
赤字が続いている店を閉める判断は、続けるコストと閉めるコストの比較になります。続けるコストは月ごとに分割して出ていきますが、閉めるコストは短い期間に集中して出ます。
しかも閉店月は、売上が細ります。在庫を処分価格で流し、通常の営業ができなくなるためです。収入が減る月に支出が集中する、という形になります。
買取業ではこの形が重く出ます。客にその場で現金を渡す商売で、掛け仕入れの支払サイトという緩衝材がありません。他の店舗の買取原資を閉店費用に回せば、その店の買取が止まります。
したがって、閉店を決める前に必要になるのは、閉店に要する現金の総額と、それを何か月かけて積むかという計画です。決断の時期より、資金の準備期間のほうが先に必要になります。
古物営業法第16条は、古物を受け取ったときと引き渡したときに、その都度、取引の年月日、品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条第1項でとった措置の区分を帳簿等へ記載する義務を定めています。
第18条第1項は、帳簿等を最終記載の日から3年間、営業所等に備え付けることを求めています。電磁的記録の場合も3年間、直ちに書面に表示できる状態で保存します。起算点は閉店の日ではなく最終記載の日です。閉店後も、最後に記帳した日から3年が経過するまで保存の対象になります。
第18条第2項により、帳簿等をき損・亡失・滅失したときは、直ちに所轄警察署長へ届け出ることになっています。閉店に伴う荷物の整理で紛失すると、この届出の対象になります。
第18条第1項に違反した場合、第33条第1号により6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています。2022年の刑法改正で懲役と禁錮が拘禁刑に一本化され、2025年6月1日に施行されました。閉店の作業計画に、帳簿の保管場所と管理する人を必ず入れてください。
古物営業法第12条第1項は、営業所・仮設店舗・古物市場ごとに、公衆の見やすい場所へ標識を掲示する義務を定めています。閉店する営業所の標識をどう扱うかは、閉店の作業項目です。第12条違反には第35条第2号により10万円以下の罰金が定められています。
第12条第2項は、事業規模が著しく小さい場合等を除き、氏名、許可した公安委員会の名称、許可証番号をインターネット上で公衆の閲覧に供する義務を定めています。営業所を閉じた後の掲載内容が実態と合っているかを確認する必要が出ます。
第13条第1項により、営業所・古物市場ごとに管理者を1人選任することになっています。閉じる営業所の管理者を他の営業所へ異動させる場合、異動先の体制も同時に変わります。
営業所を廃止した場合の届出については、許可を受けた都道府県公安委員会に手続きと期限を確認してください。この記事では条番号と期限を示しません。全店を閉じるのか、一部の営業所だけを閉じるのかで手続きが変わるためです。
| 項目 | 閉店の日に終わるか | 根拠・条件 | 見積もりの立て方 |
|---|---|---|---|
| 帳簿等の備え付け | 終わらない | 古物営業法第18条第1項。最終記載の日から3年間。電磁的記録も3年間、直ちに書面表示できる状態で保存 | 保管場所と管理者を決め、保管にかかる費用を計上する |
| 帳簿のき損・亡失時の届出 | 終わらない | 同第18条第2項。直ちに所轄警察署長へ届出 | 移動と保管の手順を文書にし、紛失を防ぐ |
| 標識の掲示とネット上の掲載 | 作業として残る | 同第12条第1項・第2項。第12条違反は第35条第2号により10万円以下の罰金 | 掲示物の撤去と掲載内容の更新を作業項目に入れる |
| 管理者の選任 | 配置転換が必要 | 同第13条第1項。営業所・古物市場ごとに1人 | 異動先の営業所の体制もあわせて確認する |
| 保証金・敷金 | 戻らない | 退去と原状回復の完了まで返還されない | 閉店資金に含めない。戻る時期を貸主に確認する |
| 原状回復 | 退去時にしか確定しない | 工事範囲は物件の状態と契約内容で決まる | 幅を持たせ、上限で資金を用意する |
| 在庫の処理 | 選び方で金額が変わる | 古物市場での売却は第14条第3項により古物商間に限られる | 他店移送・一括売却・店頭消化を、必要日数と現金で比較する |
賃借している店舗では、契約時に預けた保証金や敷金が、退去と原状回復の完了まで返還されません。閉店を決めた時点では、この資金は使えない状態です。
原状回復の金額も、退去の段階まで確定しません。工事の範囲は物件の状態と契約内容で決まるため、見積もりと最終金額が一致しない前提で資金を用意することになります。この記事では相場を示しません。物件ごとに条件が違い、業界全体の一次情報が存在しないためです。
解約の予告期間も契約で決まります。予告期間中は営業を止めていても賃料が発生する契約が一般的なので、閉店の作業期間と賃料の負担期間がずれます。
見積もりを作るときは、賃貸借契約書の解約条項と原状回復の範囲を先に読み、貸主に確認します。閉店費用の総額のうち、金額が読めない部分がどこかを最初に特定しておくと、資金の余裕を持たせる幅が決まります。
閉店する店の在庫には三つの処理があります。他の営業所へ移す、まとめて事業者に売る、店頭で売り切るです。それぞれ現金の動きが違います。
他店へ移す場合、現金は出ていきませんが、移送の費用がかかり、移した先の在庫日数が伸びます。中小企業庁の中小企業実態基本調査 令和6年確報(令和5年度決算実績)では、法人企業・小売業の在庫回転期間が従業者5人以下で55.9日、6〜20人で32.6日でした。買取業に限定した統計ではありませんが、規模が小さい側ほど滞留します。移送先が小規模な店なら、閉店店舗の在庫を吸収した後の日数は伸びます。
まとめて事業者に売る場合、現金は早く戻りますが金額は下がります。古物市場を使う場合、第14条第3項により古物市場では古物商間でなければ売買・交換ができません。売り先が古物商であることが前提になります。
店頭で売り切る場合は、営業を続ける期間の賃料と人件費が上乗せされます。売り切るまでの日数が長いほど、閉店コストの総額が増えます。どの処理を選ぶかは、在庫の簿価ではなく、閉店までに使える日数と手元の現金で決まります。
在庫の処理方法を決めた後も、古物営業法第16条の記帳義務は最後の引き渡しまで続きます。処分を急いで記帳が漏れると、第33条第2号の記載義務違反にあたる可能性があります。
買取店の閉店に何円かかるかを示す公的データも業界団体の集計もありません。物件の条件、在庫の量、従業員数、契約内容で金額が変わるため、平均値に意味がありません。この記事でも金額を示しません。
代わりに、見積もりの項目を固定します。原状回復工事、解約予告期間中の賃料、在庫の移送または処分にかかる費用と値引き額、什器や設備の撤去と処分、従業員の処遇にかかる費用、システムや通信回線の解約に伴う費用、帳簿と記録の保管費用です。
このうち金額が読めるものと読めないものを分けます。賃料と解約予告期間は契約書から読めます。原状回復と在庫の処分は読めません。読めない項目に幅を持たせた金額を置き、幅の上限で資金を用意します。
参考として使える数字は、開業側の実額です。日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査では、開業費用が平均975万円・中央値600万円で、平均と中央値が375万円離れています。少数の高額な事例が平均を押し上げる構造は、閉店費用でも同じように働くと考えられます。他店の事例を平均として扱わず、自店の契約と在庫で見積もってください。
閉店に要する費用は、閉店の前後1、2か月に集中します。その期間の売上は通常より小さくなります。手元資金だけで賄えるかどうかを、決断の前に確認します。
積み立てる期間の決め方は、在庫の処理に必要な日数から逆算します。店頭で売り切る方針なら、中小小売業の在庫回転期間である55.9日という水準を踏まえて、少なくとも2か月前から準備を始めることになります。まとめて売る方針なら短くできますが、その分の値引きが費用として増えます。
資金が足りない場合の調達では時間の見積もりが要ります。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は事業開始後おおむね7年以内が対象で、運転資金の返済期間は10年以内・据置5年以内、融資限度額は7,200万円です。ただし同公庫の調査では開業時の金融機関等からの借入が平均827万円で、限度額は借入額の目安になりません。
信用保証協会の保証は、小売業なら資本金5,000万円以下または従業員50人以下のいずれか一方で対象範囲に入ります。保証料率は責任共有制度の対象で年1.90%から0.45%までの9区分あり、CRDによる決算書の財務評価と定性要因で決まります。閉店を検討する段階の決算書は評価が下がりやすいため、料率の面でも不利になります。調達が必要なら、閉店を決める前の段階で相談を始めてください。
撤退の判断は、感情ではなく二つの金額の比較として組み立てられます。続けた場合に今後6か月で出ていく現金と、閉めた場合に出ていく現金です。
続ける側の見積もりには、毎月の補填額だけでなく、その店の在庫が増え続けているかどうかを入れます。買取が販売を上回っている店では、補填額が損益上の赤字より大きくなります。損益計算書は売れた分の原価しか費用にしないためです。
中小企業実態基本調査では、法人企業・小売業のうち従業者5人以下の粗利率が31.7%で営業利益率が0.2%、6〜20人は粗利率31.2%で営業利益率1.5%です。営業利益率0.2%という水準では、1店舗の赤字を他店の利益で埋める余地がほとんどありません。続ける側の現金は、多くの場合、他店の買取原資から出ています。
閉める側の見積もりには、閉店後も残る項目を必ず入れます。帳簿の保存は最終記載の日から3年間続き、保管場所と管理する人が要ります。保証金の返還時期と原状回復の最終金額は、退去が終わるまで確定しません。閉店で終わるのは営業であって、義務と資金の拘束は同じ日には終わりません。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 帳簿等の保管場所と管理する人を、閉店の作業計画に入れているか |
| 2 | 保存期間の起算点を閉店日ではなく最終記載の日として数えているか |
| 3 | 電磁的記録を、直ちに書面に表示できる状態のまま保存できるか確認しているか |
| 4 | 標識の撤去と、インターネット上の掲載内容の更新を作業項目に入れているか |
| 5 | 閉じる営業所の管理者の異動先と、異動先の体制を確認しているか |
| 6 | 営業所廃止の届出について、公安委員会に手続きと期限を確認しているか |
| 7 | 賃貸借契約書の解約予告期間と原状回復の範囲を読み、貸主に確認しているか |
| 8 | 保証金を閉店資金の当てにしていないか |
| 9 | 在庫の処理方法を、他店移送・一括売却・店頭消化で必要日数と現金を比較しているか |
| 10 | 在庫の最後の引き渡しまで、第16条の記帳を継続する体制になっているか |
| 11 | 続けた場合の6か月分の現金流出と、閉めた場合の現金流出を同じ表で比べているか |
| 12 | 閉店費用を積む期間を、在庫の処理に必要な日数から逆算して決めているか |
閉店で古物営業法上の義務がすべて終わると考えてしまう失敗があります。第18条第1項により、帳簿等は最終記載の日から3年間の備え付けが求められ、起算点は閉店日ではありません。電磁的記録の場合も3年間、直ちに書面に表示できる状態で保存します。第18条第1項違反には第33条第1号により6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています。閉店に伴う荷物の整理で紛失した場合、第18条第2項により直ちに所轄警察署長へ届け出ることになります。保管場所と管理する人を、閉店の作業計画に必ず入れてください。
保証金の返還を閉店資金の一部として当て込んでしまう失敗があります。保証金や敷金は、退去と原状回復が完了するまで返還されません。原状回復の金額も退去の段階まで確定せず、見積もりと最終金額が一致しない前提で用意することになります。閉店月は売上が細る一方で支出が集中するため、返還を待つ余裕がありません。契約書の解約条項と原状回復の範囲を先に読み、金額が読めない項目には幅を持たせて上限で資金を用意してください。
在庫を他店へ移せば損失を避けられると考えてしまう失敗があります。移送では現金は出ていきませんが、移した先の在庫日数が伸びます。中小小売業の在庫回転期間は従業者5人以下で55.9日、6〜20人で32.6日で、規模が小さい側ほど滞留します。移送先が小規模な店なら、吸収した後の日数はさらに伸びます。閉店した店の問題が移送先に移るだけになる場合があるため、移送する量の上限を移送先の在庫日数から決めてください。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 閉店したら、古物商の帳簿はいつまで保管しますか | 古物営業法第18条第1項により、帳簿等は最終記載の日から3年間、備え付けることになっています。起算点は閉店した日ではなく、最後に記帳した日です。電磁的記録の場合も3年間、直ちに書面に表示できる状態で保存します。閉店後も保管場所と管理する人が必要になります。第18条第2項により、き損・亡失・滅失したときは直ちに所轄警察署長へ届け出ることになっており、閉店の荷物整理での紛失もこの対象です。第18条第1項に違反した場合、第33条第1号により6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています。 |
| 閉店にかかる費用はいくらを見ておけばよいですか | 相場を示す一次情報がありません。物件の条件、在庫の量、従業員数、契約内容で金額が変わるため、平均値には意味がありません。見積もりの項目を固定するほうが実行できます。原状回復工事、解約予告期間中の賃料、在庫の移送または処分の費用と値引き額、什器と設備の撤去と処分、従業員の処遇にかかる費用、システムや通信回線の解約に伴う費用、帳簿と記録の保管費用の七つです。このうち賃料と予告期間は契約書から読めますが、原状回復と在庫の処分は読めません。読めない項目に幅を持たせ、上限の金額で資金を用意してください。 |
| 在庫はまとめて売るのと、店頭で売り切るのとどちらがよいですか | 閉店までに使える日数と手元の現金で決まります。まとめて売れば現金は早く戻りますが金額は下がります。古物市場を使う場合、第14条第3項により古物市場では古物商間でなければ売買・交換ができないため、売り先が古物商であることが前提です。店頭で売り切る場合は、その期間の賃料と人件費が上乗せされます。中小小売業の在庫回転期間は従業者5人以下で55.9日という水準なので、通常の速度で売り切るなら2か月前後の営業継続を見込むことになります。どちらの場合も、最後の引き渡しまで第16条の記帳は続きます。 |
| 赤字店舗を続けるのと閉めるのは、どう比べればよいですか | 続けた場合に今後6か月で出ていく現金と、閉めた場合に出ていく現金を同じ表に並べてください。続ける側には、毎月の補填額だけでなく、その店の在庫が増え続けているかどうかを入れます。損益計算書は売れた分の原価しか費用にしないため、買取が販売を上回っている店では補填額が損益上の赤字より大きくなります。中小小売業の営業利益率は従業者5人以下で0.2%、6〜20人で1.5%です。0.2%の水準では、1店舗の赤字を他店の利益で埋める余地がほとんどなく、実際には他店の買取原資が使われています。閉める側には、閉店後も残る帳簿の保管費用と、保証金が退去まで戻らないことを入れてください。 |
| 閉店資金を借入で用意することはできますか | できる場合はありますが、時期が問題になります。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は事業開始後おおむね7年以内が対象で、運転資金の返済期間は10年以内・据置5年以内、融資限度額は7,200万円です。ただし同公庫の2025年度新規開業実態調査では、開業時の金融機関等からの借入が平均827万円で、限度額は借入額の目安になりません。信用保証協会の保証は小売業なら資本金5,000万円以下または従業員50人以下のいずれか一方で対象範囲に入りますが、保証料率は責任共有制度の対象で年1.90%から0.45%までの9区分あり、CRDによる決算書の財務評価で決まります。閉店を検討する段階の決算書は評価が下がりやすいため、相談は閉店を決める前に始めてください。 |
| 一部の営業所だけを閉じる場合、許可はどうなりますか | 手続きと期限は、許可を受けた都道府県公安委員会に確認してください。この記事では条番号と期限を示しません。全店を閉じるのか一部の営業所だけを閉じるのかで手続きが変わるためです。あわせて確認する項目として、第12条第1項の標識の掲示、第12条第2項のインターネット上での掲載内容、第13条第1項の営業所ごとの管理者の選任があります。第12条違反には第35条第2号により10万円以下の罰金が定められています。掲示物の撤去、ウェブ上の記載の更新、管理者の異動先の体制確認を、閉店の作業項目に入れてください。 |
この課題の打ち手になりうる解決策を12件挙げます。直接の対処だけでなく、判断材料を得る手段や外部に頼る手段も含みます。












扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。撤退・閉店コストをジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


