
古物営業法第三条は、古物商・古物市場主の営業には都道府県公安委員会の許可が必要だと定めています。許可は営業の内容ではなく、許可を受けた者に対して与えられます。したがって、店舗と在庫を譲り受けても、それだけで営業できる状態にはなりません。
個人事業から法人成りする場合、第三者に譲渡する場合、相続が発生した場合で、それぞれ手続きが違います。買取ラボとして、どの場合にどの手続きになるかを断定できる一次情報を持っていないため、ここでは書きません。承継の形が決まった時点で、主たる営業所を管轄する警察署の防犯係に、その形を具体的に伝えて確認してください。
確認を後回しにできない理由は罰則側にあります。第31条1号は無許可営業を3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金と定めています。承継の手続きが完了する前に新しい体制で営業を始めると、その期間が無許可営業にあたる可能性があります。引き継ぎ日を先に決めてしまうと、ここで動けなくなります。
なお条文は「懲役」ではなく「拘禁刑」です。2022年の刑法改正で懲役・禁錮が拘禁刑に一本化され、2025年6月1日に施行されました。承継の相談で古い資料を渡された場合、その資料がいつのものかを判断する手がかりになります。
第13条1項は、営業所および古物市場ごとに管理者を1人選任する義務を定めています。複数店舗をまとめて引き継ぐなら、店舗数だけ管理者が要ります。ここは資金では解決できない部分です。
第13条2項は、未成年者や第四条1号から7号の欠格事由に該当する者などは管理者になれないと定めています。承継の場面では、前の経営者が管理者を兼ねていた店で、その人が抜けた後に誰を置くかが問題になります。従業員をそのまま管理者にできるかどうかは、この2項に当てて確認します。
第13条3項は、管理者に不正品かどうかを判断するために必要な知識・技術・経験を得させる努力義務を課しています。前の経営者の目利きに依存していた店ほど、承継後にこの部分が空きます。査定基準が文書になっていない店は、承継の交渉の段階でそこを確認してください。
承継の計画に、管理者の確保と習熟にかかる期間を入れてください。設備や在庫は引き渡し日に移りますが、判断の精度は移りません。この期間中は仕入原価が想定より高く出る前提で、資金に余裕を持たせる形になります。
第十六条は、古物を受け取ったとき・引き渡したときに、その都度、取引の年月日、品目と数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条1項でとった確認措置の区分を帳簿等に記載する義務を定めています。第十八条1項は、最終記載の日から3年間、営業所等に備え付けることを義務づけています。電磁的記録も3年間、直ちに書面表示できる状態で保存します。
つまり、引き継ぐ店には3年分の取引記録が必ずあります。これは資産ではなく義務です。承継後に帳簿をき損・亡失・滅失したときは、第18条2項により直ちに所轄警察署長へ届け出ることになります。引き渡しの際に、紙の帳簿と電磁的記録の両方について、どこに何があるかを目録にしてください。
帳簿は同時に、承継前の営業の記録でもあります。確認措置がとられていない取引、記載が欠けている取引が残っていれば、それは引き継ぐ側にとって把握しておくべき事実です。第33条1号は第15条1項および第18条1項の違反を6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、同2号は第16条・第17条の記載義務違反と虚偽記載を同じ罰と定めています。
デューデリジェンスの範囲として、決算書と在庫だけを見て帳簿を見ない例があります。買取業では、帳簿の記載状況そのものが引き継ぐリスクの一部です。3年分すべてを読む必要はありませんが、記載の様式が条文の5項目を満たしているか、確認措置の区分が入っているかは、抽出して確かめてください。
| 対象 | 扱い | 根拠・確認先 |
|---|---|---|
| 古物商許可 | 許可を受けた者に与えられている。承継の形ごとに手続きが違う | 古物営業法第三条/主たる営業所を管轄する警察署 防犯係 |
| 営業所ごとの管理者 | 店舗数だけ必要。欠格事由に該当する者は選任できない | 第13条1項・2項(第四条1〜7号) |
| 法定帳簿(3年分) | 義務として引き継ぐ。き損・亡失は所轄警察署長へ届出 | 第十六条/第十八条1項・2項 |
| 帳簿に載った個人情報 | 承継前の利用目的の範囲を超えて使えない | 個人情報保護法第十八条2項・第十七条・第二十一条 |
| 在庫 | 帳簿価額は当時の査定額。滞留日数の分布で見る | 第十六条の帳簿(受取日)と決算書 |
| 査定基準・目利き | 文書になっていなければ移らない | 第13条3項の努力義務/承継契約で明文化 |
| 補助金の申請要件 | どちら側が申請者になるかで変わり得る | その回次の公募要領/ミラサポplus/商工会議所 |
第十六条の帳簿には、相手方の住所・氏名・職業・年齢が3年分残ります。法で保存を義務づけられた個人情報という二重の性質があります。承継では、この個人情報が新しい事業者に移ります。
個人情報保護法第十八条2項は、合併その他の事由により他の個人情報取扱事業者から事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前における当該個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはならないと定めています。引き継いだ名簿を、承継前の利用目的の範囲を超えて販促に使うことはできません。
第十七条は利用目的をできる限り特定することを、第二十一条は取得に際して利用目的を本人に通知または公表することを定めています。承継前の店が利用目的をどう定め、どう公表していたかを確認しないと、承継後に何ができるかが決まりません。ここは契約書の付属資料として残してもらう項目です。
第二十三条は安全管理措置、第二十六条は漏えい等が生じたときの個人情報保護委員会への報告、第二十七条は第三者提供の制限を定めています。承継の交渉過程で名簿の一部を相手に見せる行為も、設計を誤ると第二十七条の問題になり得ます。実務の進め方は、弁護士または個人情報保護委員会の公表資料で確認してください。
買取業の在庫は、仕入原価を自分で決めた結果です。査定額がそのまま原価になります。したがって帳簿価額は、当時その店がいくらで買うと判断したかの記録であって、いま売れる金額とは別のものです。
滞留している在庫ほど、この差が開きます。中小企業実態基本調査(令和6年確報、法人企業・小売業)では、在庫回転期間が従業者5人以下で55.9日、6〜20人で32.6日でした。1.7倍の差があります。粗利率は5人以下が31.7%、6〜20人が31.2%とほぼ同じで、営業利益率は0.2%対1.5%です。粗利を取れていないのではなく、在庫が現金に変わる速度で差がついています。
承継の交渉では、在庫を品目別・入庫月別に並べて、滞留日数の分布を見てください。帳簿価額の総額だけを見ると、売れる在庫と売れない在庫が同じ重みで足し合わされます。第十六条の帳簿があるので、受け取った日は必ず記録されています。
この数字は小売業全体の値で、買取業に限定した統計ではありません。買取業に限定した公的統計は存在しないため、比較に使えるのはここまでです。ただし自店・対象店の実測値は帳簿から作れるので、交渉のテーブルには実測値を出してください。
外部からお金を入れる手段は、補助金と出資で求められるものが正反対です。補助金は過去の実績と使途の証明を求めます。出資は将来の成長を求めます。承継系の補助金は、このうち前者の性格がとくに強い制度です。
承継したという事実、その過程で発生した費用、費用を支払った証憑が中心になります。同系統の制度の交付申請で求められる書類を見ると、法人は履歴事項全部証明書、直近分の法人税の納税証明書、直近分の貸借対照表および損益計算書、個人事業主は本人確認書類、直近分の所得税の納税証明書、直近分の確定申告書の控え、青色申告決算書または収支内訳書です。すべて過去の書類です。
この性格は申請の順序に影響します。承継の日程と、補助金の公募回次の締切が合わなければ使えません。承継は相手のある話なので、補助金に合わせて日程を動かせないことも起きます。補助金ありきで承継の条件を譲るのは、順序が逆です。
申請の類型によって対象になる経費が変わる制度です。どの類型で出すかで、専門家に払った費用が対象になるかどうかも変わります。類型の区分と対象経費は、その回次の公募要領で確認してください。
事業承継・引継ぎ補助金の補助率、補助上限額、申請類型、対象要件、締切について、買取ラボは一次情報として確認できていません。したがって書きません。他サイトの数値も、どの回次のものか、いつ時点かが明記されていなければ判断の根拠にはできません。
この分野の条件は実際に動きます。小規模事業者持続化補助金は回次ごとにガイドブックが出し直され、IT導入補助金は名称ごと「デジタル化・AI導入補助金2026」に変わりました。数か月前の記事の数値をそのまま使うと外れます。
確認先は4つです。その回次の公募要領、中小企業庁のミラサポplus、地域の商工会議所・商工会、認定経営革新等支援機関です。承継は当事者が2者いるため、どちら側が申請者になるかで要件が変わる可能性があります。ここも公募要領の該当箇所を自分で開いて確認してください。
確認の順序としては、許可の手続きが先です。許可が移らない、あるいは新規取得に時間がかかると分かった時点で、承継の日程が変わります。日程が変われば、間に合う公募回次も変わります。
この系統の補助金は後払いです。同系統の制度の流れでは、交付申請の提出、交付決定、契約・支払い、実績報告の提出、補助金の額の確定と交付という順です。事業者がいったん全額を払います。
承継直後は、この立替がとくに重く効きます。買取業は客にその場で現金を渡し、売れてから回収する構造です。従業者5人以下の小売業では在庫が現金に戻るまで平均55.9日かかります。引き継いだ在庫が現金に変わるまでの間も、新たに買い取るための現金が要ります。
月100万円分を買い取る店で拘束日数を約56日とすれば、常時187万円前後が動かせない資金になります。承継の対価に自己資金を使い切ると、この部分が借入頼みになります。日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」では、開業時の資金調達額が平均1,219万円、うち金融機関等からの借り入れが平均827万円、自己資金が平均279万円でした。全業種の新規開業を対象にした調査ですが、自己資金だけで立ち上げる事業者が少数であることは読み取れます。
承継の資金計画では、対価、運転資金、補助対象経費の立替の3つを別の行に分けて書いてください。1行にまとめると、どれかが足りなくなったときに原因が特定できません。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 承継の形(法人成り・第三者への譲渡・相続)を確定させ、警察署の防犯係に手続きを確認したか |
| 2 | 許可の手続きが完了する前に新体制で営業を始める日程になっていないか |
| 3 | 引き継ぐ店舗数だけ管理者を確保できるか。候補者が第13条2項の欠格事由に触れないか |
| 4 | 3年分の法定帳簿の所在(紙・電磁的記録)を目録にしたか |
| 5 | 帳簿の記載が第十六条の5項目を満たしているか、確認措置の区分が入っているかを抽出確認したか |
| 6 | 承継前の店が個人情報の利用目的をどう特定し、どう公表していたかを書面で受け取ったか |
| 7 | 引き継いだ名簿を承継前の利用目的の範囲内でしか使わない運用にしたか |
| 8 | 在庫を品目別・入庫月別に並べ、滞留日数の分布を見たか(帳簿価額の総額だけで判断していないか) |
| 9 | 承継の対価・運転資金・補助対象経費の立替を、資金計画で別の行に分けたか |
| 10 | 承継の日程と、補助金の公募回次の締切が合うかを確認したか |
店舗・在庫・顧客を譲り受ければ営業できると考え、許可の手続きを後回しにするケースです。古物営業法第三条の許可は、営業の内容ではなく許可を受けた者に与えられます。手続きが完了する前に新体制で営業すると、その期間が無許可営業にあたる可能性があり、第31条1号は3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金と定めています。承継日を先に決める前に、管轄警察署の防犯係に承継の形を伝えて確認してください。
引き継いだ顧客名簿を、そのまま自社の販促に使ってしまうケースです。第十六条の帳簿には相手方の住所・氏名・職業・年齢が3年分残ります。個人情報保護法第十八条2項は、事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前における利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはならないと定めています。承継前の利用目的が何だったかを書面で受け取っていなければ、そもそも範囲が判断できません。
在庫の帳簿価額をそのまま譲渡価格の根拠にしてしまうケースです。買取業は査定額がそのまま仕入原価になるため、帳簿価額は当時の判断の記録であって、いま売れる金額とは別です。中小小売業では在庫回転期間が従業者5人以下で55.9日、6〜20人で32.6日と1.7倍の差があり、粗利率は31.7%対31.2%とほぼ同じでも営業利益率は0.2%対1.5%です。滞留在庫を総額に含めて評価すると、承継後の資金繰りがそのまま悪化します。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| 古物商許可はそのまま引き継げますか | 承継の形によって手続きが違います。買取ラボとして、どの場合にどうなるかを断定できる一次情報を持っていないため書きません。古物営業法第三条の許可は、営業の内容ではなく許可を受けた者に対して与えられます。個人事業からの法人成り、第三者への譲渡、相続のいずれにあたるかを確定させたうえで、主たる営業所を管轄する警察署の防犯係に確認してください。手続き中の営業の可否も、そこで確認する項目です。 |
| 承継の日から新体制で営業してよいですか | 許可の手続きが完了しているかどうかで決まります。第31条1号は無許可営業を3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金と定めています。承継日と許可の手続き完了日がずれる場合、その間の営業をどうするかを事前に警察署へ確認してください。日程は補助金の締切ではなく、この確認結果に合わせて組むことになります。 |
| 引き継いだ顧客名簿でDMを送ってもよいですか | 承継前の利用目的の範囲内かどうかで決まります。個人情報保護法第十八条2項は、事業承継に伴って個人情報を取得した場合、本人の同意なく承継前の利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱うことを禁じています。第十七条は利用目的の特定を、第二十一条は取得に際しての通知または公表を定めています。まず、承継前の店がどう利用目的を定め、どう公表していたかを書面で受け取ってください。範囲を広げるなら本人の同意が要ります。 |
| 3年分の帳簿はどこまで確認すべきですか | 全件を読む必要はありませんが、記載の様式と欠落の有無は抽出して確かめてください。第十六条が求める記載は、取引の年月日、品目と数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、第15条1項でとった確認措置の区分の5項目です。第十八条1項は最終記載の日から3年間の備付けを義務づけています。記載義務違反や虚偽記載は第33条2号の対象で、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。引き継ぐ側にとっては、把握しておくべき事実にあたります。 |
| 補助率と上限額はいくらですか | この記事では書きません。買取ラボが一次情報で確認できていないためです。回次ごとに条件が変わる領域で、類型によって対象経費も変わります。確認先は、その回次の公募要領、中小企業庁のミラサポplus、地域の商工会議所・商工会、認定経営革新等支援機関の4つです。承継は当事者が2者いるため、どちら側が申請者になるかで要件が変わる可能性がある点も、公募要領で確認してください。 |
| 承継の対価を用意すれば、あとは補助金で回りますか | 回りません。この系統の補助金は後払いで、交付決定のあとに契約・支払いを行い、実績報告を経て額が確定します。事業者がいったん全額を払います。加えて買取業では、承継の対価とは別に買取原資が要ります。月100万円分を買い取る店で拘束日数を約56日とすれば、常時187万円前後が動かせない資金になります。対価・運転資金・立替の3つを別々に用意してください。 |
この解決策が打ち手になりうる課題を2件挙げます。


扱う商材によって、不要品の発生量も、値段が付くかどうかも、どこに売られるかも変わります。事業承継・引継ぎ補助金をジャンル別に見たページを用意しています。
店舗を構えるか、出張に出るか、宅配で受けるか。買取形式によって前提となる商圏も、かかる規制も変わります。


