
保証金・敷金は、退去時に原状回復費などを差し引いて返還される性質の金銭です。会計上も費用ではなく資産として扱われます。
ところが資金繰りの観点では、支払った瞬間に手元から消えます。返ってくるのは事業をやめるときで、事業を続けている間はずっと預けたままです。
この点で保証金は、買取原資と性質が似ています。どちらも「なくなる金」ではなく「拘束される金」です。買取原資は在庫が売れれば戻りますが、保証金は退去まで戻りません。拘束期間はこちらのほうが圧倒的に長い。
資金計画では、保証金を回収可能な資産として当てにしないでください。開業から数年の資金繰りにおいて、その金額は存在しないものとして扱うのが実務的です。
日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査によると、開業費用は平均975万円、中央値600万円でした。「250万円未満」が20.1%、「250万〜500万円未満」が21.7%で、4割以上が500万円未満です。
この調査は全業種が対象で、買取業に限定したものではありません。ただし店舗を構える業態であれば、保証金・敷金がこの費用の中に含まれます。
店舗物件の保証金は、住居用の敷金より高く設定されることが一般的です。中央値600万円のうち相当部分が保証金で占められる可能性があり、内装や什器に回せる額はその分減ります。
物件の条件を比べるとき、賃料だけでなく保証金の月数も並べてください。賃料が同じでも保証金が2ヶ月分違えば、開業時に必要な現金が大きく変わります。
古物商許可の標準処理期間は約40日です。書類の補正期間は含みません。不備があればさらに延びます。
物件を契約してから許可が下りるまでの間、営業はできませんが賃料は発生します。この期間の家賃を開業費用に織り込んでいない試算が多い。
月額20万円の物件なら、40日でおよそ27万円が売上ゼロのまま出ていきます。内装工事の期間が重なれば、営業開始まではさらに長くなります。
申請手数料19,000円は不許可でも返金されません。金額としては小さいものの、不許可なら物件契約と空家賃だけが残るという点で、事前の確認が費用に直結します。
| 資金 | 戻るか | 戻るまでの期間 | 資金繰り上の扱い |
|---|---|---|---|
| 保証金・敷金 | 一部戻る | 退去時 | 事業継続中は存在しないものとして扱う |
| 内装工事費 | 戻らない | — | 費用 |
| 什器・備品 | 売却すれば一部 | 処分時 | 費用に近い |
| 買取原資 | 戻る | 平均55.9日(従業者5人以下の小売業) | 常時一定額が拘束される |
| 許可待ちの家賃(約40日) | 戻らない | — | 売上ゼロの期間の固定費 |
| 許可申請手数料19,000円 | 戻らない | — | 不許可でも返金なし |
保証金を払ってから許可が下りないと分かれば、その支出は無駄になります。順序を間違えないでください。
古物商は原則として、事業用として登記された物件を営業所とする必要があります。申請時には賃貸借契約書の写しが求められ、他人名義の物件では使用承諾書が必要です。居住用の物件を無断で事業用に使うのは賃貸借契約の用法遵守義務違反にあたります。
物件の申し込み前に、貸主から事業利用の承諾が得られるかを確認してください。判断は都道府県警により運用が異なるため、迷う場合は管轄警察署の防犯係で事前に確認します。
共用スペースのみのバーチャルオフィスは営業所の実態要件を満たしません。施錠可能な個室のレンタルオフィスであれば取得できる場合があります。
買取業の資金繰りが厳しくなりやすいのは、拘束される資金が二重になるためです。
保証金は退去まで戻りません。買取原資は、買い取った品物が売れるまで戻りません。中小企業実態基本調査から小売業の在庫回転を計算すると、従業者5人以下の層では在庫が現金に戻るまで平均55.9日でした。
月100万円分を買い取る計画なら、原資として常時187万円前後が拘束されます。ここに保証金が加われば、動かせない資金はさらに積み上がります。
公庫の調査では、開業時の資金調達額は平均1,219万円、開業費用は平均975万円で、差額244万円が運転資金にあたります。保証金が開業費用側で大きくなるほど、運転資金に回せる額は減ります。 物件のグレードを上げる判断は、買取原資を削る判断でもあります。
居抜き物件を使えば内装費を抑えられます。前のテナントの造作を引き継ぐため、工事期間も短くなります。
ただし保証金が安くなるとは限りません。 造作譲渡費が別途かかる場合もあり、総額では変わらないこともあります。契約条件を項目ごとに比べてください。
また、居抜きであっても古物商許可の要件は変わりません。事業用として使えるか、貸主の承諾が得られるかは、物件の状態とは別の話です。
退去時の条件も確認してください。原状回復義務の範囲によっては、引き継いだ造作を撤去する費用が自分に乗ります。保証金から差し引かれる額が想定より大きくなるのはこの局面です。
小規模事業者持続化補助金の対象経費は8区分で、①機械装置等費 ②広報費 ③ウェブサイト関連費 ④展示会等出展費 ⑤旅費 ⑥新商品開発費 ⑦借料 ⑧委託・外注費です。
⑦借料は機器・設備等のリース・レンタル料(所有権移転を伴わないもの)とされており、店舗の保証金や敷金を想定した区分ではありません。
デジタル化・AI導入補助金も、必須経費がソフトウェア購入費とクラウド利用料です。保証金は対象になりません。
保証金は自己資金か融資で用意します。補助金の対象外である以上、ここは調達方法が2つしかありません。
日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金では、保証金は設備資金として扱われます。返済期間は設備資金が20年以内(据置5年以内)、運転資金が10年以内(据置5年以内)です。
融資限度額は7,200万円ですが、この数字を開業費用の目安にしないでください。 同じ公庫の2025年度新規開業実態調査では、金融機関等からの借入は平均827万円でした。限度額と実際の借入額は桁が違います。
借入で保証金を用意した場合に起きるのは、拘束期間と返済期間のずれです。保証金そのものは退去まで戻りませんが、返済は契約の翌月から毎月出ていきます。据置期間を使っても最長5年で、退去がそれより先なら、戻らない資産に対して返済だけが先に進みます。
利率は基準利率が原則で、女性・35歳未満・55歳以上、認定創業支援等事業の支援を受けた場合などの要件に当てはまれば特別利率A〜Cが適用されます。事業内容よりも申込者の属性で決まる部分があるため、該当するかを先に確認してください。
信用保証協会の保証を使う場合、保証料率は財務内容と定性要因から9区分で決まります。責任共有制度の対象なら年0.45%から1.90%で、区分①と区分⑨では4倍以上の開きがあります。
保証金のために借入額を積み増すと、その分にも同じ料率がかかります。保証金300万円を借入に上乗せするなら、料率0.45%の区分なら年13,500円、1.90%の区分なら年57,000円です。同じ300万円でも年43,500円の差が出ます。
区分は過去の決算書で決まります。買取業は在庫を資産として抱えるため、売れない在庫を簿価のまま持ち続けると財務評価に響きます。保証金と在庫の両方で資産が膨らんでいる状態は、次回の区分判定で不利に働きます。
なお保証料率区分の判定モデルは変更されます。令和8年4月期以降の決算書による保証申込から新しいモデルが適用されるため、今の区分が次も同じとは限りません。 具体的な料率は申込先の協会と金融機関に確認してください。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 保証金を回収可能な資産として資金計画に組み込んでいないか |
| 2 | 物件を比べるとき、賃料だけでなく保証金の月数を並べているか |
| 3 | 古物商許可の標準処理期間 約40日分の家賃を開業費用に含めているか |
| 4 | 内装工事の期間と許可待ちが重なる場合、営業開始までの固定費を試算したか |
| 5 | 物件の申し込み前に、貸主から事業利用の承諾を得られるか確認したか |
| 6 | 保証金と買取原資が同時に拘束されることを踏まえて資金を配分しているか |
| 7 | 物件のグレードを上げる判断が、買取原資を削っていないか |
| 8 | 居抜きの場合、造作譲渡費と原状回復義務の範囲を確認したか |
| 9 | 保証金を補助金で賄う前提を置いていないか |
| 10 | 借入で賄う場合、退去までの拘束期間と返済期間のずれを織り込んでいるか |
| 11 | 特別利率A〜Cの対象要件(女性・35歳未満・55歳以上など)に当てはまるか確認したか |
| 12 | 保証協会を使う場合、保証金の上乗せ分にかかる保証料を年額で試算したか |
保証金を「戻ってくるお金」として資金計画に組み込むケースです。返還は退去時であり、事業を続けている間は預けたまま動かせません。開業から数年の資金繰りでは、その金額は存在しないものとして扱ってください。
許可待ちの約40日分の家賃を試算に入れないケースです。物件を契約してから許可が下りるまで営業はできませんが賃料は発生します。月額20万円の物件なら40日でおよそ27万円が売上ゼロのまま出ていきます。内装工事の期間が重なればさらに延びます。
保証金を払ってから、その物件では古物商許可が下りないと判明するケースです。居住用物件の無断使用は賃貸借契約の用法遵守義務違反にあたります。物件の申し込み前に、貸主から事業利用の承諾を得られるかを確認してください。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 保証金は資金計画でどう扱えばよいですか | 戻らない前提で扱ってください。会計上は資産ですが、返還されるのは退去時で、事業を続けている間はずっと預けたままです。買取原資が在庫の売却で戻るのに対し、保証金の拘束期間は比較にならないほど長くなります。開業から数年の資金繰りでは、存在しない金額として計算するのが実務的です。 |
| 許可が下りるまでの家賃はどれくらい見ればよいですか | 古物商許可の標準処理期間は約40日で、書類の補正期間は含みません。月額20万円の物件なら、40日でおよそ27万円が売上ゼロのまま発生します。内装工事の期間が重なる場合は営業開始までさらに延びるため、契約日を起点に営業開始日までの固定費を積んでください。 |
| 居抜き物件なら保証金も安くなりますか | 安くなるとは限りません。内装費は抑えられますが、造作譲渡費が別途かかる場合があり、総額では変わらないこともあります。また退去時の原状回復義務の範囲によっては、引き継いだ造作の撤去費用が自分に乗り、保証金から差し引かれる額が想定より大きくなります。契約条件を項目ごとに比べてください。 |
| 保証金に補助金は使えますか | 使えません。小規模事業者持続化補助金の対象経費8区分のうち⑦借料は、機器・設備等のリース・レンタル料(所有権移転を伴わないもの)であり、店舗の保証金や敷金を想定した区分ではありません。デジタル化・AI導入補助金も必須経費はソフトウェア購入費とクラウド利用料です。自己資金または融資で用意してください。 |
| 保証金を融資で用意しても問題ありませんか | 制度上は可能です。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金では保証金は設備資金として扱われ、返済期間は20年以内(据置5年以内)です。ただし保証金は退去まで戻らない一方、返済は毎月発生します。据置期間は最長5年で、退去がそれより先なら、戻らない資産に対して返済だけが先に進みます。この期間のずれを資金繰り表に落としてから判断してください。 |
| 保証協会を使うと保証金の分だけ負担はどれくらい増えますか | 保証料率は9区分で決まり、責任共有制度の対象なら年0.45%から1.90%です。保証金300万円を借入に上乗せする場合、0.45%の区分なら年13,500円、1.90%の区分なら年57,000円で、同じ300万円でも年43,500円の差が出ます。区分は過去の決算書で決まるため、売れない在庫を簿価で抱えている状態は判定に不利に働きます。なお令和8年4月期以降の決算書による申込から判定モデルが変わるため、具体的な料率は協会と金融機関に確認してください。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を12件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。












扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。保証金・敷金の負担をジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


