
経済センサス-活動調査(令和3年)は、中古品を扱う業種のインターネット販売の状況を2つの軸で出しています。事業所数ベースで見ると、インターネット販売を行う割合は中古電気製品小売業29.3%、中古品小売業(骨とう品を除く)27.0%、古本小売業18.5%、骨とう品小売業17.6%、中古自動車小売業14.3%です。
一方、法人組織の年間商品販売額に占めるインターネット販売の割合は、骨とう品小売業17.1%、中古品小売業(骨とう品を除く)14.6%、中古電気製品小売業14.5%です。古本小売業は店頭販売が97.6%を占めます。
この2つの数字の差が、越境ECを考えるときの出発点です。ネット販売を「やっている」事業所は3割近いのに、売上に占める比率は15%前後にとどまります。多くの店にとって、ネットは主力ではなく補助チャネルという実態が読めます。
国内のECですらこの水準です。越境ECは言語、決済、配送、返品対応が上に乗るため、同じ作業量では同じ比率にも届きません。「新しい販路を持てば売上が伸びる」ではなく、「補助チャネルをもう一段複雑にする」という前提から設計してください。
経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表)によれば、2024年のBtoC-ECは26.1兆円で前年比5.1%増、EC化率は9.8%です。物販系分野は15兆2,194億円、EC化率9.78%となっています。
越境ECについては、中国の消費者による日本事業者からの購入額が2兆6,372億円で前年比8.5%増と報告されています。ここで注意すべきは母集団です。これは日本の事業者全体からの購入額であり、中古品の内訳ではありません。買取店の売上見込みや商品単価の根拠には使えません。
同じ調査でCtoC-ECは2兆5,269億円、前年比1.82%増です。伸び率は鈍化しており、「フリマアプリが伸び続けている」という前提で計画を立てると外れます。なお同調査は、CtoC取引には実際にはBtoBやBtoCの取引も含まれると注記しています。
市場規模の統計から言えるのは、市場が縮んでいないという程度までです。自店が何点出品でき、何点売れ、何日で入金されるかは、市場規模と無関係に自店の作業能力で決まります。
越境ECの作業は、撮影、採寸、状態説明、翻訳、出品、質問対応、梱包、発送、追跡、返品対応で構成されます。この一連の作業量は商品の金額に関係なく、点数に比例します。1万円の品も50万円の品も、作業の手数はほとんど変わりません。
したがって、越境ECに乗るかどうかは単価で決まります。1点あたりの粗利額が作業時間の人件費を上回らない品は、何点出しても赤字が積み上がります。国内の店頭なら棚に並べるだけで済んだ品が、ネットでは1点ずつの作業になるという違いです。
参考になるのが、品目別のEC化率です。経済産業省の同調査では、生活家電・AV機器・PC・周辺機器等が2兆7,443億円でEC化率43.03%、書籍・映像・音楽ソフトが1兆8,708億円で56.45%、生活雑貨・家具・インテリアが2兆5,616億円で32.58%、衣類・服装雑貨等が2兆7,980億円で23.38%です。ただしこれは新品を含む市場全体の値で、中古品の値ではありません。
買取店で最も点数が出るのは、書籍、ソフト・メディア類、衣類といった低単価カテゴリです。これらは国内でも1点あたりの粗利が小さく、越境ECの作業量を吸収できません。古本小売業の店頭販売比率が97.6%であることは、この構造の結果として読めます。
| 確かめること | 自店で出す数字 | 比べる基準 | 出どころ |
|---|---|---|---|
| ネットが主力になりうるか | 自店のネット販売比率(売上ベース) | 中古品小売業14.6%/中古電気製品小売業14.5%/骨とう品小売業17.1% | 経済センサス-活動調査 令和3年(法人組織) |
| 同業がどれだけ着手しているか | — | 事業所数ベースで中古電気製品29.3%/中古品27.0%/古本18.5%/骨とう品17.6% | 同上 |
| 1点あたりが作業に見合うか | (着金額−買取額−作業時間の人件費)÷作業時間 | 同じ時間を査定・接客に使った場合の粗利 | 自店の実測 |
| 日数が伸びていないか | 買取→出荷までの日数+出荷→着金までの日数 | 小規模小売業の在庫回転期間55.9日に上乗せされる | 中小企業実態基本調査 令和6年確報 |
| 扱う区分のリスク | 自店の取扱区分 | 不正品申告は総数129件。道具類37件/時計・宝飾品類31件/機械工具類22件 | 警察庁 令和7年中における古物営業・質屋営業の概況 |
| 市場が縮んでいないか | — | BtoC-EC 26.1兆円(EC化率9.8%)/CtoC-EC 2兆5,269億円(+1.82%) | 経済産業省 令和6年度電子商取引に関する市場調査 |
| 越境の規模感 | — | 中国消費者による日本事業者からの購入額2兆6,372億円(+8.5%)。日本事業者全体の値で中古品の内訳ではない | 同上 |
中小企業庁「中小企業実態基本調査 令和6年確報」の法人企業・小売業では、在庫回転期間が小売業全体で33.5日、従業者5人以下で55.9日、6〜20人で32.6日です。買取業に限った値ではありませんが、小規模帯の在庫は既に2ヶ月近く現金に戻りません。
越境ECではこの日数が2つに分かれます。買い取ってから出品し、落札されて出荷するまでの日数と、出荷してから代金が自店の口座に着金するまでの日数です。前者は自店の作業能力で縮められますが、後者は決済と送金の仕組みに依存します。
採算の判定はこの合計で行います。1点あたりの粗利額を、買取から着金までの日数で割った値が、その品を越境ECで売る意味です。同じ品を国内で売った場合の値と並べて、初めて比較になります。
買取業は支払いが先行する商売です。客にその場で現金を渡し、売れてから回収します。日数の合計が伸びるほど、同じ買取件数を維持するのに要る運転資金が増えます。粗利率が高く出ていても資金が戻らなければ次の買取ができないという構造は、粗利率31.7%で営業利益率0.2%という小規模小売業の平均に現れています。
作業量の観点からは、越境ECには高単価の品を乗せる形になります。ところがその区分は、不正品の申告が多い区分と重なります。
警察庁「令和7年中における古物営業・質屋営業の概況」による古物の区分別の不正品申告件数は、総数129件のうち道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件、事務機器類5件、美術品類4件、皮革・ゴム製品類4件です。上位3区分で90件、全体の約7割を占めます。写真機類と金券類は0件です。
この数字は申告に至った件数であり、発生件数ではありません。0件の区分を「安全」と読むこともできません。読めるのは、区分によって濃淡がはっきり出ているという点までです。
越境ECでは、買い手が現物を見ずに買います。真贋の判断はすべて自店の説明に乗ります。国内の店頭なら客が現物を確認して納得したうえで買いますが、越境ECでは説明と写真が唯一の根拠になります。時計・宝飾品類や道具類を主力にするなら、真贋の確認手順と、その記録の残し方を先に決めてから出品を始めてください。
古物営業法第16条は、古物を受け取ったとき、または引き渡したときに、その都度帳簿等へ記載する義務を定めています。買受け時だけではありません。越境ECで落札された品を発送すれば引き渡しが起き、そこで記帳事象になります。
記載事項は、取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条第1項でとった措置の区分です。第18条第1項により、帳簿等は最終記載の日から3年間、営業所等に備え付けます。電磁的記録の場合も3年間、直ちに書面に表示できる状態で保存します。
越境ECを始めると、記帳の経路が増えます。店頭、古物市場、国内ネット、越境ECと出口が増えるほど、引渡しの記録を作る場面が増えます。プラットフォーム側の管理画面と自店の帳簿は別物であり、前者があるから後者が不要になるわけではありません。
第33条第2号は、第16条の記載義務違反と虚偽記載に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を定めています。2022年の刑法改正で懲役と禁錮は拘禁刑に一本化され、2025年6月1日に施行されました。出品を始める前に、発送時の記帳を誰がどの画面で入れるかを決めておいてください。
この記事では、特定のプラットフォームの手数料率、出品条件、決済の仕組み、返品ルールを扱いません。運営者が随時変更するものであり、検証可能な一次情報として固定できないためです。他社の記事に書かれた率をそのまま採算表に入れると、変更のたびに前提が崩れます。
採算は自店の実測で作れます。3ヶ月間、越境ECで売った品について、買取額、着金額、買取から着金までの日数、1点あたりにかけた作業時間を記録します。着金額と買取額の差から作業時間の人件費を引いた値が、その品の実質的な粗利です。
その値を作業時間で割ると、1時間あたりいくら稼いでいるかが出ます。同じ時間を店頭の接客や査定に使った場合の値と比べれば、越境ECを続けるかどうかの判断になります。手数料率を知らなくても、この比較は成立します。
輸出に伴う税や規制の要件も、この記事では断定しません。通関と関税は税関、消費税の輸出免税は国税庁および顧問税理士、輸出貿易管理は経済産業省、販売先の国での販売可否や表示義務はその国の所管当局に確認してください。中古品は品目によって規制の当たり方が変わるため、扱う区分ごとに確認する形になります。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 自店のネット販売比率を売上ベースで出しているか。事業所が着手している割合と混同していないか |
| 2 | 越境ECに乗せる品を、単価で切っているか。点数の多い低単価カテゴリを混ぜていないか |
| 3 | 1点あたりの作業時間を実測しているか(撮影・説明・翻訳・出品・質問対応・梱包・発送) |
| 4 | 買取から出荷までの日数と、出荷から着金までの日数を分けて記録しているか |
| 5 | 1点あたりの粗利額を作業時間で割り、査定や接客に同じ時間を使った場合と比べているか |
| 6 | 市場規模の統計を自店の売上見込みに転用していないか(越境EC 2兆6,372億円は日本事業者全体の値) |
| 7 | 真贋の確認手順と、その記録の残し方を決めてから高単価品を出品しているか |
| 8 | 発送したときの記帳を入れているか(古物営業法第16条は引渡しも対象) |
| 9 | プラットフォームの管理画面とは別に、自店の法定帳簿を作っているか |
| 10 | 輸出に伴う税・規制について、税関・国税庁・経済産業省・販売先国の所管当局という確認先を決めているか |
越境ECを「販路を1つ増やす施策」として捉え、作業量の増分を見積もらない失敗があります。撮影・状態説明・翻訳・出品・質問対応・梱包・発送・返品対応の手数は、商品の金額ではなく点数に比例します。国内でも、ネット販売を行う事業所は中古電気製品小売業29.3%・中古品小売業27.0%と3割近いのに、売上に占める比率は14.5%・14.6%にとどまります。作業能力が上限を決めているという構造は、越境でも変わりません。
市場規模の統計を自店の売上見込みに使う失敗があります。越境ECの2兆6,372億円は中国の消費者が日本の事業者から購入した総額であり、日本事業者全体の値です。中古品の内訳でも、1点あたりの単価でもありません。CtoC-ECの2兆5,269億円も前年比1.82%増と伸びが鈍化しています。統計から言えるのは市場が縮んでいないという程度までで、自店が何点売れるかは作業能力で決まります。
作業効率を優先して高単価品に寄せた結果、真贋と盗品のリスクが集中する失敗があります。警察庁の資料では、古物の区分別の不正品申告は総数129件のうち道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件で、上位3区分が全体の約7割を占めます。越境ECでは買い手が現物を確認できず、真贋の判断がすべて自店の説明に乗ります。確認手順と記録の残し方を決める前に出品を始めないでください。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 越境ECを始めれば、売上のどのくらいを見込めますか | 見込みは市場規模ではなく、自店が何点処理できるかで決まります。参考として、経済センサス-活動調査(令和3年)では、法人組織の年間商品販売額に占めるインターネット販売の割合は中古品小売業(骨とう品を除く)14.6%、中古電気製品小売業14.5%、骨とう品小売業17.1%です。国内のECでこの水準です。事業所数ベースでは中古電気製品小売業29.3%、中古品小売業27.0%が着手しているため、着手率と売上比率の差が作業能力の限界を示しています。 |
| どの商品を越境ECに出すべきですか | 単価で切ってください。撮影、状態説明、翻訳、出品、質問対応、梱包、発送の作業量は金額ではなく点数に比例します。1点あたりの粗利額が作業時間の人件費を上回らない品は、何点出しても損失が積み上がります。買取店で最も点数が出る書籍、ソフト・メディア類、衣類はここに当たります。古本小売業の店頭販売比率が97.6%であることは、この構造の結果です。 |
| eBayなどの手数料はどのくらいですか | この記事では扱いません。運営者が随時変更するもので、検証可能な一次情報として固定できないためです。採算は率を調べなくても自店の実測で出せます。3ヶ月間、買取額、着金額、買取から着金までの日数、1点あたりの作業時間を記録してください。着金額から買取額と作業時間の人件費を引いた値が実質の粗利です。それを作業時間で割った額と、同じ時間を査定や接客に使った場合の額を比べれば判断できます。 |
| 越境ECで売った場合も古物台帳への記載が要りますか | 要ります。古物営業法第16条は、古物を受け取ったとき、または引き渡したときに、その都度帳簿等へ記載する義務を定めています。落札品を発送すれば引き渡しにあたります。記載事項は取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条第1項でとった措置の区分です。第18条第1項により最終記載の日から3年間の備付けが要ります。プラットフォームの管理画面は自店の法定帳簿の代わりになりません。 |
| 輸出の手続きや税金はどうなりますか | 断定しません。制度ごとに所管が分かれており、中古品は品目によって規制の当たり方も変わるためです。通関と関税は税関、消費税の輸出免税は国税庁および顧問税理士、輸出貿易管理上の該非判定は経済産業省、販売先の国での販売可否や表示義務はその国の所管当局に確認してください。実務で詰まりやすいのは要件よりも証憑の保存です。出品を始める前に、どの書類を誰が保管するかを決めておいてください。 |
| 国内で売れない品を越境ECに回せば消化できますか | 消化できる保証はなく、日数は確実に伸びます。買取業は支払いが先行し、客にその場で現金を渡して売れてから回収します。中小企業実態基本調査では小規模小売業の在庫回転期間が平均55.9日で、越境ECはここに出品までの日数と着金までの日数を上乗せします。国内で動かない理由が需要側にあるなら、越境に回しても同じ結果になり、作業時間だけが増えます。国内で動かない原因を切り分けてから判断してください。 |
この解決策が打ち手になりうる課題を3件挙げます。



扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。越境EC(eBay等)の活用をジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


