
古物営業法第3条は、古物商の営業に都道府県公安委員会の許可を義務づけています。許可を受けるのは個人または法人という「人」であって、屋号ではありません。屋号は許可の対象ではなく、営業所の名称として申請書に書かれる情報です。
ここが感覚とずれます。日常では店の名前が事業者の名前として通っていますが、制度上は、個人であれば本名、法人であれば商号が名義です。屋号を変えても許可番号は変わりませんし、屋号を新しくしたからといって新しい許可が生まれるわけでもありません。
この関係を先に押さえておくと、後の判断が楽になります。屋号は変えられる名前、名義は変えにくい名前という位置づけです。ブランドを複数持ちたい、店舗ごとに名前を変えたいという構想がある場合でも、その全部が同じ許可の下に並びます。
許可申請の書類上で屋号がどこに現れるか、複数の屋号を使う場合にどう記載するかは、都道府県警によって運用が異なります。名前の候補が固まった段階で、管轄警察署の防犯係に確認してください。
屋号を先に決めて、あとから法人化する順番でつまずく例があります。個人として受けた許可と、法人として受ける許可は別の主体に対するものだからです。
個人事業として始めるなら、屋号は開業届の屋号欄に書く名前になります。法人で始めるなら、それは商号になり、設立の登記に載ります。同じ文字列でも、屋号と商号では法的な位置づけが違います。商号は登記される名前で、屋号は登記されない名前です。
法人化の予定があるなら、その時期に許可をどう扱うかを管轄の警察署で確認してください。名義の変更で足りるのか、法人として改めて申請するのかで、要する期間が変わります。審査の期間中に買取を続けられるかどうかも同時に確認する項目です。日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査では、開業時の経営形態は個人企業57.0%、法人企業43.0%でした。買取業に限定した統計ではありませんが、どちらの経路も相応にあることは分かります。
商号を先に決めておく利点は、法人化のときに名前を変えずに済むことです。個人事業の屋号をそのまま商号にできるかは、同一の所在地に同一の商号がないかなど登記上の制約で決まります。候補が固まった段階で、法務局で同一商号の有無を確認しておくと、法人化のときに名前を作り直さずに済みます。
古物営業法第12条第2項は、事業規模が著しく小さい場合等を除き、氏名または名称、許可をした公安委員会の名称、許可証の番号を、インターネット上で公衆の閲覧に供することを義務づけています。買取のサイトを持つなら、この表示を入れる前提で設計します。
ここで示すのは、許可を受けた者の氏名または名称です。屋号だけを大きく掲げたサイトは、この義務を満たしていない可能性があります。個人で許可を受けているなら本名、法人なら商号が、公安委員会の名称と許可証番号とともに並びます。屋号でブランドを作りつつ、フッターや会社概要ページに名義を出す構成が現実的です。
店舗側でも同じことが起きます。第12条第1項は、営業所・仮設店舗・古物市場ごとに、公衆の見やすい場所へ国家公安委員会規則で定める様式の標識を掲示する義務を定めています。この標識は店名のロゴでは代替できません。様式が規則で決まっているためです。掲示義務に違反すると、第35条第2号により10万円以下の罰金です。
屋号を決める段階で、この2つの表示をどこに置くかまで決めておいてください。内装が固まってから標識を貼る場所を探す、サイトが完成してから会社概要ページを足す、という順番だと、どちらも後付けの体裁になります。
| 区分 | 何を指すか | 登記・許可との関係 | 変更したとき |
|---|---|---|---|
| 屋号(個人事業) | 店の名前。開業届の屋号欄に記載 | 登記されない。許可の名義ではない | 税務署と公安委員会で別々に確認 |
| 商号(法人) | 法人の名前。設立登記に記載 | 登記される。許可の名義になる | 商号変更の登記+各所への届出 |
| 許可の名義 | 個人の氏名または法人の名称 | 古物営業法第3条。人に対して出る | 個人と法人で別の主体として扱われる |
| 許可証番号 | 許可に付される番号 | 屋号を変えても変わらない | 行政側の追跡は継続する |
| 標識の表示 | 氏名または名称・公安委員会の名称・許可証番号 | 第12条第1項。様式は国家公安委員会規則 | 違反は10万円以下の罰金(第35条第2号) |
| ネット上の公表 | 同上 | 第12条第2項。事業規模が著しく小さい場合等を除く | 屋号だけの表示では足りない |
| 営業所の名称 | 申請書に記載する営業所の名前 | 記載方法の運用は都道府県警で異なる | 届出の要否を管轄で確認 |
「高価買取」「どこよりも高く」といった語を屋号やサービス名に入れると、その表示自体が景品表示法の対象になります。2024年4月から、買取サービスも規制の対象として扱われています。
屋号は看板、名刺、サイト、チラシ、検索結果のタイトルに常時出続けます。キャンペーンの表示なら期間中だけ根拠を持てば足りますが、屋号は営業している間ずっと出ています。表示を裏づける実績を継続して持てるかどうかを、名前を決める段階で見ておいてください。
他社との比較を含む語も同じです。地域一番、業界最高値といった表現は、比較の対象と時点を示せなければ根拠を持てません。屋号として掲げると、比較の材料を更新し続ける運用が発生します。
公的な機関や制度と誤認させる名称も避けます。鑑定、協会、センター、機構といった語は、その組織が何であるかを示す語として受け取られます。買取業は盗品が持ち込まれる前提の業種で、警察・公安委員会との接点が制度上あるため、公的な立場を思わせる名乗りは誤解を招きやすい領域です。
警察庁の統計では、令和7年末時点の古物商の許可件数は614,118件、古物市場主を含めた古物商等は615,194件で、前年比42,170件の増加でした。買取や中古を扱う事業者は毎年増え続けています。
この規模だと、地名と品目を組み合わせただけの名前は、ほぼ確実にどこかと重なります。重なったときに困るのは登記ではなく、検索とクレームの経路です。同名の別会社の評判が自社の検索結果に混ざり、逆に自社の問い合わせが他社に流れます。
確認するのは、①法務局での同一商号(法人化する場合)②特許情報プラットフォームでの商標の登録状況 ③屋号での検索結果に既存事業者がいないか ④ドメインと主要な地図・SNSのアカウントが取れるか、の4点です。このうち③と④は登記の可否とは無関係ですが、実務上の影響はこちらのほうが大きくなります。
商標については、自社が登録するかどうかとは別に、他社の登録があるかを先に見ます。登録がある名称を屋号として使い、看板やサイトに掲げると、後から使えなくなる可能性があります。すでに看板と標識とサイトの表示を作った後では、作り直しの費用が発生します。
屋号は変えられます。ただし買取業では、変えたときの影響が他業種より広く出ます。取引の記録が3年分残る業種だからです。
古物営業法第16条は、古物を受け取り、または引き渡したときに、その都度、取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条第1項でとった措置の区分を記録する義務を定めています。第18条第1項により、これを最終の記載をした日から3年間、営業所等に備え付けます。
この記録は自社側にしかありません。売った側の個人は、自分が誰に売ったかを控えていないことが多く、手元に残るのは店の名前だけです。屋号を変えると、その手がかりが切れます。盗品の照会、返品や取消しの申し出、クーリング・オフの申出があったときに、相手が店にたどり着けない状態が生まれます。
許可番号は屋号を変えても変わらないため、行政側の追跡は続きます。切れるのは一般の売り手からの経路のほうです。屋号を変えるなら、旧名からの導線(サイトの案内、店頭の掲示)を一定期間残す運用を決めてください。
屋号を変える、営業所の名称を変える、法人の商号を変える。いずれの場面でも、公安委員会への届出が要るかどうか、要るなら期限と様式がどうなるかを、管轄警察署の防犯係で確認してください。
要否と手続きは都道府県警によって運用が異なります。本記事で一律の期限や様式を示すことはしません。確認する項目としては、届出の要否、期限、必要書類、標識を作り直す必要があるか、インターネット上の公表内容をいつまでに更新するか、の5点です。
並行して、税務署への屋号の変更(個人事業の場合)、法人であれば商号変更の登記と、それに続く各所への届出が発生します。税務署への手続きと公安委員会への手続きは連動しません。片方を済ませても他方は動かないため、両方を工程に並べてください。
変更のタイミングは、看板・標識・名刺・サイト・封筒・買取伝票の様式がすべて切り替わる日を決めてから逆算します。買取伝票の様式が古いままだと、記録上の店名と表示上の店名が食い違います。第16条の帳簿に直接影響する話ではありませんが、後から取引を突き合わせるときに手間が増えます。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 屋号と、許可を受ける名義(個人の氏名または法人の商号)を分けて考えているか |
| 2 | 個人で始めるか法人で始めるかを、屋号を決める前に判断したか |
| 3 | 法人化の予定がある場合、許可の扱いを管轄警察署で確認したか |
| 4 | サイトに、許可を受けた者の氏名または名称・公安委員会の名称・許可証番号を出す設計になっているか |
| 5 | 標識の掲示場所を、内装を確定する前に決めたか |
| 6 | 屋号に買取価格の優良性を示す語を入れる場合、根拠を継続して持てるか |
| 7 | 公的機関や制度と誤認させる語を含んでいないか |
| 8 | 法務局での同一商号、特許情報プラットフォームでの商標登録を確認したか |
| 9 | 屋号での検索結果に、同名または類似の既存事業者がいないか調べたか |
| 10 | ドメインと主要な地図・SNSのアカウントを取得できるか確認したか |
| 11 | 屋号を変える場合、旧名からの導線を一定期間残す運用を決めたか |
| 12 | 変更時の届出の要否・期限・必要書類を、管轄警察署の防犯係で確認したか |
屋号を決めてサイトと看板を作ってから、法人化のときに商号として使えないと分かるケースです。屋号は登記されない名前で、商号は登記される名前です。同一の所在地に同一の商号がある場合など、登記上の制約で使えないことがあります。加えて個人として受けた許可と法人として受ける許可は別の主体に対するもので、扱いは管轄警察署での確認事項です。候補が固まった段階で法務局と警察署の両方に当たってください。
サイトに屋号だけを掲げて、許可の情報を載せていないケースです。古物営業法第12条第2項は、事業規模が著しく小さい場合等を除き、氏名または名称、許可をした公安委員会の名称、許可証の番号をインターネット上で公衆の閲覧に供する義務を定めています。ここに出るのは屋号ではなく許可を受けた者の名義です。店舗側の標識も第12条第1項で様式が規則に定められており、店名のロゴでは代替できません。掲示義務違反は第35条第2号により10万円以下の罰金です。
屋号に「高価買取」「地域一番」といった語を入れて、そのまま数年使い続けるケースです。買取サービスは2024年4月から景品表示法の規制対象として扱われており、屋号は看板・名刺・サイト・検索結果に常時出続けます。キャンペーンの表示と違い、営業している間ずっと根拠を持ち続ける側に回ります。比較を含む語なら、比較の対象と時点を更新し続ける運用が発生します。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 屋号で古物商許可を取れますか | 取れません。古物営業法第3条の許可を受けるのは個人または法人という「人」で、屋号は許可の対象ではありません。個人であれば本名、法人であれば商号が名義になり、屋号は営業所の名称として申請書に記載される情報です。申請書上でどう記載するか、複数の屋号を使う場合の扱いは都道府県警によって運用が異なるため、管轄警察署の防犯係で確認してください。 |
| サイトには屋号だけを載せればよいですか | 足りません。古物営業法第12条第2項は、事業規模が著しく小さい場合等を除き、氏名または名称、許可をした公安委員会の名称、許可証の番号をインターネット上で公衆の閲覧に供する義務を定めています。ここに出すのは許可を受けた者の名義であって屋号ではありません。屋号でブランドを作りつつ、フッターや会社概要ページに許可の情報を置く構成が現実的です。 |
| 屋号を変えたら、許可を取り直しますか | 許可証番号は屋号を変えても変わりません。ただし届出が要るかどうか、要るなら期限と必要書類がどうなるかは、都道府県警によって運用が異なるため管轄警察署の防犯係で確認してください。あわせて、標識を作り直す必要があるか、インターネット上の公表内容をいつまでに更新するかも同時に聞いておくと、切り替えの工程を一度で組めます。税務署への手続きは公安委員会への手続きとは連動しません。 |
| 同じ名前の買取店が他県にありますが、問題になりますか | 登記上の問題と、実務上の問題を分けて見てください。法人の商号は、同一の所在地に同一の商号がある場合など登記上の制約がありますが、他県の同名は登記の妨げにならないことがあります。実務で効くのは検索とクレームの経路です。同名の別会社の評判が自社の検索結果に混ざり、問い合わせが他社に流れます。令和7年末時点の古物商の許可件数は614,118件、古物市場主を含めて615,194件と規模が大きいため、地名と品目の組み合わせだけの名前は重なりやすくなります。 |
| 屋号に「高価買取」と入れてもよいですか | 入れると、その表示の根拠を営業している間ずっと持ち続ける側に回ります。買取サービスは2024年4月から景品表示法の規制対象として扱われています。キャンペーンの表示であれば期間中の根拠で足りますが、屋号は看板・名刺・サイト・検索結果に常時出続けます。他社との比較を含む語であれば、比較の対象と時点を更新し続ける運用が発生します。表示の根拠を持たずに書ける前提で名前を決めないでください。 |
| 屋号を変えると、お客さんとの関係で何が起きますか | 売り手側から店にたどり着く経路が切れます。古物営業法第16条の帳簿は、取引の年月日、品目及び数量、特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、確認措置の区分を記録し、第18条第1項により最終記載日から3年間、営業所等に備え付けます。この記録は自社側にしかなく、売った個人の手元に残るのは店の名前だけであることが多いためです。盗品の照会、返品や取消しの申し出があったときに連絡が届かなくなるため、旧名からの導線を一定期間残してください。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を6件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。






扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。屋号・商号の決定をジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


