
小売店の防犯は、外部から侵入されること、あるいは商品を持ち出されることへの対策が中心になります。買取店にはこれに加えて、客が持ち込んだ品物が盗品である場合の対応が入ります。持ち込みは入口を通って正面から来るので、侵入検知の仕組みが働く場面ではありません。
古物営業法第15条第3項は、古物商が買い受けようとする古物について不正品の疑いがあると認めるときに、直ちに警察官へ申告する義務を定めています。義務の主語は装置ではなく古物商です。カウンターで疑いを持つかどうかで、義務が発生するかが決まります。
警察庁「令和7年中における古物営業・質屋営業の概況」によると、令和7年中の古物商による不正品の申告は129件でした。区分別では道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件、事務機器類5件、美術品類4件、皮革・ゴム製品類4件で、上位3区分の合計90件が全体の約7割を占めます。写真機類と金券類は0件でした。
0件を「その区分は安全」と読むことはできません。申告に至った件数が0だったというだけで、持ち込みが無かったことの証明にはなりません。読み取れるのは、区分によって申告が発生する頻度に偏りがあるという事実までです。同じ統計で、盗品売買等防止団体への情報提供に基づく団体加盟店の届出は638件でした。
同じ警察庁の資料によると、令和7年中の古物営業法違反の検挙は19件・12人でした。態様別では無許可7件、身分確認3件、帳簿等記載3件などです。行政処分の総数は874件で、内訳は取消し11件、営業停止8件、指示855件でした。
無許可営業、本人確認、帳簿の記載。この3つは、記録装置の有無と関係のないところで起きています。カメラを増やしても、確認をしていない取引が確認済みになることはありません。
法定刑も定まっています。第33条第1号は第15条第1項の確認義務違反と第18条第1項の帳簿備付け義務違反を6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金とし、同条第2号は第16条・第17条の記載義務違反と虚偽記載を同じ法定刑としています。2022年の刑法改正で懲役と禁錮が拘禁刑に一本化され、2025年6月1日に施行されました。
導入の予算を組む前に、確認と記帳の手順が実際に動くかを先に確認してください。開業前であれば、誰がどの順で書類を見て、どこに記録するかをまだ紙の上で決められます。手順が空白のまま機器だけ入れると、支出は発生して違反の類型は残ります。
既に営業している店が機器を足す場合、カウンターの位置も保管区画も動かせません。開業前はそこから決められます。順序としては、受け渡しをする場所、買い取った品物を置く場所、帳簿を備え付ける場所、搬入と搬出の経路を先に配置します。
古物営業法第14条第1項により、古物商が古物商以外の者から古物を受け取れる場所は、営業所または取引の相手方の住所・居所に限られます。仮設店舗は日時と場所をあらかじめ管轄の公安委員会へ届け出れば認められます。自店の設備を常設できるのは、このうち営業所だけです。
第12条第1項は、営業所ごとに公衆の見やすい場所へ標識を掲示する義務を定めています。掲示の位置は撮影範囲や配線の都合で動かせないので、標識の位置を固定してから什器と機器の配置を決めます。
内装工事と配線は同じ工程で進みます。工事が始まってから記録装置の置き場を決めると、電源の位置や配線経路をあとから変える作業になります。図面を変えられるのは着工前までです。
| 開業前に決める対象 | 根拠 | 機器で代替できるか | 決めないまま工事へ進むと起きること |
|---|---|---|---|
| 不正品の疑いを持ったときの申告手順 | 第15条第3項。令和7年の不正品申告129件、団体加盟店の届出638件 | できない。判断は人が行う | 疑いを持った従業者が誰に言えばよいか分からない |
| 本人確認と記帳の手順 | 第33条第1号・第2号。令和7年の検挙19件の態様は無許可7・身分確認3・帳簿等記載3 | できない | 支出だけ発生し、検挙されている違反の類型はそのまま残る |
| 管理者を誰にするか | 第13条第1項・第2項・第3項。管理者講習は令和7年に150回・19,602人 | できない | 判断がその場にいた人に委ねられる |
| 標識の掲示位置 | 第12条第1項。違反は第35条第2号で10万円以下の罰金 | 関係しない | 什器と撮影範囲を決めたあとに掲示位置を動かせない |
| 許可情報のインターネット表示 | 第12条第2項(氏名・公安委員会の名称・許可証番号) | 関係しない | サイト公開後に置き場のないページへ追加することになる |
| 映像を見られる人の範囲 | 帳簿の個人情報(第16条④・第18条第1項の3年)とは別系統の情報になる | 機器の設定だけでは決まらない | 増員のたびに見られる人が増え、あとから狭められない |
| 記録装置の置き場と配線経路 | 内装工事と同じ工程で進む | — | 着工後の変更になり、工事のやり直しが発生する |
| 許可申請の時期 | 管轄警察署の防犯係へ申請。手数料19,000円、標準処理期間約40日 | — | 工事の完了と許可の取得がずれ、開業日が動く |
第12条第1項の標識掲示に加えて、第12条第2項は、事業規模が著しく小さい場合等を除き、氏名または名称、許可をした公安委員会の名称、許可証の番号をインターネット上で公衆の閲覧に供する義務を定めています。第12条に違反した場合、第35条第2号により10万円以下の罰金です。
そこで古物の取引が行われていることは、法律によって外部へ公示されます。高額品を扱う事実を伏せ、店の存在を目立たなくすることで安全を確保するという方向の設計は成り立ちません。導入の議論は、見られている前提の上で行うことになります。
第12条第2項の表示は、開業前のサイト制作の工程に組み込めます。あとから追加すると、置き場所のないページに無理に載せることになります。表示する3項目は許可証が交付されて確定するので、許可の取得とサイトの公開の順序を合わせてください。
撮影していることを客に知らせるかどうかは、古物営業法の論点ではありません。撮影の告知は個人情報の取扱いの問題として別に判断します。ここで確認しておくのは、店の所在と古物商であることが既に公示されているという前提のほうです。
第13条第1項は、営業所または古物市場ごとに管理者を1人選任する義務を定めています。第13条第2項により、未成年者や第4条第1号から第7号の欠格事由に該当する者は管理者になれません。第13条第3項は、管理者に不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務を定めています。
第13条第3項が求めているのは、装置の設置ではなく人が持つ判断力です。第15条第3項の申告も、判断が先にあって初めて行われます。機器はその判断の材料を後から取り出せるようにするものであって、判断そのものを代わりに行いません。
警察庁の資料によると、令和7年中の古物商等管理者講習は150回・19,602人が受講し、うち自動車を対象としたものが47回・4,618人でした。判断力を得させる手段として、こうした講習が実際に運用されています。
開業時は本人が管理者を兼ねる場合が多くなります。従業者を増やしたときに、誰が管理者を続けるか、疑いを持ったときに誰へ報告するかを決めていないと、判断がその場にいた人に委ねられます。開業前に、報告先を1つ決めておいてください。
開業時に従業者が本人だけなら、映像を見られるのも本人だけです。この段階では範囲を決める作業に手間がかかりません。増員してから決めようとすると、既に見ている人がいる状態から範囲を狭める作業になります。
決めるのは3点です。誰が再生できるか、再生した事実が記録として残るか、外部へ提供する場面の判断を誰がするか。いずれも機器の性能ではなく、運用の取り決めです。
警備会社や設備業者に保守を委託する場合は、委託先が映像に触れられるかどうかを契約で切り分けます。記録装置を置く部屋に帳簿の保管場所を同居させると、その部屋への入室権限が両方に効きます。部屋を分けられないなら、施錠を二段にするという設計になります。
第16条の記載事項には相手方の住所・氏名・職業・年齢が含まれ、第18条第1項によりそれが3年間その場にあります。映像はこれとは別系統の情報です。系統が違うので、閲覧できる人の範囲も、保存する期間も、別々に決めることになります。
防犯カメラやセキュリティ機器の本体価格、工事費、保守料について、公的機関が公表した一次情報が見当たりません。この記事では相場を示しません。他社の記事に金額が書かれていても、出所が示されていなければ根拠として使えません。
書けるのは、内装工事より前に確定させる項目です。標識の掲示位置、受け渡しをする場所、買い取った品物を置く場所、帳簿を備え付ける場所、記録装置の置き場、電源と配線の経路。この6つは着工後に変えると工事のやり直しになります。
消防法および建築基準法の要件は、建物の用途・規模・所在地で変わります。機器の設置に伴う工事がこれらの要件に関わるかどうかは、所轄の消防署と、自治体で建築を所管する部局に確認してください。ここでは断定しません。
賃借物件では、配線や機器の固定に関する工事が契約で制限されている場合があります。契約書に押印する前に、貸主または管理会社に工事の範囲と原状回復の条件を確認しておくと、機器を選び直す作業を避けられます。
古物商の許可は、主たる営業所の所在地を管轄する警察署の防犯係へ申請します。手数料は19,000円で、不許可でも返金されません。標準処理期間は約40日で、書類の補正期間は含まれません。
この手続きのために、開業前に必ず一度は防犯係の窓口へ行くことになります。防犯に関する相談先が業種として最初から決まっているという点は、他の小売業と違うところです。
標準処理期間の約40日は、内装工事や機器の手配と重なります。許可が下りる前に工事を終えても営業は始められず、逆に許可を待ってから工事に入ると開業日が後ろへずれます。工程表を引くときは、この期間を先に置いてください。
申請の要件と必要書類は都道府県によって運用が異なります。営業所として使う物件の構造や使用権限の疎明について、事前に管轄の警察署で確認してください。物件の契約と機器の発注は、この確認のあとに行うほうが手戻りが少なくなります。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 不正品の疑いを持ったときに、誰へ報告し誰が警察官へ申告するかを決めたか(第15条第3項) |
| 2 | 本人確認と記帳の手順を、機器の発注より先に紙の上で確定させたか |
| 3 | 管理者を誰にするかを決め、第13条第2項の欠格事由に当たらないことを確認したか |
| 4 | 標識の掲示位置(第12条第1項)を固定してから、什器と機器の配置を決めたか |
| 5 | 第12条第2項の表示3項目を、サイトの制作工程に組み込んだか |
| 6 | 受け渡し・保管・帳簿の備付け・搬入搬出の場所を、着工前に図面へ落としたか |
| 7 | 記録装置の置き場と、電源および配線の経路を着工前に確定させたか |
| 8 | 映像を再生できる人、再生の記録が残るか、外部提供の判断者の3点を決めたか |
| 9 | 保守を委託する場合、委託先が映像に触れられるかを契約で切り分けたか |
| 10 | 賃借物件の工事範囲と原状回復の条件を、契約前に貸主へ確認したか |
| 11 | 許可申請(手数料19,000円・標準処理期間約40日)を工程表に先に置いたか |
機器を入れれば法令上の記録が揃うと考えて、確認と記帳の手順を後回しにする失敗があります。警察庁の資料によると令和7年中の古物営業法違反の検挙は19件・12人で、態様別では無許可7件、身分確認3件、帳簿等記載3件でした。いずれも記録装置の有無と関係のないところで起きています。第33条第1号は確認義務違反と帳簿備付け義務違反を6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金とし、同条第2号は記載義務違反と虚偽記載を同じ法定刑としています。導入の予算を組む前に、手順が動くかを先に確認してください。
高額品を扱う事実を伏せ、店を目立たなくすることで安全を確保しようとする失敗があります。第12条第1項は営業所ごとに公衆の見やすい場所へ標識を掲示する義務を定め、第12条第2項は事業規模が著しく小さい場合等を除き、氏名または名称・許可をした公安委員会の名称・許可証の番号をインターネット上で公衆の閲覧に供する義務を定めています。違反は第35条第2号で10万円以下の罰金です。所在と業種は法律によって公示されるので、設計は見られている前提の上で行うことになります。
写真機類と金券類の不正品申告が0件であることを、その区分は持ち込みのリスクが無いと読む失敗があります。令和7年中の古物商による不正品の申告は総数129件で、道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件が上位です。0件という数字は申告に至った件数が0だったという意味であり、持ち込みが無かったことの証明にはなりません。読み取れるのは区分ごとの偏りまでで、扱う区分を理由に第15条第3項の手順を省く根拠にはなりません。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 開業時に防犯カメラは何台入れればよいですか | 機種・価格・性能について参照できる一次情報がないため、台数の目安は示しません。開業前であればカウンターの位置も保管区画も搬入経路もこれから決められるので、先に間取りを確定させてください。第14条第1項により古物を受け取れる場所は営業所または相手方の住所・居所に限られ、仮設店舗は事前の届出が要ります。自店の設備を常設できるのは営業所だけなので、検討の範囲は営業所の中に閉じます。台数は、間取りと運用の取り決めが決まったあとの結果として出てきます。 |
| カメラを入れれば盗品の持ち込みを防げますか | 防げません。持ち込みは入口を通って正面から来るので、侵入を検知する仕組みが働く場面ではありません。第15条第3項は、不正品の疑いがあると認めるときに直ちに警察官へ申告する義務を古物商に課しています。義務の主語は装置ではなく事業者です。令和7年中の古物商による不正品の申告は129件で、道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件が上位でした。機器はあとから材料を取り出すためのもので、カウンターでの判断を代わりに行うものではありません。 |
| セキュリティ機器の予算はどのくらい見ておけばよいですか | 本体価格・工事費・保守料について公的機関が公表した一次情報が見当たらないため、金額は示しません。決められるのは、着工前に確定させる項目のほうです。標識の掲示位置、受け渡しの場所、品物の保管場所、帳簿の備付け場所、記録装置の置き場、電源と配線の経路の6つは、着工後に変えると工事のやり直しになります。消防法や建築基準法の要件は建物の用途・規模・所在地で変わるので、所轄の消防署と自治体の建築所管部局に確認してください。 |
| 許可を取る前に工事を始めてよいですか | 工事の可否そのものは物件の契約と法令によりますが、工程の組み方には注意が要ります。古物商の許可は主たる営業所の所在地を管轄する警察署の防犯係へ申請し、手数料は19,000円で不許可でも返金されず、標準処理期間は約40日です。許可が下りる前に工事を終えても営業は始められません。申請の要件と必要書類は都道府県によって運用が異なるため、営業所として使う物件の構造や使用権限について、契約と発注の前に管轄の警察署で確認してください。 |
| 管理者は開業時から選任するのですか | 第13条第1項により、営業所または古物市場ごとに管理者を1人選任します。第13条第2項により、未成年者や第4条第1号から第7号の欠格事由に該当する者は選任できません。第13条第3項は、管理者に不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務を定めています。警察庁の資料によると令和7年中の古物商等管理者講習は150回・19,602人が受講し、うち自動車を対象としたものが47回・4,618人でした。開業時は本人が兼ねることが多いので、増員したときの報告先を先に決めておいてください。 |
| 撮影していることを店内に掲示すべきですか | 撮影の告知は古物営業法の論点ではなく、個人情報の取扱いの問題として別に判断します。ここで前提として押さえておくのは、第12条第1項の標識掲示と第12条第2項のインターネット上の表示により、店の所在と古物商であることが既に法律で公示されているという点です。第12条違反は第35条第2号で10万円以下の罰金です。掲示の要否は自社の個人情報の取扱いの方針として決め、その判断を記録に残してください。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を6件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。






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