
警備の委託によって外部へ出せるのは、異常の検知と、検知したときに現場へ人が向かうという動作です。古物営業法が古物商に課している義務は、これとは別の系統にあります。
第13条第1項は営業所ごとに管理者を1人選任することを定めており、第13条第2項は未成年者や第4条第1号から第7号の欠格事由に該当する者を管理者から除いています。管理者は古物商が選任する者であって、警備会社の担当者を充てる話ではありません。第13条第3項は、管理者に不正品かどうかを判断するための知識・技術・経験を得させる努力義務を古物商に課しています。
第15条第3項の不正品の申告も同じです。取引しようとする古物について疑いがあると認めたときに直ちに警察官へ申告するのは、カウンターに立っている自店の従業者です。第16条の記帳と第18条第1項の3年間の備付けも、義務の名宛人は古物商です。
契約書を読むときは、この線をまたいでいないかを最初に確認します。「法令対応を含む」といった記載があっても、上記の義務が委託先へ移ることはありません。契約で決まるのは、自店が義務を果たす前提となる物理的な監視をどこまで任せるか、という範囲だけです。
第14条第1項により、古物商が古物商以外の者から古物を受け取れる場所は、営業所または取引の相手方の住所・居所に限られます。仮設店舗は日時と場所をあらかじめ管轄の公安委員会へ届け出た場合に認められます。違反は第32条で1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
受け取る場所が列挙されているということは、警備の対象になる地点も列挙できるということです。常設の警備契約が意味を持つのは営業所であり、相手方の住所・居所と仮設店舗はその外側に置かれます。
営業所ごとに管理者を1人選任する義務があるため、契約の単位を営業所に揃えると、異常が起きたときに誰が判断するかが自動的に決まります。本部で一括契約する場合でも、通報先と現場の判断者は営業所単位で指定しておきます。
営業所を増やしたときに発生するのは、警備契約の追加だけではありません。第12条第1項の標識掲示、第13条第1項の管理者選任も同時に増えます。契約の見直しは、営業所・管理者・許可事項の変更と同じタイミングで行うと漏れが出ません。
警備を委託すると、鍵の預託、入退室の権限、非常時の立入りといった形で、委託先が店内の資産に近づく場面が生じます。近づける範囲を決めるには、店内にあるものを性質で分けます。買取原資としての現金、買い取った在庫、そして帳簿と電磁的記録の3つです。
現金と在庫は持ち出しの対象であり、盗まれれば減ります。帳簿は性質が違います。第16条の記載事項には相手方の住所・氏名・職業・年齢が含まれ、第18条第1項によりそれが最終記載の日から3年間その場にあります。持ち出されても減らずに複製される種類の資産で、失われれば第18条第2項により直ちに所轄警察署長へ届け出る事項になります。
したがって契約では、非常時に委託先が入れる範囲と、帳簿の保管場所へのアクセスを分けて記載します。同じ部屋に金庫と帳簿と記録装置が置かれているなら、鍵を預けた時点で3系統すべてに触れられる状態になります。部屋割りを変えられないなら、施錠を二段にするか、帳簿の保管場所だけ別の鍵にするかという設計になります。
委託先の従業者が帳簿に触れる可能性がある場合、その事実を自店の記録に残せるかも確認します。第18条第2項の届出は「亡失した」という事実を認識できて初めて行えます。誰も気づかない状態を作らないことが、契約条項として書ける内容です。
| 場面 | 警備の委託で扱える範囲 | 自店に残る義務 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 閉店後の侵入検知と一次対応 | 検知・通報・現場対応 | — | 古物営業法上の定めなし |
| 営業所ごとの管理者の選任 | 対象外 | 管理者を1人選任し、欠格事由に当たらない者を充てる | 第13条第1項・第2項 |
| 買取時の本人確認 | 対象外 | 確認の措置をとり、区分を帳簿へ記載する | 第15条第1項・第16条 |
| 不正品の疑いがある取引 | 対象外 | 直ちに警察官へ申告する | 第15条第3項 |
| 帳簿等の備付け | 保管場所の施錠までは委託の対象になりうる | 最終記載の日から3年間、営業所等に備え付ける | 第18条第1項 |
| 帳簿等の亡失 | 対象外 | 直ちに所轄警察署長へ届け出る | 第18条第2項 |
| 標識の掲示とネット公表 | 対象外 | 掲示位置は防犯上の都合で動かせない | 第12条第1項・第2項 |
| 出張買取中の現金と品物 | 契約の対象外(営業所の外) | 携行現金の上限と、営業所へ戻す時刻を自店で決める | 第14条第1項 |
警備の月額、初期費用、機器のリース料について、公的機関が公表した一次情報が見当たりません。この記事では相場を示しません。複数社から見積もりを取っても、対象範囲が違えば金額は比較できません。
比較できる形にするには、こちらから要件を出して見積もりを揃えます。揃える項目は、対象とする営業所、警備の時間帯、検知の対象(侵入・火災・非常通報など自店が扱いたいもの)、通報を受けたときの連絡先の順序、鍵の預託の有無、記録の保存と自店への引き渡し方法です。
同じ要件で見積もりが返ってきて初めて、金額の差が意味を持ちます。要件を出さずに提案を受け取ると、提案書ごとに前提が違い、比較したつもりの表ができあがります。
自店の判断材料として使えるのは、対象がその場にある時間です。中小企業実態基本調査によると、従業者5人以下の小売業の在庫回転期間は55.9日、6〜20人は32.6日、小売業全体は33.5日でした。これは買取業に限定した統計ではありませんが、自店の回転期間を計算すれば、閉店後に守る対象がどれだけの量あるかを見積もれます。
第12条第1項は、営業所・仮設店舗・古物市場ごとに、公衆の見やすい場所へ標識を掲示する義務を定めています。同条第2項は、事業規模が著しく小さい場合等を除き、氏名または名称・許可をした公安委員会の名称・許可証の番号をインターネット上で公衆の閲覧に供する義務を課しています。違反は第35条第2号で10万円以下の罰金です。
そこで古物の取引が行われていることは、法律によって外部へ公示されます。所在を伏せる、取扱いを目立たせないという方向の設計は成り立ちません。警備会社への説明でも、この前提を先に共有しておくと提案がずれません。
標識の掲示位置は許可の要件に関わるため、機器の配置や配線の都合で動かすことはできません。工事の前に掲示位置を確定させ、そこを避けて設計してもらいます。
移転や名称変更をしたときは、標識とインターネット上の公表内容も変わります。警備契約の対象住所と、標識・公表内容の3つが同じ内容になっているかを、変更のたびに確認してください。
検知の仕組みを入れると、異常として上がってくる事象が増えます。営業時間中の来客と閉店後の侵入を機器が区別できるとは限らないため、どの状態を通報の対象にするかを契約前に決めます。
決める項目は、営業時間中と時間外で扱いを変えるか、非常通報を誰が押せるか、通報を受けた後の連絡先の順序、現場に人が向かう場合に鍵をどう扱うか、現場で誰の指示を待つか、の5つです。営業所ごとに管理者がいるので、指示を出す者は自然に決まります。
誤って通報が上がったときの扱いも決めておきます。取り消しの連絡を誰がするか、記録上どう残すか。ここを決めていないと、通報が上がるたびに現場の判断で処理され、後から件数も理由も追えません。
検知の対象を広げるほど、上がってくる事象は増えます。増えた事象を誰も見なくなる状態が最も危険なので、扱える件数から逆算して対象を決めるほうが実務に合います。件数の目安になる公表データはないため、自店で数えて調整することになります。
消費者庁の実態調査報告書に掲載された2023年のチャネル別構成比は、店頭買取78.2%、出張買取10.0%、宅配買取9.5%です。営業所の中で完結しない取引が約2割あります。
出張買取では、担当者が現金を持って移動し、相手方の住所・居所で品物を受け取ります(第14条第1項)。契約した警備の対象は営業所なので、この間は契約の外です。決めるのは、携行する現金の上限、同行者の要否、受け取った品物を営業所へ戻す時刻の3つになります。
出張買取は特定商取引法の訪問購入に当たり、氏名等の明示、不招請勧誘の禁止、再勧誘の禁止、書面交付義務、引渡しの拒絶に関する告知、法定書面を受け取った日から8日間のクーリング・オフの対象です。期間中は返還を求められる可能性があるため、戻した品物をどこに置くかが営業所側の設計に跳ね返ります。
仮設店舗は事前届出をした日時・場所だけに存在します。常設の契約が使えないので、開催のたびに現金と在庫の運搬手順を決めることになります。撤収時に品物が営業所へ戻るまでが、契約の対象外の時間です。
警察庁「令和7年中における古物営業・質屋営業の概況」によると、令和7年中の古物商による不正品の申告は129件でした。区分別では道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件で、上位3区分の合計90件が全体の約7割を占めます。この申告は第15条第3項に基づき、査定の現場で自店が行うものです。
同じ資料によると、盗品売買等防止団体への情報提供に基づく団体加盟店の届出は638件、古物商等管理者講習は150回・19,602人(うち自動車47回・4,618人)が受講しています。情報を受け取る経路と、管理者が知識を得る経路が別にあるということです。
令和7年中の古物営業法違反の検挙は19件・12人で、態様別の内訳は無許可7件、身分確認3件、帳簿等記載3件などでした。摘発されている態様は、確認したか、書いたか、許可を受けたかという手続きの側にあります。警備の委託でここが改善することはありません。
警備会社との契約は、店に人がいない時間帯の物理的な監視を補うものです。営業時間中に発生する義務、すなわち確認・記帳・申告は、自店の窓口で処理されます。契約を結んだ後も、この2系統は別のものとして管理してください。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 契約書に「法令対応を含む」といった記載があっても、第13条・第15条・第16条・第18条の義務が移らないことを確認したか |
| 2 | 契約の単位を営業所に揃え、営業所ごとの管理者を通報後の判断者として指定しているか |
| 3 | 非常時に委託先が入れる範囲と、帳簿等の保管場所へのアクセスを分けて記載しているか |
| 4 | 金庫・帳簿・記録装置が同じ部屋にある場合、鍵の預託が3系統すべてに及ばない設計にしているか |
| 5 | 見積もりを取る前に、対象営業所・時間帯・検知対象・連絡順序・鍵の預託・記録の引き渡しを要件として揃えたか |
| 6 | 営業時間中と時間外で、通報の対象とする事象を分けて決めているか |
| 7 | 誤った通報が上がったときに、取り消しを誰が行い、どう記録に残すかを決めているか |
| 8 | 自店の在庫回転期間を計算し、閉店後に営業所へ残る量を把握しているか |
| 9 | 標識の掲示位置を確定させてから、機器の配置を決めているか |
| 10 | 移転・名称変更のときに、警備契約の対象住所・標識・インターネット公表の3つを同時に直す手順があるか |
| 11 | 出張買取と仮設店舗について、携行現金の上限と品物を営業所へ戻す時刻を別に決めているか |
警備会社と契約したことで法令面の備えが済んだと考えてしまうことがあります。第13条第1項の管理者選任、第15条第1項の確認義務、同条第3項の申告義務、第16条の記帳、第18条第1項の3年間の備付けは、いずれも古物商自身の義務です。令和7年中の古物営業法違反の検挙19件・12人の態様別内訳は無許可7件、身分確認3件、帳簿等記載3件などで、摘発されているのは手続きの側です。警備の委託ではここは動きません。
鍵を預ける範囲を決めずに契約してしまうことがあります。金庫と帳簿と記録装置が同じ部屋にあると、非常時の立入りのために鍵を預けた時点で、現金・在庫・3年分の顧客情報のすべてに近づける状態になります。第16条の記載事項には相手方の住所・氏名・職業・年齢が含まれ、第18条第1項でそれを3年間備え付けます。施錠を二段にするか、帳簿の保管場所だけ鍵を分けるかを、契約前に決めてください。
対象範囲を揃えないまま複数社の見積もりを比べてしまうことがあります。警備料金について公表された一次情報がないため、金額の妥当性を外部の相場で検証できません。対象営業所、時間帯、検知の対象、連絡順序、鍵の預託、記録の引き渡し方法をこちらから指定し、同じ要件で見積もりを取り直してください。要件が違えば、金額の差は比較になりません。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 警備会社と契約すれば、古物営業法の対応は任せられますか | 任せられません。第13条第1項の管理者選任、第15条第1項の本人確認、同条第3項の不正品の申告、第16条の記帳、第18条第1項の3年間の備付けと同条第2項の亡失時の届出は、いずれも古物商が名宛人です。契約で外へ出せるのは、異常の検知と一次対応という物理的な動作までです。契約書に法令対応という文言があっても、条文上の義務は移りません。 |
| 月額はどのくらいが相場ですか | 警備料金について公的機関が公表した一次情報が見当たらないため、相場は示しません。金額を比較できる形にするには、対象とする営業所、警備の時間帯、検知の対象、通報後の連絡順序、鍵の預託の有無、記録の保存と引き渡し方法をこちらから指定し、同じ要件で複数社から見積もりを取ります。要件を出さずに提案を受け取ると、前提の違う金額が並ぶだけになります。 |
| 警備会社に鍵を預けても問題ありませんか | 預ける範囲によります。買取店の場合、現金と在庫だけでなく、第16条の帳簿等が同じ営業所にあります。記載事項には相手方の住所・氏名・職業・年齢が含まれ、第18条第1項により最終記載の日から3年間その場に備え付けます。鍵を預ける前に、非常時に入れる範囲と帳簿等の保管場所を分けてください。分けられない配置なら、施錠を二段にするか帳簿だけ別の鍵にするかという判断になります。 |
| 出張買取のときも警備の対象になりますか | 営業所を対象とした契約であれば対象外です。出張買取では相手方の住所・居所で受け取るため(第14条第1項)、営業所の設備も契約も届きません。決めるのは、携行する現金の上限、同行者の要否、受け取った品物を営業所へ戻す時刻の3つです。出張買取は特定商取引法の訪問購入に当たり、法定書面を受け取った日から8日間のクーリング・オフの対象なので、戻した品物の置き場も営業所側で決めておくことになります。 |
| 営業所を増やしたら契約はどう変わりますか | 契約の追加だけでは済みません。第12条第1項により営業所ごとに標識の掲示が要り、第13条第1項により営業所ごとに管理者を1人選任します。警備の対象地点、標識、管理者の3つが同時に増えるという関係です。見直しのタイミングを許可事項の変更に合わせておくと、契約対象の住所と標識の記載内容がずれたまま残る事態を避けられます。 |
| 警備を入れれば盗品の持ち込みも減りますか | 減りません。警備の対象は営業所への侵入や持ち出しであり、カウンター越しに入ってくる品物の判断は第15条第3項に基づく自店の業務です。令和7年中の古物商による不正品の申告は129件で、道具類37件、時計・宝飾品類31件、機械工具類22件、書籍17件と区分によって偏りがあります。第13条第3項は管理者に不正品を判断するための知識・技術・経験を得させる努力義務を課しており、令和7年中の古物商等管理者講習は150回・19,602人が受講しています。 |
この解決策が打ち手になりうる課題を3件挙げます。



扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。警備会社との契約をジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


