
古物営業法第3条は、古物営業を営もうとする者に都道府県公安委員会の許可を課しています。個人事業主でも法人でも、この点に差はありません。「まず個人で小さく始めるから許可はあとで」という進め方は、法の建て付けと合いません。
無許可で営業した場合の罰則は第31条第1号で、3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。2022年の刑法改正で懲役と禁錮が拘禁刑へ一本化され、2025年6月1日に施行されました。古い解説記事が「懲役」と書いているのは、この改正前の表記です。
実際に検挙されています。警察庁の公表によれば、令和7年中の古物営業法違反の検挙は19件・12人で、態様別の内訳は無許可が最多、次いで身分確認、帳簿等記載と続きます。件数としては小さい数字ですが、無許可が最も多いという構成は、開業前の人が最初に踏む地雷がどこかを示しています。
したがって「法人か個人か」は、許可が要るか要らないかの分岐ではありません。どちらの名義で許可を取るかの分岐です。この置き換えができていないと、以降の判断がすべてずれます。
許可は申請した事業者に与えられます。個人事業主として申請すれば個人名義、法人として申請すれば法人名義です。個人事業主が後から法人を設立した場合、その法人は別の主体なので、個人名義の許可のまま法人が買取を行うことはできません。
つまり法人成りをするなら、法人としてあらためて許可を取ることになります。屋号を引き継いでも、店舗も従業員も同じでも、許可の主体が変わる以上ここは避けられません。
申請先は主たる営業所の所在地を管轄する警察署の防犯係、手数料は19,000円です。不許可でも返金されません。 標準処理期間は約40日で、書類の補正にかかった期間はこれに含まれません。
この40日は、法人成りの工程表に必ず入れてください。法人の設立登記が済んでから申請しても、許可が下りるまでは法人名義で買い受けることができません。店舗の家賃も人件費も止まらないなかで、買取だけが止まる期間が生まれます。
税負担の分岐点で法人化の時期を決める記事が多くありますが、買取業ではもう一つ制約が乗ります。許可の名義が切り替わるまでの空白をどこに置けるか、という制約です。
在庫の販売や、すでに買い受けた品物の引渡しは、買取の停止とは別の話です。止まるのは新しく買い受ける行為です。買取が止まれば仕入が止まり、その先の売上が止まります。買取業は仕入と集客が同じ導線にあるため、止めた期間の影響が数か月遅れで売上に出ます。
繁忙期を外す、法人設立と許可申請の準備を並行させる、といった段取りで空白を短くする余地はあります。ただし標準処理期間そのものは短縮できる性質のものではありません。約40日は動かせない前提として置いてください。
個別の手続きの順序や、切替期間中に何ができるかは、管轄の警察署によって運用の説明が異なることがあります。開業形態の意思決定より前に、申請予定の警察署防犯係へ照会してください。
| 論点 | 個人事業主 | 法人 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 古物商許可の要否 | 要る | 要る | 古物営業法第3条 |
| 許可の名義 | 個人名義 | 法人名義 | 個人から法人へは引き継げず、取り直しになる |
| 無許可営業の罰則 | 3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 | 同左 | 同法第31条第1号 |
| 申請手数料と標準処理期間 | 19,000円・約40日 | 19,000円・約40日 | 不許可でも返金されない |
| 許可の単位 | 主たる営業所の公安委員会に1件 | 同左 | 令和2年4月1日施行の改正 |
| 管理者の選任 | 営業所ごとに1人 | 営業所ごとに1人 | 同法第13条第1項 |
| 帳簿の記載と保存 | 取引の都度記載・3年間備付け | 同左 | 同法第16条・第18条第1項 |
| 買取原資 | 自己負担 | 自己負担 | 支払いが先行する構造は形態と無関係 |
| 雇用関係助成金の中小判定 | 労働者数50人以下で判定 | 資本金5,000万円以下または50人以下 | 厚労省の区分(小売業) |
| 税負担・社会保険 | 本記事では示さない | 本記事では示さない | 一次情報を持たないため税理士・社労士へ |
多店舗展開を見据えて法人化を考える場合、ここを間違えている解説が多くあります。かつて許可は営業所等の所在する都道府県ごとに要りましたが、令和2年4月1日施行の改正で、主たる営業所等の所在地を管轄する公安委員会による1件に改められました。 営業所ごとに許可を取り直す構造ではありません。
この改正は統計の見え方も変えています。古物商の許可件数は平成30年に789,345件だったものが令和2年には396,378件へ半減していますが、事業者が半分になったのではなく、1事業者が複数持っていた許可が1件に集約されたためです。改正前後の数字をつなげて増減を語らないでください。
令和7年末時点の許可件数は、古物商614,118件、古物市場主1,076件で、合計615,194件です。前年から42,170件増えています。集約後の系列では増加が続いています。
許可が1件になっても、営業所ごとに残る義務はあります。第13条第1項は営業所または古物市場ごとに管理者を1人選任することを定めており、第12条第1項は営業所ごとの標識掲示を定めています。許可の数と、営業所ごとの義務の数は別に数えてください。
法人と個人の比較で最も知りたいのは税負担と社会保険でしょう。ただし買取ラボが根拠に使っている一次情報の範囲には、法人設立の実費、法人税率と所得税率の比較、社会保険の適用要件が含まれていません。手元に一次情報が無いため、ここでは金額も分岐点も示しません。
「所得◯◯万円を超えたら法人が得」という数字は各所に出回っていますが、前提となる所得の種類、家族への給与の有無、消費税の課税事業者かどうか、役員報酬の設定額で結論が動きます。買取業に限った統計もありません。
確認先は税理士と社会保険労務士です。相談に持ち込む材料は、直近12か月の買取総額と売上、在庫の期末残高、自分と家族への支払額、開業から3年の計画値です。この4点があれば、比較は具体的な数字で返ってきます。
専門家に聞く前に形態を決めないでください。 許可の名義は形態に連動し、決め直すたびに手数料19,000円と約40日が発生します。
買取業の資金は、開業費用と買取原資の2本立てです。法人か個人かで前者の内訳は変わりますが、後者はまったく変わりません。 客にその場で現金を渡し、売れてから回収する構造は、形態と無関係です。
日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査によると、開業費用は平均975万円、中央値600万円でした。全業種の新規開業企業が対象で、買取業に限った統計ではありません。平均と中央値が375万円離れており、少数の高額開業が平均を押し上げているため、中央値のほうが実感に近い数字です。分布では250万円未満が20.1%、250万〜500万円未満が21.7%で、4割以上が500万円未満です。
同じ調査で、開業時の資金調達額は平均1,219万円でした。内訳は金融機関等からの借り入れが平均827万円で調達額の67.9%、自己資金が平均279万円で22.9%です。調達額1,219万円に対し開業費用は975万円で、差額が運転資金にあたります。 買取原資はこの差額の側に入ります。
拘束される期間も見てください。中小企業実態基本調査から小売業の在庫回転を計算すると、従業者5人以下の層では在庫が現金に戻るまで平均55.9日です。月100万円分を買い取る計画なら、常時187万円前後が動かせない資金になります。この金額は、法人にしても個人にしても同じだけ要ります。
中小企業実態基本調査(令和6年確報・令和5年度決算実績、法人企業・小売業)では、従業者5人以下の層は粗利率31.7%に対して営業利益率0.2%です。従業者6〜20人の層は粗利率31.2%・営業利益率1.5%で、粗利率はむしろ小さい層のほうが高いのに、営業利益率で大きく劣っています。
差が出ているのは在庫回転です。5人以下は55.9日、6〜20人は32.6日で、約1.7倍の開きがあります。粗利を取れていないのではなく、在庫が現金に変わる速度で負けているという構造です。買取業に限定した統計ではないため、同規模の小売業と比べる物差しとして使ってください。
買取業は仕入原価を自分で決められる商売です。査定額がそのまま原価になるため、粗利率が下がったときの原因は「コストが上がった」ではなく「買取価格を上げた」である場合がほとんどです。形態を法人に変えても、この関係は変わりません。
開業形態の議論に時間をかけるより、買取総額に対して現金がいつ戻るかを月次で追える形にしておくほうが、初年度の資金繰りには効きます。 帳簿は法第16条により取引の都度記載し、第18条第1項により最終記載の日から3年間備え付ける義務があるので、測定の材料はどの店にも必ず存在します。
雇用関係助成金では「中小企業事業主」に当たるかどうかで支給額が変わります。厚生労働省の区分で、買取業は小売業として判定されます。 基準は資本金・出資の総額5,000万円以下、または常時雇用する労働者の数50人以下です。
「または」である点を読み違えないでください。 どちらか一方を満たせば中小企業事業主です。資本金等のない事業主、つまり個人事業主は労働者数で判定します。判定の時点は支給申請時です。
常時雇用する労働者とは、2か月を超えて使用され、かつ週の所定労働時間が通常の労働者と概ね同等の者を指します。パート中心の店では、この定義で数えると人数が想像より少なくなることがあります。
小規模事業者持続化補助金の「従業員5人以下」とは、まったく別の定義です。混同すると申請できる制度を取り違えます。 また助成金は年度途中で要件が変わるため、取組を始める前に管轄の労働局・ハローワークへ確認してください。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 古物商許可を、形態の選択とは切り離して「どちらでも要るもの」として工程に置いたか |
| 2 | 個人で先に許可を取る場合、法人成りのときに取り直しになることを織り込んだか |
| 3 | 許可の手数料19,000円と標準処理期間約40日を、開業日から逆算した工程に入れたか |
| 4 | 法人成りで買取を止められる時期を、繁忙期を避けて決めたか |
| 5 | 多店舗計画がある場合、許可は主たる営業所の1件で足りることを前提にしているか |
| 6 | 営業所ごとの管理者(第13条第1項)と標識掲示(第12条第1項)を、店舗数分で数えたか |
| 7 | 税・社会保険の比較を、直近12か月の買取総額・売上・在庫残高・支払額を持って税理士に相談したか |
| 8 | 開業費用とは別枠で、買取原資と在庫拘束分(月間買取額×約56日相当)を確保しているか |
| 9 | 助成金の中小企業判定を、小売業の基準(5,000万円以下または50人以下)で確認したか |
| 10 | 持続化補助金の「従業員5人以下」と、助成金の中小判定を混同していないか |
個人で古物商許可を取って営業を始め、軌道に乗ってから法人を設立した際に、個人名義の許可のまま法人で買い受けてしまうケースです。許可は事業者ごとに与えられるため、法人は別の主体として取り直しになります。無許可営業は第31条第1号で3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。令和7年中の古物営業法違反の検挙19件・12人のうち、態様別で最も多いのが無許可でした。
法人成りの日程を、設立登記の完了日だけで組んでしまう失敗です。許可申請の標準処理期間は約40日あり、書類の補正期間はこれに含まれません。登記が終わっても許可が下りるまで法人名義では買い受けられないため、家賃と人件費が出ていくなかで仕入だけが止まります。この期間を工程表に入れないと、数か月後の売上に穴が空きます。
多店舗展開を見据えて「店舗ごとに許可が要る」という前提で資金と工程を組んでしまうケースです。令和2年4月1日施行の改正で、許可は主たる営業所等の所在地を管轄する公安委員会による1件に一本化されました。許可件数が平成30年の789,345件から令和2年に396,378件へ半減しているのはこの集約によるもので、事業者数の減少ではありません。一方で管理者の選任は営業所ごとに残るため、そちらは店舗数分で数えます。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 個人事業主のまま始めて、あとで法人にしても許可は引き継げますか | 引き継げません。古物営業法第3条の許可は事業者ごとに与えられ、個人と法人は別の主体です。法人成りをするなら法人としてあらためて申請します。手数料19,000円(不許可でも返金なし)と標準処理期間約40日が再度かかり、その間は法人名義で買い受けられません。個別の手続きの順序は管轄の警察署防犯係に確認してください。 |
| 法人と個人で、税金はどちらが有利ですか | 本記事では示しません。買取ラボが根拠に使う一次情報の範囲に、法人税率と所得税率の比較や社会保険の適用要件が含まれていないためです。所得の種類、家族への給与、消費税の課税事業者かどうか、役員報酬の設定で結論が動きます。直近12か月の買取総額・売上・在庫の期末残高・自分と家族への支払額・3年の計画値を持って、税理士と社会保険労務士に確認してください。 |
| 店舗を増やすとき、都道府県ごとに許可を取り直しますか | 取り直しません。令和2年4月1日施行の改正で、許可は主たる営業所等の所在地を管轄する公安委員会による1件になりました。ただし第13条第1項により管理者は営業所ごとに1人選任し、第12条第1項により標識は営業所ごとに掲示します。許可の数は1でも、営業所ごとの義務は店舗数分で数えてください。 |
| 法人にすると資金調達がしやすくなりますか | 調達のしやすさについて買取業に限った一次情報はないため、断定しません。実額としては、日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査で開業時の資金調達額が平均1,219万円、うち金融機関等からの借り入れが平均827万円(67.9%)、自己資金が平均279万円(22.9%)でした。全業種が対象で、経営形態は開業時点で個人企業57.0%・法人企業43.0%です。この調査は形態別の調達額を分けて示していません。 |
| どちらの形態でも同じだけ要る資金は何ですか | 買取原資です。買取業は客にその場で現金を渡し、売れてから回収します。中小企業実態基本調査から小売業の在庫回転を計算すると、従業者5人以下の層では在庫が現金に戻るまで平均55.9日でした。月100万円分を買い取るなら常時187万円前後が拘束されます。開業費用(新規開業全体で平均975万円・中央値600万円)とは別枠で見積もってください。 |
| 助成金を使うとき、個人事業主でも中小企業事業主に当たりますか | 雇用関係助成金では、買取業は小売業として判定されます。基準は資本金・出資の総額5,000万円以下、または常時雇用する労働者の数50人以下で、どちらか一方を満たせば中小企業事業主です。資本金等のない個人事業主は労働者数で判定します。小規模事業者持続化補助金の「従業員5人以下」とは定義が違うので混同しないでください。要件は年度途中で変わるため、管轄の労働局・ハローワークに確認してください。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を7件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。







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