研修の場で共有しておいてください。
| 研修項目 | 根拠・数値 | 開業前/開業後 |
|---|---|---|
| 不正品かどうかの判断 | 法第13条第3項(管理者への努力義務) | 開業前 |
| 優先する区分の決定 | 令和7年 不正品申告129件(道具類37件・時計宝飾品類31件・機械工具類22件・書籍17件) | 開業前 |
| 疑いを持ったときの手順 | 法第15条第3項(直ちに警察官へ申告) | 開業前 |
| 本人確認の4措置 | 法第15条第1項 | 開業前 |
| 1万円未満でも確認が要る7品目 | 施行規則第16条第2項 | 開業前 |
| 帳簿の記載5項目と3年保存 | 法第16条・第18条第1項 | 開業前 |
| 管理者講習の受講 | 令和7年 150回・19,602人。開催・対象は都道府県警ごとに異なる | 確認のうえ判断 |
| 相場と回転日数の精度 | 従業者5人以下の在庫回転期間55.9日(中小企業実態基本調査) | 開業後(最初の締めで見直す) |
第15条第1項は、買受け・交換・委託を受けようとするときに相手方の真偽を確認する措置を義務づけています。措置は4通りで、①住所・氏名・職業・年齢の確認 ②本人署名のある文書の交付を受ける ③認定を受けた電子署名つきの電磁的記録の提供を受ける ④これらに準ずる国家公安委員会規則で定める措置です。
第15条第2項第1号により、対価の総額が国家公安委員会規則で定める金額未満の取引は確認が免除されます。その金額は施行規則第16条第1項で1万円と定められています。ただし第2項で、1万円未満でも確認が要る7品目が定められています。自動二輪車及び原動機付自転車(部分品を含む)、エアコンの室外ユニットと電気温水機器のヒートポンプ、家庭用コンピュータゲームのプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物、電線、金属製グレーチング、書籍です。
この7品目を扱う店では、少額買取でも毎回確認が要ります。 ゲームソフト・CD・DVD・書籍は客単価が低く点数が多い商材なので、確認と記帳の手間が件数分だけ積み上がります。研修では、この商材群の受付手順を実際の動線で練習させてください。
第16条は、古物を受け取り/引き渡したときに、その都度帳簿等へ①取引の年月日 ②品目及び数量 ③古物の特徴 ④相手方の住所・氏名・職業・年齢 ⑤第15条第1項でとった措置の区分を記載する義務を定めています。第18条第1項により、帳簿等は最終記載の日から3年間備え付けます。法第16条ただし書は確認が免除される場合を除外しているため、確認が免除される取引は記帳も免除されます。 逆に7品目は少額でも記帳が要ります。
真贋は「本物かどうか」の判断で、相場は「いくらで売れるか」の判断です。研修計画では、この2つを別の科目として置いてください。必要な情報源も、身につくまでの期間も違います。
買取業では、仕入原価を自分で決められます。 査定額がそのまま原価になるため、相場を外すと粗利が直接削れます。中小企業実態基本調査(令和6年確報/法人企業・小売業)では、従業者5人以下の粗利率は31.7%で6〜20人の31.2%より高いのに、営業利益率は0.2%対1.5%と大きく劣ります。粗利を取れていないのではなく、在庫が現金に変わる速度で負けている構造です。
この構造があるため、相場の研修は「高値の上限を覚える」ことではなく、「その価格で、どれくらいの期間で売り切れるか」を判断できるようにすることが中身になります。売価の見込みと回転日数がセットで見えないと、査定額は上振れします。
販売先の選択も相場の一部です。店頭で売るのか、ネットに出すのか、古物市場へ流すのかで、回収までの日数と手取りが変わります。開業前に、扱う区分ごとの販売先を決めておいてください。 販売先が決まらないまま査定額だけ学んでも、在庫が滞留します。
警察庁の統計には、令和7年中の古物商等管理者講習が150回・19,602人(うち自動車47回・4,618人)という実績が載っています。管理者向けの講習が全国で実施されていることは、この数字から確認できます。
ただし、講習の対象者・開催時期・申込方法・内容は都道府県警ごとに運用が異なります。開催時期が自分の開業日程と合うとは限りません。 受講できるかどうかを工程表の前提に置く前に、管轄警察署の防犯係へ確認してください。
講習を受けたとしても、第13条第3項の努力義務が果たされたことにはなりません。条文が求めているのは、取り扱う古物について不正品かどうかを判断できる知識・技術・経験です。自店が扱う区分に即した教育は、自分で用意することになります。
外部の鑑定講座や検定を使う場合も、選ぶ基準は同じです。自店が扱う区分と一致しているか、真贋と相場のどちらを扱っているか、開業日までに終わるか。この3点で絞ってください。
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」では、卸売業・小売業の所定内給与額は月349.1千円(男女計・年齢計、前年比+1.6%)、平均年齢44.3歳、平均勤続年数14.5年です。ただしこれは16大産業分類の1つで卸売と小売の合算値であり、集計対象は10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所です。小規模な買取店はこの統計にほぼ入っていません。 「買取店の給与は月◯◯円」という形では使えません。
年齢階級別に見ると、20〜24歳が241.0千円、55〜59歳が423.4千円でピークを打ち、60〜64歳で332.9千円へ落ちます。ピークは20代前半の1.76倍です。 経験が価値になる職種で、勤続を前提に賃金を設計するかどうかの材料になります。
鑑定の知識は、覚えた人に紐づきます。教えた従業員が辞めれば、その知識は店に残りません。研修の設計と同時に、査定基準を文書として店に残す仕組みを作ってください。 個人の記憶に置いたままにすると、開業前研修の費用が繰り返し発生します。
教育の記録を残しておくことにも実務上の意味があります。第13条第3項が努力義務である以上、何をどこまで実施したかを説明できる状態にしておくほうが、立入りの際にも従業員の育成計画を組むうえでも扱いやすくなります。
開業前に終わらせるのは、法定の手順です。第15条第1項の確認措置、施行規則第16条の7品目、第16条の記帳5項目、第18条第1項の3年保存、第15条第3項の申告判断。これらは開業初日の1件目から発生します。
開業後に積み上げるのは、相場の精度です。査定額が適正だったかは、その商品が売れるまで確定しません。中小企業実態基本調査では、従業者5人以下の小売業の在庫回転期間は55.9日、6〜20人は32.6日です。買取業に限定した数字ではありませんが、査定の答え合わせに1〜2か月かかる水準だと分かります。
そのため研修計画には、開業から最初の締めまでを1つの期間として置いてください。売却実績が出た時点で、査定額と売価の差を区分ごとに並べ、査定基準を見直します。この見直しが1回目の実践研修になります。
古物商等の許可件数は令和7年末で615,194件、前年比+42,170件で増え続けています。同じ商圏に許可を持った事業者が増えるほど、価格だけで差がつく場面は減ります。開業前研修に費やす時間は、価格以外で選ばれる理由を作る作業でもあります。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 研修計画の起点を、法第13条第3項の「不正品かどうかを判断する知識」に置いているか |
| 2 | 自店が扱う区分を、令和7年の不正品申告129件の内訳のどこに位置づけたか |
| 3 | 研修時間の配分が、扱う区分の件数と対応しているか |
| 4 | 疑いを持ったときの手順(誰に相談し、誰が警察へ連絡するか)を開業前に決めたか |
| 5 | 第15条第1項の4つの確認措置を、従業員が説明できるか |
| 6 | 1万円未満でも確認が要る7品目を、扱う商材と照らして確認したか(施行規則第16条第2項) |
| 7 | 第16条の記帳5項目と、第18条第1項の3年保存を運用に落としているか |
| 8 | 真贋の研修と相場の研修を、別の科目として計画しているか |
| 9 | 区分ごとの販売先(店頭・ネット・古物市場)を開業前に決めているか |
| 10 | 管理者講習の対象・開催時期・申込方法を、管轄警察署の防犯係へ確認したか |
| 11 | 査定基準を個人の記憶ではなく、文書として店に残す仕組みを作ったか |
| 12 | 開業から最初の締めまでを、査定基準を見直す1回目の実践研修として工程に入れたか |
相場の勉強から研修を始めてしまうケースです。法第13条第3項が求めているのは、取り扱う古物が不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験です。令和7年中の古物営業法違反の検挙19件・12人のうち、態様別には無許可7件のほか身分確認3件、帳簿等記載3件が含まれています。確認と記帳の手順を、相場より先に固めてください。
扱う区分と研修内容がずれているケースです。令和7年の不正品申告129件は、道具類37件・時計宝飾品類31件・機械工具類22件・書籍17件の上位3区分で90件と、約7割が集中しています。工具や機材を扱う店がブランド品の真贋研修に時間を割いても、実際に直面する場面と一致しません。区分ごとの件数に合わせて時間を配分してください。
査定基準を担当者の記憶だけに置いてしまうケースです。教えた従業員が辞めれば知識は店に残らず、開業前研修と同じ費用が繰り返し発生します。卸売業・小売業の所定内給与額は月349.1千円で、20〜24歳の241.0千円に対し55〜59歳は423.4千円と1.76倍です。経験に賃金で応える設計と、基準を文書化して店に残す仕組みは、両方そろえてください。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 開業前に、まず何から学べばよいですか | 古物営業法第13条第3項が求める「不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験」からです。具体的には、第15条第1項の4つの確認措置、施行規則第16条第2項の7品目、第16条の記帳5項目、第18条第1項の3年保存、そして第15条第3項の申告判断です。これらは開業初日の1件目から発生します。相場の精度は、売却実績が出てから見直していく領域です。 |
| 扱うジャンルによって、研修内容は変えるべきですか | 変えてください。令和7年中の古物商による不正品申告は総数129件で、道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件と、上位3区分で90件、約7割を占めます。写真機類と金券類は0件でした。件数の多い区分ほど、実際に判断を求められる場面が多くなります。なお0件は「不正品が持ち込まれない」という意味ではなく、申告に至った件数が0だったという事実です。 |
| 管理者講習を受ければ、開業前研修は済んだことになりますか | なりません。警察庁の統計では令和7年中に古物商等管理者講習が150回・19,602人(うち自動車47回・4,618人)実施されていますが、対象者・開催時期・申込方法・内容は都道府県警ごとに運用が異なります。開催時期が開業日程と合うとも限りません。第13条第3項が求めているのは、自店が取り扱う古物について不正品かどうかを判断できる状態にすることなので、扱う区分に即した教育は自分で用意することになります。 |
| 本を扱う店でも、少額の買取で本人確認が要りますか | 要ります。第15条第2項第1号による確認の免除は、施行規則第16条第1項で対価の総額1万円未満と定められていますが、同条第2項で7品目が例外とされており、書籍、光学的方法により音又は影像を記録した物、家庭用コンピュータゲームのプログラムを記録した物が含まれます。これらは金額に関係なく確認が要ります。法第16条ただし書により、確認が免除される取引は記帳も免除されますが、逆にこの7品目は少額でも記帳が要ります。客単価が低く点数が多い商材ほど、受付の手間が積み上がる構造です。 |
| 査定額の精度は、どうやって上げればよいですか | 売却実績と突き合わせる以外にありません。買取業は仕入原価を自分で決められるため、査定額がそのまま原価になります。査定が適正だったかは、その商品が売れて初めて確定します。中小企業実態基本調査では従業者5人以下の小売業の在庫回転期間は55.9日、6〜20人は32.6日です。開業から最初の締めまでを1つの期間として置き、区分ごとに査定額と売価の差を並べて基準を見直してください。 |
| 疑わしい品が持ち込まれたら、どうすればよいですか | 古物営業法第15条第3項により、不正品の疑いがあると認めるときは直ちに警察官へ申告する義務があります。研修の到達点は真贋を100%見抜けることではなく、疑いを持てる状態になることです。持ち込まれ方の異常、点数と客の属性の不一致、身分証と品物の関係、来店頻度など、品物以外の情報も判断材料になります。誰に相談し、誰が警察へ連絡するかを開業前に決めておいてください。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を8件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。








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