
人件費の変動費化を検討する場面は、たいてい利益が薄いときです。そこで最初に確認するのが、規模と利益率の関係です。中小企業庁「中小企業実態基本調査 令和6年確報(令和5年度決算実績)」の法人企業・小売業(母集団企業数236,813社、従業者数3,480,414人)では、営業利益率が従業者5人以下で0.2%、6〜20人で1.5%、小売業全体で2.4%です。人が多い帯のほうが高く出ています。
粗利率で見ると逆転します。5人以下が31.7%、6〜20人が31.2%で、小さい帯のほうがわずかに高い。つまり小さい帯は粗利を取れていないのではありません。それでも営業利益率で7倍以上の差がつきます。
差が出ているのは在庫です。在庫回転期間は5人以下で55.9日、6〜20人で32.6日、小売業全体で33.5日です。1.7倍の滞留差があります。買取業は客にその場で現金を渡して売れてから回収する商売なので、滞留は資金繰りに直結します。
この並びから読めるのは、人件費が利益を圧迫しているという単純な図ではありません。人が足りないために在庫が滞留し、滞留が資金を縛り、その結果として利益が出ていない、という順序がありえます。変動費化の設計に入る前に、自店がどちらの状態かを在庫回転期間で確認してください。なおこの統計は小売業全体の値であり、買取業の適正値ではありません。
買取店の業務を人件費の観点で分けると、需要の波に連動する部分としない部分があります。連動するのは、来店・持ち込みの多い時間帯に張り付く受付、撮影、採寸・清掃、出品作業、梱包・発送です。これらは件数に比例するので、稼働を件数に合わせる余地があります。
連動しないのは、査定の基準を決める業務と、真贋の判断です。相場の更新、カテゴリごとの上限設定、判断が割れたときの裁定は、件数が半分になっても半分にはなりません。ここを稼働に合わせて削ると、査定額のばらつきが増えます。査定額はそのまま仕入原価なので、ばらつきは粗利率のばらつきとして翌月以降に出ます。
したがって変動費化の設計は、「人件費のうち何%を変動にするか」ではなく、「どの作業を件数連動にするか」から始めます。作業の一覧を作り、件数が半分になったときに工数が半分になるかどうかで仕分けます。半分にならない作業は、変動費化の対象から外します。
この仕分けを飛ばして雇用形態だけを変えると、査定を担う人が最初に不安定になります。査定の経験は蓄積で効くため、入れ替わりが増えると原価の決め方が毎回変わります。人件費は下がっても、粗利率の分散が広がって平均が下がることがあります。
人件費の水準を語るときに参照できるのは、厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」です。ただし限界が3つあります。この3つを書かずに数字だけを出すと、根拠として成立しません。
1つ目は産業区分です。公表されているのは「卸売業,小売業」の合算値で、16大産業分類の1つです。買取業単独の値ではありません。2つ目は集計対象で、10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所(52,242事業所)が対象です。中小企業実態基本調査では小売業の法人企業236,813社のうち16万社超が従業者5人以下でした。小規模な買取店はこの統計にほぼ入っていません。3つ目は賃金の定義で、令和7年6月分として支払われた所定内給与額の月額平均です。賞与・残業代・通勤手当等を含まず、年収でもありません。
そのうえで数字を置くと、卸売業,小売業の所定内給与額は年齢計で349.1千円/月(前年比+1.6%)、平均年齢44.3歳、平均勤続年数14.5年です。産業間では、最も高い電気・ガス・熱供給・水道業444.0千円、学術研究,専門・技術サービス業440.3千円に対し、最も低い宿泊業,飲食サービス業277.2千円という並びのなかで、16産業の中位からやや下に位置します。
この値を12倍して年収として扱うことも、時給に割り戻すこともできません。使えるのは「同業種帯(卸売・小売、10人以上規模)では所定内給与額が月349.1千円」という形の範囲提示までです。変動費化の議論で「相場より高い/安い」を判定する材料にはなりません。
| 業務 | 件数が半分になったときの工数 | 変動費化の可否 | 根拠・注意 |
|---|---|---|---|
| 受付・接客・順番待ちの管理 | ほぼ半分になる | 可 | 時間帯配置で吸収できる |
| 撮影・採寸・清掃・出品作業 | ほぼ半分になる | 可 | 外部化の余地がある。ただし出品までの日数を測って評価する |
| 梱包・発送 | ほぼ半分になる | 可 | 宅配買取の比重で変動幅が変わる |
| 相手方の真偽の確認 | 件数に比例するが責任は残る | 作業は可・責任は固定 | 第15条1項。違反は第33条1号で6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 帳簿への記載 | 件数に比例するが責任は残る | 作業は可・責任は固定 | 第16条・第17条。虚偽記載を含め第33条2号 |
| 査定基準・相場の更新、判断が割れたときの裁定 | 半分にならない | 不可 | 査定額がそのまま仕入原価になるため、ばらつきが粗利率に出る |
| 真贋の判断 | 半分にならない | 不可 | 第13条3項の知識・技術・経験を得させる努力義務の対象 |
| 管理者の職務 | 変わらない | 不可 | 第13条1項で営業所ごとに1人の選任義務 |
同じ調査の年齢階級別を見ると、卸売業,小売業の所定内給与額は20〜24歳で241.0千円、25〜29歳272.7千円、30〜34歳302.2千円、35〜39歳336.7千円、40〜44歳361.5千円、45〜49歳385.4千円、50〜54歳418.1千円と上がり、55〜59歳の423.4千円でピークを打ちます。60〜64歳で332.9千円、65〜69歳で261.8千円へ落ちます。
20代前半とピークの差は1.76倍です。この形は、勤続を前提に賃金を積む設計になっていることを示しています。買取業の査定は経験が価値になる職種なので、この形と相性があります。
変動費化を「短期雇用への置き換え」として設計すると、この積み上がりを断つことになります。査定の精度が経験に依存する以上、断った分は原価の決め方の不安定さとして返ってきます。人件費の単価を下げても、査定額のばらつきが粗利率を削れば差し引きが合いません。
整合する設計は、査定を担う層の賃金カーブは維持したまま、件数連動の作業を外部化・時間帯配置で吸収する形です。人件費全体を変動にするのではなく、変動にする部分と固定に残す部分を明示的に分けます。
人員配置の柔軟さには、古物営業法による下限があります。第13条1項は、営業所・古物市場ごとに管理者を1人選任する義務を定めています。第13条2項により、未成年者や第4条1号から7号の欠格事由に該当する者は管理者になれません。営業所を開けている以上、この選任は動かせません。
第13条3項は、管理者に、不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務を課しています。入れ替わりの多い体制でこの努力義務を果たすのは、教育の回数が増えるという形でコストに返ってきます。
取引時の義務も人に紐づきます。第15条1項は、買受け等をしようとするときに相手方の真偽を確認する措置を義務づけ、第15条3項は不正品の疑いがあると認めるときに直ちに警察官へ申告する義務を定めています。第16条は取引の都度、取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条1項でとった措置の区分を帳簿等に記載する義務です。
違反の罰則は、第33条1号が第15条1項と第18条1項に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、第33条2号が第16条・第17条の記載義務違反と虚偽記載に同じ罰を定めています。確認と記帳を担う人の入れ替わりが速い体制は、この罰則のリスクを上げます。変動費化の対象からは、確認と記帳の責任を負う配置を外してください。
人件費の変動費化を非正規雇用への置き換えとして進めると、雇用関係助成金の設計と逆向きになります。厚生労働省のキャリアアップ助成金は、有期・無期の労働者を正社員化する取組を支援する制度だからです。
まず判定です。買取業は小売業として扱われ、中小企業事業主は資本金・出資の総額5,000万円以下、または常時雇用する労働者50人以下です。「または」なので、どちらかを満たせば中小企業事業主にあたります。判定時点は支給申請時で、常時雇用する労働者とは2か月を超えて使用され、週の所定労働時間が通常の労働者と概ね同等の者です。持続化補助金の「従業員5人以下」とは定義が違うので、混同しないでください。
正社員化コースの支給額(令和7年度版・令和7年4月1日現在)は、重点支援対象者かつ中小企業の場合、有期雇用労働者から正社員で80万円(40万円×2期)、無期雇用労働者から正社員で40万円(20万円×2期)です。それ以外の中小企業は有期から正社員で40万円、無期から正社員で20万円です。1年度1事業所あたりの支給申請上限は20名です。加算として、正社員転換制度を新たに規定して転換した場合に20万円、多様な正社員制度(勤務地限定・職務限定・短時間正社員のいずれか1つ以上)を新たに規定して転換した場合に40万円があり、いずれも1事業所あたり1回のみです。
不支給要件も見ておきます。支給申請日の前日から過去1年間に労働関係法令の違反を行った事業主、支給申請時または支給決定時に雇用保険適用事業所の事業主でない場合、そして労働者の処遇改善が図られていない、非正規雇用労働者の処遇低下がある場合は不支給です。変動費化のつもりで待遇を下げると、この要件に触れます。年度途中で要件が変更されるため、取組の実施前に管轄の労働局・ハローワークへ確認してください。
設計を口頭で進めると、繁忙期に固定側の人が減り、閑散期に変動側が残るという逆転が起きます。作業の一覧に対して、件数連動かどうかと、法令上の責任を負うかどうかの2列を付けて、先に文書にしてください。
固定に残す側の判断基準は2つです。件数が半分になっても工数が半分にならない作業と、古物営業法上の義務を負う配置です。管理者の選任(第13条1項)、確認の措置(第15条1項)、記帳(第16条)、帳簿の備付け(第18条1項)がここに入ります。
変動にする側は、件数に比例して工数が動く作業です。ここは繁閑に合わせた時間帯配置や外部化で吸収します。吸収の効果は、人件費の月額ではなく、買ってから店頭やネットに出るまでの日数で測ってください。日数が縮めば在庫回転期間が縮み、営業利益率に効きます。
測る材料は法定帳簿から作れます。第16条の帳簿は取引の年月日と品目及び数量を取引ごとに記録し、第18条1項により最終記載の日から3年間の備え付けが義務です。これを在庫台帳と同じ品番で結べば、人員配置を変えた前後で日数がどう動いたかを追えます。人件費の削減額ではなく、この日数の変化で評価すると、統計が示す構造と同じ向きの設計になります。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 自店の在庫回転期間を日数で出し、人手不足による滞留かどうかを確認したか |
| 2 | 作業の一覧に「件数が半分になったとき工数が半分になるか」の欄を付けたか |
| 3 | 査定基準の更新と真贋の判断を、変動費化の対象から外しているか |
| 4 | 古物営業法第13条1項の管理者を、営業所ごとに1人選任し続けられる体制か |
| 5 | 第15条1項の確認と第16条の記帳について、責任を負う配置を固定側に置いているか |
| 6 | 賃金の水準を語るとき、所定内給与の月額であることと、10人以上規模の統計であることを明示しているか |
| 7 | 月額を12倍した年収や、時給換算の相場として使っていないか |
| 8 | 非正規への置き換えが、キャリアアップ助成金の処遇低下による不支給要件に触れていないか |
| 9 | 中小企業事業主の判定(小売業=資本金5,000万円以下または常時雇用50人以下)を、持続化補助金の5人以下と混同していないか |
| 10 | 配置変更の効果を、人件費の削減額ではなく、買ってから店頭に出るまでの日数で測っているか |
人件費の圧縮だけを設計し、在庫の滞留を悪化させる失敗があります。中小企業実態基本調査の法人企業・小売業では、粗利率が従業者5人以下31.7%、6〜20人31.2%とほぼ同じなのに、営業利益率は0.2%と1.5%です。差は在庫回転期間の55.9日と32.6日に出ています。出品や撮影の人手を削ると、買ってから店頭に出るまでの日数が延び、滞留が進みます。人件費の削減額より、日数の変化を先に見てください。
賃金統計を年収や時給に読み替えて、待遇の妥当性を判定してしまう失敗があります。賃金構造基本統計調査の卸売業,小売業349.1千円は、令和7年6月分として支払われた所定内給与額の月額平均で、賞与・残業代・通勤手当を含みません。集計対象は10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所52,242事業所で、小売業の法人企業236,813社のうち16万社超を占める従業者5人以下の事業者はほぼ入っていません。12倍して年収として扱うことも、時給に割り戻すこともできません。
変動費化のつもりで非正規の待遇を下げ、助成金の不支給要件に触れる失敗があります。キャリアアップ助成金は、労働者の処遇改善が図られていない場合や、非正規雇用労働者の処遇低下がある場合に不支給となります。支給申請日の前日から過去1年間に労働関係法令の違反を行った事業主も対象外です。正社員化コースは重点支援対象者かつ中小企業で有期から正社員80万円、それ以外の中小企業で40万円という設計なので、方向としても正社員化を支援する制度です。要件は年度途中で変わるため、取組の前に管轄の労働局・ハローワークへ確認してください。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 買取店の人件費は、売上の何%が適正ですか | 買取業に限定した人件費比率の公的統計は存在しないため、適正値は示せません。参照できるのは中小企業実態基本調査の法人企業・小売業で、営業利益率が小売業全体2.4%、従業者5人以下0.2%、6〜20人1.5%、粗利率が31.7%と31.2%です。これは小売業全体の値であって買取業の適正値ではありません。比率で管理するより、買ってから店頭やネットに出るまでの日数と、在庫回転期間を測るほうが判断に使えます。在庫回転期間が56日を超えていれば、同規模の小売業平均より滞留しています。 |
| アルバイト中心に切り替えれば人件費は下がりますか | 月額の人件費は下がりえますが、下がらない部分が残ります。古物営業法第13条1項は営業所ごとに管理者を1人選任する義務を定め、第13条2項で未成年者や第4条1号から7号の欠格事由に該当する者は管理者になれません。第13条3項は管理者に不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務を課しています。加えて第15条1項の確認と第16条の記帳は取引ごとに発生し、違反は第33条で6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。入れ替わりが速い体制ほど、教育の回数と確認漏れのリスクが増えます。 |
| 査定業務を外部委託して変動費にできますか | 査定の作業と、原価を決める判断は分けて考えてください。撮影、採寸、清掃、出品作業のように件数に比例する作業は外部化の余地があります。一方で査定額の決定は、そのまま仕入原価の決定です。賃金構造基本統計調査の卸売業,小売業では、所定内給与額が20〜24歳241.0千円から55〜59歳423.4千円まで1.76倍に上がる形になっており、経験が価値になる職種の賃金設計と整合します。原価を決める判断を外に出すと、判断者が変わるたびに粗利率の分散が広がります。委託するなら、判断ではなく作業の側です。 |
| 繁閑の差が大きいのですが、どう配置すればよいですか | 作業を「件数が半分になったとき工数が半分になるか」で二分してから配置してください。半分になる作業(受付、撮影、出品、梱包・発送)は時間帯や曜日の配置で吸収します。半分にならない作業(査定基準の更新、真贋の判断、管理者の職務)は固定で置きます。効果の測り方は人件費の月額ではなく日数です。古物営業法第16条の帳簿は取引の年月日と品目及び数量を記録し、第18条1項により3年分が備え付けられているため、在庫台帳と品番を結べば配置変更の前後で日数の変化を追えます。 |
| 正社員を増やすと助成金は使えますか | キャリアアップ助成金の正社員化コースは、有期雇用労働者や無期雇用労働者を正社員に転換する取組が対象です。中小企業事業主の判定では、買取業は小売業として扱われ、資本金・出資の総額5,000万円以下または常時雇用する労働者50人以下のどちらかを満たせば該当します。支給額は令和7年度版で、重点支援対象者かつ中小企業なら有期から正社員80万円(40万円×2期)、無期から正社員40万円、それ以外の中小企業は40万円と20万円です。1年度1事業所あたりの申請上限は20名で、制度を新たに規定した場合の加算が20万円または40万円あります。要件は年度途中で変更されるため、管轄の労働局・ハローワークへ実施前に確認してください。 |
この解決策が打ち手になりうる課題を4件挙げます。




扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。人件費の変動費化をジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


