
古物営業法第13条1項は、営業所または古物市場ごとに管理者を1人選任する義務を定めています。1人で開業する場合でも管理者は置きますし、2店舗目を出した時点で2人目が要ります。採用計画の最初の行は、必要な役割ではなく、この条文から始まります。
誰でも管理者になれるわけではありません。同条2項は、未成年者や、第4条1号から7号までの欠格事由に該当する者は管理者になれないと定めています。採用の選考基準にこの条件を組み込んでおかないと、内定を出した後に選任できないことが分かる事態になります。
同条3項は、管理者に、不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務を事業者に課しています。これは採用後の教育を、業務の一部として時間と費用の計画に入れるということです。研修を「余裕ができたらやるもの」に置くと、この努力義務が計画上どこにも現れません。
計画上の注意点として、管理者が退職・異動した瞬間に営業所が選任者を欠く状態になります。採用計画には、欠員が出たときに誰を充てるかを先に決めておく行を入れてください。管理者の候補が1人しかいない状態は、採用の問題である前に法令上の問題です。
採用を費用としてだけ見ると、人件費が増えて利益が減るという結論にしかなりません。しかし中小企業庁「中小企業実態基本調査 令和6年確報(令和5年度決算実績)」の法人企業・小売業を規模帯で見ると、逆の並びになっています。
従業者5人以下は粗利率31.7%で営業利益率0.2%、6〜20人は粗利率31.2%で営業利益率1.5%です。小売業全体では粗利率29.8%、営業利益率2.4%でした。粗利率はむしろ5人以下のほうが0.5ポイント高いのに、営業利益率は7倍以上の開きがあります。
差が出ている場所は在庫です。在庫回転率は5人以下が6.53回、6〜20人が11.19回、小売業全体が10.90回。在庫回転期間に直すと、5人以下が55.9日、6〜20人が32.6日、全体が33.5日です。5人以下は在庫が現金に戻るまでに1.7倍の時間がかかっています。買取業は仕入れに現金が要る商売なので、この差はそのまま資金繰りに出ます。
ただしこれは規模帯ごとの平均値の比較であって、人を採れば回転が速くなるという因果を示したものではありません。また買取業だけを切り出した統計でもありません。採用計画に使うときは、「増員によって在庫回転期間を何日まで縮めるか」を目標として書き、実績で検証できる形にしてください。人件費の増加額と、回転が速くなることで浮く運転資金を並べて書くと、増員の是非が数字で議論できます。
採用の人数を決めるとき、事業運営とは別の理由で線が入る場所があります。小規模事業者持続化補助金(一般型 通常枠)の対象となる小規模事業者は、商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)で常時使用する従業員5人以下とされています。買取店は商業・サービス業にあたるため、この5人以下が目安になります。
この人数には、会社役員、個人事業主本人、一定条件を満たすパートタイム労働者は含みません。6人目の常時使用する従業員を採用した時点で、補助率2/3・補助上限50万円(インボイス特例で+50万円、賃金引上げ特例で+150万円)の枠が使えなくなります。広報費でチラシや看板、ウェブサイト関連費でサイト制作を賄う計画を立てているなら、採用の時期と申請の時期の前後関係を確認してください。
紛らわしいのは、雇用関係助成金の中小企業判定がまったく別の基準だという点です。厚生労働省の雇用関係助成金では、買取業は小売業(飲食店を含む)として判定され、資本金・出資の総額5,000万円以下、または常時雇用する労働者50人以下のいずれかを満たせば中小企業事業主になります。「または」なので、どちらか一方で足ります。判定時点は支給申請時です。
この2つを混同すると、「従業員が6人になったからもう助成金は使えない」という誤った結論になります。持続化補助金の5人以下は補助金の対象要件、雇用関係助成金の50人以下は中小企業かどうかの判定基準で、性質が違います。採用計画には、どちらの制度を使う予定かを書き分けてください。
| 規模帯 | 粗利率 | 営業利益率 | 在庫回転率 | 在庫回転期間 | 採用計画への意味 |
|---|---|---|---|---|---|
| 従業者5人以下 | 31.7% | 0.2% | 6.53回 | 55.9日 | 粗利は最も高いが利益が残らない。持続化補助金(商業・サービス業5人以下)の対象範囲 |
| 従業者6〜20人 | 31.2% | 1.5% | 11.19回 | 32.6日 | 粗利率は0.5ポイント低いのに営業利益率は7倍以上。差は回転で出ている |
| 小売業 全体 | 29.8% | 2.4% | 10.90回 | 33.5日 | 粗利率は最も低い。買取業の値ではなく、同規模比較の物差しとして使う |
「買取スタッフ募集」という括りで採用すると、入社後に何を任せるかが定まりません。買取業の店頭業務は、法律上の義務が職務としてぶら下がっているため、先に割っておくほうが教育計画も作れます。
取引時に発生する義務は3つです。古物営業法第15条1項の相手方の真偽を確認する措置、第16条の帳簿等への記載、第18条1項の最終記載の日から3年間の備え付けです。加えて第15条3項は、不正品の疑いがあると認めるときに直ちに警察官へ申告する義務を定めています。この申告の判断を誰がするのかを決めていない店は、現場が判断を迷ったときに止まります。
記帳の工数は扱う品目で変わります。本人確認は対価の総額が1万円未満の取引では免除されますが(同法第15条2項1号、金額は施行規則第16条1項)、施行規則第16条2項が定める7品目は金額に関係なく確認が要ります。自動二輪車及び原動機付自転車、エアコンディショナーの室外ユニットと電気温水機器のヒートポンプ、家庭用コンピュータゲームのプログラムを記録した物、光学的方法により音又は影像を記録した物、電線、金属製のグレーチング、書籍です。書籍やゲームソフト、CD・DVDを主力にするなら、少額の取引ごとに確認と記帳が発生し、点数に比例して人手が要ります。
シフトの下限は集客の構造から決まります。消費者庁「買取サービスに関する実態調査報告書」(令和7年4月30日)に掲載された2023年のチャネル別構成比は、店頭買取り78.2%、出張買取り10.0%、宅配買取り9.5%です。8割が店頭である以上、営業時間中に受付できる人が常に店にいる状態を作れるかが、必要人数の起点になります。出張買取を入れるなら、店を空けないための人数が上乗せになります。
求人条件を決めるときの水準感には、厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」が使えます。卸売業,小売業(男女計)の所定内給与額は月349.1千円で、前年比+1.6%。平均年齢44.3歳、平均勤続年数14.5年です。
この値には3つの限界があります。第一に、卸売業と小売業の合算値で、買取業単独の値ではありません。第二に、集計対象は10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所52,242事業所で、小規模な買取店はほとんど含まれていません。第三に、令和7年6月分として支払われた所定内給与額の月額平均であり、賞与・残業代・通勤手当を含みません。年収でも時給でもないので、12倍して年収として扱うことも、時間で割って時給相場として扱うこともできません。
年齢階級別の値は、賃金設計の材料になります。19歳以下198.3千円、20〜24歳241.0千円、25〜29歳272.7千円、30〜34歳302.2千円、35〜39歳336.7千円、40〜44歳361.5千円、45〜49歳385.4千円、50〜54歳418.1千円、55〜59歳423.4千円、60〜64歳332.9千円、65〜69歳261.8千円です。
55〜59歳の423.4千円がピークで、20代前半の241.0千円の1.76倍です。査定は経験が価値になる職種なので、この形をそのまま採るか、経験年数ではなく査定の精度と回転への貢献で組むかが設計の分かれ目になります。産業間で見ると、卸売業,小売業の349.1千円は16産業の中で中位からやや下です。最も高いのは電気・ガス・熱供給・水道業444.0千円、最も低いのは宿泊業,飲食サービス業277.2千円です。
有期雇用で採用して正社員に転換する計画なら、キャリアアップ助成金の正社員化コースが該当しえます。令和7年度版(令和7年4月1日現在)の支給額は、重点支援対象者かつ中小企業の場合、有期雇用労働者から正社員への転換で80万円(40万円×2期)、無期雇用労働者からの転換で40万円(20万円×2期)です。重点支援対象者以外の中小企業では、有期からの転換で40万円(40万円×1期)、無期からの転換で20万円です。1年度1事業所あたりの支給申請上限は20名です。
重点支援対象者は、雇入れから3年以上の有期雇用労働者、雇入れから3年未満で過去5年間に正規雇用だった期間が合計1年以下かつ過去1年間に正規雇用でない者、派遣先で直接雇用する派遣労働者、母子家庭の母等・父子家庭の父、人材開発支援助成金の特定訓練修了者のいずれかです。加算として、正社員転換制度を新たに規定して転換した場合に20万円、多様な正社員制度(勤務地限定・職務限定・短時間正社員のいずれか1つ以上)を新たに規定して転換した場合に40万円があり、いずれも1事業所あたり1回のみです。
支給の順序が採用計画に効きます。正社員として6か月雇用した時点で1期目、さらに6か月で2期目という形なので、80万円を満額受け取るには転換から1年かかります。買取業は客にその場で現金を渡す業種で、支払いが先行します。人件費は毎月出ていき、助成金は1年かけて戻るという時間差が生じるため、助成金を採用の原資として計画に組み込むと資金繰りが合いません。
不支給要件も先に確認してください。支給申請日の前日から過去1年間に労働関係法令の違反を行った事業主、支給申請時または支給決定時に雇用保険適用事業所の事業主でない場合は不支給です。労働者の処遇改善が図られていない場合や、非正規雇用労働者の処遇低下がある場合も不支給になります。要件は年度途中で変更されるため、取組の実施前に管轄の労働局・ハローワークへ確認する前提で計画を組んでください。
買取業の採用について、公的な統計で確認できない項目が複数あります。1人採用するのにいくらかかるか、業界の離職率がどれくらいか、求人媒体ごとの掲載費用がいくらか。いずれも一次情報が存在しないため、この記事では書きません。
媒体費の相場について、電通「2025年 日本の広告費」を使いたくなる場面がありますが、これは市場全体の出稿額を示す統計で、1社あたりの費用相場ではありません。求人1件の掲載費の根拠には使えません。相場を知りたい場合は、複数社から見積もりを取って自社の数字として持つほうが確実です。
一方で、採用の必要性を測る数字は自店の中にあります。古物営業法第16条の帳簿は、取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条1項でとった措置の区分を記載する義務があり、同法第18条1項で最終記載の日から3年間の備え付けが義務づけられています。どの店にも必ず3年分あります。
この帳簿から、時間帯別・曜日別の受付件数、1人あたりの1日受付件数、品目別の記帳件数が出せます。業界平均が無くても、「土曜の14時から17時に受付が集中していて、その時間だけ人が足りない」という判断は自店のデータでできます。採用計画に書くべきは、業界の相場ではなく、この実測値と、増員後に在庫回転期間をどこまで縮めるかの目標です。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 営業所ごとの管理者選任(古物営業法第13条1項)を、採用計画の最初の行に置いているか |
| 2 | 管理者の欠格事由(同条2項)を選考基準に組み込んでいるか。内定後に選任できない事態を避けているか |
| 3 | 管理者が退職・異動したときの後任を、あらかじめ決めているか |
| 4 | 増員の理由を人件費だけでなく、在庫回転期間の目標とセットで書いているか |
| 5 | 常時使用する従業員が5人を超えると、持続化補助金の対象から外れる点を採用時期と突き合わせているか |
| 6 | 雇用関係助成金の中小企業判定(小売業=資本金5,000万円以下または常時雇用50人以下)と、持続化補助金の5人以下を混同していないか |
| 7 | 職務を査定・現金の払い出し・本人確認・記帳・管理者に割ってから求人を出しているか |
| 8 | 1万円未満でも本人確認が要る7品目を扱うかどうかで、記帳工数の想定を変えているか |
| 9 | 賃金の統計を月額のまま使っているか。12倍して年収に換算していないか |
| 10 | 助成金の入金時期(6か月+6か月)を採用の原資に見込んでいないか |
| 11 | 採用単価や離職率に、根拠のない数字を置いていないか。自店の帳簿から測る設計にしているか |
求人媒体の選定から採用計画を始めてしまう失敗があります。買取業では人数の下限が古物営業法第13条1項の管理者選任で決まっており、営業所ごとに1人が必須で、同条2項の欠格事由に該当する者は選任できません。媒体を決める前に、管理者を誰にするか、その人が欠けたときに誰を充てるかを決めてください。管理者の候補が1人しかいない状態は、採用の課題である前に法令上の課題です。
増員を人件費の増加としてだけ計画に書き、回転への影響を書かない失敗があります。中小企業実態基本調査では、従業者5人以下が粗利率31.7%・営業利益率0.2%・在庫回転期間55.9日、6〜20人が粗利率31.2%・営業利益率1.5%・在庫回転期間32.6日です。粗利率がほぼ同じで営業利益率が7倍以上違う原因は回転にあります。増員の行には、その増員で在庫回転期間を何日まで縮めるつもりかを併記して、実績で検証できる形にしてください。
助成金を採用の原資として資金計画に組み込んでしまう失敗があります。キャリアアップ助成金の正社員化コースは、正社員として6か月雇用した時点で1期目、さらに6か月で2期目という支給で、中小企業・重点支援対象者の80万円を満額受け取るには転換から1年かかります。買取業は客にその場で現金を渡すため支払いが先行しており、人件費の支出と助成金の入金の間に1年の差が空きます。さらに過去1年間に労働関係法令の違反があると不支給になります。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 1人で開業する場合でも管理者を選任する義務がありますか | あります。古物営業法第13条1項は、営業所または古物市場ごとに管理者を1人選任する義務を定めており、規模による除外はありません。1人で営業する場合は本人が管理者になるのが通常です。同条2項により未成年者や第4条1号から7号までの欠格事由に該当する者は管理者になれません。同条3項では、管理者に不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務が事業者に課されています。2店舗目を出す計画があるなら、その時点で2人目の管理者が要ります。 |
| 何人まで採用してよいか、判断の目安はありますか | 業界共通の目安はありませんが、制度上の線と経営指標の両方から検討できます。制度上は、小規模事業者持続化補助金(一般型 通常枠)の対象が商業・サービス業で常時使用する従業員5人以下なので、6人目でこの枠から外れます。経営指標では、中小企業実態基本調査で従業者5人以下の在庫回転期間が55.9日、6〜20人が32.6日、営業利益率が0.2%と1.5%です。人を置いて回転が速くなるなら増員は利益率に効きますが、これは規模帯の平均値の比較であって因果ではありません。自店の在庫回転期間を実測し、目標を決めてから人数を決めてください。 |
| 求人票に書く給与の水準は、どの統計を見ればよいですか | 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」の卸売業,小売業(男女計)の所定内給与額 月349.1千円が水準感の目安になります。ただし卸売業と小売業の合算値であること、集計対象が10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所52,242事業所で小規模な買取店がほとんど含まれないこと、賞与・残業代・通勤手当を含まない月額であることの3点を踏まえてください。年収でも時給でもないため、12倍したり時間で割ったりして使うことはできません。年齢階級別では20〜24歳241.0千円、35〜39歳336.7千円、45〜49歳385.4千円、55〜59歳423.4千円がピーク、60〜64歳332.9千円です。 |
| 未経験者を採用しても査定を任せられますか | 任せる範囲を職務ごとに分けるかどうかで変わります。取引時に発生する法律上の義務は、相手方の真偽の確認(古物営業法第15条1項)、帳簿等への記載(第16条)、3年間の備え付け(第18条1項)、不正品の疑いがあるときの警察官への申告(第15条3項)です。このうち確認と記帳は手順化できますが、不正品の疑いの判断と査定額の決定は経験に依存します。第13条3項が管理者への教育を努力義務としているのは、この判断のためです。未経験者には確認と記帳から入り、査定額の決定と申告の判断は管理者が担うという分け方にすると、採用の間口を広げながら義務は守れます。 |
| 採用にかかる費用の相場を知りたいのですが | 求人媒体の掲載費用、採用単価、業界の離職率について、公的な一次情報は確認できていません。そのためこの記事では相場を示しません。電通「2025年 日本の広告費」は媒体別の出稿額を示していますが、これは市場全体の金額であって1社あたりの費用相場ではないので、根拠には使えません。実務では複数社から見積もりを取り、自社の数字として持つことになります。そのうえで、採用によって在庫回転期間がどれだけ縮んだかを古物営業法第16条の帳簿と棚卸しから測れば、費用に見合ったかどうかは自社で判断できます。 |
| パートやアルバイトは、補助金の従業員数に含まれますか | 小規模事業者持続化補助金では、会社役員、個人事業主本人、一定条件を満たすパートタイム労働者は「常時使用する従業員」に含まないとされています。商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)の要件は5人以下です。一方、厚生労働省の雇用関係助成金における中小企業事業主の判定では、常時雇用する労働者を2か月を超えて使用され、かつ週の所定労働時間が通常の労働者と概ね同等の者としており、小売業は資本金5,000万円以下または50人以下のいずれかで判定します。制度ごとに定義が違うため、申請予定の制度の公募要領で確認してください。要件は年度途中でも変更されます。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を10件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。










扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。従業員の採用計画をジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


