
日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査によると、開業費用は平均975万円、中央値600万円でした。平均と中央値が375万円も離れています。少数の高額な開業が平均を押し上げているためで、実感に近いのは中央値の600万円です。
分布を見ると「250万円未満」が20.1%、「250万〜500万円未満」が21.7%で、4割以上が500万円未満で開業しています。「1,000万〜2,000万円未満」や「2,000万円以上」の割合は長期的に低下しており、開業費用は全体として少額化しています。
ただしこの調査は全業種が対象で、買取業だけを取り出したものではありません。調査対象は公庫が2024年4月から9月に融資した企業のうち融資時点で開業後1年以内の8,517社で、回収は2,165社(回収率25.4%)です。買取店の目安として使うときは、この範囲を踏まえてください。
一般の小売業なら、仕入れは掛けで起こせます。仕入れてから支払うまでに猶予があるため、初期の運転資金は比較的小さく済みます。買取業はここが違います。
買取は、その場で客に現金を渡します。買い取った品物を売って現金が戻るまでの間、支払った額はそのまま手元から消えています。つまり買取原資は、開業費用とは別枠で、しかも先に出ていく資金です。
同じ調査で、開業時の資金調達額は平均1,219万円でした。開業費用の平均975万円との差額244万円が、運転資金にあたる部分です。買取業ではこの運転資金の中身の多くが買取原資になります。
買取原資をいくら用意すべきかは、買い取った在庫が現金に戻るまでの期間で決まります。1回転分だけ用意しても、回収前に次の買取が発生すれば資金は尽きます。
中小企業実態基本調査(令和6年確報・令和5年度決算実績)で小売業の在庫回転を計算すると、法人企業全体で在庫回転期間は33.5日です。ところが従業者5人以下の層に絞ると55.9日まで伸びます。6〜20人の層は32.6日なので、小規模帯だけが1.7倍長く滞留していることになります。
開業直後は5人以下の規模で始まることがほとんどです。したがって買取原資は、およそ2ヶ月分を寝かせる前提で見積もるのが現実的です。月に100万円分を買い取る計画なら、原資として200万円前後が常時拘束されると考えます。
注意すべきは、粗利率が低いから苦しいのではないという点です。同じ調査で5人以下の粗利率は31.7%と、6〜20人の31.2%よりむしろ高い。にもかかわらず営業利益率は0.2%対1.5%と大きく劣ります。粗利ではなく、現金化の速度で負けている構造です。古物市場への即売却を組み込むかどうかで、必要な原資は大きく変わります。
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 開業費用 平均 | 975万円 | 少数の高額開業が押し上げている |
| 開業費用 中央値 | 600万円 | 実感に近いのはこちら |
| 500万円未満の割合 | 41.8% | 250万未満20.1%+250〜500万未満21.7% |
| 資金調達額 平均 | 1,219万円 | 開業費用との差244万円が運転資金相当 |
| うち金融機関等からの借入 | 827万円 | 調達額の67.9% |
| うち自己資金 | 279万円 | 調達額の22.9% |
| 古物商許可の手数料 | 19,000円 | 不許可でも返金なし |
| 許可の標準処理期間 | 約40日 | 補正期間は含まない |
資金調達額の内訳は、「金融機関等からの借り入れ」が平均827万円で調達額の67.9%、「自己資金」が平均279万円で22.9%でした。この2つで90.7%を占めます。
自己資金279万円は、調達額1,219万円のおよそ4分の1です。借入が7割近くを占める構造なので、自己資金だけで開業資金を賄う前提は現実的ではありません。逆に言えば、自己資金がこの水準に届かないと借入の審査でも説明が難しくなります。
買取業では、この自己資金が開業費用に消えるのか買取原資として残るのかで、開業後の動きやすさが変わります。内装や什器に自己資金を使い切ると、買取のたびに借入枠を削ることになります。
古物商許可の申請手数料は19,000円です。不許可になっても返金されません。金額としては小さいものの、開業スケジュールへの影響は無視できません。
標準処理期間は約40日で、書類の補正期間は含みません。物件を押さえてから許可が下りるまでの間も賃料は発生します。この40日分の家賃を開業費用に織り込んでいない試算が多いので、物件契約日を起点に逆算してください。
申請先は主たる営業所の所在地を管轄する警察署の防犯係です。2020年4月1日施行の改正で、許可単位は営業所ごとから主たる営業所を管轄する公安委員会の1件に一本化されました。複数店を出す計画でも、許可は追加で要りません。
小規模事業者持続化補助金の一般型・通常枠は、補助率2/3、補助上限50万円です。インボイス特例で+50万円、賃金引上げ特例で+150万円、両方を満たせば+200万円の上乗せがあります。対象は商業・サービス業なら常時使用する従業員5人以下で、小規模な買取店の多くが該当します。
対象経費は機械装置等費、広報費、ウェブサイト関連費、展示会等出展費、旅費、新商品開発費、借料、委託・外注費の8区分です。チラシや看板は広報費、サイト制作はウェブサイト関連費で見られます。
ただし車・オートバイ・自転車・パソコン等は対象外です。 汎用性が高く目的外使用になりうるものとして明示的に除外されています。出張買取の車両や査定用パソコンを補助金で賄う計画は成り立ちません。システム導入はデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)側で、補助率1/2〜2/3、補助額5万〜450万円の枠で考えます。
いずれも公募回次ごとに条件が変わります。試算に組み込むときは、申請時点の公募要領で必ず確認してください。
順序を間違えると、後から大きく足りなくなります。①物件が古物商許可の要件を満たすかを確認する ②開業費用(物件・内装・什器・許可手数料19,000円)を積む ③許可待ち約40日分の固定費を足す ④月次の買取計画額を決める ⑤買取原資を計画額の約2ヶ月分として置く ⑥自己資金と借入の配分を決める、の順で組みます。
①を飛ばして物件を契約すると、②以降がすべて無駄になります。⑤を1ヶ月分で置くと、開業から2ヶ月目に資金が止まります。
小規模事業者持続化補助金もデジタル化・AI導入補助金も、後払いです。採択されても、経費をいったん全額立て替える必要があります。
さらに補助金は要件を満たせば全て交付されるものではなく、申請内容を審査して評価の高い順に採択が決まります。採択される前提で開業資金を組むと、外れたときに計画が崩れます。
開業資金は補助金なしで成立する形で組み、採択されたら手元が楽になる、という順序で考えてください。
なお、どちらの補助金も買取原資には使えません。仕入資金は補助の対象外です。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 開業費用の目安を平均975万円ではなく中央値600万円で置いているか |
| 2 | 買取原資を開業費用とは別枠で計上しているか |
| 3 | 買取原資を月次の買取計画額の約2ヶ月分で見積もっているか(小規模小売業の在庫回転期間55.9日) |
| 4 | 古物商許可の申請手数料19,000円を計上しているか |
| 5 | 許可待ち約40日分の家賃・固定費を織り込んでいるか |
| 6 | 自己資金の比率が調達額の2割程度を下回っていないか |
| 7 | 自己資金を内装・什器で使い切り、買取原資が借入頼みになっていないか |
| 8 | 補助金で車やパソコンを賄う前提を置いていないか(持続化補助金の対象外) |
| 9 | 古物市場への即売却を組み込むかどうかで、必要原資を出し分けているか |
| 10 | 補助金の採択を前提にせず、補助金なしで成立する開業資金を組んでいるか |
| 11 | 補助金が後払いであることを踏まえ、立替の資金を見込んでいるか |
買取原資を1回転分だけ見積もり、開業2ヶ月目に資金が止まるケースがあります。買い取った在庫が現金に戻るまで、従業者5人以下の小売業では平均55.9日かかります。回収を待つ間にも買取は発生するため、常時2ヶ月分前後が拘束される前提で置いてください。
物件を契約してから古物商許可の要件を満たさないと判明し、賃料だけが出ていくケースがあります。許可の標準処理期間は約40日で、その間の固定費も発生します。物件の申し込み前に、貸主から事業用としての利用承諾を得られるかを確認してください。
粗利率を上げれば資金繰りが改善すると考えてしまう誤りがあります。中小企業実態基本調査では、従業者5人以下の小売業の粗利率31.7%は6〜20人の31.2%を上回っているにもかかわらず、営業利益率は0.2%対1.5%と大きく劣ります。問題は粗利ではなく在庫が現金に変わる速度です。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 開業資金はいくら用意すればよいですか | 新規開業全体では開業費用の中央値が600万円、4割以上が500万円未満で開業しています。ただし買取業では、これに加えて買取原資が別途必要です。月次の買取計画額のおよそ2ヶ月分を目安に上乗せしてください。月100万円分を買い取る計画なら、原資として200万円前後が常時拘束されます。 |
| 自己資金はどれくらい必要ですか | 公庫の調査では、開業時の資金調達額1,219万円のうち自己資金が平均279万円(22.9%)、金融機関等からの借入が827万円(67.9%)でした。自己資金は調達額のおよそ4分の1が目安になります。買取業では、この自己資金を内装や什器で使い切らず、買取原資として残せるかが開業後の動きやすさを左右します。 |
| 買取原資は開業費用に含めて計算してよいですか | 分けて計算してください。開業費用は一度出れば終わりですが、買取原資は事業が続く限り常に拘束され続ける資金です。同じ「開業時に必要な額」でも性質が違うため、まとめると必要額を読み違えます。公庫の調査でも、開業費用975万円と資金調達額1,219万円は別々に集計されています。 |
| 補助金で開業資金を賄えますか | 一部は賄えますが、賄えない費目があります。小規模事業者持続化補助金はチラシ・看板(広報費)やサイト制作(ウェブサイト関連費)が対象で、補助率2/3・上限50万円(特例で最大250万円)です。ただし車・オートバイ・自転車・パソコン等は対象外と明示されています。出張買取の車両や査定用パソコンは補助対象になりません。また補助金は後払いのため、いったんは自己資金か借入で立て替える必要があります。 |
| 古物商許可の取得にはいくら、どれくらいかかりますか | 申請手数料は19,000円で、不許可になっても返金されません。標準処理期間は約40日で、書類の補正期間は含みません。物件を契約してから許可が下りるまでの家賃も発生するため、この期間の固定費を試算に含めてください。なお2020年4月1日施行の改正で、許可は主たる営業所を管轄する公安委員会の1件に一本化されており、複数店を出しても追加の許可は不要です。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を11件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。











扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。開業資金の総額試算をジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


